平成13年8月9日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成12年(行コ)第39号、平成13年(行コ)第3号氏名等非公開処分取消請求控訴事件、同附帯控訴事件(原審・岐阜地方裁判所平成11年(行ウ)第13号)
口頭弁論終結日 平成13年5月17日

  判 決
岐阜市薮田南2丁目1番1号
  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)
    岐阜県知事
      梶原拓
同所
  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)
    岐阜県教育委員会教育長
      日比治男
  両名訴訟代理人弁護士 端元博保
同          伊藤公郎
  同          池田智洋
岐阜県山県郡高富町西深瀬208番地の1
  被控訴人(附帯控訴人・選定当事者、以下「被控訴人」という。)
      寺町知正
岐阜県揖斐郡谷汲村岐礼1048番地の1
  同   山本好行
  (選定者は判決別紙選定者目録記載のとおり)

  主 文
1 本件控訴をいずれも棄却する。

2 本件附帯控訴に基づき、原判決中被控訴人ら敗訴部分のうち、原判決別紙文書目録二記載1の公文書の部分公開決定処分のうち、同目録記載2の旅費に関する公文書の(三)の「同行職員の旅費と、それ以外のそれ以外の旅費とが合算された情報」及び同目録記載2の需要費に関する公文書の(二)の「債権者に係る印影及び債権者口座番号等」の非公開決定取消に係る請求を棄却した部分を取り消す。

3 控訴人岐阜県教育委員会教育長が被控訴人ら及び選定者らに対して平成11年5月26日付けでした原判決別紙文書目録二記載1の公文書の部分公開決定処分のうち、同目録記載2の旅費に関する公文書の(三)の「同行職員の旅費と、それ以外の旅費とが合算された情報」及び同目録記載2の需要費に関する公文書の(二)の「債権者に係る印影及び債権者口座番号等」の非公開決定部分を取り消す。

4 本件附帯控訴のうち、控訴人岐阜県教育委員長が被控訴人ら及び選定者らに対して平成11年5月26日付けでした原判決別紙文書目録二記載1の公文書の部分公開決定処分のうち、同目録記載2の旅費に関する公文書の(二)の口座名義の非公開決定部分の取り消しを求める部分を却下する。

5 本件附帯控訴のうち、その余の附帯控訴を棄却する。

6 訴訟費用は、第1、2審とも控訴人らの負担とする。

  事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 被控訴人らの請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人らの負担とする。

第2 附帯控訴の趣旨
1 原判決中被控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 控訴人岐阜県教育委員会教育長(以下「控訴人教育長」という。)が被控訴人ら及び選定者らに対してした原判決別紙文書目録二記載1の公文書の部分公開決定処分のうち、同目録記載2の旅費に関する公文書(二)の口座名義、(三)の合算された情報、需要費に関する公文書の(二)の債権者に係る印影及び債権者口座番号等の非公開決定部分を取り消す。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人らの負担とする。

第3 事案の概要
1 事案の概要は、次のとおり付加訂正するほか、原判決の事実及び理由欄の「第二 事案の概要」に摘示のとおりであるから、これを引用する。

(1)原判決5頁8行目、9行目及び13頁5行目の「被告教育委員会」をいずれも「控訴人教育長」と改め、同5頁5行目、12頁5行目の「被告教育委員会」を「岐阜県教育委員会」と改め、同6頁5行目の「被告らは」を「控訴人知事及び岐阜県教育委員会」と改め、「機関である。」を「機関であり、控訴人教育長は公文書公開に関する処分に関して岐阜県教育委員会から権限委任を受けている。」と改める。

(2)同6頁11行目の「附則平成九年一二月二六日条例第二二号」を「平成9年12月26日条例第22号附則」と改める。

(3)同7頁3行目末尾に行を改めて次のとおり付加する。
「(目的)
第1条 この条例は、県民の公文書の公開を権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、県民の県政への参加を促し、県政に対する理解と信頼を深め、もって開かれた県政を実現することを目的とする。」

(4)同10頁11行目の「2」を「2項」と改める。

2 当審における控訴人らの補足的主張
(1)本件条例6条1号該当性について
  @ 公文書公開請求権は、本件条例に基づき創設された権利であり、公開の範囲は県の立法政策に委ねられていると解するべであるところ、本件条例6条1号ただし書きハの規定は、旧条例にはなく新条例により新設されたものであり、新条例附則3項及び法の不遡及の原則によると、公務員を含む個人の職名及び氏名は「特定の個人が識別される情報」として公開すべきでない情報に該当する。

