平成13年(行ノ)第8号 県営渡船情報非公開処分取消請求上告事件

  申立人 寺町知正 外9名
            相手方 岐阜県知事 梶原拓

2001年8月17日

    上 告 受 理 申 立 理 由 書

最高裁判所 御中
             申立人 選定当事者 寺町知正
   申立人 選定当事者 山本好行

第1 法令違反について
1 本件条例に基づく情報の公開は憲法等に基づくものであることは、上告理由書に述べた。仮に、そうではないとの考えにたち、単に条例の制定により公開請求権が認められたとしても、以下に述べるとおり、本件岐阜県情報公開条例の趣旨、目的、適用除外等及び実施機関の立証責任等の観点からして、原判決は法令に違反している。

2 本件条例の趣旨、目的(第1条)
 本件条例第1条は、この条例の目的を明らかにし、岐阜県における情報公開制度の基本的な考え方を定めたものであり、「この条例は、県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、県民の県政への参加を促し、県政に対する理解と信頼を深め、もって開かれた県政を実現することを目的とする」と規定している。
 県が保有する情報は県民生活と深くかかわるものであり、本来的には県民共有の財産と考えられることから、県民が自ら公文書の公開を請求する権利を行使し、これに対して県が保有する情報を公開することは、県民が県政の運用を有効に監視することで県政に対する理解と信頼を深め、もって住民自治、住民参加を実現していくことであり、県民が自分自身の情報を支配し、コントロールすることと同じであって、県民固有の権利といえる。岐阜県の情報公開制度は、この県民固有の権利を具体化し、県民の県政への参加を促し、開かれた県政を実現することを目的とするものである。
 そして、情報公開条例をその制度趣旨(第1条)に従って利用しようとする者にとって、実施機関が保有する情報が公開される時期は何年先であってもとにかく見られればよいというものではない。公開されるべき情報は情報公開請求後速やかに公開されなければならない。なぜなら、情報公開制度を使う住民は何年後かに過去を振り返って政治を論じたいと考えているのではなく、いま行なわれている政治に主権者たる住民として責任ある適切な意見を表明したいと考えているからである。
 そして本件条例は情報公開請求権を位置づけているのであるから、実施機関と住民とが噛み合った議論をするために実施機関が保有する情報が住民に速やかに提供されることを予定している、といえる。情報を持たない住民の意見はその主観はともかく客観的には行政実務の現実を無視した自分勝手なものになりかねないが、行政と情報を共有する住民は「知らなかった」という弁解ができなくなるので自分勝手な意見を言わなくなるか、言いたくても言いにくくなる。そのような状況は行政にとっても誠実に自治体のことを考える住民にとっても好ましい効率的な関係である。
 よって、非公開処分が誤っているとして処分の取消を求める裁判は、本件条例第1条の目的を大前提として進められる必要がある。
 岐阜県作成の『情報公開事務の手引き』(乙第5及び6号証、新・旧手引き、3頁)では、第1条に関して、趣旨として、「本条は、条例の目的を明らかにしたものであって、条例第3条の規定と併せて、条例の解釈・運用の指針となるものである。」とされ、続く解釈運用基準の1にも「この条例が制定されたことにより、実施機関が管理する公文書について公開を請求する県民の権利に対して、実定法上の根拠が与えられたことを明らかにしたものである。したがって、実施機関は、条例で定める要件を満たした公文書の公開請求に対して、当該公文書の閲覧又は写しの交付に応じなければならない義務を負うことになる。」とされているのである。
 しかし、第1審判決は本件条例を第3条から示しているとおり(第1審判決文7頁)本件条例第1条の認識がなく、原判決もこれを付加修正しないままに結論を導いており、根本的に法令の趣旨目的の解釈を誤ったものである。

3 公開を原則とし、非公開は例外である(第3条)
 本件条例は第3条で「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用する」と規定している。
 趣旨の2(新・旧手引き9頁)では「請求に係る文書が条例第6条の規定する公文書に該当しない限り、当該公文書を公開しなければならないことを明らかにした」とされ、解釈運用の1では「この条例の基本理念である『原則公開』の精神に基づき、公文書公開制度が運用されなければならない」と明確にしている。 このように本件条例は、県政の実情などに対する県民の理解を深め、県政に対する県民の信頼を高めるために制定されたもので、実施機関が管理する情報について公開を原則とし、非公開は例外である。
 そして、条例の非公開事由該当性(適用除外事由)を、専ら行政機関の側の利便等を基準・根拠に、その主観的判断に基づいて決するとすれば、その範囲が不当に拡大する危険性があり、情報公開制度の実質的意味が失われることにもなりかねないから、各号の非公開事由の条文構造をよく理解し、正確に適合性を判断し例外規定の解釈は厳格でなければならない。
 しかも、第3条後段について、新・旧手引きの趣旨の4では、「『みだりに』とは、『正当な理由なく』と同趣旨であり」とされているのである。
 原判決は、この第3条に関して、根本的に法令の趣旨目的の解釈を誤ったものである。

4 以下は、本件非公開事由と部分公開に関係ある条項である(新条例)。
(公開しないことができる公文書)
第6条 実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文 書については、当該公文書に係る公文書の公開をしないことができる。
 1 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で  あって、特定の個人が識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。  イ 法令及び条例(以下「法令等」という。)の定めるところにより、
   何人でも閲覧することができるとされている情報
  ロ 公表を目的として実施機関が作成し、又は取得した情報
  ハ 公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規   定する国家公務員及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条   に規定する地方公務員をいう。)の職務の遂行に係る情報に含まれる当該   公務員の職名及び氏名に関する情報(公開することにより、当該公務員の   権利利益が著しく侵害されるおそれがあるものを除く。)
  ニ 法令等の規定に基づく許可、免許、届出等に際して実施機関が作成
   し、又は取得した情報であって、公開することが公益上必要であると
   認められるもの
 4 法人(国及び地方公共団体を除く)その他の団体(以下「法人等」という)  に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開す  ることにより、当該法人等又は当法事業を営む個人の競争上の地位その他正  当な利益が損なわれると認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。  イ 事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、    身体又は健康を保護するために、公開することが必要であると認めら
   れる情報
  ロ 違法又は不当な事業活動によって生じ、又は生ずるそれがある支
   障から人の生活を保護するために、公開することが必要であると認め
   られる情報
  ハ イ又はロに掲げる情報に準ずる情報であって、公益上公開すること
   が必要であると認められるもの
  ニ 県との契約又は当該契約に関する支出に係る公文書に記録されてい
   る氏名又は名称、住所又は事務所若しくは事業所の所在地、電話番号
   その他これらに類する情報であって、実施機関があらかじめ岐阜県公
   文書公開審査会の意見を聴いて公示したもの
 8 監査、検査、取締り等の計画及び実施要領、争訟又は交渉の方針、入札の  予定価格、試験の問題及び採点基準その他県又は国等の事務事業に関する情  報であって、公開することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務  事業の目的が損なわれ、又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著し  い支障が生ずるおそれのあるもの。

 (公文書の部分公開)
第8条 実施機関は、公文書に第6条及び前条第1項ただし書の規定により公開 しないことができる情報とそれの情報が併せて記録されている場合において、 公開しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離する ことができ、かつ、当該分離により請求の趣旨が損なわれることがないと認め るときは、公文書の部分公開(公文書に記録されている情報のうち公開しない ことができる情報に係る部分を除いて、公文書の公開をすることをいう。以下 同じ)をしなければならない。

