納税義務違反事実の通告書



1999年12月8日名古屋国税局長 後藤敬三 様
関税務署長 岩島英輔 様
            岐阜県山県郡高富町西深瀬八八一の三〇 
                      林      武 
            岐阜県山県郡高富町高木九九〇  
                            信  田  雄  三
            岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八の一
                      寺  町    緑  
            岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八の一
                      寺  町  知  正 

 次に述べるように、当事者から所得の申告がなされておらず、課税措置が取られていません。これは、諸規定に反すると思料するので、速やかに必要な措置をされるべく、貴職に通告いたします。

 《金員を受領した者》
    岐阜県武儀郡武芸川町宇多院地区 区長  当時・河村孝夫

 《金員を提供したもの》
  岐北衛生施設利用組合 管理者 美山町長 現・矢口貢男
    当時・長屋益雄
 《時期と金額》
     96年3月29日  3000万円
     96年6月25日 4750万円
     97年6月25日  4750万円
合計    12500万円

 《課税すべき理由》
 組合の火葬場建設にともない地区協力費の名目で組合が宇多院地区区長に右金員を支払った。この理由は、宇多院地区に居住し武芸川町議会議長として有力者であった田内賢が、地区内にある陽徳寺の檀家総代を長年努め、寺の新築を悲願としていたことから、これを達成するため、組合の議員としての地位を利用して、自らの地区に火葬場を誘致し、強引に見返りとして組合からの地区協力費を誘導、決定させたものである。
 本件地区協力費は、法令などに定められものではないし、客観的にみて火葬場建設にともなって周辺住民あるいは集落に損害が生ずる事もあり得ないから、単なる見舞金的な任意のものである。
 本件において、区長は、会議で「お寺の建築費にまわす」と説明しただけで、総会議決なども経ず、地区内にある陽徳寺に寄付した。しかし、集落の多数が檀家であるも、すべてでは無く、他の信仰の人もおり、地区住民の総意ではない。檀家の人を含めてこころある人たちが「お寺の建築費にまわす」ことに反対できなかったのは、土地柄と有力者の強引な手法に因るからである。
 自治組織が任意の宗教法人に直接寄付することは通常は想定し得ず、特に本件のような高額な寄付は常識的にあり得ない。本件は区長たる河村孝夫らが勝手に宗教法人に寄付したものである。
 陽徳寺の檀家は4割以上が他地区に在住しており、今般の寺の建築費は、それぞれ個人として寄付した。一方、宇多院地区の多数の住民は檀家の認識のもとに右地区協力費をもって寺への寄付としたのだから、地区協力費は分割して個人の寄付として費消された、と見ることが正当である。
 よって、本件地区協力費12500万円は全額が受領者の一時所得として、次のいずれかの方法で課税対象とされるべきである。

1 全額が当時の区長河村孝夫個人の所得として課税対象である。

2 個別に分配する作業を省略しただけであって、実質的には、集落の構 成世帯(78世帯)主の個人個人の所得であるから、一世帯主あたり約 160万円の個人所得として、課税対象である。
 
 以上、別添の資料ととも本書面を提出いたします。

別添  資料−1 区長河村孝夫名義の領収書の写し 三通
    資料−2 本件の報道新聞記事
    資料−3 判例、学説など
    資料−4 本件にかかる住民訴訟の記録
以 上

《資料−3》 判例・学説など
◎ 14階建4棟のマンション建設予定地周辺の近隣居住者らがマンション建設者から支払いを受けた金員310万円は、建設による損害を補償する目的と建設に承諾を与える対価の目的を含むと認められるから、そのうち損害賠償金に相当するのは30万円で、残金は一時所得の収入金額に当たる」(大阪地裁昭54,5,31判決。大阪高裁昭55,2,29判決、最高裁昭55,4,23第一小法廷もこれを維持)
 税務署長の主張は「公害による損害賠償として支払らわれたものではないから、総所得金額に加算される(所得税法34条2項、3項、22条2項2号)」というもので、建設の和解の覚書には「各家庭に与えるマンション建設のために生ずる環境権の侵害、その他予想される公害に対する補償」との記載がある。 判決要旨は「所得税法が損害賠償金、見舞金及びこれに類するものを非課税としたわけは、これらの金員が受領者の心身、財産に受けた損害を補填する性格のものであって、原則的には受領者である納税者の利益とならないからである。そうすると、ここにいう損害賠償金などに類するものとは、損害を生じさせる原因行為が不法行為の成立に必要な故意過失の要件を厳密に満たすものである必要は無いが、納税者に損害が現実に生じ、または生じることが確実に見込まれ、かつ、その補填のために支払われるものに限られる。当事者間で損害賠償のためと明確に合意され支払われた場合であっても、損害が客観的になければその支払金は非課税にならないし、また、損害が客観的であっても非課税となる支払金の範囲は当事者が合意して支払った金額の全額ではなく、客観的に発生し、または、発生が見込まれる損害の限度に限られる」「マンション建設による損害は日照阻害を挙げることができるが、それも冬至においての約2時間の阻害にすぎない。そのほか工事中の騒音、塵埃などによる被害、マンションの棟から覗き込まれることによる被害がある。そうすると、これらによって受ける損害はたかだか30万円を超えるものとはいえない。したがって、本件和解金は一時所得たる性質をもつ。」

◎土地買収処分に関する紛争解決目的の損害賠償金名目の紛争解決金は一時所得の収入金に該当し、遅延損害金は雑所得に該当すると認定した(最高裁昭53,6,23第一小法廷。地裁、高裁も同旨)

◎日照権など侵害の程度が社会通念上一般に受忍されるべき限度を越える場合は不法行為があったとして慰謝料を支払う(福岡地裁昭43,7,16判決)

◆相手の不法行為によって個人が所得する損害賠償金や慰謝料などは、範囲を定めて、所得税は非課税とされている(所得税法9@一六、所令30) しかし、高額である場合、右範囲の実態が伴わない場合、不測の事態でも補償の要求はしないなど断念料とみられる場合、現に営む収益減少を補償する性質をもつ場合などは、非課税とはならない。       以上