山監第 95 号
                  平成16年9月1日
(請求人・住所・氏名)
              山県市監査委員 山田晃稔
              山県市監査委員 藤根圓六


 地域情報化事業及び行政防災無線事業に関する山県市職員措置請求書(住民監査請求書)の監査の結果について(通知)


平成16年7月8日付けで提出のあった地域情報化事業及び行政防災無線事業に関する山県市職員措置請求審(住民監査請求書)について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第1項の規定に基づく住民監査請求について同条第4項の規定により査した結果を、同項の規定により別紙のとおり通知します。

第1 請求の受付
1 請求人
岐阜県山県市西深瀬208−1 寺町知正  (ほか7名/略)
2 請求の受理
請求人から提出された請求は、所要の法定要件を具備しているものと認め、平成16年7月8日付けで受理した。

3 請求の内容
請求書に記載されている事項及び事実証明書並びに陳述の内容から監査請求の要旨を次のように解した。

(1)主張事実
@ 本件事業を現行のまま遂行することには、次に示す問題点があり、市の関係者に許された裁量を著しく逸脱する違法がある。
ア コンセンサスの獲得、住民ニーズの把握が欠如している。
イ 計画策定業者の選択に誤りがある。
ウ 市は、デジタル放送を扱う意志がないから、有線テレビ施設を全市に拡大する必要はない。
エ CATVの価格競争力として、民間との競争に耐えられるのか、耐えられた場合、税金の無駄な支出を意味する。
オ 同軸ケーブルで整備することは、インターネットのサポートにかなり問題が出る。同軸ケーブルでは再度ケーブルを敷設することになるし、同軸ケーブルの限界によりIP電話などCATVの方法は、まったくなじまないので末端まで光で整備を行うべき。光ファイバーは市が整備するより民間の物を借りた方が安くつく。また、市は光ファイバーを全部敷くのではなく、同軸ケーブル・無線を適材適所に使用する方法もある。
カ 防災無線整備事業は、現状及び将来について十分な検討がなされていない。
無線事業、CATV事業について、山県市固有の事情を前提とする組立がなされていない。

A 「山県市地域情報化計画」は、業者の調査結果であり、市は自らの責任で調査結果を各種比較検討し、市が事業を行うか行わないか、行うならどの方式にするかを決定し、かつ予算策定に進むべきものであるが、市は、このような手続きや責務を放棄し、業者のいうままに事業遂行するという姿勢である。

B 「山県市地域情報化計画」の示されない段階での本件事業にかかる予算の議決は、適正かつ十分な審査が行われておらず、裁量を著しく逸脱した瑕疵があり無効である。

C 本件事業について、市が行おうとしている方式は、次のとおりの問題点がある。
ア システム全体の年間維持費について収支が合う根拠がない。
イ 機器更新時期の費用が不明との説明で、地方公共団体の事業として、極めて無責任な姿勢である。
ウ ケーブルの更新時期について、法定耐用年数は「10年」である。
エ 市は、有線テレビの運用にあたり、将来的にも当初より人員増や経費増が発生することなく十分責務を果たすことが可能な根拠はない。
オ 事故対策用にループで施設整備することが、インターネットでは専門家から批判がある。
カ 入札参加資格の900点の点数設定に疑問が発せられている。
キ 伝送路工事に「第一種有線テレビジョン放送技術者」が必要とは言えない。
ク 入札参加資格の「CATV機器、IP関連機器の製造メーカーであること」について、製造メーカーでなければならない根拠はない。
ケ 仕様書の「相当品」は実質的に製品指定であり、業者指定である。
コ 設計業務の受託業者との関係についての市の設定した条件は、関係業者を優先するためのものである。
サ 入札仕様書に対する質問の回答書は入札の3日前から市役所で閲覧されているが、回答に対する変更が間に合うはずがない。市と密接でない業者は不利である。

D CATV事業の入札にあたり、最低制限価格を設定すべきでない

E 山県市の「地域情報化事業」と「防災行政無線事業」を同時進行させることは極めて無駄が多い。例えば、CATV事業ではインターネット接続及びIP電話のためのモデムを全戸に無料配布し、防災無線では、受信機を全戸配布するなど、不合理である。 

F 株式会社ブイ・アール・テクノセンターが山県市へ提案した方式を活用すれば、「地域情報化事業」及び「防災行政無線事業」を統合して行うことができる。経費は、株式会社ブイ・アール・テクノセンターの提案書に記載されている約20億円に請求人が調査した額を加えて約25億円と試算される。
この額から、CATV事業に関しては約19億円(34億円×(25億円÷45億円))、防災行政無線事業に関しては約6億円(11億円×(25億円÷45億円))が山県市の支出の許容額となる。