  A また、公務員以外の私人は、自らの私的業務の能率的促進のため、懇親会に出席するという側面を有しているところ、たまたま参加した懇親会が県職員との会合であるという理由で、公務に準じた者であるとみることはできない。

(2) 本件条例6条4号該当性について
  @ 本件条例6条4号ただし書きニの規定は、旧条例にはなく新条例により新設されたものであり、新条例附則3項及び法の不遡及の原則によると、事業者(債権者)の氏名又は名称、住所又は事務所若しくは事業者の所在地、電話番号その他これらに類する情報は原則として公開すべきでない情報に該当する。

  A 事業者(債権者)の印影及び口座番号は本件条例6条4号に該当する情報として非公開とすべきところ、当該情報は本件処分二、2、(需要費に関する文書)、(二)の文書のみならず、本件処分一、2、(四)の文書にも記載されているのであるから、同文書も公開すべきでない情報に該当するというべきである。

3 当審における被控訴人らの補足的主張
(1) 本件条例の目的(1条)、解釈及び運用の基本(3条)及び「この条例の基本理念である『原則公開』の精神に基づき、公文書公開制度が運用されなければならない」とする岐阜県作成の「情報公開事務の手引(平成10年3月改訂版)」に照らすと、実施機関が管理する情報について公開を原則として非公開は例外であるから、例外規定の解釈は厳格でなければならない。

(2) 本件条例6条4号該当性について
 事業者(債権者)の印影及び口座番号等は振込で支払う顧客に対してはすべて開示される情報であり、秘密にしておくことなどあり得ない情報である。現に岐阜県が条例改正により、食料費等の債権者についての法人事業情報を公開するようになった後、債権者からの異議等の具体的な支障は生じていない。

(3) 合算情報を非公開とすることの違法性について
 本件条例8条は、請求のあった公文書に6条の非公開事由に該当する情報とそれ以外の情報とが記録されている場合の部分公開についての規定であり、本件のように請求の対象となっている情報と請求の対象外の情報とが合算されて記録されている公文書を公開すべきか判断するにあたっては妥当しないものであり、公開の原則に戻ってその全部を公開するべきである。

第4 当裁判所の判断
1 まず、原判決は、本件処分二の取消請求における被告を「岐阜県教育委員会」としとて表示しているが、教育長に対する権限の委任等に関する規則[昭和31年12月4日岐阜県教育委員会規則第15号]1条には、県教育長に委任しない教育事務が限定列挙されているところ、公文書公開に関する処分はこの限定列挙された教育事務に含まれておらず、県教育委員会から県教育長に権限委任されていることが認められるから、本件において公文書公開に関する実施機関は岐阜県教育委員会であるが、処分権者は控訴人教育長である。よって、本件処分二の取消訴訟について当事者適格を有するのは同教育長と認められる。そこで、以下、当審で引用する原判決中に「被告教育委員会」とあるをすべて「控訴人教育長」と改める。

2 本件各文書の記載内容等について
 原判決26頁11行目冒頭から37頁6行目末尾までのとおりであるから、これを引用する。

3 争点1(本件条例6条1号該当性の有無について)
(1)本件条例6条1号が、個人に関する情報であって、特定の個人を識別されうる情報を、原則として非公開とする趣旨は、個人のプライバシーを最大限保護する必要があるが、一方では、プライバシーの概念及び範囲が未だ明確となっていないことから、個人に関する情報であって、特定の個人が識別されうる情報については、原則として非公開としたものと解する。そして、本件条例では、県民の公文書の公開を請求する権利を明らかにするとともに、公文書の公開に関し必要な事項を定めることにより、開かれた県政を推進し、もって県政に対する県民の理解を深め、県民と県との信頼関係を増進することを目的とし(1条)、実施機関は、公文書の公開を請求する権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする一方、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない(3条)と定めている。

(2)そうすると、本件条例6条1号の「個人に関する情報」とは、およそ特定の個人が識別されうる全ての個人情報を意味するものではなく、その情報内容が、以下のような情報等との関連において、当該特定個人の権利を侵害するおそれがあるものを指す相関関係概念であると解するのが相当であり、それ以外のものは、同号によって保護される「個人に関する情報」には含まれないと解するのが相当である。
@ 思想・信条・信仰等の個人の内心に関する情報
A 学歴・犯罪歴等の個人の経歴に関する情報
B 所得・財産等の個人の財産状況に関する情報
C 健康状態・病歴等の個人の心身に関する情報
D 家族関係等の個人の家族状況に関する情報

