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福井県男女共同参画審議会音声記録非公開処分取消請求事件

平成20年(行コ)第2号 福井県男女共同参画審議会音声記録非公開処分取消請求控訴事件
控 訴 人 寺町知正 外12名
被控訴人 福井県
控 訴 理 由 書
2008年(平成20年)4月30日
名古屋高等裁判所金沢支部第1部D係 御中
控 訴 人  寺 町  知 正
控訴人上野千鶴子外11名
 訴訟代理人 弁 護 士  清  水   勉

1 原判決の判断
本件の争点は、本件音声記録が福井県情報公開条例2条2項の「公文書」に該当するか否かであり、原判決は、「本件音声記録は、実施機関である福井県知事において『管理』している文書であるとは言えず、本件情報公開条例にいう『公文書』には該当しない。」(12頁)と判断した。 
  しかし、この判断は誤りである。

2 本件音声記録の取扱い状況
本件音声記録の記録媒体であるミニディスクは、被控訴人が公費で購入し、県庁内の証文品の保管棚に置いてあったものの1枚である。本件音声記録は、福井県男女共同参画審議会の会議録作成担当の職員が、会議録作成のために録音したものである(公務性)。
会議録の作成が完了した後、適宜、担当職員の判断で録音内容の消去が行われていた。このような扱いはどこの自治体でも行っていることである。
  本件音声記録については議事録完成後、職員が消去する前に本件情報公開請求がなされたために消去されずに保管されている。これもまたどこの自治体でも行っていることである。
 本件では、このような経緯のもとに現存する本件音声録音について「公文書」性が問題となり、原判決はこれを否定したのである。

3 原判決の考え方
 原判決は、「本件情報公開条例にいう『管理』とは、当該文書を当該実施機関が現実に支配、管理していることを意味するものと解すべきであり、『管理』該当性の判断にあたっては、実施機関における当該文書の保存の根拠規定、保存に至る手続、保存の方法等の実態について検討すべきである。」(10頁)として、最高裁判所平成13年12月14日第二小法廷判決(以下「平成13年判決」という。)をカッコ内にして引用している。

4 平成13年判決の射程範囲
 原判決は、平成13年判決の考え方をそのまま本件に当てはめて、本件音声記録は実施機関が「管理」するものではない、と結論づけているが、2つの問題がある。
 1つは、平成13年判決は、見方によっては「管理」主体(実施機関)がだれであるか見解がわかれるような場合について考え方を示しただけであって、その点について争いのない本件にそのまま当てはめることができるかという疑問である。
 2つ目は、仮に原判決のような考え方によるとしても、本件音声記録は実施機関が「管理」していると言えるのではないかという疑問である。