G 本件事業をこのまま遂行し、予算執行を行うことは、株式会社ブイ・アール・テクノセンターの提案する方式の活用などの点から、地方自治法(以下「自治法」という。)第2条14項「地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、住民の福祉の増進に努めるとともに、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」、地方財政法第4条1項「地方公共団体の経費は、その目的を達するための必要かつ最小の限度を越えてこれを支出してはならない」の規定を著しく逸脱した違法なものである。

 H 自主放送については、市が行うのではなく、民間に委託しても現在の経費より安く良質な番組ができる。

 I 市は各種の方法と経費について、具体的に何ら比較検討していない。

J 山県市は、インターネットのサービスに関して、@nifty 運用会社ジャパンケーブルネット鰍ノ6月3日付けで市長名で「@内容Aサービス開始時期B利用料金及び利用条件Cその他」を示して内示発注しており、これは業務の一部委託ないしはインターネットサービスの購入契約であり、山県市の支出をともなう契約であるが、予算議決がされておらず違法である。
また、この契約は随意契約であるが、随意契約を行える場合の条件を定めた自治法施行令第167条の2第1項各号の条件に適合しておらず、また、山県市契約規則第24条の2に基づく予定価格の決定及び同第25条に基づく2社以上からの見積もりの徴取を怠る違法がある。

K 山県市が美山・伊自良の説明会で示した内容もその経過を含めてすべて根拠はなく違法である。

L 民間の営利企業であるケーブルテレビ会社がその会員を前提にインターネットを付加する「囲い込み」は営業方針で通るが、山県市がその「囲い込み」に加担するのは許されない。
市の説明では、住民がプロバイダーを選べないとのことであるが、市民の多額の税金を使う事業なのに極めて不合理である。市は、全国に提携プロバイダーを募集して提携の契約をし、市はアクセス回線を提供するのみならば、別のプロバイダー料金設定もあり得るので、市民の負担は軽くなる。市にはこのようにする義務がある。
 M 山県市が独自にサービスを始めると民間圧迫、市内業者の倒産さえ考えられ、市に税金が入ってこないことになる。市は県内や市内の業者に配慮して競合する部分は手を引くべき責務がある。

N 「山県市有線テレビ放送施設の設置及び管理に関する条例」第14条1項及び別表に定める「インターネット利用料」及び「付加機能」について、議会の議決を経る前に美山・伊自良の各地区で説明会を行い、パンフレットに明示し、市の広報6月号にも掲載して市民に配布したことは、議会に修正や否決をさせないための既成事実づくりといえ、自治法第96条1項1号で議会に義務づけられた条例の制定改廃の議決権を無視した違法な行為である。

O 「山県市有線テレビ放送施設の設置及び管理に関する条例」で定めようとするスタンダード10M、ハイスピード30Mのコースや付加機能等の規定は無効である。10M2,100円、30M2,625円の規定も、違法な契約手続きを前提とし、サービス提供に関して誤りかつ根拠のない議会説明に基づいて議決されたもので、本条例は違法である。

P 県内には、プロバイダー事業者が存在しており、例えば株式会社ブイ・アール・テクノセンターを山県市のプロバイダー事業者とした場合、市が支払うべき最低額は、月額(105,000円+一加入者あたり525円)である。
市は、このようなプロバイダー事業者の手法などを各種比較検討することなしに、事業計画を決定し、発注することは各種法令に違反する。
10M2,100円、30M2,625円という利用料設定も、「最小の経費で最大の効果」の原則に反し、「必要かつ最小の限度」を逸脱した違法なものである。市は、受託先に一定額以上を支出することは許されず、一定額を越える支出は市の損害というべきである。

Q 「山県市地域情報化計画」と「山県市防災行政無線設備設置計画」をミックスしても目的達成は可能であるので、両計画を統合若しくは修正するべく計画を変更すべきことが具体的に明らかである。今年度は、両者の統合あるいは修正の可能性の調査の委託をすべきである。安易に高額な方式を選択することは合併の原点に反する。

 R 極めて有利になる「岐阜情報スーパーハイウェイ」を使わないという前提は著しく合理性を欠く。

(2)措置要求
 @ 本件CATV事業と防災行政無線事業に関して、当面、2003年(H15年)に策定された計画の統合や修正の検討のための調査及び計画策定の検討委託費相当額を越えた額を支出してはならないと、市長に勧告すること。

