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2007年9月7日に提訴した選挙公営ポスター代水増・過払分の返還を求める住民訴訟のページ

  岐阜県議会議員の選挙公営におけるポスター作成費用の
  水増し請求による過払金の返還に関する住民監査請求書

《1 請求の趣旨》
第1 概要
1. 岐阜県の県議や知事の選挙の時のポスター代、選挙カーの賃貸料や燃料費、運転手の日当などについて、候補者側から請求に基づき税金で負担する制度がある。選挙はがきの経費負担は義務的であるし、有権者に候補者の政策を周知するための「選挙公報の作成・頒布」の(経費負担の)意義は高く評価されている。
 しかし、ポスターなどの公営には多様な議論がある。
 
2. 一説によれば、「『選挙公営』の趣旨は、お金のかからない選挙を実現するとともに、候補者間の選挙運動の機会均等を図る手段として制度化されている」とされる。が、その理屈では、「『町村の選挙』では選挙カーやポスターなどの選挙公営を採用できない法制度である」という事実の説明がつかない。

3. 選挙に出ても、適法かつ適正な政治活動、選挙運動をするなら立候補に必要な総費用は、さほどではない。お金のかからない選挙を実現することは、候補者が努力すべきことであって、税金で負担することは、各候補の選挙費用を減らすことに逆行するだけである。選挙は、意志を持って立候補するのだから、経費は候補者が自分で出すべきで、贅沢なポスター代などを公費で認めようということは筋違いである。

4. 過去に、選挙ポスター代の水増し請求が見つかった自治体もある。実際に、制度の趣旨に厳格に従って請求すれば、請求可能な金額は低いといわれる。現在の法制度で基準とされるポスター印刷単価は世の中の実勢価格と合致しておらず、引き下げる自治体もある。いまや、選挙公営は本来の制度の趣旨を逸脱して、単に候補者個人の高額な選挙費用一部補填制度である。

5. 岐阜県の財政は逼迫している 
 たとえば、岐阜県山県市では、本年1月16日に選挙公営条例の廃止を求める直接請求が開始された。署名が法定数に達し、その手続が粛々と進む中、3月2日の山県市議会定例会開会の初日に議員提案により、同条例の廃止が議決され、速やかに公布された。
 多様性は自治や分権の基本である。財政に余裕のある自治体はともかく、財政の著しく困窮した岐阜県においては、県民の理解を得られない選挙の候補者の費用を税金で負担するという制度は見直す必要がある。速やかに廃止すべき、もしくは、仮に、継続するとしても、ポスター印刷・作成代等について真実の実勢価格を基準とする条例に改正すべきである。
 例えば、ポスターの紙質や印刷技術等も向上しているから、県条例において、「ポスター掲示板の2倍の枚数を上限とする」との本件条例の規定は時代錯誤であり、「ポスター作成・印刷の基準額が高すぎる」ことは本件住民監査請求で例示する事案から明白なことであって、この2点はいずれも不正の余地を生じさせるものであり、不要・過剰な部分である。

第2 岐阜県の選挙公営制度と公費負担としての支出
1. 条例規定 
 岐阜県議会議員及び岐阜県知事の選挙における自動車の使用及びポスターの作成の公営に関する条例(平成6年10月14日 条例第23号。以下「本件条例」という。)の規定は以下である(関連部を抜粋)。

(ポスターの作成の公営)(本件条例第2条)
「・・当該各号に定める金額の範囲内で、無料でポスターを作成することができる。
二 ポスターを作成する場合 候補者一人について、第5条各号に掲げる区分に応じ同条各号に定めるところにより算定した金額にポスターの作成枚数(当該作成枚数が、当該選挙区におけるポスター掲示場の数に2を乗じて得た数を超える場合には、当該2を乗じて得た数)を乗じて得た金額」」

(契約締結の届出)(本件条例第3条)
「前条の規定の適用を受けようとする者は、次の各号に掲げる区分に応じ当該各号に定める契約を締結し、岐阜県選挙管理委員会(以下「委員会」という。)が定めるところにより、その旨を委員会に届け出なければならない。
二 ポスターを作成する場合 ポスターの作成を業とする者との間におけるポスターの作成に関する有償契約」