5 (1)本件条例の非公開事由に関する第6条1項各号の規定は「実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、当該公文書に係る公文書の公開をしないことができる。」であり、本件条例において認められた情報公開請求権を制限する条項である。
 本件条例第6条第1項各号の規定の仕方は、いずれも、前段と後段に分かれ、いずれか一方でなく、前段と後段の両者を満たしたとき初めて非公開とできる規定である。
 そして、適合性の判断に際しては、各号の前段の要件と後段の要件が満たされる必要がある。
 しかも、「公開してはならない」としているのでなく、「公開しないことができる」としているだけである。
 原審判示はこの認識をしておらず、根本的に法令解釈を誤ったものである。

 (2)1号「個人情報」、4号「法人・事業者情報」については、第一審及び原審において、詳しく述べたので略する。

 (3)8号「行政運営情報」について
  8号は、「監査、検査、取締り等の計画及び実施要領、争訟又は交渉の方針、入札の予定価格、試験の問題及び採点基準その他県又は国等の事務事業に関する情報であって、公開することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が損なわれ、又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれのあるもの」と規定されている。
 8号は「行政運営情報」という要件であるが、これは情報公開請求権のうち、特に、行政の事務事業に関する情報を特別に規制しようというものである。それは、本条項の前段により、本来、情報公開が必要とされるべき県又は国等の事務事業に関する情報について特別に公開を制限する以上、後段においては、情報の公開を制限すべき「明確(明白)」で「具体的」な必要が認められなければならないことを意味することになる。そこで、このような観点にたって8号後段について検討する。
 後段の要件は、「公開することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が損なわれ、又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれのあるもの」である。
 行政機関の行う事務事業は広範であって、個々の情報の公開、非公開の判断をするに当たっては、右に述べたように「明確(明白)」で「具体的」でないままに、この条項の適用が拡大されれば、結局は本件条例の趣旨が没却されることは明らかである。
 特に8号の後段において、単なる支障でなく、「著しい支障」としていることを認識せず、この点あいまいなままに判決を導くことは、根本的に法令解釈を誤ったものとなる。

6 立証責任の転換
 本件条例第1条が公開原則を認め、第6条で例外的に非公開とすることができるという規定になっている仕組みからして、立証責任は被告(実施機関)側に転換されている。
 これまでの情報公開訴訟における最高裁判例等の理由部分において、「(被告が)非公開事由に該当する事実を具体的に主張していないので」とか「(被告が)非公開事由に該当する事実を具体的に立証していないので」という書き方をしているのは、立証責任が転換されていることを端的に示している。
 しかし、原審は、実施機関である相手方(岐阜県)が非公開事由に該当することを何ら具体的に立証しておらず、一方、これを否定する書証が提出されているにもかかわらず、本件情報が非公開事由に該当する、としたもので根本的に法令解釈を誤ったものである。

7 非公開事由の追加について
 本件の場合において、非公開事由の追加が許されないことは、述べてきた。

第2 本件情報の公開の必要性
 行政運営の過程における情報の公開が不可欠であって、また一面、地方自治体の行政が陥りがちな腐敗、事大・形式主義や技術専門的事項であるための住民意思からの離反などの諸弊害に対する有効な対応手段ともいえるのである。
 特に本件にかかるような県道と認定した道路施設としての渡船業務を安全、確実に遂行することは県ばかりでなく、これを委託されて行う船頭にとっても重大な責務であり、それは単に物品を納入する業者のその物品に関する責任とは事情を異にする。本件の船頭名が公開されることの意義は高い。

第3 原判決に対する上告人の主張の概要
1 本件条例6条1項1号の該当性の有無について
 (1) 「原則として非公開」との認定は違法
 原審判示は、「本件の旧条例6条1号及び新条例6条1項1号は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものが記録されている公文書について、原則として非公開とした」(原判決文4頁15行目から17行目)としていることは、本件条例旧条例6条柱書及び新条例6条1項柱書が「公開しないことができる」と明文していることを看過し、そもそも本件条例第1、3条に明らかとされている原則公開の本件条例の理念、それに基づく各規定に違背しているのは明らかである。

 (2) 本件新条例第6条1項1号但し書きイは、「法令及び条例の定めるところにより、何人でも閲覧することができるとされている情報」、同但し書きロは「公表を目的として実施機関が作成し、又は取得した情報」、同但し書きハは「公務員の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の職名及び氏名に関する情報(公開することにより、当該公務員の権利利益が著しく侵害されるおそれがあるものを除く。)、同但し書きニは「法令等の規定に基づく許可、免許、届出等に際して実施機関が作成し、又は取得した情報であって、公開することが公益上必要であると認められるもの」としている。
 これら但し書きに示される情報は、いずれも個人のプライバシーを侵害する可能性が存在しない情報であり、しかも、但し書きニでは、公務員に関して、「公開することにより、当該公務員の権利利益が著しく侵害されるおそれがあるものを除く。」としていることからも、結局、本号の但し書きは個人のプライバシーを侵害する可能性が存在しない情報は全て公開すべきことを定めたものである、ということが明らかである。
 そうである以上、本件条例第6条(1項)1号本文が「公開しないことができる」とする情報とは、個人のプライバシーが侵害される可能性のある情報、即ち個人に関する私的な情報をいい、同号はかかる情報のみを保護し、個人に関する私的な情報に全く関わりのない情報までも、「個人に関する情報」として保護する趣旨ではないというべきである。

 (3) 1号柱書が「個人に関する情報」につき括弧書して事業を営む個人の当該事業に関する情報を除くと規定し、4号において事業を営む個人の当該事業に係る情報に関して、通常の法人や団体と同様に規定している。
 これは、個人事業主は、その事業と私生活の区別がつき難いことも少なくないことから、前記括弧書は、その点についての判断を避けるため、個人事業主の事業に関する情報を一律に「個人に関する情報」に該当しないものとしたもの、というべきである。
 したがって、本号にいう「個人に関する情報」とは、専ら私事に関するものに限定されるのであって、個人の行動であっても、それが公務としてなされた場合はもちろん、法人等社会活動を行っている団体において職務上の行為としてされた場合には、『個人に関する情報』には該当しないから、当該行動については、たとえ行為者を識別する事項であっても、本号に該当しないというべきである。
 (4) 本件の新旧手引きは、「個人に関する情報」を具体的に例示しているが、これら例示したものと同質の情報も「個人に関する情報」に含まれるということを確認的に述べたに過ぎず、それらと異質な個人に関する私的な情報と関わりない情報までをも「個人に関する情報」に含ませる趣旨ではない。

 (5) 手引きで公務員に関する情報は、旧条例の手引き7(16頁)には「職員が職務を遂行する(した)場合における当該職務に関する情報については、当該職員が識別される場合であっても、条例第1条及び第3条並びに本号ただし書の規定の趣旨から、公開しないことができる情報には該当しない。」「起案文書における起案者の氏名等も原則として公開しなければならない」と記載され、上記新条例6条1項1号ハは、いわゆる職務遂行情報に関する公務員の氏名の公開を明記していることに照らせば、新旧両条例とも、公務の一環として公務員がした職務の遂行に係る情報については、公務員の氏名等も含めて、非公開としない趣旨であることは明瞭である。
 したがって、本号の「個人に関する情報」とは、個人に関する私的な情報を意味し、個人に関する私的な情報に全く関わりのない情報は「個人に関する情報」には該当しないことは明らかである。