A 本件CATV事業に関して、仮に山県市が事業を遂行する場合でも、19億円を越えて支出してはならない、と市長に勧告すること。

B 本件CATV事業に関して、19億円を越えて支出した場合は、市長ら権限を有する関係職員は市に損害を与えたものとして、連帯して市に同額を返済せよ、と市長に勧告すること。

 C 本件防災無線事業に関して、仮に山県市が事業を遂行する場合でも、6億円を越えて支出してはならないと、市長に勧告すること。 

D 本件防災無線事業に関して、6億円を越えて支出した場合は、市長ら権限を有する関係職員は市に損害を与えたものとして、連帯して市に同額を返済せよ、と市長に勧告すること。

E 本件CATV事業に関して、市の@niftyを前提とするジャパンケーブルネット株式会社への委託契約は違法かつ無効であるから改めること、と市長に勧告すること。

F 本件CATV事業に関して、市は@niftyを前提とするジャパンケーブルネット株式会社に一加入者あたり、1,000円を越えて支出してはならない、と市長に勧告すること。


G 本件CATV事業に関して、市が1,000円を越えて支出した場合は、市長ら権限を有する関係職員は市に損害を与えたものとして、連帯して市に同額を返済せよ、と市長に勧告すること。


第2 監査の実施
請求があった事務を分掌する総務部総務課及び企画部情報政策課を対象として、関係書類の調査、関係者からの事情聴取等による監査を行った。
請求人に対して自治法第242条第6項の規定に基づき、平成16年7月27日に証拠の提出及び陳述の機会を与えた。

 1 請求人の主張に対する山県市総務部総務課及び企画部情報政策課の見解
   第1の3の(1)主張事実に付設した番号等を記し、順に記述する。

 @ア 「住民ニーズを把握してない、アンケートの結果が反映されていない」と指摘しているが、既に新市建設計画作成時にもアンケートを実施しており、さらに今回の事業のためにもアンケートを実施し、その結果を反映した。

 @イ 不適格業者とは考えていない。

 @ウ 「デジタル放送を扱う意志がない」との指摘だが、市はエリアを全市に拡大することにより、アナログ放送、地上波デジタル放送、デジタル多チャンネルのサービスを全市民が同じ条件で利用できるようにするものである。また、地上波デジタル放送については特別な機器を接続することなく、一般的に市販されている地上波デジタル対応テレビなら、どのようなテレビでもケーブルを接続するだけで視聴できるようにするものである。さらに、エリアを全市に拡大しないということは、共聴組合の維持、整備、復活をすることになり市内全域に平等なサービスを提供できず、アンケートの結果が示す市民が求めているニーズに反することになる。

 @エ 「民間の価格競争に耐えられるか」との指摘だが、NTTやヤフーBBはADSLによるもので、市の光ファイバーを使用したCATVとは内容が異なり脅威とは考えておらず、市民にとって選択肢が有るということは歓迎すべきである。受益者負担で維持できれば特別に利益を追求する必要はない。市民の負担を軽くすることと税金の無駄な支出は別問題である。

 @オ 「FTTHで末端まで光なら問題が少ないようだが、同軸はかなり問題が出る」との指摘だが、現在では全国のCATV事業者が問題なく運用している。
「同軸ケーブル網では、再度ケーブルを敷設することになる。」との指摘だが、寿命になれば光ケーブルでも同じ事である。仮に全てを光にしなければ出来ないようなサービスを行うことになっても集落単位のノードから先だけで、今回の整備したケーブルを全て敷設し直す必要はない。また、全てを光にしなければ出来ないようなサービスが開始される時期は正確には予測不可能なため、多額の税金を投入してオーバースペックの設備投資を行うことは無駄である。
「同軸ケーブルの限界によりIP電話がCATVにまったくなじまない」との指摘だが、まず、物理的電磁波信号の限界とは同軸ケーブルではなく送受信機等の機器の性能による。同軸ケーブルの速度限界として下り30Mbps、上り10Mbpsという記載があるが、この速度はCMTS側のRFのポート当たりの速度で、山県市のケーブルモデム設備の場合は、上りRFポートの数は下りの4倍が用意されている。
しかも、IP電話は、少ないトラフィック(100Kbps未満/世帯)が定常的に発生するサービスで上り帯域が不足していると断言することはできない。
CATVにおいてIP電話サービスを展開する場合は、インターネットと同じくケーブルモデムシステムにより提供される。現に都市型ケーブルテレビにおいてかなり大規模なIP電話サービスとして提供されており運営上問題ないことは立証されており、充分な市場実績がある。もし指摘されるような問題があるのであればサービス展開が事実上不可能なはずである。
「光ファイバーを借りる方が事業費が安い」との指摘だが、市街地を仮に高富エリア内だけと仮定するとしても、数十から数百の開放可能なダークファイバー(=空き心線)が必要となり、常識的に考えてもそれ程の余剰な光ファイバーの敷設はされていない。(NTT・中部電力に計画時に確認済)したがって、市民に平等なサービスを提供する市の計画は民間の光ケーブルを借りることが無理なため実現できず、市としては、光ファイバーを全部敷設するのではなく、効率よく光ファイバーと同軸ケーブルを利用して、さらに将来はFTTHに発展できるシステムを構築するものである。