(公費の支払)(条例第5条)
「岐阜県は、候補者が同号の契約に基づき当該契約の相手方であるポスターの作成を業とする者に支払うべき金額のうち、当該契約に基づき作成されたポスターの一枚当たりの作成単価に当該ポスターの作成枚数を乗じて得た金額を、第2条ただし書に規定する要件に該当する場合に限り、当該ポスターの作成を業とする者からの請求に基づき、当該ポスターの作成を業とする者に対し支払う。
一 当該選挙区におけるポスター掲示場の数が500以下である場合 514円48銭に当該ポスター掲示場の数を乗じて得た金額」
 これら規定によるところのポスター1枚の上限単価は選挙区ごとに異なる(第3号証)。

2. 手続き及び契約等
 本件条例にかかる「平成15年岐阜県選挙管理委員会 通知第268号」(以下、「本件通知」という。)は、選挙運動用ポスター作成公費負担に関して、各種の書類の提出を定めている。
   (候補者→地方事務局)
      ポスター作成契約届出書   ポスター作成枚数確認申請書
   (地方事務局→候補者等→業者等)
      ポスター作成枚数確認書
   (支払請求時 業者等→県知事)
      請求書及び請求内訳書  ポスター作成枚数確認書
      ポスター作成証明書・・・候補者→業者等→県知事
 ※いずれの提出書類も「選挙の手引き」において基本書式が規定されている。

3. 2003年、2007年県議選のポスターの作成経費に係る支出
 2003年(平成15年)4月4日届出岐阜県議会議員選挙に関する選挙運動用ポスター作成に係る公費負担は、各候補者から選挙管理委員会に選挙運動用ポスター作成契約届出書(契約書の写し添付)の提出を受け、その後の諸手続きを経て、同年7月頃までに、県は、各ポスター作成業者にポスター作成費を支払った。
 選挙には、73人が立候補し、本件条例に基づく公営を請求し、いずれかの交付を受けたのは72人、ポスターに関しては71人の立候補者が請求した。
 ポスター作成費の交付総額は4060万9225円であり、このうち、50候補がポスター1枚作成単価上限額の50%以上の額を請求し、その合計額は3584万1477円であり、50%未満の額を請求した22候補の合計の額は476万7748円である。(第2号証)
 なお、選挙カー、運転手日当、燃料費の交付合計は1626万9366円であり、本件条例に基づく公営の県費負担全体合計は、5687万8591円であった。 
 2007年県議選のポスターの作成経費に係る支出は、選挙には71人が立候補し、本件条例に基づくポスターに関しては68人の立候補者が請求、ポスター作成費の交付総額は3447万7538円であり、このうち、47候補がポスター1枚作成単価上限額の50%以上の額を請求し、その合計額は3075万3090円であり、50%未満の額を請求した21候補の合計の額は372万4448円である。(第2号証)

第3 印刷業界の選挙用ポスター作成の実際の相場
1. 本件選挙の請求額から導かれる印刷費の実勢額
 本件選挙における各地候補者のポスター代の請求額を比較すると、印刷業界の実勢価格が見事に現れてくる。(第4から9号証)

2. 他の自治体の例
 栃木市議会では2001年(平成13年)3月議会で議員提案によって条例改正し、ポスター作成費の「企画料」30万1875万円を削った。理由は、ポスター作成費の水増しがばれて、議会全体が謝って、あいまいな「企画費」の部分を0にしたものである。
 栃木市議会議員及び栃木市長の選挙における選挙運動の公費負担に関する条例(平成6年9月27日 条例第18号)は以下のように規定されている。
 「附則 3 当分の間、第8条の規定の適用については、同条中『301.875円』とあるのは、『0円』とする。」
 よって、同市のポスター作成費として認定している額は、「501円99銭に当該ポスター掲示場の数を乗じて得た金額」、つまり1枚501円99銭である。

3. 愛知県
 愛知県豊明の見積調査例(ポスター掲示場数の135枚を制作する場合)
 A社 印刷7万5000円+デザイン料2万5000円=10万円
 B社 印刷6万7250円+デザイン料4万円=10万7250円(+撮影代3万円)
 選挙用ポスター1枚あたりにすれば、A社740円、B社1016円である。
 A社の営業マンは、「リーフレットやはがきの印刷代もポスターといっしょに請求してくれればいいと言われることが多い」とした。
  条例の基準額は、1枚2740円である。