 (6) 以上により、本号が「公開しないことができる」とする「個人に関する情報」とは、個人に関する私的な情報を意味するのであり、個人に関する私的な情報に全く関わりのない情報までも含むものではない。
 よって、原判決の「原則非公開」との判示は、本件第1条、3条、6条の各規定の解釈を誤るものであることは明らかである。

 (7) さらに、本件条例が個人事業者の事業情報については、1号でなく4号の対象としている趣旨は、個人事業者はその活動が社会に少なからず影響を及ぼす立場にあり、その社会的責任に照らして公益を優先する必要があることから、個人事業者の事業情報は1号の「個人情報」としては保護の対象とすべきではないとしたものであり、そうである以上、事業を営む個人の当該事業について、その公益性に着目して敢えて個人に関する情報から除外した1号が、これよりさらに公益性を有する公務員の公務に関する情報、公務に準ずる渡船船頭の当番に関する情報、県の会計の必須不可欠な入金を受け付けたと言うだけの指定金融機関職員の姓について情報を非公開の対象としていると解することはできない。

2 個人識別情報型と認定する意味はない
 (1) 原審判示は情報公開条例に関して、「個人識別情報型とプライバシー情報型」があり、本件条例は個人識別情報型であるとして判断を行っている。
 原判決は、
 @「(個人識別情報型としたことの)その意図するところは、プライバシーの権利の概念・内容が必ずしも一義的ではなく、人によって判断が異なることから、プライバシーの権利の概念を用いて公開・非公開の基準とするところを避け、より客観的な基準により、公開・非公開を判断し、もって制度運用の安定を確保しながら、情報公開の必要性とプライバシーの権利の保護と必要性との調和を図ったものと解されるところである。」(原判決文5頁2行目から7行目まで)と「プライバシーの権利の概念が不確定である」と認定した上で「個人識別情報型」を採用したと断じているが、判示はその以前に、
 A「端的に、プライバシーの権利として保護される情報が記録されている公文書を非公開にするという規定の方式(いわゆるプライバシー情報型)を採用すれば足りる筈である」(原判決文4頁下から3行目から頁末まで)とあるとおり、「プライバシーの権利として保護される情報とは確定できる」との認定にたって、「個人識別情報型とプライバシー情報型」を論じかつ条例の特質を断じている。
 (2) 即ち、前記Aの「プライバシー確定」論理が正当であれば、前記@の「プライバシー不確定」論理は誤っているのは明瞭である。
 一方で、前記@の「プライバシー不確定」論理が正当であれば、前記Aでいう二つに類型することすら困難で、しかも意味がないということになる。よって、原判決は誤りもしくは論理破綻した判示である。
 結局、当該条例が個人識別情報型とみられようと、プライバシー情報型とみられようと、『個人に関する情報』は条例の趣旨、目的、規定の文理上の解釈、手引きの解説等から総合的に判断せざるを得ないのである。
 しかし、原判決は、「規定の『個人に関する情報』とは、私人である個人に関するものについては、上記規定の文理に照らし、法人等情報を除く個人に関する一切の情報をいうものと解すべき」(原判決文5頁8行目から10行目まで)ととあるとおり「上記規定の文理に照らし」ているのみであり、しかもプライバシー概念について誤った認識をした前提にたったままに、結果としての「法人等情報を除く個人に関する一切の情報をいう」と違法な判示をしたものである。
 他の多くの判例において示されるように「個人のプライバシーの権利を侵害しない場合には公開の義務は免除されない」という限定解釈をすべきなのである。
 (4) この点、本件条例に関して新旧条例手引を実質的に引用して説示した《名古屋高裁平成12年(行コ)第31号・第49号/平成13年3月29日判決》(さらに、本件判決後に言渡された《名古屋高裁平成12年(行コ)第39号平成13年(行コ)第3号/平成13年8月9日判決》も)が、「本件条例では、県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、開かれた県政を実現することを目的とし(1条)、実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする一方、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない(3条)と定めている。そうすると、本件条例6条1号の「個人に関する情報」とは、およそ特定の個人が識別され得る全ての個人情報を意味するものではなく、その情報内容が、以下のような情報などとの関連において、当該特定個人の権利を侵害するおそれがあるものを指す相関関係概念であると解するのが相当であり、それ以外のものは、同号によって保護される『個人に関する情報』には含まれないと解するのが相当である。 @思想・信条・信仰等の個人の内心に関する情報 A学歴・犯罪歴等の個人の経歴に関する情報 B所得・財産等の個人の財産状況に関する情報 C健康状態・病歴等の個人の心身の状況に関する情報 D家族関係等の個人の家族状況に関する情報」というとおりである。

3 具体的に、以下の第4から第8に述べるとおり、原判決は法令の解釈を誤り、判断を誤った違法があり、原判決は取り消されるべきである。

第4 船頭名について
1 船頭の立場・地位が公務員に準ずることについて
 原判決は、「担当者の氏名等については、本件渡船場越立業務に関する検査の立ち会い、渡船の船体及び機関の状況に関する検査、本件渡船場越立業務に関する海津町への出張、岐阜市長から岐阜県岐阜土木工事事務所への文書の送付という職務について、その担当者は地方公共団体又は公的機関の職員であり、これらの職務が公務ないし公益的な職務の一環としてなされたことは明らかである。」(原判決文、5頁16行目から21行目まで)としている。
 しかも、これら担当者の氏名や印影等について、旧条例手引を引用し「『職員が職務を遂行する(した)場合における当該職務に関する情報については、当該職員が識別される場合であっても、条例第1条及び第3条並びに本号ただし書の規定の趣旨から、公開しないことができる情報には該当しない。』との記載、また、起案文書における起案者の氏名等も原則として公開しなければならないとの記載が存すること、及び、上記新条例6条1項1号ハは、いわゆる職務遂行情報に関する公務員の氏名の公開を明記していることに照らせば、新旧両条例とも、公務の一環として公務員がした職務の遂行に係る情報については、公務員の氏名等も含めて、非公開とはしない趣旨であると解することができる。」(原判決文、6頁3行目から11行目まで)と判示し、「上記旧条例手引の記載と整合せず」(同、6頁したから3行目)とまでしているのである。

2 船頭の県道としての渡船の安全確保業務は重いことについて
 船頭は岐阜県職員でなく、国や他の地方公共団体の職員でもなく、私人であることに疑いない。しかし、原判決は、検査員氏名について、国や他の地方公共団体の職員でもないにもかかわらず、「そうすれば、検査員の地位は、検査事務の遂行に関する公的責任という観点からは、公務員に準ずるものとして考察することができ、」(原判決文、7頁12行目から14行目まで)と判示している。 この論理からすれば、県道津島海津線、県道津島立田海津線という県道名がつけられ、しかも道路法上も議会の議決の認定に係るものであって、この「県営渡船」(甲第5号証)の当該船を動かす業務は、乗客(通行者)の安全確保の絶対的な義務を負っていることは当然であるから、職務の遂行に関する公的責任という観点からは、単に県の財産である渡船用の船の定期検査を行うだけである検査員以上に、公務員に準ずるものといえるのは明らかである。
 本件業務が公益的な職務の一環としてなされたことは明らかである。
 前記の「検査員の地位は、公務員に準ずる」という類推適用を正当とするなら、船頭でも同様でなければならない。