 @カ 伊自良地域、美山地域には同報無線が整備されており、高富地域は有線放送施設を利用して運用しているという実態を踏まえ、既設のシステムを有効活用し、また将来を考えた上で、設置計画を合併前から東海総合通信局と十分に協議検討している。
 また、防災行政無線事業は、目的により運用・システムが根本的に異なる同報系、移動系に分け設置計画を作成している。

 A 「山県市地域情報化基本計画」は市の担当課及びプロジェクトチームの職員とヒヤリングを行い、現状調査、各種比較検討などを行って作成したもので、指摘されているような業者のいうままに行ったものではない。

 B この事業は、合併調整方針の主要事業で、高富地域での事業を伊自良・美山地域へのエリア拡大をするもので新市まちづくり計画にもあるように時代の潮流に乗った情報化を進めるために適正に議決されたものである。

 Cア 収支については市民アンケートの結果に基づき、現在の状況も考慮して、利用見込みを想定した試算を行った。

 Cイ 「機器更新時期について極めて無責任な姿勢」との指摘だが、現在のように技術進歩がめまぐるしく、コスト面の展開も経済状況によって流動的な昨今において、10〜15年後の機器更新の必要経費を積算することはきわめて難しいといわざるを得ない。

 Cウ 「ケーブルの耐用年数が10年」との指摘だが、これは法定耐用年数で民間企業が原価償却をする場合の認定年数であり、実績としては伝送路のケーブルは15〜20年と言われているが、実際はもっと長く使用できるものである。

 Cエ 「市が通信事業者として将来的に人員増や経費増が発生することなく充分責務を果たすことが可能な根拠はない」との指摘だが、04年4月の電気通信事業法の改正により規制緩和がされ、特に行政が非営利でインターネットサービス等を展開する場合は改正前の事業法で規定されていた技術者の常駐やバックアップシステムの義務化などが緩和されている。
    また、新たに通信のサービスを実施するにあたり、サーバ類の機器や伝送路、市民へのサポート体制などトータルで人員増や経費増が発生しない方法で委託を検討しており、責務を果たすことは可能と考えている。

 Cオ 「市が行おうとしている伝送路のループについて専門家から批判がある」との指摘だが、伝送路の設計にはスター型、ループ型があり事故などの発生時に事故の影響地域が最小限になるようにループで設計しているもので、CATVや通信関係の専門家からは批判を受けたことはない。

 Cカ 「入札参加資格の点数の設定に関する指摘」だが、発注の規模やシステム内容から、ある一定以上の技術力や資金力がないと対応できないとの判断より、全国的な実績により採用したものである。

 Cキ 「伝送路工事に「第一種有線テレビジョン放送技術者」が必要とは言えない」との指摘だが、市民に信頼性の高いインフラを提供するにあたり、まさにCATVシステムにおいて一番重要なことは信頼性の高い伝送路を構築することであり、伝送路にこそ経験と一定水準の技術力を有した技術者が必要といえる為である。

 Cク 「機器の製造メーカーでなければならない根拠はない」との指摘だが、機械設備の発注においては、センターシステムと伝送路機器がほとんどを占めており、センターシステムではスタジオシステムやIPシステム等、高度な技術力が必要であり、伝送路については、機器レベル調整等の技術力が必要であるため、伝送路と同じく市民に信頼性の高いインフラを提供するにあたり、メーカー指名としたものである。

 Cケ 「仕様書の相当品は実質的に製品指定で、業者指定である」との指摘だが、「相当品」は、積算し応札するときの仕様を見極めるため、機器選定の基準として示している。また、システムによっては発注者が機器指定をし十分検討した結果として希望のシステムを導入するという側面も持っている。しかしながら、今回の発注は総合システムであり部分的なシステムを製品指定したからといって元請の業者指定には直接的に繋がらないと判断している。