(参考) 豊明市文化会館のコンサートなどのポスター用紙サイズで選挙用の2倍の大きさのA2版につき、紙の種類は、雨に強い紙ではあるがユポ紙ではなく、印刷枚数30枚、写真持ち込みで印刷代+デザイン料、カラーで一枚あたりの印刷代2000円である。

4. 印刷業界は、ポスター作成費で「全部突っ込み」が通常
 三重県内の某自治体の選挙前、ある印刷業者が、「ポスター作成費に、ハガキやリーフレット、名刺など突っ込みで印刷しますから」という主旨を記載したチラシを配って営業活動をした。
 これが、都市部等の選挙グッズ印刷業者の相当な部分の実態である。

5. 水増し部分を候補者にキックバック(現金で返す)する業者もいる。この点は、自動車や運転手でも同様である。ガソリン代については、選挙用自動車(1台に限定されている)以外の車のガソリンを請求する例もある。
 
6. 請求人の例
 本件請求人の一人である寺町知正は、過去の旧高富町の掲示板35枚のポスターを「厚紙にカラーコピー」で1枚100円程度で作った。
 前回2004年山県市議員選挙では、135枚の掲示板に「防水紙に全面シールつきカラー写真」で1枚600円程度で作った。(山県市の条例のポスターの上限は、1枚当たり「2746円」である)

7. 今年2007年6月になって、山県市でのポスター代(第9、10号証)水増し容疑で県警が市議や印刷所を捜査、近々5人前後書類送検とされている。議員主導のケース、現金をキックバックした例も報道されている。
 県内他市においても、同様の問題が報道されている。
 県議会議員の選挙においても同様の懸念がなされ、現在、選管に返還の照会をしている議員もいるという。
 疑惑の山県市議、同鞍替県議ら5人は、6月15日に県庁で謝罪会見し、基本的に水増しを認めた。その中には、ポスター代上限額の53%で請求した議員もいた。すなわち、上限額の50%台でも不正の余地を疑うべき事情の存在が明らかになった(第11号証)。

8. 以上、実際のポスター作成費は、現在の条例基準額の3割程度で十分に作成できるというデータがそろってきているとえる。ポスター作成費の真実は、条例で基準額と設定される額の1/3程度、どう高く見ても1/2以内に済むとみるべきものである。

第4  本件における違法性もしくは著しい不当性
1. 本件条例違反
 真実でない請求をしたことは、第2で述べたとおり本件条例(第2条、3条)に違背する。

2. 刑法違反
 真実と異なる金額や枚数等を記載した契約書、請求書、領収書などが提出されていたら私文書偽造罪および同行使罪(偽造は、詐欺の手段として行われたもので科刑上一罪の余地あり)というべきである。
 各印刷業者に対する債務は、本来候補者が自分で支出すべきものであって、県の吏員を欺いたり、欺罔(ぎもう・人をあざむき、だますこと)の結果、債務を免れた(財産上不法の利益を得た)としたら、「2項詐欺罪」(刑法第246条第2項)である。
 印刷所から候補者への現金のキックバック、寄付行為による事実上の割り戻しなどは論外である。
 無論、お金の動きの態様によっては、候補者がポスター代などを水増しして業者に支払って、あとで県から候補者に公営選挙の費用が支払われるという場合についての「1項詐欺罪」(刑法第246条第1項)の余地もある。

3. 地方自治法違反
 本件請求手続きが契約書を提出し、選挙管理委員会等が確認したうえで作成費を交付すると規定していることは、契約書が真実であることを前提にしているのは明白である。
 地方自治法第2条、「16項 地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。なお、市町村及び特別区は、当該都道府県の条例に違反してその事務を処理してはならない。」「17項 前項の規定に違反して行った地方公共団体の行為は、これを無効とする。」とされているところ、本件に妥当する。
 真実に基づかない契約書によって生じた「過払い部分」は、県が負担する必要も根拠もない債務であるから違法な支出である。

4. 仮に水増しなどの行為がない請求の場合でも、50%を超える部分については通常相場と比較して著しく高いもので、かかる支出は地方自治法2条14項「最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」に違反し、地方財政法第4条1項「必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない」に違反している。
 また、地方財政法第3条(予算の編成)「地方公共団体は、法令の定めるところに従い、且つ、合理的な基準によりその経費を算定し、これを予算に計上しなければならない」ところ、実態と著しく乖離した本件条例を放置して、もって漫然と予算計上した行為は同項に違反している。