(3)したがって、公務員がその職務の執行としてした行為に関する情報を記録した公文書について、本件条例6条1号の「個人に関する情報」に該当するかどうかについても、前記見解に立って判断すべきである。

(4)そこで、前記見解を前提に、控訴人らが公文書の公開をしないとした部分が本件条例6条1号に該当する情報に当たるか否かについて、本件非公開情報の類型ごとに検討する。

  @ 懇親会等の出席者の職名及び氏名について
    ア 控訴人らが本号に該当するとして非公開とした部分は、前記「争いのない事実」欄記載(原判決)のとおり、企画経済委員会食糧費文書のうち、出席者名簿中の職名及び氏名欄、文教・警察委員会需要費文書のうち、ア 経費支出伺書、支出金調書の添付書類中の私立学校職員の職氏名、イ 懇親会に出席した職員等の職名、ウ 懇親会に出席した職員等の氏名である。

    イ 前記認定(原判決31頁2行目冒頭から同4行目末尾まで及び同37頁3行目冒頭から同6行目末尾まで)のとおり、懇親会等は、いずれも岐阜県の公的行事として開催されたものであり、その出席者が公務員である場合には、公務員の職務の遂行として、公務員以外のものである場合には、その者の所属する地位、団体の立場で、それぞれ懇親会等に出席して、情報交換し、懇親したいという情報が明らかになるものであるが、それ以上の情報が明らかになるものではない。したがって、このように明らかになる情報の公開により、当該出席者個人の権利、利益を侵害するおそれがあるとは通常は認められないから、「個人に関する情報」に該当しないというべきである。

    ウ 控訴人らは、公務員の氏名等は、公務員の私生活における個人識別のための基本情報としての性格も有しており、これを公開した場合には、公務員の私生活に影響を及ぼす可能性が大きいから、公務員の氏名等を公開すべき規定が条例上存しない限り、公開すべきでない旨主張するが、公務員の職名及び氏名は、当該公務の遂行者を特定するとともに、責任の所在を明示するために表示されるものにすぎず、特段の事情のない限り、これのみをもって当該公務員の個人の権利、利益を侵害するおそれがあるとは認められないし、前記特段の事情の存在に関する具体的な主張立証もない。
 また、控訴人らは、本件条例6条1号ただし書きハの規定は、旧条例にはなく新条例により新設されたものであり、新条例附則3項及び不遡及の原則によると、公務員を含む個人の職名及び氏名は「特定の個人が識別される情報」として公開すべきでない情報に該当する旨主張する。なるほど、条例改正が審議された平成9年第5回岐阜県議会定例会の県側説明及び有識者で構成される岐阜県情報公開・個人情報保護問題研究会議の同年10月付け「岐阜県における情報公開制度及び個人情報保護制度の基本的在り方」と題する答申において、公務員を含む個人の職名及び氏名は旧条例の文理解釈上は非公開事由たる個人情報に該当し、これを公開するには条例の改正によるしかないとされ、本件条例6条1号ただし書きハの規定が新条例により新設されたことが認められる(乙1号証の1ないし5、2号証)。しかしながら、本件条例の定める公文書公開請求権は本件条例によって具体的権利性を認められたものであるから、その解釈に当たっては、本件条例の目的(1条)並びに解釈及び運用の基本(3条)を前提として、その規定の意味するところを合理的に解釈すべきであり、単に文理解釈をもって足りるものではない。そして、公務員を含む個人の職名及び氏名が本件条例6条1号本文の情報に該当するかどうかについても、このような見地から前記のとおり解釈されるのであって、条例改正により同号ただし書きハの規定が新設されたかどうかにより左右されるものではないというべきであるから、この点に関する控訴人らの主張も採用することはできない。
  A 視察への出張者の職名及び氏名
    ア 控訴人らが本号に該当するとして非公開とした部分は、前記「争いのない事実」欄(原判決)記載のとおり、文教・警察委員会旅費文書のうち、ア出張した職員の職名、イ 出張した職員の氏名である。

