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名古屋高等裁判所第1部 H15.12.25判決 平成14年(行コ)第9号実行委員会文書非公開処分取消請求控訴事件。岐阜地方裁判所平成12年(行ウ)第4号(原審結果:棄却)

判示事項の要旨: 第20回宇宙技術及び科学の国際シンポジウム岐阜県事業実行委員会等の実行委員会が,岐阜県情報公開条例2条の「実施機関」に含まれ,本件各文書は,同条例2条2項の実施機関の職員が作成し,又は取得した文書であって,実施機関が管理している文書に当たるとして,文書公開を認めなかった1審判決を取り消した。

◆判決第2 事案の概要
 1 本件は,岐阜県の住民である1審原告らが,岐阜県情報公開条例に基づき,1審被告に対し,実行委員会の収支予算書及び決算書の明細を表す文書並びに実行委員会の名簿等の公開を請求したところ,1審被告から,当該各文書を取得していないという理由でいずれも公開しない旨の処分を受け,これに対する異議申立てに対して,本件各文書は,県とは別個,独立した本件各委員会が作成し,管理する文書であり,本件条例2条2項の「公文書」に該当しないという理由で棄却決定を受けたので,本件各処分の取消しを求めた事案である。
 原審は,本件各委員会が,いずれも県とは独立した別個の権利能力なき社団であり,本件各文書は,同項の「公文書」に該当せず,また,既に解散した委員会@ないしDの作成した各文書も同条1項の実施機関が管理しているものとは認められず,同条2項の「公文書」に該当しないとして,1審原告らの本件請求をいずれも棄却したため,1審原告らが控訴した。

 2 争点
 本件各文書は,本件条例2条2項の「実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書」であって,「実施機関が管理しているもの」といえるか否か(本件各委員会は,県の事業の一部を実施するものであり,同条1項の「実施機関」と同視できるか。)。

◆判決第3 当裁判所の判断
 1 本件条例2条2項は,「この条例において『公文書』とは,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び写真であって,実施機関が管理しているものをいう。」と規定している。
 したがって,本件各文書が本件条例による公開請求の対象となる公文書に当たるというためには,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した同項所定の文書であり,かつ,実施機関が管理しているものであることを要する。
 これら各文書は,本件各委員会の職員が職務上作成したものと認められる(弁論の全趣旨)ので,本件各文書について実施機関が作成し,取得した文書であるとするには,まず,本件各委員会と県との関係,すなわち,同委員会は県の事業執行の一方法たる存在であるのかどうかが検討されなければならない。

 3 本件各委員会と県との関係について検討する。
@ 県は,各所管事業において,当該事業実施の手法として,実行委員会方式によることが相当であると判断した場合には,民間を含む関係機関に対して参加依頼を行い,その賛同を得て,実行委員会を設置するもので,本件各委員会も,総合的,かつ効果的な運営を期すために設置が計画されたものであること,

A その設置には,県が深く関与し,その運営についても,県知事又は県企画部長が就任して要職を占め,その中心的な役割を果たしていること,
B 本件各委員会の事務局は,県の各所管課に設置されており,その事務は県の職員が担当し,本件各委員会において作成すべき文書は,県の担当職員が作成し,当該職員の本件各委員会における職務については公務員の職務専念義務違反等は問題とされず,給与及び手当等も県の職員としての通常の基準により県から支給されていること,

C その予算(経費)についても,県から支出される負担金が,最も少ないもので総収入の約61.4%であり,他は,すべて85%以上を占めており,県議会において,県の事業の概要として本件各委員会の開催費用等の承認を得ていること,

D 各委員会の経理事務についても,岐阜県会計規則に準じて処理し,実行委員会解散後においても予算・決算及び負担金等の各書類につき,議会や県民等に説明できるよう整理すること,文書の整理,保管等は,岐阜県公文書規程に準じて処理することなどの指導がされているもので,本件各委員会の事務局が設置されている所管課で本件各文書を事実上管理していることなどが認められる。

 そうすると,県は,単なる本件各委員会の構成員にすぎないということはできず,本件各委員会は県の事業執行の一方法たる存在であるということができ,本件各委員会の運営等の事務は県の処理すべき事務に含まれるというべきである。
 したがって,本件各委員会の職員が職務上作成し,又は取得した本件各文書は,本件条例2条2項にいう実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書であって,実施機関が管理している文書であると解するのが相当である。
 なお,本件各委員会のうち協議会E以外の各委員会は既に解散しているが,その文書については,正式に県との引継ぎを行ってはいないものの,そもそも本件各委員会自体が実施機関に含まれる以上,現在,実施機関が管理している文書ということができる。
 そして,本件条例は,第1条において,情報公開の目的を,「県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに,情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより,県民の県政への参加を促し,県政に対する理解と信頼を深め,もって開かれた県政を実現することを目的とする。」とし,第3条では,本件条例の解釈と運用の基本につき,「実施機関は,公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し,運用するものとする。」と定めているところ,上記のとおり解するのでなければ,かえって県のなすべき事務について,民間等の協力を得ることを理由として実行委員会方式で運営することにより,県において,当該委員会の要職を占め,運営等についても深く係わり,その収入の相当額に当たる負担金を支出しながら,本件各文書のような県の職員が職務上作成し,又は取得した文書が公開の対象から除かれる結果となり,本件条例自体が定める目的や解釈と運用に反することにもなりかねず,相当でないというべきである。

 4 本件各委員会の設置目的から同委員会が県とその他の団体等により構成されていることは当然のことであり,代表者が定まっており,実行委員会名で契約行為がなされることは,その活動をより機動的になすためのものであるといえるものであり,更に,一定の意思決定を行うことを予定しているとしても,県と異なる独自の利益の追求やその方針と異なる任務を果たすことは,その設置目的から予定されていないのであり,これらをもって,本件各委員会が県と別個,独立したものであるとは認められない。

 5 以上によれば,原告らの公開請求に係る本件各文書について,その不存在(本件各文書を作成,取得ないし管理をしていないこと)を理由としてこれを非公開とした本件各処分はいずれも違法である。                                 以上