第5 社会通念との著しい相反
1. 信義則違反
 本件ポスター代請求手続きが、契約書を提出し、選挙管理委員会等が確認したうえで作成費を交付すると規定していることは、契約書が真実であることを前提にしているのは明白である。
 候補者らが意図的に真実に基づかない契約書を作成し、過剰な請求をしたことは、信義則違反である。

2. 議員の責務についての社会的な認識
 (1) 私生活のことなら「趣味」「嗜好」の選択は自由としても、選挙経費を税金で負担することについて、「贅沢を容認」する姿勢は県民には受け入れがたい。
 組織などに頼らず低額な経費で選挙をする人たちにとって、公費負担の金額は意義が高いとの意見もあるが、総額を切り詰めた選挙なのであるから、ポスターの低額化など従来の公費負担部分や諸費のさらなる経費削減は可能である。潔くあるべきだ。
 仮に、県では選挙経費が高いから必要な制度だとの意見があったとしても、当選すれば、県議は、毎報酬月額85万円(ボーナスを含めれば一ヶ月当120万円以上)が支給される。このような議員らにとって、ポスター代などの経費は相殺できるとも言える。
 さらに、議員には、全国で社会問題になり、返還訴訟もたくさん起こされている「政務調査費」が別に支給されている。これも、希望して申請した議員に対して交付される。岐阜県では、毎月33万円、年間396万円、1期4年分の合計では1584万円になる。
 
 (2) いずれにしても、公費負担があるから贅沢なポスターを作ればよいのか
 議員等になろうとする候補者が、制度があるからと贅沢を求めることは、いまや許されない事態、時代である。税金を贅沢に費消して自省のない政治家は、職員にコストや経済効率の追及を求めることはできないはずである。いまや、「知恵と工夫」が不可欠である。

3. 政治家の倫理に反する
 掲示板の2倍前後の数もしくは多数を請求する候補者らのうちで、当該選挙区内で「室内用ポスター」の掲示を見たことのある県民も少なくない。これらが、本件条例のポスター作成費に「突っ込み」にして印刷されていたら、政治家の倫理としても、本件条例の主旨からしても許されない行為である。

第6 岐阜県の損害と監査委員に求める措置
1. 県民の願い
 2006年、岐阜県庁ぐるみの長年の裏金作りが明らかになった。その裏金作りの主たる方法は、旅費の架空=水増し請求である。水増し部分が裏金であった。
 本件もまったく同様であって、県議選候補者による自らの選挙の諸々の費用に充当する目的の裏金作りである。真実のポスター作成費用の交付は条例上正当であるが、他方、真実のポスター作成費用を上回って請求し県に交付をさせたことは、第4の2で述べたとおりの不法行為によって岐阜県庫から、奪取したものというべきである。
 以上からして、「過払い分のすべて」について岐阜県の損害を回復するべく、住民監査請求すべきことは納税者かつ有権者としての県民の願いである。

2. 対象とする支出
 本件請求人の一部は、4月に実施される県議選の前に2003年分を住民監査請求することで、候補者らに警鐘をならすことも目的として去る3月20日に住民監査請求した。ポスター作成上限基準額100%の請求は幾分減少したとはいえ相変わらず100%請求の候補が少なくないこと、細かく見れば10%程度下げただけという意図的な姿勢を感ずる候補者もいる。
 前記山県市の例からして、50%台以上については水増しを疑わざるを得ない。これは、県警の捜査によるものであるから、相当の客観性を有している。よって、請求人は一律に「基準額の50%以上の支払い部分」を過払い分であると考える。
 即ち、本件請求人が本件請求において損害とする額 は、第2の3で述べた2003年県議選のポスターの作成経費に係る支出のうち、ポスター1枚作成単価上限額の50%以上の額を請求した50候補の合計額3584万1477円のうちの50%の額を超える部分の50候補の額の合計である1633万3118円、2007年県議選のポスター1枚作成単価上限額の50%以上の額を請求した47候補の3075万3090円のうちの50%の額を超える部分の47候補の額の合計である1255万2919円、総合計
は2888万6037円である。
 相手方は、上記範囲に存する候補と対応する業者である(第1号証)。

3. 監査委員
 最近の新聞報道など(第11号証)から広く県民にも明らかなように、選挙ポスター代に関して水増しの疑いは相当の確実性の高いことが誰にでも認識される事態であるから、監査委員も十分に本件住民監査請求で指摘する違法性は認識できる。
 監査委員には、地方自治法第242条の定めにしたがって、本件請求の指摘を受けて、独自に、2003年2007年県議選にかかる不正請求の有無とその額を調査・確定することを求める。
 なお、県議選出の監査委員は除斥対象であることは疑いない。