    イ 前記認定(原判決33頁10行目冒頭から同11行目末尾まで)のとおり、同視察は、いずれも県の職員が公務員の職務の遂行として行ったものであり、視察に同行することはまさに公務にほかならず、視察に同行したという情報が明らかになるものであるが、それ以上の情報が明らかになるものではない。したがって、このように明らかになる情報の公開により、当該出席者個人の権利、利益を侵害するおそれがあるとは通常認められないから、「個人に関する情報」に該当しないことは前記懇親会等の出席者の職名及び氏名に関する判断と同様である。

4 争点2(本件条例6条4号該当性の有無について)
(1)岐阜県作成の「情報公開事務の手引」(平成7年3月版、平成10年3月改訂版)によると、「法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」とは営利を目的とするかどうかを問わず、事業活動に関する一切の情報(事業内容、事業所、事業用資産、事業所得に関する情報等)をいうものとされ、「競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの」については、生産技術、営業、販売等に関する情報であって、公開によって事業活動が損なわれるおそれのあるもの、経営方針、経理、金融、人事、労務管理等の内部管理に関する情報であって、公開によって事業運営が損なわれるおそれのあるもの、公開によって社会的評価、信用が損なわれるおそれのあるものを例示している。

(2)そこで、前記趣旨を前提に、控訴人らが公文書の公開をしないとした部分が本件条例6条4号に該当する情報に当たるか否かについて、本件非公開情報の類型ごとに検討する。

  @ 懇親会等の債権者名等について
 当裁判所も、懇親会等の債権者名等の情報が本件条例6条4号に該当しないと判断するが、その理由は、原判決50頁4行目末尾に行を改めて次のとおり付加するほか、原判決46頁11行目冒頭から同50頁7行目末尾までのとおりであるから、これを引用する。
 「また、控訴人らは、本件条例6条4号ただし書きニの規定は、旧条例にはなく新条例により新設されたものであり、新条例附則3項及び法の不遡及の原則によると、事業者(債権者)の氏名又は名称、住所又は事務所若しくは事業所の所在地、電話番号その他これらに類する情報は原則として公開すべきでない情報に該当する旨主張するが、公務員を含む個人の職名及び氏名が本件条例6条1号本文の情報に該当するかどうかについての解釈と同様に、債権者名等の情報が本件条例6条4号本文の情報に該当するかどうかについて、条例の目的、解釈及び運用の基本を前提として、その規定の意味するところを合理的に解釈すべきであって、同号ただし書きニの規定が新設されたかどうかにより左右されるものではない。」

  A 債権者の印影及び口座番号等について
    ア 控訴人らが、本号に該当するとして非公開とした部分は、前記「争いのない事実」欄(原判決)記載のとおり、文教・警察委員会需要費文書のうち、支出負担行為兼支出金調書、支出金調書及び支出負担行為書の添付書類中の債権者に係る印影及び債権者口座番号等である。

    イ そこで検討するに、債権者発行の請求書等は、取引関係のあった顧客に対して交付されるものであるから、請求書等に記載されていることがある債権者の印影及び口座番号等の情報も、一定範囲の者に知られ得る情報であり、事業者にとっては当該情報が公開されることを望まない場合もあり、内部管理情報に該当する場合もありうる。しかし、懇親会等に飲食物を提供する飲食業者は、特別の飲食業者でない限り、不特定多数の顧客に飲食物を提供することを業とするのが一般であって、その口座番号は提供した飲食代金の請求のために、請求書において全ての顧客に公開している情報であると認められる。また、請求書や領収書に押捺されている飲食業者の印影も、代金請求又は受領の際に、債権者の同一性を確認するための手段として、同様に全ての顧客に公開していると推認される。そうすると、一般の飲食業者は、飲食代金の振込先としている口座番号や印影を、第三者に知られることを一般的に拒絶しているとはいえず、飲食業者の営業活動上の内部情報に該当するとは認められないから、これを公開することにより、当該法人等の事業活動、社会的評価、信用が損なわれるおそれがあるとはいえない。なお、本件における債権者が、その口座番号や印影を第三者に知られることを一般的に拒絶している特別の飲食業者である旨の主張立証はない。

    ウ この点、控訴人らは、債権者の印影は無関係な第三者に知られた場合は偽造を許すための危険をはらんでいる旨主張するが、このような偽造等による不正行為は一般に相当頻度の低い出来事であるし、不特定多数の顧客に対する飲食代金の請求書、受領書の発行に当たり印影は一般的に公開されているとみられることは前記認定のとおりであるから、本件で公開することにより、不正行為が誘発される危険性が高くなるといった事態も認め難い。

