岐阜地方裁判所民事部 御中
                           2002年2月4日
 訴      状

      原告 寺町知正 外10名 (目録の通り)
    TEL・FAX 0581−22−2281
    被告 岐阜市薮田南2−1−1 
     岐阜県知事梶原拓

   被告 岐阜市御手洗390−20
                     梶原拓

                被告 各務原市・・・・・・・・
                     松本忠司

                被告 東京都千代田区霞ヶ関2−1−3
                     安藤恒次
  (国土交通省住宅局住宅総合整備課住環境整備室)

県営北方住宅建設費差止・返還請求事件
 訴訟物の価格 金950、000円
 貼用印紙額    金8、200円
予納郵券代金   金9、000円

         請 求 の 趣 旨

1 被告岐阜県知事梶原拓は、県営北方住宅中北ブロック建設事業に関して、金80億円を超えて、公金を支出し、契約を締結もしくは履行し、債務その他  の義務を負担してはならない。

2(1)被告岐阜県知事梶原拓は、県営北方住宅中北ブロック建設事業の基本設計委託料1億1550万円を支出してはならない。
 
(2)基本設計委託契約の履行完了に対して公金を支出した場合、被告梶原拓、同松本忠司は、岐阜県に対し、連帯して、金1億1550万円及び当該支出の日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。

3(1)被告岐阜県知事梶原拓が、県営北方住宅中北ブロック建設事業の基本計画策定委託料相当を返還していない関係職員に対して、損害賠償命令を発しないことは違法であることを確認する。
 
(2)被告梶原拓、同松本忠司、同安藤恒次は、岐阜県に対し、連帯して、金500万円及びそれに対する本訴訟送達の日から完済まで年5分の割合による金員を支払え。

4 訴訟費用は、被告らの負担とする。
 との判決、ならびに第3項(2)につき仮執行宣言を求める。

         請 求 の 原 因
第1 当事者
1 原告は肩書地に居住する住民である。
2 被告岐阜県知事梶原拓(以下、被告知事という)は岐阜県の執行機関である。
3 被告梶原拓は89年施行の岐阜県知事選挙において当選し、再々々選され、現在もその職にある。
4 被告松本忠司は01年度より岐阜県基盤整備部住宅課長の職にある。
5 被告安藤恒次は00年度の同住宅課長であり、後、国土交通省に復帰した。

第2 監査請求前置
1(1) 原告らは、2001年11月9日付けで法第242条1項に定める監査請求を行なった。その要点は次のようである。
 「県営北方住宅中北ブロック建設事業について、『当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測される場合』である。よって、以下を請求する。
@随意契約の違法及び無効を確認し改善措置をとるよう勧告すること、
A基本設計委託料1億1550万円の支出を差し止めるよう勧告すること、
B現計画の本体工事費のうちの30億円の支出を差し止めるよう勧告すること、C本体工事費が110億円でない場合は45万円/坪を超える額の支出を差し止めるよう勧告すること」

 (2) これに対して、監査委員は2002年1月7日付けで、却下、棄却すると通知した(甲第1号証)。監査結果の要点は次のようである。
 「BCの差し止めについては、現在予算計上もされていないから『相当の確実さをもって予測される』とは言えないから却下する。
 @Aについては、画一的に一般民間分譲マンションと比較することは妥当でなく、設計内容は公営住宅法の趣旨に反せず、会計規則違反もなく、随契には合理的理由があるから、棄却する。」

2(1) 前記監査請求の後に、県が秘匿していた下記支出が明らかとなったことで、原告らは、急遽01年11月28日付けで追加の監査請求を行なった。その要点は次のようである。
 「北方住宅中ブロック再生・活用調査業務委託契約(00年6月15日付け)に対する北方再生調査委託契約委託料支出(2001年4月2日付け)は、違法で無効かつ委託の目的を逸脱した契約に対する根拠を欠く県費支出で、県の損害であるから、知事と住宅課長は金500万円を返還するよう勧告を求める。」

