平成17年2月23日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成15年(行ウ)第4号 公有財産引渡請求行政事件
平成16年11月24日 口頭弁論終結
             判        決
   岐阜県高山市越後町987番地
         原       告     深   沼       動
   高山市花岡町二丁目18番地
         被       告     高   山   市   長
                       土   野       守
         同訴訟代理人弁護士     阪   下   六   代
             主        文
     1 原告の請求をいずれも棄却する。
     2 訴訟費用は原告の負担とする。
             事実及び理由
第1 請求
 1 被告が高山市の公有財産である「(仮称)新飛騨食肉センター(有形・無形
  財産)」を飛騨ミ一一ト農業協同組合連合会に譲与したのは,違法並びに不法行
  為であり,無効であることを確定する。
 2 被告が高山市の公有財産である「(仮称)新飛騨食肉センター建設用地」を
  飛騨ミート農業協同組合連合会に貸与したのは,違法並びに不法行為であり,
  無効であることを確定する。
 3 被告は,飛騨ミート農業協同組合連合会に対する,高山市公有財産「(仮
  称)新飛騨食肉センター」の譲与及びその敷地の貸与をすべて取り消し,高山
  市に戻せ。
第2 事案の概要
 1 本件は,被告が飛騨ミート農業協同組合連合会(以下「飛騨ミート農協連」

 という。)に対し,高山市の公有財産である「(仮称)新飛騨食肉センター
  (有形・無形財産)」を,違法に譲与し(以下「本件事業譲与」という。),
 また,高山市の市有地(行政財産)等を同センターの敷地として違法に貸与し
 た(以下「本件敷地賃貸」という。)と主張して,原告が被告に対し,本件事
 業譲与及び本件敷地賃貸の無効確認並びに本件事業譲与及び本件敷地賃貸を取
 り消し高山市に返還するよう求めた事件である。
2 前提となる事実
 1 飛騨食肉センター(以下「本件センター」という。)は,高山市が施行主
  体である都市計画事業「新飛騨食肉センターを整備するために要する高山都
  市計画と畜場の変更」(以下「本件都市計画事業」という。)の都市計画施
  設である。
 2 飛騨ミート農協連は本件センターの事業主体であり,本件センターの建物
   (以下「本件建物」という。)の所有者である。
3 争点
 1 原告は,地方自治法上の高山市の住民といえるか。
 2 原告は,地方自治法242条の住民監査請求を前置したといえるか。
 3 本件事業譲与に,取り消され,又は無効となるべき違法があるか。
 4 本件敷地賃貸に,取り消され,又は無効となるべき違法があるか。
4 争点1(原告は,地方自治法上の高山市の住民といえるか。)についての当
 事者の主張
 1 原告の主張
  ア 高山市に生活の本拠を有する原告は,高山市の住民である。
  イ 被告は,従前も原告を高山市の住民と認めて応訴した事実がある。
 2 被告の主張
   住民とは市町村の区域内に住所を有する者である。住民の居住関係の確定,
  証明一般については住民基本台帳法が規定しており,同法による住民票の記

  載は,住民の届出に基づいて市町村長がこれを作成するものであって,高度
  の公証的機能を有し,選挙人名簿の登録を始めとして各種行政事務はこれを
  基礎として行われていることに照らすと,地方自治法242条1項の「住
  民」とは,原則として,その市町村に住民票を有する者を指すと解するのが
  相当である。
   しかるに,原告は高山市を住所地とする住民票を有していないから高山市
  の住民ではない。
5 争点2(原告は,地方自治法242条の住民監査請求を前置したといえる
 か。)についての当事者の主張
 1 原告の主張
  ア 原告は,本件訴えを住民訴訟として提起したものであるが,本件訴え提
   起前である平成15年3月6日付で,高山市の監査委員に監査請求書を提
   出したところ,受理されなかったため,やむなく本件訴え提起に踏み切っ
   たものである。
  イ 原告は,本件訴え提起後である平成15年5月11日に,高山市監査委
   員に再度監査請求書を提出したところ(以下「本件監査請求」という。),
   今度は受理されたが,同月13日,高山市監査委員はこれを却下したため,
   原告は,「高山市職員措置請求書」を提出し,三度目の監査請求をした。
 2 被告の主張
  ア 原告は,本件訴え提起時において監査請求を行っていない。
    原告が高山市監査委員に提出した監査請求書は,平成15年5月11日
   付の本件監査請求についてのものだけである。高山市監査委員は,本件訴
   え提起後の同月12日に本件監査請求を受理し,同月13日に却下した。
  イ 高山市監査委員が本件監査請求を却下したのは,原告が高山市の住民と
   認められず,地方自治法242条1項に定める資格を有しないからである。
    したがって,本件監査請求は,地方自治法の要件を欠く不適法なもので