    エ 以上によれば、債権者の印影及び口座番号等は本件条例6条4号に該当する情報に当たらないというべきである。
 なお、債権者の印影及び口座番号等の情報は原判決別紙文書目録二記載2の(需要費に関する公文書)(二)の文書のみならず、同目録一記載2の(四)の文書にも記載されていることが推認されるが、同文書も本件条例6条4号に該当する情報に当たらないことは前記認定のとおりである。

5 争点3(合算情報の取扱い)について
(1)控訴人教育長が、旅費は合算して関係書類が作成されているため、これらを併せて公開すると、すべて公開請求の旅費であると混同されるとして非公開とした部分は、前記「争いのない事実」欄(原判決)記載のとおり、文教・警察委員会旅費文書のうち、支出負担行為兼支出金調書及び支出内訳書、旅費(合算)請求書中の公開請求された同行職員の旅費以外の情報、及び、同行職員の旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報である。

(2)まず、請求に係る同行職員の旅費以外の情報につき、控訴人教育長が公文書の公開をしないとしたことは許されるか否かについては、当裁判所もこれを肯定すべきものと判断するが、その理由は原判決54頁10行目冒頭から同57頁7行目末尾までのとおりであるから、これを引用する。

(3)次に、同行職員の旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報につき、控訴人教育長が公文書の公開をしないとしたことは許されるか否かについて検討する。

  @ 本件条例8条の規定の趣旨は、請求に係る公文書の一部に6条所定の公開除外事由がある場合に、これを理由として、当然に全体を公開しないことができるとすべきではなく、これらの情報を容易に分離することができるとは、請求の趣旨が損なわれない限り、公開可能な部分は公開すべきであるが、他方、これらの情報を容易に分離することができなかったり、又は、分離により請求の趣旨が損なわれたりするときには、公文書の部分公開をすることができなくてもやむを得ないという点にある。すなわち、公文書に6条各号のいずれかに該当する公開除外事由情報が記録されているなどのため、公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合に関するものである。

  A しかしながら、本件で公開請求された同行職員の旅費情報に本件条例6条所定の公開除外事由が存しないことは控訴人教育長において争わないところである(記録上明らかである。)。そうすると、本件公開請求の対象とされている情報と対象外と思われる情報とが混在し、容易に分離できないとすれば、対象外と思われる情報に非公開事由が認められない限り、全体の情報を公開すべきであり、対象外と思われる情報と一体化していることを理由として、本件公開請求の対象とされている情報を公開しないことが許されるものではないというべきである。よって、同行職員の旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報に非公開事由を認めることはできない。

6 以上によると、本件処分一、二のうち、原判決別紙文書目録二記載の2の旅費に関する公文書の(三)の非公開部分中の「同行職員の旅費以外の情報」を非公開とした処分に違法はないが、その余についてはいずれも非公開事由が認められないから、違法として取り消されるべきである。

7 なお、被控訴人らの附帯控訴の趣旨2項中「控訴人教育長がした原判決別紙文書目録二記載1の公文書の部分公開決定処分のうち、同目録記載2の旅費に関する公文書の(二)の口座名義の非公開決定部分を取り消す。」旨の申立て部分は、原審以来本訴請求の対象になっていないことが記録上明らかであり、この部分の取消しを求める請求は請求の拡張に当たるが、この請求は既に出訴期間を徒過していることが明らかであるから、不適法であるといわざるをえず、却下を免れない。

8 結論
 以上の次第で、原判決中被控訴人ら勝訴部分は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないから、これを棄却し、本件附帯控訴に基づき、結論を異にする原判決中被控訴人ら敗訴部分のうち原判決中別紙文書目録二記載の2の旅費に関する公文書の(三)の非公開部分中の「同行職員の旅費と、それ以外の旅費とが合算された情報」及び同目録記載2の需要費に関する公文書の(二)の「債権者に係る印影及び債権者口座番号等」の非公開決定部分を取り消し、その余の附帯控訴のうち、原判決別紙目録二記載2の旅費に関する公文書の(二)の口座名義の非公開決定部分の取消を求める部分を却下し、その余の部分は棄却することとし、主文のとおり判決する。

名古屋高等裁判所民事第4部

裁判長裁判官 小川克介
   裁判官 黒岩巳敏
   裁判官 永野圧彦