 (2) これに対して、監査委員は2002年1月7日付けで、棄却すると通知した(甲第2号証)。監査結果の要点は次のようである。
 「南ブロック建設に続いて北ブロックの基本計画を作成するものだから、南ブロック設計者と契約締結することは合理的理由があり、居住者アンケートも取り入れられているし、リフォームの場合との費用対効果も検討して建替に決めたから、請求には理由がない」

3 監査委員の「予算計上がないから差し止め事案に当たらない」との論理は、単年度主義の地方公共団体の予算制度においては差し止めができないというに等しいものであるから、住民監査請求・住民訴訟において差止め手続きを定めた趣旨を否定するもので、到底許されるものではない。
 事業が行われることは、基本計画策定(00年)及び基本設計(01年)を委託していることに明白である。しかも国に将来の建築年度・戸数・面積等を示して補助金を得ているのである。
 もし、現在の段階で事業が行われない可能性が存するというなら、基本計画策定委託費500万円、加えて、まもなく3月に支払われるであろう委託料1億1550万円は、無駄な支出をしたものとして返還の義務が生ずることをいうのと同じである。(なお、事業の確実性については第8の1で述べる)
 また、随意契約について、監査委員の論理は、一旦、基本計画を策定した当該事業者は、次なる基本設計、続く実施設計、そして、工事中の設計監理業務の全てを(当然、随意契約により)担うのことが合理的かつ適法である、ということであって地方自治法の契約に関する規定の趣旨目的を否定するものに他ならない。 しかも、本件監査は当該事業課の言い分をそのまま写しただけであって、独自に検討した気配は全くうかがえない。
 よって、このような監査を是認することはできないら、原告は提訴に及んだ。

第3 公営住宅法の趣旨・目的
1 戦後の住宅難の中で、1951年(昭和26年)、地方公共団体が公営の賃貸住宅を建設して低所得者層に提供するため、公営住宅法が制定された。全国で約300万戸が建設され、現在では借家の13%(209万戸)を占めている。 公営住宅は、「住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で住宅を提供すること」が第一の目的であることは、明白である。

2 公営住宅法第1条《目的》
 「この法律は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする。」とされるとおり、その趣旨目的が明確である。
 その他、以下のとおりである。
 第3条《公営住宅の供給》「地方公共団体は、低額所得者の住宅不足を緩和するため、公営住宅の供給を行わなければならない。」
 第6条《計画》「県住宅建設5箇年計画に基づいて行わなければならない。」 

第8条《災害の補助特例等》「低額所得者に」
 
第9条《借上又は改良に係る補助》「低額所得者に転貸するため」
 
第16条《家賃の決定》「家賃は、入居者の収入及び当該公営住宅の立地条件その他に応じ、かつ、近傍同種の住宅の家賃以下で定める。」

 第22条《入居者の募集方法》「公募しなければならない」

 第23条《入居者資格》「(1)同居親族がある、(2)収入が定める額を超えない、(3)現に住宅に困窮していることが明らかな者である。」
 
第25条《入居者の選考等》「入居申込者数が公営住宅の戸数を超える場合は、住宅に困窮する実情を調査して入居者を決定しなければならない。」

 第29条《収入超過者に対する措置等》収入超過者の場合「明け渡し義務」があり、「期限が到来しても明け渡さない場合には近傍同種の家賃の額の2倍に相当する額以下の金銭を徴収することができる。」

3 公営住宅法施行令においては、次のとおり、住宅がない者、住宅に困窮している者等を対象としていることが、さらに明瞭である。
 第6条《法第23条の入居者資格》
   (1)50歳以上、(2)身体障害者、(3)戦傷病者、(4)原子爆弾被爆者、(5)生活保護者、(6)(帰国)5年以内の者
 第7条《入居者選考基準》「入居者選考は次の1に該当する者のうちから行う。
   (1)住宅以外の建物若しくは場所に居住し、又は保安上危険若しくは衛生上有害な状態にある住宅に居住している者、
   (2)他の世帯と同居して著しく生活上の不便を受けている者又は住宅がないため親族と同居することができない者、
   (3)住宅の規模、設備又は間取りと世帯構成との関係から衛生上又は風教上不適当な居住状態にある者、
   (4)正当な事由による立退きの要求を受け、適当な立退き先がないため困窮している者、
   (5)住宅がないために勤務場所から著しく遠隔の地に居住を余儀なくされている者又は収入に比して著しく過大な家賃の支払を余儀なくされている者、
   (6)前各号該当の者のほか現に住宅に困窮していることが明らかな者