3 本件業務は前払いの委託契約であることについて
 岐阜県営渡船は岐阜市内で行われる「小紅」渡船と本件海津町で行われる「森下」渡船、「日原」渡船がある(乙第2、3号証等)。しかもその業務は岐阜県と地元自治体との委託契約の締結に基き、地元自治体(岐阜市あるいは海津町)が全く同様の契約条項である「渡船場越立業務委託契約(甲第6号証)」を締結し、越立(渡船の運行等)を渡船組合の船頭が行うものであり、この契約は、従前より、第3条で「4月、10月に均等分割して払う」とされているとおり、前払い契約であるから、履行責任がとりわけ重いものであり、第11条(6)では「渡船業務日誌(別紙)を備え付け、業務日誌に勤務中の状況を記録すること」とされているのである。
 このような事実にもかかわらず、船頭名については「その私人の所属する私的団体が地方公共団体から業務の対価として委託料等の支払いを受けている等の事実を指摘する部分もあるが、本件条例には、その事実のある私人に関する情報の公開を義務付ける規定は存せず、」(原判決文、8頁19行目から21行目まで)と判示している。もしこれが適法な条例解釈であるなら、国や他の地方公共団体の職員でもない検査員についても「公開を義務付ける規定は存せず」として非公開が是認されるのが整合性ある適法な判示、というしかない。

4 本件渡船業務は公務に準ずることについて
 原判決は、「渡船場業務日誌の勤務者名については、前記認定(原判示)によれば、本件渡船場越立業務は、私的な団体である本件渡船組合の組合員が海津町の委託の結果、同業務を遂行するものであり、その勤務者は私人であることが認められる。」としているが、この判決でいう「前記認定(原判示)」とは、「岐阜県は、日原渡船場(岐阜県海津郡海津町日原所在、県道路線名・県道津島海津線)及び森下渡船場(岐阜県海津郡海津町森下所在、県道路線名・県道津島立田海津線)の各越立業務を岐阜県海津郡海津町に委託し、海津町に委託料を支払ってきたが、右委託料は、最終的に、日原渡船組合及び森下渡船組合に支払われている。」(第一審判決文、28頁7行目ないし29頁3行目)であって、この第一審判示においても「本件渡船場越立業務は、私的な団体である本件渡船組合の組合員が海津町に代わって右業務を遂行するものであり、公務そのものとはいえないが、本件渡船組合によって運営されている渡船場の路線は、道路交通法上は県道と認定され、かつ、本件渡船組合は、岐阜県から、海津町を通じて右業務に関する委託料の支払を受けているのであるから、本件渡船場越立業務は公務に準じるものというべきである。したがって、本件渡船組合の勤務者名は、特段の事情のない限り、私生活上の事実に関する情報ではなく、性質上公開になじまないようなものでもないから、本号により保護が予定されている情報には当たらないというべきである。そして、本件においては、右特段の事情は見当たらない。」(第一審判決文、40頁10行目ないし41頁5行目)と明確に、岐阜県の公務に準ずる、としているのである。
 原判決は、本件船頭の遂行する職務が公務ないし公務に準ずるといえることについての検討を怠っているのである。

5 立証について
 (1) 公務員氏名等について「本件全証拠によるも、氏名等を含めてこれを公開すれば当該公務員の私生活上の平穏が不当に害されることの具体的立証が存しないから、個人の私生活の保護の観点から公文書の非公開を許容する新旧両条例の各規定に該当するものとは認められない。」(原判決文、6頁18行目から22行目まで)としている。
 さらに、検査員に関して、これを公務員に準ずるものに認定しただけで、相手方(岐阜県)からは、私生活上の平穏が不当に害されることの具体的立証が存しないにもかかわらず、「個人の私生活の保護の観点から公文書の非公開を許容する新旧両条例の各規定に該当するものとは認められない」、としている。

 (2) 一方で、渡船場業務日誌の勤務者名については、「私人からみれば、同業務における各私人の勤務状況に関する情報という側面をも有するものであって、この種の情報の公開により、常に、識別された各私人のプライバシーの侵害を引き起こすことがないと断定し得るか否かは疑問である。」(原判決文、8頁5行目から8行目まで)と極めて情緒的に判断し、これは、見方を変えれば、プライバシー侵害に係る極めて可能性は低いことを認識しているのは明らかである。
 (3) 公務員等に関しては、「氏名等を含めてこれを公開すれば当該公務員の私生活上の平穏が不当に害されることの具体的立証が存しない」として、公務員氏名等を非公開とする場合にはプライバシー侵害の具体的立証を要求しているにもかからず、一転して、渡船場業務日誌の勤務者名については、「当該公文書の公開が私人のプライバシーを侵害しないことを殊更審査して処分を決すべき条例上の義務を負うと解することはできない。」としているのは、前記、本件条例の第1、3条に表される基本理念をあえて無視した、といわざるを得ない。
 そして、「そうすれば、上記勤務者名の情報の行政運営情報該当性を検討するまでもなく、上記渡船場業務日誌に記録された情報について、私人のプライバシーを侵害しないか否かを審査しないまま、勤務者名の情報を公開しないとした本件処分一の判断部分を、本件条例の下で、違法とまで断ずることは困難である。」との判示は、条例の適合性判断を誤り、条例に違反した結論になっているは明らかである。

6 船頭は対面業務であることについて
 本件における船頭という職務は、一般に不特定の人物を客とする遊覧船等以上に、県道を渡ろうとする不特定多数の人々を客として運送しようとすることを特徴とする業務であり、乗船の前には、各種の説明等おこない、客が一旦乗船すれば、船上では安全確保に努め、時には会話することは通常に想定されることであって、このような体面業務の不可分の側面を有していることは、船頭の誰もが当初から認識していることは当然である。
 通常に考えて、人に知られたくない業務に従事しているとは到底言えない。
 よって、本件非公開事由に該当しないのは明らかである。

7 手引きを用いての判示に欠けることについて
 原判決は、各所の判断において手引きの記載を引用しつつ説示しているにもかかわらず、船頭名の非公開事由該当性の判断に関しては、手引きを用いずに判断しているのは、極めて不合理であり、論理的に整合性を欠くものである。

第5 指定金融機関の職員の「姓」に関して
1 「振込依頼票(控)等の銀行の担当者についても、担当者が私人であることは明らかであり、これについて、ただし書各号に該当するものとは認められないから、公開しないことのできる情報に該当すると認めることができる。」と判示しているが、「私人であれば、直ちに公開しないことのできる情報に該当する」(原判決文、9頁3行目から6行目)との旨の判示は原則公開の本件条例(第1、3条)の趣旨に立ち返れば、条例に違背しているのは明らかである。
 実際に、「振込依頼票(控)」(甲第15号証の2枚目、甲第16号証の1枚目)は、岐阜県が当該振込依頼人として渡船の検査手数料委託料を検査機構に振り込んだことの証明として保存している書類であって、当該書面にある銀行の担当者は、自らが間違いなく受け付けたことを証明する為に「姓のみ押印」しているものである。

2 地方自治法第235条1項において都道府県は金融機関の指定が定められ、同施行令第168条「指定金融機関等」、同令第168条の2「指定金融機関の責務」、同令第168条の3「指定金融機関等における公金の取扱い」、同令第168条の4「指定金融機関等の検査」、同令第168条の5「指定金融機関等に対する現金の払込み」等規定されているとおり、自治体の公金の扱い機関は法令で規定されている。

3 しかも、自治体内の銀行窓口に駐在し納入業務に携わる金融機関職員は、当該自治体の納入に関してはもちろん、一般住民の各種納付や払い出しに応じており、そもそ窓口業務に着任していることは、不特定多数の客に対して自らの責務として貴重な金員の取り扱いを安心させるためにも氏名の明示は当然のことと考えているのであって、黙示的に自らの肖像や職名・氏名の公表を了解しているのは、明らかである。