5 平成13年判決
 原判決が平成13年判決を参照しているので、果たしてこの平成13年判例は原判決を正当化するものなのかどうかを検討することにする。
 平成13年判決の事案の争点は、県議会の食糧費等の会計文書の公開請求について、その会計文書の管理者が知事(地方自治法の予算執行権)か議会事務局(実際の管理状況)かという対立で、下級審で判断が分かれていたものである。つまり、そこでは当該会計文書が知事か議会事務局かに管理されていることを前提に、法的権限の問題として「管理」を捉えるか、会計実務の実態の問題として「管理」を捉えるかが問題となった。理論上はどちらの説明も成り立つ。
この点の対立に決着をつけたのが平成13年判決である。
平成13年判決は会計規則の規定の仕方を重視して、次のように述べている。 「徳島県会計規則(昭和39年徳島県規則第23号)48条1項は、収入及び支出の証拠書類の保存を規定しているが、保存の主体については規定しておらず、上告人の主張によれば、上記各文書は、予算執行終了後は、県議会が徳島県議会事務局文書編さん保存規程等に基づいて、県議会の他の文書と同様に編さんして県議会事務局の文書保管庫に保存しているというのである。そうすると、仮に上記各文書が予算執行職員の作成し、又は取得した文書であるとしても、そのことから、その保存の根拠規定、保存に至る手続、保存の方法等の実態について検討しないまま、直ちに予算執行職員の管理する文書であるということはできない。そして、これらの点について、原審は、何ら審理判断しないまま、前記の結論を導いているものである。
 地方自治法149条8号は、証書及び公文書類の「保管」を普通地方公共団体の長の担任事務としているが、同号は当該地方公共団体のすべての証書及び公文書類の保管の総括的な責任と権限を有する者が長であることを明らかにしたものにすぎない。これに対し、本件条例2条1項にいう「管理」は、同条3項に掲げられた各実施機関がその主体であると構成されていることからみても、上記の「保管」と異なり、当該公文書を現実に支配、管理していることを意味するものと解すべきである。したがって、地方自治法149条8号を根拠に、県における保存の実態等を考慮しないまま、上記各文書を上告人が管理するものと断定することは、できないものというほかはない。」
 このように説明して、「経費支出伺」、「支出負担行為決議書兼支出命令書」、「旅行命令簿兼旅費請求書」、「復命書」のうち、「支出負担行為決議書兼支出命令書」は予算執行職員が作成した文書、「旅行命令簿兼旅費請求書」は予算執行職員が取得した文書と言えるが、「経費支出伺」「復命書」は、予算執行職員が当然に取得する文書であるとは考え難いとした。
 この判決で注目すべきは、「本件条例2条1項にいう「管理」は、同条3項に掲げられた各実施機関がその主体であると構成されていることからみても」としている点である。情報公開条例が実施機関を知事ひとりとせず、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、監査委員などをそれぞれ主体として位置づけているのだから、会計文書についても、それぞれが管理しているのか、知事部局で管理することになっているのか、文書管理規程がそれを決めているはずだから、地方自治法に規定された権限の問題としてではなく、文書管理規程の規定に従うべきだとしたのである。そのように考えるからこそ、「その保存の根拠規定、保存に至る手続、保存の方法等の実態について検討しないまま、直ちに予算執行職員の管理する文書であるということはできない。」と判断しているのである。
  平成13年判決は当該情報公開条例の実施機関の規定の仕方を起点として、文書管理規程による文書管理の実態こそに着目すべきだとしたものである。
 実務的には、今日、議会が情報公開条例の実施機関になった自治体が多くなっているから、そのような自治体の情報公開の実務では、情報公開請求の宛名を首長にするか議長(議会事務局)にするかという手続上の問題になっているだけである。

6 情報公開条例と文書管理規程の関係
文書管理規程は、情報公開条例と関係なく、情報公開条例が存在するようになる遥か以前から、行政機関が内部の組織的事務運用の便宜のために作成したものであって、もともと情報公開制度と連動しているわけではない。
  情報公開制度が求める文書管理制度と、行政が従来から作成してきた文書管理規程とは、目的を異にするから、従来の文書管理規程が情報公開制度を十分に意識した内容になっていないことは当然にあり得ることである。
  情報公開制度が作られるようになると、情報公開制度に対応した文書管理ルールが作られるべきだという新たな要請が生じる。情報公開法37条(行政文書の管理)の規定は、すでに文書管理規程が実施機関に存在することを承知の上で設けられたものであり、宇賀著『情報公開法の逐条解説』(有斐閣)では、「本条は、情報公開法と行政文書管理が『車の両輪』という認識に立ち、情報公開法に基づく開示請求の対象となる行政文書が適切に分類、作成、保存、廃棄されるよう、行政文書管理の基本原則について定めるものである。」(138頁)と説明している。これは、情報公開法の運用が、文書管理規程に従属するのではなく、むしろ、文書管理規程は情報公開法の適正な運用に対応するようにならなければならないことを示すものである。現在、文書管理法案が国会に提出されようとしているのも、情報公開法の要請によるものである。
  福井県にも文書管理規程がすでにありながら、本件条例があえて「実施機関は、この条例の適正かつ円滑な運用に資するため、公文書を適正に管理するものとする。」(31条1項)という規定を設けているのも、情報公開法37条と同趣旨である。
平成13年判決もこのような流れの中で読み込む必要がある。つまり、平成13年判決は当該情報公開条例の実施機関に関する規定の仕方を起点として文書管理規程の規定の仕方として解決すべきだとしたのであって、「管理」については如何なる場合においても文書管理規程の規定によるべきだとしたのではない。そのような理解の仕方をしないと、上位規範の条例が下位規範の内部規定によって空洞化されることを最高裁が認めたことになり、明らかに不合理である。
 文書管理規程が情報公開条例の要請に対応していないときに文書管理規程の文言を優先して情報公開請求権を制限するのは本末転倒である。