第4 公営住宅法改正の趣旨
1 公営住宅法は、住宅に困窮する低額所得者の居住の安定と居住水準の向上を図ることを目的に51年(昭和26年)に制定されたが、高額所得者の長期居住などにより、高齢者や障害者など真に住宅に困窮する者に対して必ずしも的確に供給されているとは言い難い状況が発生している。このようなことから、真に住宅に困窮する者に対して良好な居住環境を備えた公営住宅の的確な供給を図るため、96年(平成8年)5月に法制定以来の抜本的な改正がされた。
 法改正の要点は以下のようである。

2 高齢者・障害者には収入基準を緩和
 入居する際の収入要件について、高齢者や障害者は、収入の多寡に関係なく、民間の賃貸住宅がなかなかみつからない実情があるので、収入による制限基準を引き上げ、さらに、老人等の世帯(単身も可)の年齢を50歳以上の者(従来は男60歳、女50歳)と緩和した。

3 優良賃貸住宅との役割分担
 一方、それ以外の世帯については収入基準を引き下げた厳しくした。これは、93年(平成5年)に制定された中所得者層により良質な賃貸住宅を安く供給しようとする特定優良賃貸住宅の供給の促進に関する法律の適用あるからである。
4 従来の家賃の算定は、公営住宅の建設にかかった費用をもとに負担の限度額が算出されていた。それを、基本的には、入居者の収入に応じた家賃とすることにした。

5 近傍同種の住宅の家賃が、公営住宅の家賃の法律上の上限となる。

6 買い取り、借り上げも可となる
 さらに広く供給するために、「建設」のみに限らず、民間や公社・公団が新設したりすでに所有している住宅をも利用、民間住宅等をも公営住宅として買い取ったり、あるいは借り上げることもできるようにした。

7 不正入居者などの明渡し措置を強化
 公営住宅はあくまで住宅に窮する低所得者のための住宅あるため、収入が多くなったり、あるいは所得などを偽って入居した場合は、明け渡さねばならない。これを強化し、罰則も規定した。

第5 岐阜県の規定等
1 前記法令を受けて制定された岐阜県県営住宅条例(昭和35年3月24日条例第2号)(以下、「本件条例」という)は、第1条《趣旨》「公営住宅法に基づき県が建設する公営住宅(以下、「県営住宅」という)及び共同施設の設置及び管理については、公営住宅法及び同法施行令に定めるもののほか、この条例の定めるところによる。」のとおり、法及び令の趣旨目的等が本件の県営住宅に適用されているのである。

2 前記条例の具体的運用として被告知事が作成し、広く配布している県営住宅ガイドにおいても、「県営住宅の目的は、住宅困窮者のために低廉な家賃で住宅を供給」「県営住宅は、県民生活の安定と福祉の増進を図るため、低廉な家賃で賃貸する住宅」であることを明示している。

第6 本件北方住宅を巡る状況
1 法第1条《目的》で「住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸する」とされるとおり、「住宅困窮者のために低廉な家賃で住宅を供給し、県民生活の安定と福祉の増進を図る」(県営住宅ガイド)というのが県営住宅の目的である。即ち、通常一般程度の公営住宅の確保が本旨であって、住宅であるから居住性が最も重視され、同時に貴重な税金を原資とする公共事業であるから経済性も最も重視されるべきである。