4 よって、金融機関職員名は本号但し書きロに該当する、というべきである。 仮に、直接に、但し書きロに該当しないとしても、旧手引きの第6条1項解釈運用基準《11 公表を目的として実施機関が作成、取得した情報》の「(2) 当該情報から識別され得る個人が公表することを県に対して了承し、又は既に公表した情報」、新手引きでは《11》で全く同一に示されているとおり、前記金融機関職員は、少なくても自治体の金融機関で勤務する場合において、公金の収納を受け付けたとの認印における「姓」の表示は、前記手引きの「公表することを県に対して了承している情報」に当たることは明らかである。
 少なくても、金融機関職員名は前記解釈運用基準においては類推適用されるべきである。
 
第6 渡船勤務者名の行政運営情報該当性
1 「そうすれば、上記勤務者名の情報の行政運営情報該当性を検討するまでもなく、上記渡船場業務日誌に記録された情報について、私人のプライバシーを侵害しないか否かを審査しないまま、勤務者名の情報を公開しないとした本件処分一の判断部分を、本件条例の下で、違法とまで断ずることは困難である。」(原判決文、8頁下から3行目から次頁1行目まで)との判示であるが、前記のとおり船頭名は公開されるべきであるから、仮に非公開事由の追加主張が許されるものとするなら、上記勤務者名の情報の行政運営情報該当性を検討する必要が生ずる。

2 本件については、相手方(岐阜県)が原審で追加主張した理由は、本件提訴の相当期間経過し、審理が進行して後、「船頭名が公開されるなら、今後は当該業務を行わない、との意志表明があった」という趣旨であるが、それは、本件公開(非公開)処分時には想定し得べき事情ではないから、処分取消訴訟においては考慮すべき非公開事由には該当するものでないのは明らかである(最高裁判所平成6年(行ツ)216号/平成7年4月27日判決参照)。

3 仮に、処分取消訴訟において前記事情を考慮したとしても、「船頭名が公開されるなら、今後は業務を行わない」とは「渡船越立業務委託契約(甲第6号証)」の趣旨からしても、身勝手で論外な言い分であるのは明らかである。もし、実際に業務を契約を履行していれば、不定時に訪れる渡船の客(県道通行者である)に日常的に接しているのであり、船頭名の公開を嫌うことは想定する必要のないことであるが、当該船頭らは、委託のとおりに職務を行っていないままに委託料を取得していたのであるから、架空の勤務日程表を公開されることを嫌うのは当然である。

4 実際に、岐阜地裁平成11年(行ウ)16号県営渡船委託料返還請求事件の審理の01年3月26日に行われた準備期日において、被告海津町及び渡船組合側から和解が申し出られたことで、被告返還申出額の提示と原告の許容額の提示を裁判所より指示され、現在、裁判所が調整中である。このような事実経過からも、船頭らが契約に反して委託料を取得していたから、渡船業務日誌の氏名を公開されたくないというのは、身勝手で論外な言い分であるのは明らかである。

5 そして、これに同調して、非公開の特別な理由を敢えて主張するのは、自治体の公金の取扱いに関する責任を隠蔽しようとするだけのもので、もはや自治体の責務を放棄していると言わざるを得ない。
 以上、船頭名が8号(行政運営情報)に該当しないのは明らかである。

第7 請求外情報及び合算情報を非公開とすることの違法性について
1 原判決は、「県営渡船場越立業務に関する情報とそうでない情報とが合算されて不可分の情報となって記録された公文書についても公開対象として請求されていたか否かは必ずしも明確とは言い難く、このような公開請求を受けた被控訴人が、本件条例上、公文書の合算情報記録部分についても公開義務を負ったものと直ちに解することはできない。・・・・上記合算情報記録部分を公開しないとする部分を、本件条例に照らし違法であったと断ずべき理由はない。」としているが、以下に述べるとおり法令及び判例に反している。

2 本件条例は公開することを大原則としているから、第6条に定める非公開事由に該当する場合にのみ「非公開とすることができる」というものである。 また、第3条「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、運用する」と定められている。
 本件条例に基づく情報の公開は、公開請求権を有する者から、実施機関の管理する文書の公開を求められた場合に、第6条各号の非公開事由に該当すると考えられる場合は、その該当性の有無を判断し、最終的な公開非公開の決定をするものである。
 また、本件条例第8条の部分公開規定の「分離」について、これは、1ページの文面を公開するのが原則であるところ、それを第6条に該当する情報があり、その情報を非公開とすること、そしてその方法の原則を定めたものである。それは、第8条本文に「部分公開(公文書に記録されている情報のうち公開しないことができる情報に係る部分を除いて・・・)」とあるとおり、「公開しないことができる情報」の扱いについての規定であり、「公開しないことができる情報」とは第6条の非公開事由に該当する場合を指すとは明瞭である。よって、この「分離」を請求外情報及び合算情報に適用することは法令解釈を誤っているのである。

3 本件条例は、第6条に該当しない限り公開を義務づけ、第6条に該当しても「公開しないことができる」としているのみである。
 第6条の非公開事由に該当しないものであるところの請求外情報の取り扱いについて、被上告人は一貫して、「公開するどうかの決定をすべき義務はない」とし、「一文一文それ自体が公文書である」(被告第一審準備書面(1)の五)との主張である。この「一文一文が公文書である」との意味は、「(単語)一語一語が公文書」であるとの意味にならざるを得ない。
 第一審判示も「請求に係る公文書以外の情報が記録されている公文書についてまで、公開をするかどうかの決定をすべき義務がないことは明らかである。」(判決文51頁9行目)、「その趣旨は、公開請求の対象となる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合においても、同じく妥当するものと解すべきである。」(判決文52頁9行目)とした。しかし、同じ一枚の文書内分の一部分に記録されている残りの情報について、ただ請求に該当しない、というだけで非公開としているが、被上告人の任意の判断によってよいのではなく、原則公開を定めた条例の原点に拘束されていることから、これらは公開すべき情報である、との判断しか適法な条例解釈とは言えないのである。
 通常一枚の文書にはさまざまの情報が詰まっているものである。「請求の対象外の情報は公開をすべき義務を当然に負うものではないから、この場合には、公文書の部分公開の可否によって解決すべき問題である。」(第一審判決文53頁7行目)のように、記録された情報を細分化して行くと、1ページの中の大部分の情報が請求とは関係ない、ということになってしまい、結局は大部分を非公開とする条例運用が生じてしまうことになってしまう。それは当初より条例の制定趣旨に反するものである。
 そして「当該分離により請求の趣旨が揖なわれることがないかどうかを検討するまでもなく、これを公開すべき義務はないというべきである。」(第一審判決文54頁4行目)として、第8条に規定される「請求の趣旨の実現」の有無を検討していないから違法である。

4 しかも、「公開すべき義務を負はないから、部分公開の可否によって解決すべき」ということに関して、通常一個の文書にはさまざまの情報が詰まっているものである。記録された情報を細分化して行くと、1個の文書中の大部分の情報が請求とは関係ない、ということになってしまい、結局は大部分を非公開とする条例運用が生じてしまうことになってしまう。すると結局は、条例の制定趣旨に反するものとなってしまう。