 Cコ 関係業者を優先するために設定したものではない。

 Cサ 「入札仕様書に対する回答書の閲覧日数が3日では期間が短く、市と密接でない業者は不利だ」との指摘だが、通常他の自治体も同様に実施しており、当初から入札説明書に閲覧期間も記載してあるので、各業者は変更を考慮して入札のための準備は行っている。

 D 「最低制限価格の設定」についての指摘だが、最低制限価格を設定することについては、他の自治体の入札において、実績を得るために低価格で落札し、落札しても工事ができず、大幅に工期が延長されたり、完成後の施設で伝送路等にトラブルが発生して、苦しい運用を余儀なくされた自治体があると聞いている。
   市としては、早期完成、早期運用を行い、市民が安心して利用できる施設を建設し、CATVの恩恵を受けていただきたいと考えている。したがって、技術力のある企業にその技術に見合った金額で公正な入札を行わせるためにも必要と判断した。

 E 「両事業の同時進行の無駄」との指摘だが、非常時に必要になる防災事業とCATV事業はその目的が全く異なるもので、統合して実施することは、デメリットがあってもメリットは何もない。防災のシステムは災害等非常時に確実に機能することを最優先に構築するものであり、市民サービスを最優先に構築するCATVとは根本的に目的が違う。さらに、防災無線の受信機は全戸配布されるが、CATVは希望者のみである。防災情報が希望者しか受けられないことがあってはならない。
   また、防災の受信機は日常的に行政情報が流されるので、指摘にあるように非常時専用とはならないし、市民が避難する場合も携帯して逐一情報を得ることが重要になる。 したがって、市民の生命財産を守ることにはならない。

 F 株式会社ブイ・アール・テクノセンター(以下「ブイ・アール」という。)の方式について結論から言えば、ブイ・アールの資料の内容では市の計画していることが、まったく実現不可能である。支出の許容額としてCATVと防災の両事業の統合を前提として金額を積算し比較されているが、統合することによって両事業とも目的が達成できなくなる。市はブイ・アールから実現できないようなシステムの提案を受けてはいないので、請求人の指摘により資料を取り寄せて、調べた結果を以下に記載する。
A・周波数変換パススルー方式で対応
B・共聴組合の継続
C・中継局方式で対応
 Aの場合だと現在市販されている全メーカーのテレビが対応できない、対応できるテレビが発売された場合、市が市民に特定メーカーの特定機種のテレビを勧めることになるが、そのようなことは出来ない。
 Bは高富地域については市が税金で維持し、伊自良・美山地域については市民負担で維持することになる。また、この場合の行政サービスは高富中心で高富地域のみ優遇になるし、アンケート結果にあるテレビの受信状況が悪いから改善を望む市民の問題解決にはならない。
 Cは法律上、放送局しか許可されないため、市は実施できない。
 なお、これらの指摘内容については、アンケート結果を反映して作成した「山県市地域情報化基本計画」の基本方針である「全ての市民が等しく情報通信サービスを享受できるように配慮する」に反することになり、市民の要望を無視することになる。

 G 請求人が比較対象としている監査請求内容は、電波法、放送法などの法律上問題があり、技術的根拠もなく、また、市民の意見も反映させず総合的に判断することなく出されたものと考える。したがって市には全く違法性はないものである。
 H 議会中継や決まった番組を作成するのみならば指摘の方法もあり得るが、自主放送番組とは地域に密着した番組で、いつ何時でも要請があればきめ細かく取材を行う必要があり、委託して制作することでは本来の目的が達成できない。

 I 各種方法と経費の比較検討は、経費の安さだけに惑わされることなく、本来の目的が確実に達成でき、将来の拡張性も考慮した最善の方法で、十分比較検討を行っている。

 J 「インターネットのサービス契約が無効である」との指摘だが、議会において仮契約との答弁を行っているが相手方に確認したところ、「仮契約との認識はなく、今後、協力を求めるための内示書で、紳士協定的なものである」との見解であった。
   しかし、誤解を招くようなので返却の申し出があり、7月20日に市へ返却された。

 K 「インターネットの利用料の設定について違法」との指摘だが、条例は現在提供されている民間事業者のサービス金額を考慮して、市民に提供する価格を決定したもので、違法な条例ではない。