4. 知事の怠る事実が違法であることの勧告
 知事が相手方(各候補者及び連帯する事業者)に対して、各自にかかる交付額のうち「『ポスター1枚作成単価基準額の50%以上の請求の部分』につき返還請求しないこと」は知事の怠る事実として違法であると勧告するよう監査委員に求める。
 3月20日の住民監査請求の後においてこのような実態であるから、知事の責任は重大である。

5. 職員の賠償責任に関する規定、即ち地方自治法第243条の2「・・これによって生じた損害を賠償しなければならない。次に掲げる行為をする権限を有する職員又はその権限に属する事務を直接補助する職員・・怠ったことにより普通地方公共団体に損害を与えたときも、また同様とする・・」とされ、同法第236条により5年の時効とされている。本件において、2003年の請求に対する支払い時にどのような過失があったかはともかく、前記第3の7の岐阜県内の選挙公営の実態からすれば、2007年分は当然であるが、満額請求など高額な請求が多かった2003年分についても、再検査し返還請求などしなければ「怠る事実」として認定すべきである。
 3月20日の住民監査請求の後においてこのような実態であるから、職員らの責任は重大である。
 よって、監査委員に対し、本件支出に関して前記賠償責任を有する職員らに対して、速やかに「怠る事実」の是正をすることを勧告することを求める。
 なお、「怠る事実」に関する住民監査請求に関しては、「怠る事実」が「時効」になった時点から「1年以内に住民監査請求するべし」との期間制限が適用される(平成17(行ヒ)341事件名 損害賠償履行請求事件平成19年04月24日最高裁判所第三小法廷 判決)から、本件住民監査請求は適法である。

6. 相手方である候補者及び対応する印刷業者に不当利得部分の返還を勧告すること監査委員に求める。
 3月20日の住民監査請求の後においてこのような実態であるから、相手方の責任は重大である。

7. 返還が実現しない場合、知事及び賠償責任を有する職員が同額を県に返還すべきであると勧告するよう監査委員に求める。

第7 判例から見て 
1. 判例との相違
 (1) 「県が候補者等から提出された必要書類を審査し、その内容に特段の疑念を抱かしめる記載がない以上、特にその真偽や相当性について調査することなく、定められた限度内でポスター代金を支払うことを許容しているものと解するのが相当である。」(平成14年1月23日名古屋高裁判決(平成14年7月19日最高裁棄却により確定))との旨の判例がある。
 当該事件は、財務会計行為の適不適を審査すべきことに関するものであり、かつ、上限設定制を許容するという旨のものである。
 
(2) 本件は、実際の印刷業界の具体的な実勢価格を示し、その額から検討した時に、選挙区毎に算出され限度額の50%以上の額を請求したものは、その50%以上の額部分にき、真実と異なって水増し請求しているから不法行為であり、同行為を起因として生じた県の損害の回復を求めるというものである。よって、請求の対象(=交付額した全額でなく、「交付額のうちの水増し部分」)も請求の原因(不法行為)も前記判決と例を異とする。
 しかも、第3の7の如くの事態が明らかになった以上、前記判例が妥当しないことは明白である。
 本件、同行為に起因する過払いは、候補者と印刷業者が談合して県に不正請求したというべき事態である。下記2項に示す最高裁判決は、談合などの場合の損害回復措置を住民監査請求で求めることができることを確定させたものである。当該公共事業の自治体と業者の契約書には「談合しています」とか「○○万円は、水増し、上乗せです」とか記していないのは当然であって、それにもかかわらず、下記2項に示す判決、その後の最高裁判決が同旨の決定をしているのである。
 前記(1)引用判決が「特段の疑念を抱かしめる記載がない以上」と判示している主旨は、明記されていなくても、「客観的な事実として疑う余地があるかないか」を判示したあるいはその場合を含むというべきである。
 そして、本件に関していえば、本件住民監査請求において、談合・水増しの指摘を初めてなされた岐阜県は、知事の怠る事実について速やかに再検討すべき事態なのである。
 