2 (1)しかし、被告梶原拓らは、「21世紀に向けた居住様式を提案し、市町村の公営住宅のモデルとなるものとする。また、素材の使い方、建築技術における新しい技法を提案し、他の先導モデルとなるものを造る」(完成の記者発表レジメ/00年3月30日)という方針で前期南ブロックの設計・建設を行った。
 (2)さらに、後期中北ブロックについても、「『新しい居住空間の提案』をめざした現・ハイタウン北方の方針をさらに進める」「3棟構成で、それぞれ別の建築家が設計する。3棟をデッキでつないだり、1棟の中の住居一つひとつを別々の様式で造ったりと、ざん新な構想がでている」(01年3月31日/新聞報道)との方針である。

 (3)「中北ブロックでは、南ブロックでの経験をさらに3次元的、立体的に発展させた方法を提案している」(北方住宅中北ブロック(仮称)基本設計プロポーザル実施要領書/1頁後段/01年5月)

3 (1) 熊本県では88年から、当時の細川知事のもと、アートポリス計画が進められ、磯崎新コミッショナーの指名のもと、内外の建築家の設計によって、99年までに50以上のさまざまな公共建築が県内各地に造られた。91年には、山本理顕氏(建築家)によって、県営保田窪第1団地(戸数110)が造られた。建築に携わる人々の間では設計者の「作品」としての評価が流通する一方、マスメディアなどでは「生活を無視したデザイン重視の計画」というような評価が一般化している。

 (2) 「調査した学生たちの表現を借りれば、『当事者たちにとって、今から振り返っても興奮を持って想起されるようなお祭りだった。ただし、このお祭りに参加できたのは役人と、設計者と、建築ジャーナリズムだけであった』。住民不在のお祭りだった。自己評価も業界評価も、住宅が完成したとき終わっている。しかし、住み手の生活はそこから始まる」(建築学会「建築雑誌」00年10月号5頁/山本理顕氏と上野千鶴子氏(東京大学大学院研究科教授)の対談における上野氏の意見)。

 (3) これに続くのが、本件北方住宅である。熊本県営保田窪団地は、公営の住宅としては明らかに失敗というしかないが、この前例を生かしていない。しかも、熊本の場合は、バブル時代に進められたものなのである。

4 (1) 「私は、80年代後期、都市の集合住宅の設計のプロデュースする機会があった。福岡県のネクサスU(91年)は小規模の集合住宅。そのころから、同時に熊本アートポリス計画のコミッショナーも努め、これは若い建築家たちを熊本県や市町村の公共建築を担当するべく推薦する役割であったが、ここでも幾つかの住宅団地にかかわることができた。山本理顕の保田窪第1団地(91年)は、コミューナルな都市空間をラディカルに提案しており、賛否両論であった。・・・・私がクライアントである岐阜県知事に提案したのは、・・・・常々ユニークな行政手段をもちいていた梶原拓知事は、私の提案を即時に了承した。1994年のことであった。」(「建築ジャーナル」99年12月号NO.953/「磯崎新 ’68年の結末 『計画』概念の崩壊 岐阜県北方住宅」)

 (2) 「静岡県が7億5千万円で静岡市の県立舞台芸術公園内に建設した小劇場『楕円堂』が、消防本部と保健所の立ち入り検査で劇場としての使用中止を求められた。楕円堂は磯崎新氏の設計で97年3月に完成し、演劇公演の会場となっていた。立ち入り検査により、木造の屋根や非常時の脱出通路の確保などに問題があるとして、劇場としての使用を中止するよう求められた。」(99年12月25日/産経新聞東京本社版)

 (3)「icc online インタビュー・シリーズ/磯崎新/建築家、都市デザイナー/磯崎新アトリエ主宰/「人間が入らなきゃいいんです。人間が入ってさえいなければ建築の型は変えることができる。」(インターネット上のicc online)
5 00年に完成した南ブロックでは、気候対策としても重大な欠陥が指摘され、「夏は暑く、冬は寒い住宅」「冬は北側の網鉄板のラジエター効果で冷えっぱなし」、「変形だから隙間風が吹く」などの声がでている。
 南ブロック設計者の一人は現地北方の気候を理解せずに設計した旨を述べている。岐阜に住んでいない建築家に、岐阜の気候風土は理解できないのである。