5 次のとおり原審判示は誤っている。
 (1) 請求外情報や合算情報を非公開としている岐阜県の場合、かえって苦労を抱え込むことになってしまっている。
 本件条例は、職員の時間と経費も判断条件としている。
 本件条例第8条本文に「公開しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ」とあるとおり、「容易に」という極めて主観的な作業の困難さやその負担の程度を判断基準の一つに定めているのである。そして手引きの解釈運用基準の2には「『容易に分離することができ』とは、・・かつ、過度の時間と経費を要しないことをいう」としている(乙第5号証31頁、乙第6号証33頁)。
 このように、部分公開は、「容易に」という第8条本文の規定に拘束にされているのであるから、結局は、職員の手間を著しく増大させることになる(原審附帯控訴人準備書面(2)の第2の3)請求外の情報、合算情報を部分公開で解決するという公開方法を採ることは条例上、許されないのである。
 実際、「請求外情報」「合算情報」を非公開の理由として、一部の情報を墨塗りしている自治体はほとんどない。

 (2) 「請求の趣旨が損なわれことがないかどうかを検討するまでもなく」(第一審判決文54頁4行目)としているが、「請求の趣旨」の判断は第8条部分公開に当たっての当然の規定であるから、部分公開の適用を容認するなら、「請求の趣旨」の規定も当然に適用されなければ不合理である。
 この際、「請求の趣旨の損ない」の「請求の趣旨」とは公開請求者の主観によって公開を求める公文書を特定する(本件条例第9条)ことの内実であるし、「損なう」とは結局は公開請求者の主観によるのは明らかである。
 そして、通常に考えて、公開請求者が、墨塗りの部分公開文書の閲覧やその写しの交付を期待しているとは考えられないから、「損なう」かどうかを判断しようとすると、非公開事由該当の情報はともかく、それ以外は全て公開を求めている、というのが趣旨であると判断せざるを得ないのである。

6 以上述べてきたよう、「請求外情報」「合算情報」という条例にない概念をもちいて、公文書の一部分を墨塗り、非公開として県民に公開しなくてよい、ということは、本件条例の想定・規定するところではないのである。
 このことは、本件条例第9条で公開の請求の方法を規定し、本文柱書で「公文書の公開」といい、本文(2)で「公文書を特定する」とし、さらに第10条1項で「公文書の公開をする」としている。一方、第6条(1項)本文では、「情報が記載されている」としている。
 つまり、「情報」という概念は、「公文書」という概念より狭いものを意味している(もちろん、時には等しいこともあり得る)ことは、明らかである。

7 そもそも、何を請求外情報と判断するかは、極めて主観的である。そして、請求外情報・合算情報として一旦墨塗りされている場合、誰にもそれが本来は請求に係る情報であったのか、どうかは確認することができない。
 しかも、下記に述べるように、ミスが重なった場合はなおさらである。

8 一個の公文書にさまざまの情報がある場合の公開非公開の判断は、公開原則が適用される。請求外情報を非公開としてよいのは、請求外情報に関して「請求に該当しないと判断される情報が非公開事由に該当している場合」のみである。 分離することができない場合の公開非公開の判断は、公開原則が適用される。 合算情報を非公開としてよいのは、合算中の情報に関して「請求に該当しない情報について、これが非公開事由に該当する場合」のみである。
 仮に、本件条例が被上告人の任意の公開を定めただけの条例であるならこの過剰な作業も許容される余地がないとはいえないが、原則公開を定めた本件条例において附帯被控訴人の職員をして敢えて過剰な作業をしてまで非公開部分を増やすことは、条例の主旨からして到底許されない。

9 一枚の公文書にさまざまの情報がある場合の公開非公開の判断は、公開原則が適用される。請求外情報を非公開としてよいのは、請求外情報に関して「請求に該当しない他の情報が非公開事由に該当する場合」のみである。
 分離することができない場合の公開非公開の判断は、公開原則が適用される。合算情報を非公開としてよいのは、合算中の情報に関して「請求に該当しない情報について、これが非公開事由に該当する場合」のみである。

10 混同のおそれによる非公開(合算情報)に関する判示は、岐阜地裁/平成10年(行ウ)第8号公文書公開拒否処分取消請求事件/平成12年5月24日判決において、「この点について、被告は、諸新聞の購読に係る報償費とそれ以外のものとの混同のおそれがある場合は、本件条例8条を基礎として報償費の合計額に関する情報を公開しないことが許される旨主張している。しかしながら、本件条例8条は、同6条所定の公開除外事由がある場合に公文書の部分公開ができる旨を定めた規定であるところ、諸新聞の購読に係る報償費について本件条例6条所定の公開除外事由が認められないのは以上認定してきたとおりである。
 したがって、本件非公開決定は違法というべきである。」とした。
 さらに、前記訴訟の控訴審の判示、平成12年(行コ)第31号、同第49号公文書公開拒否処分取消請求控訴事件、同附帯控訴事件/平成13年3月29日判決は、「当裁判所も、本件非公開部分について、非公開情報に該当するとは認められないと判断する。仮に、控訴人らの主張するように、本件公開請求の対象とされている情報と、対象外と思われる情報とが混在し、容易に分離できないとすれば、対象外と思われる情報に非公開事由が認められない限り、全体の情報を公開すべきであり、対象外と思われる情報と一体化していることを理由として、本件公開請求の対象とされている情報を公開しないことが許されるものではない。」であるとして、非公開は違法であって取り消されるべきであるとした。
 また、本件判決言渡後ではあるが、岐阜地方裁判所平成11年(行ウ)第13号の控訴審である平成12年(行コ)第39号、平成13年(行コ)第3号氏名等非公開処分取消請求控訴事件、同附帯控訴事件/平成13年8月9日判決の判示は、「@本件条例8条の規定の趣旨は、請求に係る公文書の一部に6条所定の公開除外事由がある場合に、これを理由として、当然に全体を公開しないことができるとすべきでなく、これら情報を容易に分離することができるときは、請求の趣旨が損なわれない限り、公開可能な部分は公開すべきであるが、他方、これらの情報を容易に分離できなかったり、又は、分離により請求の趣旨が損なわれたりするときには、公文書の部分公開をすることができなくてもやむを得ないという点にある。すなわち、公文書に6条各号のいずれかに該当する公開除外事由情報が記録されているなどのため、公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合に関するものである。 A本件で公開請求された同行職員の旅費情報に本件条例6条所定の公開除外事由が存しないことは控訴人教育長において争わないところである。そうすると、本件公開請求の対象とされている情報と対象外と思われる情報とが混在し、容易に分離できないとすれば、対象外と思われる情報に非公開事由が認められない限り、全体の情報を公開すべきであり、対象外と思われる情報と一体化していることを理由として、本件公開請求の対象とされている情報を公開しないことが許されるものではないというべきである。よって、同行職員の旅費とそれ以外の情報とが合算さたれ情報に非公開事由を認めることはできない。いずれも非公開事由が認められないから、違法として取り消されるべきである。

第8 裁量権の濫用は処分取消事由該当性について
 「船頭名、銀行員名」及び「請求外情報、合算情報」についての原審判示は、「公開する義務がないから、公開するかしないかは実施機関の任意の判断に委ねることができる」というもので、本件条例の非公開処分において、あたかも裁量判断が認められているかのような判示である。
 裁量権の逸脱または濫用は処分の取り消し事由である(行政事件訴訟法第30条)ところ、「船頭名、銀行員名」及び「請求外情報、合算情報」を公開するか非公開とするかに関して、「船頭名等を公開することは意義があるが、公開義務はない」「請求外情報、合算情報しないかは実施機関の任意の判断でよい」という趣旨の理由付けをし、さらに第8条の部分公開という公開方法を適用してよいとしていることは、@第6条の非公開事由に該当する場合の規定である第8条の規定を拡大解釈して適用していること、A公開を大原則とする本件条例において「実施機関の任意の判断でよい」という無制限の裁量権の存在を容認していること、この二点において裁量権の濫用を肯定することになり、行政事件訴訟法の趣旨目的に反する事態を招くこととなる。
 結局、本件「船頭名、銀行員名」や請求外の情報、合算情報について、部分公開を適用することはできないのである。
 本件処分において、前記情報を非公開としたのは、もはや、著しい裁量権の濫用であって、違法というしかないのである。