 L 「民間業者の市民の囲い込みに加担する」との指摘だが、市や市民にとって最善の業者を選択することが、加担することになるとは考えていない。どこのISPと事業提携しても結果は同じである。
「プロバイダーの選択の自由が無い」との指摘だが、市はNTTのような通信事業者ではない。どのプロバイダーでも選択できるようにするには現在のシステムに追加で可能ですが、かなり高額の投資が必要になるため、今後のインターネット利用者の全ての利用プロバイダーのアドレスなどに対応することは、現実的に不可能の為市がプロバイダーになるので当然市に加入したら他のプロバイダーは選択できないのは常識である。 ただし、加入者には別途費用が発生するが、他のプロバイダーを利用することはできるので、指摘されているメールやHPのアドレスが使用できなくなるようなことはない。また、実際に行政関係でNTTのフレッツのようなサービスを行って、自由にプロバイダーの選択を可能としているところがあるのか疑問である。少なくとも岐阜県内には、そのような自治体はない。
また、請求人の案で全国に提携プロバイダーを募集しても応募(各プロバイダーが市まで接続するか疑問)があると思われないし、別途、局舎やセンター機器などに無駄な設備投資が余分に発生する事になるため市や市民にとって負担が軽くなるどころか、無駄な費用をかけて負担を重くすることになる。市は広い視野でより多くの市民にとってメリットのある方法を選択している。

 M 「民間圧迫」の指摘だが、競合するところは手を引くべきとあるが、競合する部分を行わないことは、インターネットサービスを実施しないことになり、せっかくの設備を有効に活用ができるのに行わないこととなって、多くの市民が要望することに反する。また、地元の業者とは色々な面で協力をお願いすることになると思われるので、前向きに考えるべきである。

 N 「議決権を無視した違法」との指摘だが、事業を進めるにあたり、市民説明会を開催した時も、広報でも、「予定の価格」として市民に説明し理解していただいている。「予定の価格」のため議会で修正されたら当然価格も修正することになるが、そのことも市民は理解しており虚偽や違法な行為にはならないと考えている。

 O インターネットの利用料の設定について違法との指摘だが、条例は市民に提供する価格を6社の提案コンペ内容から「最小経費で最大の効果」が期待できる金額を決定したもので、指摘にあるような契約を前提としたものではない。したがって根拠があり、なんら市に損害を与えるものではないので、違法な条例とは考えていない。

 P 「ブイ・アールの方法は適切であり、月額(105,000円+1加入者当たり525円)でできる」また、「各種比較検討することなく事業計画を決定した」と指摘しているが、これらは、市の計画内容、ブイ・アールの企画書内容をよく理解せず数字のみで判断されたものと考える。ブイ・アールの料金体系はインターネットサービスで発生する業務の全てを市が行う場合のもので、ブイ・アールの料金には市民のサポート、ネットワークのサポート、課金処理をはじめ必要なものが全く含まれていない。」このままでブイ・アールに委託すると現在の設計にネットワーク関係機器の増設を行なわなければならないし、当然、機器が増えると維持管理の保守料が発生し、機器の更新費用も必要になってくる。また、初めてインターネットやパソコンを使われる市民が多くおられると思われるので、各種サポートのために職員も増員しなければならなくなる。一般的にプロバイダーを選択する基準にサポートの優劣がかなりのウェートを占めており、市民から料金を徴収する以上、サポートは重要と考えている。現実的な企画であれば他の自治体が採用し運用を行っているはずだが、実際ブイ・アールを利用している県内の市町村でもこの方法で契約しているところはない。また、この場合はプロバイダーがブイ・アールになり請求人がJで指摘するような自由にプロバイダーを選択することはもちろんできない。なお、ブイ・アールを利用している自治体では、実際に利用者が月額2,940円払っており、その自治体も利用者が支払う以外にブイ・アールに年額1,000万円の支出が必要といわれている。市の設定料金は適切であり、なんら市に損害を与えるものではない。

 Q 「両計画をミックスしても目的達成が可能で、計画を変更すべき」との指摘だが、請求人の請求の内容は法令違反や技術的に不可能なこと、請求人の憶測が多く、ミックスすることにより両事業とも実現不可能になることが明白である。したがって、現在の市の計画は両事業とも適正なものであり、何ら修正すべきことはない。
   また、変更して事業が遅れることが支障ないとあるが、早期完成で早期のサービス開始を望んでいる市民が多いのは明白であり、いつまでもデジタルデバイドの地域間格差が解消できない事は大きな問題である。
  合併の理念との乖離、安易に高額な方式を選択することは、合併の原点に反するとあるが、高額なシステムを選択したものではなく、いかに市民にとってより良いシステムかを検討して選択したものであり、合併の原点に反するものではない。