7 情報公開制度は対象文書を拡大化する傾向
そもそも本件条例における「公文書」の定義は、他の自治体や情報公開法の規定がそうであるように、決裁供覧文書であることを要件としていた改正前の規定の仕方が情報公開請求を不当に妨げていたという問題意識からこの要件を外し、できるだけ情報公開請求の対象を広げようとしたものである。
宇賀著『情報公開法の解説』(有斐閣)では、「行政文書」の定義で重要なポイントとして、次のように説明している。
「決裁、供覧という事案処理手続の終了を要件とせずに、行政機関の職員が組織的に用いるものであれば、広く対象に含めていることである。この方針は、行政情報公開部会の中間報告においてすでに採用されていた。事案処理手続が必要な場合であっても、起案手続に入る段階では、すでに実質的に内部の意思決定が終了しており、意思形成過程への住民参加という観点からは、さらに、それよりも早期の段階で、組織的に用いた文書の開示請求をする必要が生じる場合がある。」(25頁)
 そして続けて次のように説明している。
「また、そもそも、事案処理手続を要しない文書のなかにも、アカウンタビリティという観点から、開示が必要なものがある。厚生省のエイズ研究班のようないわゆる私的諮問機関に出された資料のなかには、決裁・供覧の手続を経ていないものもありうるが、そのことのみによって、国民の生命・健康にかかわる重要な意思決定を行った会議資料へのアクセスの道が断たれることは適切ではない。わが国の従前の文書管理規程のなかには、決裁・供覧等の事案処理手続で対象文書を画するものが少なくないが、文書管理規程が行政文書の効率的執行という観点からのみ作成されていたことの反映であり、行政情報の公開という観点からは、事案処理手続を行政文書の要件とすることは必ずしも適切ではないのである。」(同頁)
福井県においても改正前の情報公開条例では対象文書は決裁供覧文書としていた。それが2000年の改正によって、決裁供覧という要件を外したのである。のみならず、以下に説明するように、組織共用性の要件さえ明記していない。これは情報公開法や他の自治体の情報公開条例よりも「公文書」の範囲をさらに拡大しようとする姿勢の表れなのである。

8 組織共用性の要件について
情報公開法や他の自治体の条例の多くが「公文書」の定義において、「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして、当該実施機関が管理しているもの」と定めているのに対して、本件条例の定義規定では、「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして」が明記されていない。
 この点について、『情報公開事務の手引』(乙4)では、「作成または取得に関与した職員個人が保有している段階のものではなく、実施機関が業務上の必要から組織として管理している状態にあるものをいう。」(6頁)と説明しているが、本件条例ではあえて「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして」という文言を入れていない。それは情報公開請求の対象となる「公文書」の範囲を広げようとするものであり、『手引』(乙4)で説明しているような解釈を取らないというのが本来の正しい解釈となるはずである。
 原判決が本件条例の条文に基づかないで、『情報公開事務の手引』(乙4)の説明に依拠している(10頁)のは、明らかに不合理である。
 本件条例の解釈としては、「当該実施機関が管理している」という文言の中に、「職員が職務遂行上の必要から管理している」という解釈を導くことができるから、職務に関係がない私生活に関する文書(例えば同僚との休日の過ごし方を書いたメモ)のようなものは「公文書」に含まれないと解することができる。「当該実施機関の職員が組織的に用いるものとして」という文言が入っている条例の解釈において「公文書」性の判断が微妙であっても、本件条例の解釈としては「公文書」該当性が認められるということはあり得ても、その逆、すなわち、他の自治体の条例の解釈では「公文書」性が認められるのに本件条例の解釈としては認められないということはないのである。