第9 判例違反
1 本件原審の判示は、以下に示す判例に反している。
 本件は「道路の維持管理業務における委託料支出の関係の自治体の事務事業」に係る個人情報に関する判断であるが、この種の地方公共団体の通常の業務に係る情報のうち、非公開事由としての「個人情報」該当性について、最高裁の判例はいまだ示されていないので、各地の高裁判例に違背することを述べる。
 各地の高裁判例は、懇談会に出席した私人に関する氏名、職名は「個人情報」には該当しないとの判断を示し、従業員についての判示もある。
 なお、以下に示す高裁判例は、本件判示に即していえば、「個人情報」について、いずれも本件岐阜県情報公開条例と同様に、「個人識別型」(個人に関する情報で個人が識別され又は識別され得るものについては、「公開しないことができる」と規定するもの)を採用した条例に関するものである。
 なお、8号行政運営情報については、その後に述べる。

2 (1) 大阪高等裁判所/平成10年6月17日判決/平成9年(行コ)17号は、大阪市公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 「市の職員が公務の遂行として出席(予定)し、財政課が食糧費を支出した会議等であれば、出席(予定)するものは、その出席したことを一般に知られたくないということは通常あり得ず、これを公開したことによって控訴人のいうように自己情報に関するコントロール権がプライバシーの権利の一内容として認められるとしても、これを侵害することはない。」
 「被控訴人は、公務又は所属団体の職務としてでなく、その者の専門的知識及び経験等に基づく意見交換等のため、個人的な立場から出席したものがあり、この場合はプライバシーに関わると主張する。しかし、意見交換のための会議に出席した場合であっても、公務又は所属団体の職務として出席した推認するのが相当である。」

 (2) 東京高等裁判所/平成11年4月28日判決/平成10年(行コ)154号は、新潟県公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 「本号の文言をみると、およそ個人に関する事項を含む情報については、特定の個人が識別される限りすべて非公開とする趣旨と読めなくもない。しかし、本件条例は、県の有する情報は原則公開とし、第10条所定の情報のみを例外的に非公開としているのであって、第3条も『みだりに公にされることのないよう』と規定していることからすると、本件条例にいう『個人に関する情報』とは、公開原則の例外とするにふさわしい、みだりに公にされることが相当でない情報に限定されているのであって、個人に関する事項のうち、専ら私事に関するものと通常理解される情報のみを指すと解するのが相当である。すなわち、個人の行動であっても、それが公務としてなされた場合はもちろん、法人等社会活動を行っている団体において職務上の行為としてされた場合も、もはや私事に関することとは言えないから、本件条例にいう『個人に関する情報』には該当しないというべきである。」
 「専ら私事に関することか否かは、常識的にみて容易に判断できる」
 「第一審被告は、本号が『個人に関する情報』につき括弧書して事業を営む個人の当該事業に関する情報を除くと規定していることをとらえて、限定的な解釈を採ると、このような括弧書は不要になるから、この括弧書の存在からしても、限定的に解釈することはできないと主張する。しかし、個人事業主は、その事業と私生活の区別がつき難いことも少なくないことから、右括弧書は、その点についての判断を避けるため、個人事業主の事業に関する情報を一律に『個人に関する情報』に該当しないものとしたと解することができる。」
 「したがって、本号にいう『個人に関する情報』とは、専ら私事に関するものに限定されるのであって、個人の行動であっても、それが公務としてなされた場合はもちろん、法人等社会活動を行っている団体において職務上の行為としてされた場合には、『個人に関する情報』には該当しないから、当該行動については、たとえ行為者を識別する事項であっても、本号に該当しない」
 「これら会合に出席した者及び贈答を受けた者(以下、相手方という)は、いずれもその所属する機関や、企業等の職務として会合に出席し贈答を受けたと認められるのであって、会合に出席し又は贈答を受けたこと自体は『個人に関する情報』には該当しない。したがって、当該行為につき、その行為者としての相手方を特定するのに必要な情報は、本号には該当しないのは明らかである。相手方の経歴については、所属・職名であることが認められ、相手方がこの経歴を有する者であることが当該会合に出席し又は贈答を受けたことの理由となっているのであるから、『個人に関する情報』には該当しない。」

 (3) 福岡高等裁判所/平成11年4月30日判決/平成10年(行コ)30号は、熊本県公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 判決は、「控訴人(熊本県知事)は、本号の『個人に関する情報』を私生活上の事実に関するものと限定して解釈することは、裁判所による新たな立法にほかならず、不当である旨主張する。しかしながら、本号は、公文書の開示により関係者のプライバシーが不当に侵害されることを回避するために設けられた情報公開の例外規定であり、その立法趣旨に照らすと、ここで開示が禁止されるのは、原則として当該公文書にプライバシーに関する情報が記録されている場合に限られ、特段の事情がない限り、『特定の個人が識別され、又は識別され得る』との一事をもって開示が禁止される趣旨ではないことは明らかであるといわなければならない。」として、相手方氏名等は「個人情報」に該当しない、とした。

 (4) 福岡高等裁判所/平成11年6月4日判決/平成10年(行コ)22号は、佐賀県公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 「一審被告(佐賀県知事)は、開示請求権は本件条例によって創設された権利であるから、その内容は本件条例の具体的文言によるべきであり、その運用は形式的に解釈して行うべきであると主張する。しかしながら、法令等の解釈は、規定の具体的文言を重視して行うべきものであることはいうまでもないが、そのほか、当該法令等の目的、解釈、運用の基準等を定めた総則規定、当該法令の制定の経緯等を総合的に勘案して行うべきものであり、単に規定の形式的文言の文理解釈にのみとどまるべきものではない。」
 「本号は、個人に関する情報で特定の個人が識別され得るものについては、原則非開示(いわゆる個人識別型)としている趣旨に読めなくはない。しかしながら、本件条例の県民本位の開かれた県政の発展を図り、県政のより一層公正な執行を確保するという目的及び原則公開の趣旨に照らし、また、手引きは、専ら個人の秘密に関する情報を記載した文書を例示しており、これに『個人の尊厳、基本的人権の尊重の立場から、個人のプライバシーを保護する』という趣旨を総合すると、本号により保護が予定されているのは、特定の個人が識別される情報のうち、右個人のプライバシーにかかる情報であると解される。したがって、本号を適用するに当たっては、特定の個人が識別される情報についても、当該情報がプライバシーに関係しないことが明らかな場合には、非開示とすることは許されないし、また、特定の個人が識別される情報が、右個人のプライバシーにかかる情報である場合にも、本件条例の前記目的及び原則公開の趣旨に、本件条例第3条後段が『みだりに公にされることがない』旨規定し、個人に関する情報を『正当な理由なく』開示してはならないとしている(手引き)ことをあわせて考慮すれば、当該情報を開示することにより、当該個人のプライバシー及びその他の利益が侵害される可能性が生じるか否かを検討して、開示するか否かを判断すべきである。(なお、他の地方公共団体の条例に、プライバシー情報型の条例があるが、本件条例はその規定を異にするので個人情報該当性を狭く解釈することは許されない旨主張するが、条例は、条例の文言及び趣旨に従って解釈されるべきであり、本件条例について右のように解釈することができる以上、右主張は採用できない。)」