     れも普通財産であり,行政財産ではない。なお,上記土地の中には旧市
     道,旧水路の一部が含まれているが,いずれも用途廃止され,普通財産
     になっている。
    A 本件敷地賃貸の対象となる土地のうち,八日町326番の1の一部及
     び326番の4の一部の土地(以下「国有地」という。)については,
     高山市は,国から屠畜場の用地として利用することを目的とする使用許
     可を受けている。
    B 本件敷地賃貸の対象となる土地のうち,八日町331番及び同332
     番の土地(以下「洞口所有地」という。)については,高山市は,所有
     名義人洞ロ啓一郎の相続人代表者洞口良一と土地賃貸借契約を締結した。
    ∫ 本件敷地賃貸の対象となる土地のうち,前原町13番の1,13番の
     3及び14番の1の土地(以下「桑田他共有地」という。)については,
     高山市は,桑田博之外2名の共有者らとの間で,本件センターに転貸す
     ることを承諾する旨の土地賃貸借契約を締結した。
   ウ 桑田他共有地及び洞口所有地の地目は,登記簿上「田」であるが,高山
    市が賃借を開始した平成14年4月1日には,既に用途が変更して現況宅
    地になったので,上記土地の賃貸借には農地法所定の手続を要しない。
     また,本件敷地賃貸の目的物のうち農地については,高山市土地開発公
    社が岐阜県知事に農地法5条の許可申請を行い,その許可を得ているから,
    本件敷地賃貸は農地法上の許可を得なくても有効である。
     なお,高山市土地開発公社との業務委託契約期間満了によって,農地法
    5条の許可が無効になることはない。
   エ 建築確認申請は飛騨ミート農協連が行っており,同申請には敷地の位置
    が決められている。
第3 当裁判所の判断
 1 争点1について

1 以下に摘示する証拠によると,次の事実が認められる。
 ア 原告の住民票は京都府亀岡市に存在し,原告は,京都府に県民税を,亀
  岡市に市民税を納付している。(甲7,原告本人尋問の結果)
 イ 原告は,高山市の出身であるが,大阪市内で出版,印刷業を営み,京都
  府亀岡市内に居住していたが,平成7年ころ交通事故により負傷し,静養
  のため故郷の高山市に戻り,上記出版,印刷業に区切りをつけた。なお,
  原告は,平成6年5月20日,亀岡市内に所有していた土地,建物を中川
  恵美子に売却し,上記印刷業の設備一式を保管するために,同建物の一部
  を賃借したが,その際に締結した不動産賃貸借契約書の原告の住所は高山
  布越後町987番地と記載されている。。(甲8から10まで,原告本人
  尋問の結果)
 ウ 原告は,高山市内に土地を所有しており,このうち,越後町987番地
  の七地上に建物を所有し,同建物に居住している。また,原告は,同地を
  住所地とする有限会社寥郭堂の代表取締役である。有限会社寥郭堂は印刷
  禽を目的とする会社であり,同建物に編集事務等を行うコンピュータ等の
  設備があるが,現在は営業していない。(原告本人尋問の結果)
 エ 原告は、現在,自分の趣味と余生をかけたテーマについて取材と執筆を
  しており,一年のうち,約1か月間は亀岡市で生活し,約9か月間は高山
  市で生活し,残り約2か月間は各地へ出かけている。(原告本人尋問の結
  果)
 オ 原告は,生活の本拠は高山市であり,自分は高山市の住民であると考え
  ている。原告が亀岡市に住民票をおいているのは,京都で取材する際には
  京都府民であった方が便利であること,いずれ亀岡市に帰ろうと考えてい
  るためである。(原告本人尋問の結果)
2ア 地方自治法242条の2以下に規定する佐民訴訟は,「普通地方公共団
  体の住民」のみが提起することのできるものであり,同条1項に規定する

    「住民」とは,「市町村の区域内に住所を有する者」(同法10条1項)
   をいうと解される。したがって,住民訴訟においては,原告が当該地方公
   共団体の区域内に住所を有することが訴訟要件となる。
    ところで,民法において自然人の「住所」とは,「各人ノ生活ノ本拠」
    (民法21条)をいうところ,地方自治法において特に別異に解すべき事
   由はないから,同法10条1項における「住所」とは,各人の生活の本拠
   を指すものであり,生活の本拠とは,当該居住者の生活関係の集中してい
   る場所的中心をいうと解される。
    被告は,地方自治法242条の2第1項に規定する「住民」に該当する
   か否かは,当該市町村に住民票を有するか否かにより判断すべきであると
   主張する。しかし,住民票は住民の生活の本拠を椎認する重要な資料では
   あるものの,住民票の有無のみによって生活の本拠を認定するのは相当で
   はなく,居住者の客観的居住の事実を基礎として,これに居住者の主観的
   居住の意思を総合考慮して判断するのが相当である。
  イ そこで検討するに,前記認定事実よれば,原告は,高山市内に土地及び
   建物を所有し,1年のうち約9か月は同建物に居住しており,原告の生活
   の中心は亀岡市よりも高山市であると認められる。また,原告自身も高山
   市の住民であるとの意識を有している。原告はいずれ亀岡市に帰ろうと考
   えているが,それは将来のことであり,また,現在の客観的居住の事実及
   び主観的居住の意思を総合考慮すれば,原告が亀岡市に住民票を有し,1
   年に1か月程度亀岡市で生活している事実を考慮しても,原告の生活の本
   拠は高山市にあると判断するのが相当である。
    したがって,原告は高山市の「住民」であり,本件住民訴訟の原告適格
   を有するというべきであるから,被告の主張は採用することができない。
2 争点2について
 1 前掲の前提となる事実並びに以下に摘示する証拠及び弁論の全趣旨によっ

これは正本である。平成17年2月23日
  岐阜地方裁判所民事第2部
    裁判所書記官  山 田 昌