9 本件条例「公文書」への該当性
本件の場合、「実施機関の職員が職務上作成した電磁的記録であって、当該実施機関が管理している」かどうかを端的に判断すればよいと解すべきである。文書管理規程の規定の有無や組織共用性を重視するなどして、「管理」の有無が左右されると解すべきではない。
 本件音声記録の場合、実施機関の職員が職務上の必要から録音したものであって、その後、これを利用するなどして会議録を作成し、その後なお保管しているというのであるから、まさに上記要件を充たすものと解すべきである。 本件音声記録の場合、記録した職員が会議録を作成し完成させているので問題を生じていないが、仮に当該職員が急の人事異動や疾病等などで会議録を作成できなくなった場合、他の職員が本件音声記録を利用して会議録を作成することになるのであって、組織共用性の要件を加えたとしても、この要件を充たしていると言える。
 したがって、本件条例の「公文書」に該当すると解すべきである。
  この点に関連して、原判決は「音声記録が他の職員により利用されたことなどの事実を認めるに足りる証拠はない。」(8頁)と認定し、組織共用性を否定しているが、すでに説明したとおり、本件条例の「公文書」の定義には組織共用性は明記されていない。したがって、この点を慎重に検討解釈しなければならないのに、原判決は本件条例の規定ではなく、職員が作成した『手引』(乙4)に依拠してしまっており、条例解釈のあり方を誤っている。
  組織共用性を考慮するとしても、この点の事実認識も誤っている。行政組織では常に1つの行政事務を複数の職員で行っているということではなく、分担作業として行われているのが通常である。それが組織的に行われていることは、上記のように当該担当職員が対応できなくなったときに直ちに他の職員が対応する仕組みになっていることに現れる。
 したがって、問題は本件音声記録が他の職員によって利用されたことがあるか否かではなく、当該担当職員が対応できなくなったときに、他の職員が議事録作成のために本件音声記録を職務上利用することができるかどうかである。本件音声記録の媒体であるミニディスクの購入経費が公費であること、購入後県庁内で保管していること、職員が職務に関して使用することが認められていたことなどからすれば、本件音声記録は福井県の所有に帰属するのであって、録音した一職員の立場において他の職員が議事録作成のために使用することを拒否することはできないと解すべきである。したがって、組織共用性の要件は備わっているということができる。

10 「未整理情報」は対象外でよいか これに対して、原判決は、「実施機関において事実上保管されているすべての文書が公開の対象となると解すると、未整理の情報についても公開の対象となるなど、かえって県政の公正な運営の確保を図るという本件情報公開条例の目的が阻害される」(10〜11頁)という一般的抽象論を展開し、これを前提に本件の検討をしている。
  しかし、そもそも本件条例の「公文書」の定義には「未整理情報」を公文書としないという例外規定がない。それを判決において「公文書」に当たらないとすることは条例に規定のない非公開事由を認めることであり、条例の解釈を逸脱している。
  文書が整理されているか否かは実施機関側の文書管理のあり方の問題に過ぎず、情報公開請求の対象を限定する理由にはならない。とくに福井県の場合は、「公文書」の定義規定を他の自治体より広いものとして規定しているのであるから、なおさらのことである。
 未整理の情報であっても、例えば、いつまで経っても実施機関が情報を整理しないでいるときに、未整理のままであっても住民に対する説明責任を果たす観点から公開すべき場合はあり得るであろう。むしろ、「未整理の情報は公開請求の対象にならない」という基準を許してしまうと、実施機関は意図的に未整理状態を続けることで、合法的に情報公開請求を拒否することができることになり、明らかに不合理である。
情報公開条例の実施機関としては、速やかに未整理状態を解消して住民に対する説明責任を果たすように努めることこそ、本件条例31条1項の規定の要請なのである。 本件音声記録についてみると、これは完成議事録を完成品と考えれば「未整理情報」だという言い方ができるが、それ自体が音声記録として完結しているものなのであるから、「未整理情報」という分類は的確ではないし、これの公開を請求されたとしても、実施機関の事務作業量が膨大になるというものでもない。
また、本件音声記録は、実際にあった議論がそのまま音声として記録されているのであるから、声の大きさや雰囲気などもある程度伝わり文字による議事録よりも実際の議論に近いものとして情報公開請求した者に伝わるのであるから、「かえって県政の公正な運営の確保を図るという本件情報公開条例の目的が阻害される」ということもあり得ない。