 (5) 広島高等裁判所/平成11年10月16日判決/平成10年(行コ)14号は、広島県公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 「右認定の本件条例の基本原則、本件条例の9条2号の趣旨、本件手引が同号で保護される情報の例として、思想・・・財産の状況等もっぱら個人の私的な事項と称し得る『個人に関する情報』を列挙していることを総合すれば、同号で保護が予定されているのは、個人が識別される情報のうち、性質上公開に親しまない私生活上の情報であると解するのが相当であり、特定の個人が識別され得る情報であっても、当該情報がプライバシーに関係しないことが明らかな場合には、同号による保護が予定された情報には該当しないものと解すべきである。」
 「相手方は、県の行政事務、事業の執行として行われる懇談会に出席する以上、県職員の公務遂行過程に関与していることを当然認識していたはずであり、食糧費の執行としての懇談会への出席は、県の行政事務、事業そのものへの関与であるということができる。もっとも、懇談会が内密の協議を目的として行われた場合にはそのような懇談会に出席したという情報自体が、性質上公開に親しまない私生活上の情報に該当する場合もありうると解されるが、本件懇談会の目的及び性質に照らすと、本件懇談会が内密の協議を目的として行われたものと認めることはできない。なお、被控訴人(広島県知事)は、相手方氏名等が公開されると、相手方の私生活上の平穏が害されるおそれがあると主張するが、公務に関する情報の公開の必要性に照らすと、仮に被控訴人のおそれがあるとしても、右情報を非公開とすることは許されない。」

 (6) 高松高等裁判所/平成12年3月13日判決/平成11年(行コ)12号は、香川県公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 判決は、「当裁判所も、相手方出席者の氏名等は、本件条例第6条1号本文、同5条に該当しないと判断するが、その理由は次のとおり補正する。」とした。 よって、前記判示に基づき地裁判決に「補正」を加えると、「会合は、県が公金を用いて開催した公務であり、公務員が公務として会合に出席することは、個人のプライバシーとは関係のない事項である。」「相手方出席者の職名及び所属は、他の情報と結びつけることにより特定の個人が識別され得る情報であるが、本件においては直接的な個人識別情報である氏名さえ同号本文に該当しないと解されるから、これに該当しないことは明らかである。」となる。

 (7) 名古屋高等裁判所/平成13年3月29日判決/平成12年(行コ)第31号、同第49号は、本件岐阜県情報公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、要点は次のようである。
 「本件条例6条1号が、個人に関する情報であって、特定の個人を識別され得る情報を、原則として非公開とする趣旨は、個人のプライバシーを最大限保護する必要があるが、一方では、プライバシーの概念及び範囲が未だ明確となっていないことから、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得る情報については、原則として非公開としたものと解される。そして、本件条例では、県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、開かれた県政を実現することを目的とし(1条)、実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする一方、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない(3条)と定めている。そうすると、本件条例6条1号の『個人に関する情報』とは、およそ特定の個人が識別され得る全ての個人情報を意味するものではなく、その情報内容が、以下のような情報などとの関連において、当該特定個人の権利を侵害するおそれがあるものを指す相関関係概念であると解するのが相当であり、それ以外のものは、同号によって保護される『個人に関する情報』には含まれないと解するのが相当である。 @思想・信条・信仰等の個人の内心に関する情報、 A学歴・犯罪歴等の個人の経歴に関する情報、 B所得・財産等の個人の財産状況に関する情報、 C健康状態・病歴等の個人の心身の状況に関する情報、 D家族関係等の個人の家族状況に関する情報」
 「本件において、取扱従業員の印影は、特定の個人が識別され得るものであるが、請求書及び領収書に押印された取扱印であるから、それによって、当該個人がある時点においてある諸新聞の従業員であったという情報が明らかになるおそれがあるにすぎず、それ以上の情報は何ら明らかになるおそれがない。」

 (8) 名古屋高等裁判所/平成13年5月29日判決/平成11年(行コ)34号は、愛知県公文書公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決である。 懇談会の参加者に関する情報等についての判例であるが、前記(7)と全く同旨である。

 (9) なお、本件判決後であるが、名古屋高等裁判所/平成13年8月9日判決/平成12年(行コ)39号、平成13年(行コ)3号/は、本件岐阜県情報公開条例に係る非公開情報に関しての控訴審判決であり、前記判例と同様に、「本件条例6条1号が、・・・・D家族関係等の個人の家族状況に関する情報」という説示をして、「懇親会等は、いずれも岐阜県の公的行事として開催されたものであり、公務員の場合は公務員の公務の遂行として、公務員以外の者である場合には、その者の所属する地位、団体の立場で、それぞれ懇親会等に出席して情報交換し、懇談したという情報が明らかになるものであるが、それ以上の情報が明らかになるものではない。したがって、このように明らかになる情報の公開により、当該出席者個人の権利、利益を侵害するおそれがあるとは、通常は認められないから、『個人に関する情報』には該当しないというべきである。」「本件条例の定める公文書公開請求権は本件条例によって具体的権利性を認められたものであるから、その解釈に当たっては、本件条例の目的(1条)並びに解釈及び運用の基本(3条)を前提として、その規定の意味するところを合理的に解釈すべきであり、単に文理解釈をもって足りるものではない。」とした。

3 よって、原判決のうち「渡船船頭の氏名」及び県の会計事務を実質的に補助した金融機関職員の出入金確認のために押印された「姓」の記録について、非公開事由に該当するとした判示した部分は、以上述べた各高裁判決に違反(相反)しているのは明らかである。

4 行政運営情報について
 (1) 最高裁判所平成6年(行ツ)216号/平成7年4月27日判決/行政処分取消請求上告事件[安威川ダム情報公開請求事件]判決は上告を却下した。 判決は、「右判決で是認されているところの原審判示、すなわち「原判決を取り消し、大阪府が建設計画中のダムのダムサイト調査資料についての非公開決定を取し消す」という大阪高等裁判所判決/平成4年(行コ)第31号、安威川ダム地質調査報告書公開請求訴訟控訴審、判決平成6年6月29日の判示は、地元住民の反対表明がある等行政の事務事業の遂行手続きにおける厳しい緊張関係が生じている場合を認定してなお、「本件非公開情報が、大阪府公文書公開等条例8条4号前段(府の機関又は国等の機関が行う調査研究、企画、調整等に関する情報)に関して、同号後段の「公にすることにより、当該又は同種の調査研究、企画、調整等を公正かつ適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれ」に該当するかは、所定の要件が本件処分時に存していたかの判断となる。・・・本件非公開情報に係る調査は既に実施されており、手続が進行することは、ダム建設事業の流れにおいて必然的に予定されているのであって、本条例が制定されている以上、本件非公開情報の公開も、この必然的に予定されている行政の流れに沿う・・・付言するに、本件各文書公開に対する地元住民の反対は、その公開の可否と必然的な関連性を持つものではなく、生活再建や補償対策は、あくまでも本件各文書の公開とは別途策定されるべきものである。」と判示している。

 (2) 以上、本件船頭名の公開によって業務の受託をしないとの表明があること等は、前記最高裁判断及びその前提となる高裁の判示に照らせば、行政運営情報(8号)に該当しないのは明らかである。
以 上