 R 「岐阜情報スーパーハイウェイ」を使わなければならない理由など全くない。山県市は県内でもいち早く「岐阜情報スーパーハイウェイ」の利用を申請し、現在も利用しているので、メリット・デメリットは十分承知している。
   今回の事業で、6社の提案を受けたが、費用に差が無く可能ならば山県市の専用線を希望するもので、コンペ仕様の説明時に提案条件に記載しているものの岐阜情報スーパーハイウェイを除くとの説明は行っていない。
   提案企業も最も自信のある企画を提案してきており、もちろん「岐阜情報スーパーハイウェイ」を利用する提案が数社からあったが、結果「岐阜情報スーパーハイウェイ」を利用しない方が安くでき、企画内容も優れていたものを採用しようとするもので、合理性を欠いていることにはならない。


第3 監査の結果
  本件請求についての監査の結果は、合議により、次のように決定した。
監査の結果、本件請求に関する請求人の主張は、理由がないものとして棄却する。
以下、その理由について述べる。

(1)住民監査請求における監査の対象事項について
  住民監査請求の対象事項は、地方公共団体の長若しくは委員会又は職員について、違法若しくは不当な財務会計上の行為及び一定の怠る事実であり、具体的には公金の支出、財産の取得・管理又は処分、契約の締結又は履行、債務その他の義務の負担がこれに該当するとされている。また、これらの行為が相当の確実さをもつて予想される場合も含まれるとされている。
なお、「違法な公金の支出」とは、法規に違背した支出の意であり、「不当な公金の支出」とは、額のいかんにかかわらず支出そのものが不適当な場合と、支出そのものは必ずしも不当ではないが、額が不適当な場合の両者を含むものと解されている(「逐条地方自治法」松本英昭著)。
   これを踏まえ以下説明する。

  (2)CATV事業と防災行政無線事業の統合、修正等に係る差止要求について
 @ CATV事業については、「合併協議事項調整方針」に基づき「新市まちづくり計画」において、「新市全域において有線テレビ放送(CATV)を光ファイバーを基本とする高速通信網により整備し、地上波デジタル放送、双方向通信に対応する」ことが明示されており、また、防災関係事業についても、「新市まちづくり計画」で「緊急時の重要な連絡手段である防災行政無線を整備する」ことが明記されている。
これらの方針に基づき、市においては、「山県市地域情報化基本計画」及び「山県市防災行政無線設備設置計画書」を作成し、所要の予算の議決を経たうえで、CATV事業、防災行政無線事業をそれぞれ進めているところである。

 A これに対して、請求人は違法、不当を述べ、市及び市民に多大な損害を与えることとなると主張するが、その理由の中心は、多額の経費を費やす本件両事業の整備方式の決定にあたって、本件両事業の目的を同時に達成することができる廉価な方式があるにもかかわらず市はその検討を行っていない、という点にあるものと考える。請求人は、その廉価な方式として、FTTH方式、岩村方式、ブイ・アールの提案する方式、を列挙しており、この中でも、両事業についての市の予算額と比して極端に安い経費で整備可能とされる、ブイ・アールの提案する方式が、請求人の主張の根幹となっていると認められる。

B 請求人によれば、ブイ・アールの提案する方式は、市街地はCATVを整備し、僻地や山間地は無線利用する方法で、地上波デジタル放送、双方向テレビ、CATV網、インターネット、ユビキタスネットワーク、IP一斉同報等が提供され、経費は約20億円とのことである。これに関して、請求人は、ブイ・アールが作成した「山県市情報系・映像系統合に関するご提案書」(以下「提案書」という。)を甲第4号証として証拠提出している。

C しかしながら、ブイ・アールからは、請求人が証拠提出した甲第4号証について、“山県市へ提案していないこと”“その内容に記載されている、ユビキタスネットワークとデジタル放送中継システムでは、地上波デジタル放送の再送信及び山県市が計画している内容は実施することができないこと”“概算予算額として記載されてある19億8,500万円は、机上で独断にて積算したものに過ぎないうえ、積算の中には現段階で実現できないものがあり、山県市の情報施設整備事業関係予算と比較できないこと”とし、その旨を明示した文書を平成16年7月30日付けでブイ・アールの代表取締役社長から市長宛に提出されている。

 D 市において、本件両事業の整備方式の決定にあたり、現段階では実現不可能な内容を含んでおり、実現の将来的な見通しも明らかにされていない整備方式の検討を行う必要があるとは認められない。
  なお、請求人がこの他に列挙したFTTH方式については、「山県市地域情報化基本計画」において比較検討されている。岩村方式については、ブイ・アールの提案書にあるユビキタスネットワークのことであり、検討を行う必要性は認められない。