11 本件音声記録  電磁的記録が情報公開請求の対象となる「公文書」に含まれることは本件条例の規定からして明らかである。しかし、原判決は、本件音声記録については以下の理由で「公文書」としての「管理」がなされていないと判断した。
 「本件審議会の会議録はその要約が作成されており、本件音声記録については保管事務手続の実施要領等の定めがあるとはいえず、本件審議会の会議録が作成されたあとは、担当職員によって同記録の内容の消去が予定されていたのであり、記録の整理、保管、保存及び廃棄について、同記録が、文書規程等の規定に準じて取り扱うこととされていたものとは認められない。」(11頁)
として、
「本件では会議録作成途中に本件情報公開請求がなされたため、同会議録完成後も同記録の内容が消去されていないためにすぎず、実施機関において文書規程等に基づいて保管されていると評価されるものではない。」(同頁) と判断している。
 しかし、この説明は不合理である。
 会議録の要約が作成されていることは、音声記録を聞かなくても読めば内容がわかるようになっているということを説明しているだけであって、本件条例で情報公開請求の対象として規定している電磁的記録が、要約が完成したことで対象外になるということではない。そのような但書規定は本件条例にはない。どちらも情報公開請求の対象になり得るのである。
また、原判決は、「本件音声記録については保管事務手続の実施要領等の定めがあるとはいえず」という点を重要視しているが、そのような内部規定を設けるかどうかは行政組織内部の行政事務の便宜の問題であって、本件条例の「公文書」の範囲を左右するものと解すべきではない。

12 文書管理規程
(1) はじめに
 文書(管理)規程は、それぞれの自治体によって大枠としての構成はほとんど同じであるが、情報公開制度を十分に配慮したものに作りかえられているか否かはかなりばらつきがある。
 そうであるだけに、情報公開条例の条文の文言がほとんど同じなのに、文書管理規程の規定の仕方によって「公文書」性が左右されるのは不合理である。
(2) 長野県文書規程の場合
 長野県文書規程(甲34)では、「文書等」に「電磁的記録」を含め(2条1号)、保存区分については、永年・10年・5年・3年・1年・1年未満の6種類に分類し(20条)、保存期間が経過したときは不用文書とする決定をし、廃棄する(49条1項・6項)。保存区分が1年未満の文書等については保存期間が経過したときは、速やかにこれを廃棄するものとしている(同条7項)。「不用決定」(同条1項)を要しない。
 長野県に福井県の本件音声記録の取扱い状況を当てはめると、本件音声記録は、保存区分が「議事録が完成するまで」という「1年未満」であり、会議録が完成したときに保存期間が経過し、職員は本件音声記録を速やかに消去することになる。
但し、上記消去までの間に、長野県情報公開条例に基づいて情報公開請求があった文書等については公開・非公開の決定があった日の翌日から起算して1年間、不服申立がなされている文書については裁決・決定の日の翌日から起算して1年間、現に係属中の訴訟の手続上必要とされる文書については当該訴訟が終結するまでの間、保存期間が延長される(49条の2)。
 他県についてみると、石川県文書管理規程(甲35)も上記の点について長野県文書規程とほぼ同内容になっている。
 愛知県行政文書管理規程(甲36)は、保存期間の延長について、「職務の遂行上必要があるとき」「原則として1年を単位として延長することができる。」(91条1項)としている点以外は長野県文書規程とほぼ同内容である。なお、愛知県規程では、未完結文書のうち電磁的記録について、「保存期間1年未満のものであるときは、主務課長が指定する記録媒体に記録し、主務課長が指定する場所において適正に整理し、常にその所在を明らかにしておくものとする。」(56条1項但書)と規定しており、多くの自治体でも実情としてはこのような対応が行われているものと考えられる。

