2003年10月13日

  平成13年(行ノ)第8号 県営渡船情報非公開処分取消請求上告事件
  申立人 寺町知正 外9名
            相手方 岐阜県知事 梶原拓

上告受理申立・追加理由書

最高裁判所第三小法廷 御中

             申立人 選定当事者 寺町知正
   申立人 選定当事者 山本好行


 2003年6月、岐阜県情報公開条例に係って氏名及び調査結果等の情報の公開に関する最高裁の判決が出されたので、上告受理申立理由を追加主張する。

第1 最高裁判決
1, 岐阜県教育委員会教育長が「臨時委員と調査委員の氏名」を個人情報(本件条例1号)に該当するとして、「調査事項」「調査結果」「指定の条件」については意思形成過程情報(本件条例7号)に該当するとして非公開とした処分に対して、名古屋高裁判決は、「個人に関する情報に該当しない、当該事務事業又は将来の同種の事務事業に係る意思形成過程に著しい支障が生ずるとはみとめられない」として、いずれも公開を命じた。
 これに係って、最高裁判所第1小法廷平成15年6月26日判決/平成13年(行ツ)第69号・平成13年(行ヒ)第64号は、岐阜県教育委員会教育長の上告を棄却し、上告受理申立の理由によれば受理すべきものと認められないと決定した。

2, 認められなかったところの岐阜県教育委員会教育長の上告受理申立理由の要点は、以下である。
 (1) 条例を解釈するにあたり、条例制定の立法趣旨に配慮しながら、プライバシー権を不当に侵害せず、行政活動を萎縮、阻害させない、とする視点が必要である(上告受理申立理由書第2の1のC)。
 (2) 1号につき内容と無関係に、個人の氏名自体も非公開とされる場合があることを規定している、と解すべき(同第2の2のA)で、限定して解すべきではない(同第2の2のC)。
 単に公務を行っているというだけで、プライバシーの保護の必要性が後退する、という考え方は採るべきではなく、嘱託委員については公務員とは区別し、氏名の非公開の要請はより高い(同第2の2のD)。
 (3) 7号につき原判決は、県の事務事業に係る意思形成過程に関する情報であるとし、文化財の調査の専門家である調査官が、自己の知識の経験をもとに調査事項を定め、右事項について調査を実施し、その結果を踏まえて指定の条件を考察したものであって、文化財指定に関する学術的な報告書であって、その情報自体において、文化財指定にともなう調査の遂行に著しい支障が生ずるものとは考え難い、とする(同第2の3の@)。
 しかし、学術的内容であっても、どの内容をどのように取捨選択するかは、その判断者の判断であり、右判断に対する批判が意思形成過程以外の場で、学術的論争以外の方法でなされるなら、その判断を行った者及び同種の判断を将来おこなう必要の存する者は、批判を恐れ萎縮し、自らの信念に従った事務事業を遂行できない恐れは著しい(同第2の3のA)。
 公務員であれば批判を甘受することも要請できるが、私人である嘱託員に判断過程への非難を甘受せよと要請することは酷で、非難を恐れ、嘱託を受けることを拒んだり、信念によらない事務事業を行ってしまう恐れは大きい(同第2の3のB)。

3, 上記判決は本件上告受理申立手続中に出されたものであるが、本件上告受理申立の判断においては、最高裁判決に違背する場合の先例として妥当する。

第2 本件船頭名について
 上記判決に照らして本件の場合を主張する。
1, 個人情報(1号)該当性の有無
 本件条例の規定が、公務員については無論、私人であっても公務員に準ずる者についてもその氏名を公開の対象としていると解釈運用すべき原則が確定した。 すると、社会通念上「公人」とみなされる個人あるいは公務に準ずる業務に従事する者についての情報は、本件条例の趣旨及び規定からすれば、上記引用最高裁判決と同旨で把握すべきである。
 本件船頭名に関して、船頭業務を遂行している者は地元在住の個人であるが、本件業務に関しては、県道としての渡船の安全確保業務を確保しつつ運行業務を遂行するものであるから、公務もしくは公務に準ずることは明らかである。

2, 行政運営情報(8号)該当性の有無
 (1) 上記最高裁判決との関連で
   ア, 7号に関して
 上記事件の原判決は、「審議会議事録中の審議経過については、審議会の審議の実質化を図るために、審議会の非公開が要請されることがあるとしても、審議会の審議を民意に根ざしたものとするためにも、審議の経過が記載された文書を事後的に開示することは重要である」としている。
 この原判決に対する上告受理申立人の申立を認めなかったことは、安易に意思形成過程情報としての該当性をいうのでなく、意思形成過程情報該当性の判断は厳しくしなければならないことを示した、といえる。
 非公開事由該当性の判断は厳しくしなければならないことは本件条例7号後段で「著しい支障」としていることからも明らかである。
 この意思形成過程情報(本件条例7号)の規定は、行政運営情報(本件条例8号)の規定と類似していることから、前記判示は、本件条例8号の解釈運用の原則に通じている、というべきである。

