《直接請求における署名の住民側から見た注意事項などのまとめ》               (転記等作成/寺町知正/2010.8.14最終記載) 1. 【「直接請求制度の解説」(ぎょうせい・刊)】・・自治体側も住民側も参考書とする唯一と思われる文献のページのこと。絶版。 ※ページとは、当該書籍のページのこと。 ◎署名簿の形式審査 ◆委任日の記載が全く欠けている署名収集の委任状を添付した署名簿により収集された署名の効力は、当該署名が委任後になされたものであることが明らかである限りは、当然無効とはならない(昭和30,12,1行政実例、昭和33,1,29行政実例)(以下、137ページ) ◆委任届に記載された委任年月日と委任状に記載された年月日か相違する場合、一般的には委任状の年月日を基準として署名の審査をすべきである(昭和33,1,11行政実例)。 ◆表紙に付した一連番号に欠号のものがあっても、そのことのみでは無効とはならない(昭和28,11,11行政実例)。(以下、138ページ) ◆署名簿の様式が、有効無効欄、備考欄を欠いていたとしても、そのような軽微な瑕疵は、その署名簿の効力になんら影響を及ぼさない(昭和28,6,12最高裁判決)。 ◆ある署名簿中に、署名年月日が相前後して記載されている場合も、個々の署名が有効になされている限り、当該署名簿は、無効とはならない(昭和28,11,11行政実例)。 ◆改編された署名簿の効力について、本来独立の署名簿であったことが確認され、各分冊とも適法に署名収集がなされたものと認められる限り有効と解する(昭和28,11,11行政実例)。 ◆署名簿に添付すべき書類が正規の場所に綴り込まれていない場合は、それによって必ずしも署名簿の署名が無効となるものではない(昭和28,11,11行政実例)。 ◆請求書、代表者証明書以外の余分の書類が添付してあった署名簿でも、そのことによってただちに無効とされるものではない(昭和23,10,31行政実例)(以下、140ページ) ◆署名収集受任者の住所の記載が不完全な署名収集委任状を添付して当該受任者が収集した署名は、有効である(昭和37,7,11行政実例) ◆受任者が審査前に死亡したことにより選挙人名簿から抹消された場合も、当該受任者の収集した署名は有効と解すべき(昭和42,12,27行政実例)(以下、140ページ) ◎実質審査 ◆ただし、(住所の記載を欠く場合も、)署名の記載順序等から同一の住所と推定できるときは有効である(昭和28,8,25行政実例)(以下、142ページ)。 ◆署名年月日の判然としない場合も、法定期間中に署名したものであることが前後の状況によって明らかに認められるときは有効(昭和32,1,22行政実例)。(以下、142ページ)。 ◆署名年月日、住所、生年月日等の記載は、署名と異なり、自署することは要件でない(昭和23,8,9行政実例ほか多数)。 ◆氏名、住所、生年月日の記載が誤記と認められる場合、氏名、住所、生年月日が選挙人名簿と異なっている場合でも、本人を指すものと確認できるときは有効である(昭和27,11,15行政実例ほか。昭和28,6,22福島地裁判決)。 ◆署名者が転居のため選挙人名簿の住所と異なる場合も有効であり、住所、生年月日等を書き換かえて訂正印を押していない場合も、本人が書き換えたと明白に認められる限り有効である(昭和23,12,15行政実例) ◆署名年月日が相前後して記載してされていても、単にそれのみでは無効ではない(昭和28,11,11行政実例) ◆同一署名年月日又は同一住所であることを示す意味で「〃」と記載したものは有効である(昭和23,8,22行政実例)。(以下、142ページ) ◆署名後に転出、失権しても有効である(昭和29,2,26最高裁判決)。 ◆署名は、名が自署である以上、その姓を書かなくても有効(昭和30,2,7盛岡地裁判決)。 ◆鉛筆による署名は有効である(昭和23,10,31行政実例)。 ◆書き損じのため紙片を貼付して氏名を記載したもの有効である(昭和23,10,31行政実例)。 ◆住所、生年月日、氏名を書き換えた場合に、訂正印を施さなくても、本人が書き換えたことが明白であると認められる限り有効である(昭和27,11,15行政実例)。 ◆同一家族が引き続いて署名する場合、姓が同一であるという意味で「〃」「同」として名のみ記載しても、ひらがな、カタカナ、ローマ字による署名も有効である。 (昭和24,1,20行政実例)。(以下、146ページ) ◆自署であれば、誤字脱字であっても、選挙人名簿の氏名と異なる場合でも有効である(昭和23,12,1行政実例)。 ◆戸籍どおり書かなくても、本人の署名と認められる限りは有効(昭和23,10,31行政実例)。 ◆指の印は差し支えない。                                                