E 請求人は、「山県市地域情報化基本計画」及び「有線テレビ施設整備実施設計」の業務を請け負った「社団法人日本農村情報システム協会」を不適正業者と主張するが、同協会は、山県市建設工事入札参加資格者名簿に登載されており、不適正な業者とは認められない。

F また、請求人は、CATV事業に係る入札に当たっての、入札参加資格の設定、仕様書、最低制限価格の設定に関して問題点を指摘しているが、市においては、自治法施行令第167条の5の2に規定される、いわゆる条件付き一般競争入札として、山県市一般競争入札実施要領に基づき実施しようとするものであり、また最低制限価格の設定は、自治法施行令第167条の10第2項に基づくものである。請求人が指摘する問題点をもって違法不当な事由であるとは認められない。

G この他の山県市の両事業についての整備方式の決定方法及び決定された整備方式にかかる請求人の主張は、財務会計上の違法性若しくは不当性に結びつくようなものとは認められない。

※関係者の了解の元、平成16年7月30日付けで、株式会社ブイ・アール・テクノセンター代表取締役社長 棚橋 普より山県市長宛に提出された文書を添付する。



  (3)CATV事業に関する19億円を越える支出の差止請求等について
(2)で述べたとおり、請求人の主張に理由があるとは認められない。

(4)防災行政無線事業に関する6億円を越える支出の差止請求等について
(2)で述べたとおり、請求人の主張に理由があるとは認められない。

  (5)ジャパンケーブルネット株式会社への委託契約の無効確認について
 @ 請求人は、インターネットのプロバイダー業務の委託に関し、市がジャパンケーブルネット株式会社に内示書を市長名で送付したことについて、山県市の支出をともなう契約であるとし、予算議決がなされておらず違法であると主張している。

 A 山県市契約規則第26条で定める契約書への記載事項や、市で慣行的に活用されている契約書の書式からして、本内示書は、契約書としては著しく異例な形態をとっているものである。また、市が契約を行うに当たっては、それに係る予算措置は当然の前提であり、このことは市と契約を取り交わす相手方においても通常承知されているものと考えられる。
 このようなことを勘案すると、本内示書を仮契約と位置づけた市企画部長の市議会での答弁はあるものの、相手方においても、本内示書を仮契約書として認識しているか疑義が生じ、本内示書の送付をもって当然に契約が成立しているとは認めがたい面がある。
以上のような所感はあるが、本件内示書については、7月20日に、ジャパンケーブルネット株式会社から市へ返却されており、この事実により、本件内示書の送付が、予算の議決前の違法な契約に当たるかどうかについて、監査委員において監査する理由はないものと判断する。

※関係者の了解の元、平成16年7月20日付けで、ジャパンケールネット株式会社代表取締役社長 樋口淳より山県市長宛に返却された内示書に係る送付書を添付する。

 B また、市において、インターネットのプロバイダー業務の委託契約を、コンペ方式で業者選定を行い、随意契約で行うことについて、請求人は当該契約内容が、自治法施行令第167条の2第1項各号に定める随意契約のできる場合に合致しないと主張している。
   契約行為は未だ成立していないが、このことについて以下説明する。  

 C 市民への提供サービスの面から、市の提示した条件に、より多く対応できる業者と契約を行おうとするもので、競争入札のように単純に価格を比較して業者を選定すべき契約内容とは認められない。したがって、自治法施行令第167条の2第1項第2号の「その性質または目的が競争入札に適さない場合」に該当するものである。

 D 請求人は、インターネットのプロバイダー業務に関して、市が各種比較検討をしていないと主張しているが、6社を指名し比較検討している。したがって、請求人の主張に理由があるとは認められない。

 E また、請求人は、インターネット利用料等について議会の議決前に各地区で説明会を行った山県市の行為を違法な行為とし、また議会の議決に影響を与えたとの主張をしているが、各地区での説明会に活用された市のパンフレットには、“加入料、テレビの基本料以外は市議会の議決を要するので予定とさせていただきます”と明記されており、問題があるとは認められない。また、これが議会の審議に影響を与えた事実は認められない。

 F この他の山県市のインターネットのプロバイダー業務の委託に関しての請求人の主張は、財務会計上の違法性若しくは不当性に結びつくようなものとは認められない。

  (6)CATV事業に関するジャパンケーブルネット株式会社への1加入者あたり1,000円を越える支出の差止請求等について(5)で述べたとおり、請求人の主張に理由があるとは認められない。また、請求人が主張する1加入者あたり1,000円との支出の許容額については、1,000円の具体的な根拠が示されておらず、支出の許容額として意味のあるものとは認められない。                        

 以上のことから、請求人の主張には理由がないものと判断する。