   イ, 8号に関して
 前記(1)の観点に基づいて、8号について主張する。
 原判決は「勤務者名の情報の行政運営情報該当性を検討するまでもなく」(原判決文、8頁下から3行目から)として判断を回避したが、船頭名は1号に該当しないとの申立人主張が認容されれば、8号の判断が必要になるので、以下を述べるものである。
 行政運営情報(8号)該当性に関して、そもそも、本件勤務者名(船頭名)は、本件条例8号が規定する「監査、検査、取締り等の計画及び実施要領、争訟又は交渉の方針、入札の予定価格、試験の問題及び採点基準その他県又は国等の事務事業に関する情報」に該当しない。
 仮に、該当するとしても、本件勤務者名(船頭名)が公開されることになれば、当番船頭或いは執務した船頭が誰であるかを県民が確認できることになるのであるから、より運行の安全が確保されることこそあれ、安全に運行されなくなることはない。
 結局、当該情報を公開しても、当該事務事業の目的が損なわれ、又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがある場合ではないし、将来の同種の事務事業に関しても、同様である。

 (2) 地元が渡船業務を拒否することはあり得ない
   ア, 船頭らの現状
 相手方(岐阜県知事)は、渡船業務に従事した船頭名を公開すると渡船業務の受け手がなくなる、と主張する。
 ところで、本件渡船業務委託料支出の適否を問う住民訴訟(岐阜地裁民事1部平成11年(行ウ)16号事件)において、岐阜県知事(個人)ら、海津町、渡船組合長らが被告とされており、本日現在も岐阜地裁で継続中である。
 当該住民訴訟の審理において、委託契約(書)で「船頭は渡船場に常駐する」とされているにもかかわらず、渡船場に船頭が常駐していなかった事実を被告らは認めている。渡船日誌記載の船頭名の一部には当時既に死亡していた者の氏名の記載のあること、不正確な天気記載のあること、等も認めている。渡船業務日誌に記載された当番船頭の記載と実態が著しく乖離していることが強く窺われるのである。加えて当該住民訴訟中では、被告海津町及び渡船組合長らから和解の申出がなされた経緯すらある。
 結局、渡船業務日誌の記載の真偽が問われることへの船頭らの懸念の存在が「船頭名を公開すると渡船業務の受け手がなくなる」との相手方(岐阜県知事)の8号に該当するとの主張の論拠である、と考えるのが相当であるというしかない。
 別件住民訴訟が継続しているにもかかわらず、現地では渡船業務は相変わらず継続されているのだから、当該情報を公開しても、当該事務事業の目的が損なわれ、又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがある場合ではないし、将来の同種の事務事業に関しても、同様であることが実証されているのである。

   イ, 新橋建設達成のためには「県営渡船」維持が不可欠
 他方で、近時は極めて稀になった「渡船」を敢えて県道として維持するのは、岐阜県、海津町ら周辺自治体、地元住民らにとっては「(国等に要望して)当該渡船の位置の近傍での早期の架橋の実現を図る」ことが究極の目的である旨も上記住民訴訟中で明らかにされている。
 実際「木曽川・長良川新架橋促進協議会(岐阜県側会員:海津町、平田町、南濃町)」も存在している。
 即ち、業務委託料の多寡に関係なく、また業務日誌の船頭名の記載がどうであれ、さらにその日誌の公開の有無にも関係なく、渡船業務維持は、地元にとっては必須のことである。
 よって、結局、船頭名を公開しても渡船業務の受け手がなくる、という事態は生ずるおそれはないのであるから、当該情報を公開しても、当該事務事業の目的が損なわれ、又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれはない。

3, 以上、本件勤務者名(船頭名)に関しての1号、8号該当性は無く、原判決中、本件申立人の敗訴部分は取り消されねばならない。

第3 指定金融機関の職員の「姓」について
 指定金融機関の職員の「姓」について、個人情報(1号)該当性の有無を上記判決に照らして本件の場合を述べる。
 本件条例の規定が、公務員については無論、私人であっても公務員に準ずる者についてもその氏名を公開の対象としていると解釈運用すべき原則が確定した。 すると、社会通念上「公人」とみなされる個人あるいは公務に準ずる業務に従事する者についての情報は、本件条例の趣旨及び規定からすれば、上記引用最高裁判決と同旨で把握すべきである。
 指定金融機関の職員は民間の個人であるが、当該業務に関しては、地方公共団体の金融の出納の一端を担うものであって公務に準ずるというべきである。
 なお、「姓」だけで、個人を特定できるものではないから、「姓」でけでは、個人識別情報とはいえないし、個人情報ではない。
 よって、指定金融機関の職員の「姓」に関して1号該当性は無く、原判決中、本件申立人の敗訴部分は取り消されねばならない。
以 上