(3) 福井県文書管理規程の場合
これに対して、福井県文書管理規程では、「文書等」に「電磁的記録」を含めているものの(2条1号)、保存区分については、20年・10年・5年・3年・1年の5種類に分類している(47条1項)保存期間が到来したものについては、情報公開・法制課長が廃棄決定する(64条1項)。保存期間が到来していなくても、明らかに保存の必要がなくなれば、情報公開・法制課長は、課長と協議の上、廃棄決定するものとされている(同条7項)。
 福井県文書管理規程では、保存区分について1年未満を設けていないので、最短でも1年間保管しなければならないのが原則となる。その保存期間内に保存の必要が明らかになくなれば、情報公開・法制課長の判断で廃棄決定できる。本件音声記録も会議録が完成した後は明らかに保存の必要がなくなったものとして情報公開・法制課長の判断で廃棄決定できる。
  本件音声記録のように会議録を作成したら直ちに消去することがもともと決まっているようなものについては、長野県文書規程のような規定の仕方こそ実務的に合理的である。長野県はそのような「文書」として管理しているのである。
福井県では最低限1年間保存することを原則としており、消去するには情報公開・法制課長の廃棄決定が必要とされている。
これは実務的には如何にも面倒な手続である。福井県はその解決方法を、本件のような音声記録は文書管理の対象ではないとすることで済ませようとしたのである。適正な文書管理という観点からすると、本末転倒である。
福井県において従来、職員が文書管理規程64条7項の手続によらず自己の判断で廃棄してきたことを、文書管理規程の運用として説明できない(1年未満で廃棄した文書について情報公開・法制課長の廃棄決定文書がない)ことについて、自らの非を認めるのではなく、文書管理規程で管理する文書ではないことにすることによって福井県文書管理規程64条7項違反の運用がなされていたことをごまかそうとするものであり、福井県のルーズな文書管理を単なる事実行為として見逃してよいはずがない。
 被控訴人は原審答弁書の第3の3のイで、「本審議会開値の4日後(議事録作成前)である平成18年11月6日、原告らから本件音声記録に係る情報公開請求がなされ、また、同月21日、原告らは本件処分の取消しを求めて知事に対する異議申立てを行ったため、いわば係争物件に関する例外的な措置として、現時点では本件音声記録は消去されていない。」と主張しているが、これが如何なる条例や規則、規程に基づくのかを説明していない。
すでに紹介した長野県文書規程や石川県文書管理規程には、このような場面への対応についても規定している。福井県文書規程には長野県文書規程49条の2と同じ明文の規定がないが、「所属長(※課長(2条6号))は・・・引き続き・・・保存する必要があると認めるときは、必要な期間に限り、・・・保存期間を延長することができる。」(59条)と規定しており、この規定に基づいて長野県と同様の対応がなされているものと理解すべきである。
 原判決は、「本件では会議録作成途中に本件情報公開請求がなされたため、同会議録完成後も同記録の内容が消去されていないためにすぎず、実施機関において文書規程等に基づいて保管されていると評価されるものではない。」(11頁)と判断しているが、これは一職員個人の良識としてこのような扱いをしているわけではなく、福井県文書管理規程59条の規定に基づいて実施機関(所属長)として対応しているものと解すべきである。
 本件音声記録が福井県文書管理規程に基づいて消去されずに済んでいると解することができるということは、その前提として、本件音声記録は福井県文書管理規程の「文書」に該当し、本件情報の「公文書」にも該当するのである。

13 結論
 以上のとおり、本件音声記録は本件条例の「公文書」に該当することは明らかである。
以上