2. その他の資料からまとめた要点 ● 委任届出書の提出時期の委任  署名収集委任届出書を直ちに届けるとの規定の「直ちに」とは、行政実例上、「能う限り速やかに」の意であって、「少なくとも署名簿を選挙管理委員会に提出するまでの間において能う限り速やかに」の意と解すべき(行実s27.2.20)。判例は、市町村の選挙管理委員会の署名の効力審査前に委任届出があった場合には、「直ちに」届け出られたものとはいえなくても、それだけでは署名の効力には影響を及ぼさない(最判s28.11.20)。 ●押印は、署名者を特定し、その意思に基づいて署名がなされたことを明らかにするためのもの。署名者を特定できる以上は、拇印によることも許される(行実s23.4.12、行実s23.8.13 神戸地判s29.9.30 等)が、他の指印との異同が識別できる程度に顕出されていなければならない(佐賀地判s37.3.20)。 ●同一家族の者が同一の印を用いる場合でも、本人の意思に基づく限りその者の印として取り扱われる(行実s23.7.12)が、同一姓でない家族の捺印は無効で、世帯主の名のみの印を使用した場合は無効(行実s27.8.19)。 ●署名は自書しなければならないが、押印は、自己の意思に基づき他人を機関として押捺 させる場合には有効である(広島高判s25.12.23)。しかし、拇印は別で、同一家族がそのうちの1人によって全部の署名に拇印を押した場合、本人の分のみが有効(行実s28.8.25)。 ●委任状のみ表紙の次に綴り込み、請求書及び請求代表者証明書(又はその写し)は署名 用紙の次(裏表紙の前)に綴り込んだ署名簿は、瑕疵のあるものではあるが、これによ って必ずしも無効となるものではない(行実s28.11.11)。 ●請求代表者の氏名は記名で足り、自書を要しない(東京地判s37.6.7)。 ●委任状及び委任届の委任年月日が請求書写及び代表者証明書写しの日付の前であっても、請求代表者証明書交付後に署名収集している場合には署名は有効(行実s33.1.29)。 ●署名年月日も自署でなければならないが、もし自署でない場合、氏名が自署であれば有 効(行実s27.2.13)。 ●個々の署名の署名年月日が前後してその一連番号の順序と一致しない点があるとして もこれをもって直ちに署名の連続性を欠くものということはできない(新潟地判s28.12.24、行実s28.11.11)。 ● 署名年月日欄に前欄署名者と同日に署名した場合「〃」の記載のあるものは有効(行実 s32.1.22)。 ● 氏名、署名年月日は自署でなければならないが、それ以外の事項については、請求代表 者において記載して差し支えない(行実s25.12.11)。 ●住所、生年月日の記載していない署名は無効(行実s25.12.11,行実s29.5.14)。 ●住所・生年月日のない署名は無効。ただし、署名の記載順序から同一住所と推定される 場合は有効。また、記載内容が選挙人名簿と相違しても、単に誤字脱字であって本人で あることが確認できる場合は有効(行実s28.8.25)。生年月日の誤記について同趣旨(福 島地判s28.6.22)。 ●戸籍どおりに記載されていなくても本人の署名と認められる限り有効(行実s23.10.31)。 ●署名中の氏名が誤字脱字等により選挙人名簿に登載された氏名と異なる場合でも無効 ではないが、付箋でその旨表示するのが適当(行実s23.12.1)。 ●名のみを自書し、氏の記載が自筆でなくても有効な署名である(盛岡地判s30.2.7、新 潟地判s28.12.24)。 ●印はやむを得ない場合は拇印でも差し支えない(行実s23.4.12)。 ●拇印も有効である(行実s23.8.13)。 ●数人の家族が連名する場合、同一認印を用いた場合有効(行実s23.8.13)。 ●同一家族が2、3人おきに署名押印し、印が同一姓で同一印であると判断できる場合、 本人の意思に基づく押印である限り有効。(行実s23.7.12)。 ●押印は必ずしも自分の手で押捺することを必要とするものではなく、自己の意思に基づ き他人を機関として同人をして押捺させても無効ではない(広島高判s25.12.23)。 ●押印がなされたというためには、印影の場合は判読可能であることを要し、指印の場合 はそれが他の指印との異同が識別できる程度に顕出されていることを必要とする(佐賀 地判s37.3.20)。 ●署名者の生年月日や署名が所定の欄外にはみ出して他の欄に及んでいてもその署名は 無効とならない(福島地判28.6.22)。 ●法は、直接請求に関する署名について厳格な形式を要求する一方、(同一)請求代表者が選挙管理委員会に署名簿を提出するまでという期間を区切って署名押印の取消ができることとしていることから、詐偽又は強迫という不法な手段がとられた場合以外は、内心的効果意思について、いちいち問わない表示主義を取っている(水戸地判s28.7.31)。 したがって、署名の意味が不明のままで直接請求の署名簿に署名した署名であっても所定の方法により取り消されない限り有効(最判s29.2.26)。                                     以上 4/4