2. 本件は真正怠る事実である。
 候補者と印刷業者が談合して県に不正請求したことによる過払というべき事態を放置すること、つまり不法行為に基づく岐阜県の損害の回復を怠ることは違法であり、その点に関する住民監査請求に「支出から1年に住民監査請求すべき」との期間制限は適用されない。(下記判例の詳細は第11号証)

 (1) 「法242条1項は財務会計上の行為については、1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定し、怠る事実についてはこのような期間制限は規定されておらず、住民は怠る事実が現に存する限りいつでも監査請求をすることができる・・・そして、監査請求の対象として何を取り上げるかは、基本的には請求をする住民の選択に係るものであるが、具体的な監査請求の対象は・・・請求書の記載内容、添付書面等に照らして客観的、実質的に判断すべきものである。・・・談合、これに基づく入札及び県との契約締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること、これにより県に損害が発生したことなどを確定しさえすれば足りる」(最高裁判所第3小法廷平成14年7月2日判決)

 (2) 「本件監査請求は、県は、被上告会社に対し不法行為により受けた損害を賠償させるべきであるのに、当該請求権の行使を怠っているという事実・・・について監査を遂げるためには、監査委員は、被上告会社9社について上記行為が認められ、それが不法行為法上違法の評価を受けるものであるかどうか、これにより県に損害が発生したといえるかどうかなどを確定しさえすれば足りる。・・・県の被上告会社9社に対する損害賠償請求権は、本件変更契約が違法、無効であるからこそ発生するものではない。・・・そうすると、本件監査請求中、不法行為により代金を余分に支払わせた被上告会社9社に対する損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象とする部分は、不適法とはいえない。」(最高裁判所第1小法廷判決平成14年10月3日)

 (3) 財務会計職員を欺罔又は強迫して財務会計上の行為をさせたときについては、真正怠る事実である
 「《1》窃盗、横領、公有財産の無断使用等、事実的侵害に基づく場合、並びに、《2》これと同視できる場合、例えば、財務会計職員を欺罔又は強迫して財務会計上の行為をさせたときについては、真正怠る事実である。」(大阪地方裁判所平成11年10月28日判決)。まさに、本件「過払額部分」に関しての評価として妥当する判示である。

3. なお、今年3月20日付けで2003年執行の県議会議員選挙におけるポスター代の「県の過払い分」返還を求める住民監査請求は、現監査委員によって4月末に却下された。「却下」の監査結果を受けた時は、住民は何度でも住民監査請求できることは最高裁判決で確定している。即ち、「監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合、当該請求をした住民は、直ちに住民訴訟を提起することができるのみならず、同一の財務会計上の行為又は怠る事実を対象として再度の住民監査請求をすることも許される」(平成10(行ツ)68最高裁判所第三小法廷平成10年12月18日)。

4. まとめ
 本件住民監査請求は、ポスター作成費のうち「ポスター1枚作成単価上限額の50%以上の額を請求した候補及び業者に関しての50%以上の額を超える部分の合計額2888万6037円は水増し請求である」という観点での真正怠る事実の違法確認と、それに伴う県の損害の回復を求める主旨である。

第8 請求者 「くらし・しぜん・いのち 岐阜県民ネットワーク」寺町知正 他14名

 以上、法第242条第1項により、事実証明書を添えて、必要な措置を請求します。
                             2007年6月18日
岐阜県監査委員 各位
               
  別紙事実証明書目録    (「県選管作成」とするもの以外は寺町知正作成)
第1号証 本件住民監査請求における返還請求対象額・候補者別一覧       ◎
第2号証 2003年2007年のポスター代支出比較表            ◎
第3号証 2003年、07年の県議選におけるポスターの1枚単価表(県選管作成)◎
第4号証 2003年、07年の県議選における印刷所別の候補者データ比較表  ◎
第5号証 2003年(平成15年)岐阜県議会議員選挙公営・ポスター代支出一覧
第6号証      同     ポスターの印刷所別の候補者毎の一覧
第7号証 2007年(平成19年)岐阜県議会議員選挙公営・ポスター代支出一覧 ◎
第8号証      同     ポスターの印刷所別の候補者毎の一覧     ◎
第9号証 2004年山県市の候補者のポスター代の請求一覧          ◎
第10号証 同一覧にかかるポスター掲示板の写真(どれも格別な豪華さもない)  △
第11号証 2007年6月発覚の県内各地のポスター代・水増しに関する報道記事
第12号証 判例の抜粋                          以上
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