6 中北ブロックの設計に際して、南ブロック住宅入居者のアンケート(01年1月実施)を無視している。快適な住環境整備という公営住宅の本来目的の達成のためには、南ブロックの反省、住民の声等が反映されなければならない。
 被告知事は、「中ブロックの建替計画に資するとともに、シンポジウムに活用するため 岐阜県住宅課」と記して、南ブロックの居住者アンケートを01年1月の冒頭に実施した。居住者アンケートはごく簡易な調査項目であり、4頁ずつで、4棟ごとに質問が少しずつ異なる。しかし、この集計は実質的になされず、たった4枚の『まとめ』のメモだけつくられた(第3号証)。
 社会調査の専門家は、この集計結果について「これは『集計』したものではない」という。
 アンケート結果は、結局、前記3月22日のシンポでは、「当日開会前にメモとして司会者に『まとめ』を一組渡した」だけだという。アンケートの回答が極めて不評だったから放置した、と考えるのが合理的である。
 中北ブロックの基本設計委託は01年8月28日に磯崎新アトリエらと随意契約されたが、委託仕様書の中で、アンケート集計が明示されている。
 この事情について、県住宅課は、「アンケートを反映するように指摘されたので、委託にいれた。今から、どの程度反映できるかは不明」という。
 結果が予想以上に不評であったから、回収後の集計を放棄し、基本設計委託のための作業を進行させたことに疑いない。

第7 本件事業費支出の違法性
1 前記第6の2のような意図で高額な住宅を建設するのでなく、@通常の建設費におさえて、もし必要であれば、A同じ経費で建設戸数を増加させること、あるいは、B一戸当床面積を増やすこと、これが公営住宅法や本件条例に規定される県営住宅の建設目的に合致するものであるのは明白である。

2 公営住宅法6条《公営住宅の計画的整備》「公営住宅の整備は、住宅建設計画法第6条第1項に規定する都道府県住宅建設5箇年計画に基づいて行わなければならない。」とされている。しかし、被告知事は、「岐阜県第8期住宅建設5箇年計画(平成13〜17年)」を02年1月まで作成していなかったから、本件基本設計に着手したことは、整備根拠を欠く。

3 「家賃は、近傍同種の住宅の家賃以下で定める。」(同第16条《家賃の決定》)とされているのであるから、建設費用等も周辺の民間の実態との乖離は許されていない、というべきである。

4 第6で述べたような知事である被告梶原拓事や訴外磯崎新ら設計者らの個人的なの趣味の実現・価値観の表現のために、県民の貴重な税金を費やすことは許されない。
 しかも、県民の生活の現状に照らせば、なおさらである。

5 以上1〜4のとおり、本件北方県営住宅の「中北ブロック」建設事業に、公営住宅に不要な意図の実現を図り、過剰かつ異常に高額な建設費をつぎ込むことは、公営住宅法、本件条例の趣旨・目的を著しく逸脱し、違法である。

6 自治体の会計原則違反
 地方公共団体は、その事務を処理するに当たっては、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(地方自治法第2条14項)、経費はその達成するために必要且つ最小の限度をこえて支出してはならない(地方財政法第4条1項)とされているが、本件のように放漫な支出は、両規定に違反する。

7 公営住宅法、本件条例について「素材の使い方、建築技術における新しい技法」の導入、「新しい居住空間の提案」「南ブロックでの経験をさらに3次元的、立体的に発展させた方法を提案している」(前記第6の2)等を目的として設計・建設することができると解釈し、運用することは、「地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づいて、これを解釈し、及び運用するようにしなければならない」(地方自治法第2条12項)との規定に違反する。

8 公営住宅法、本件条例に基づく本件県営住宅建設について、「素材・・・」の導入、「新しい・・」「南ブロック・・」(前記第6の2)等を目的としてこれを設計・建築することは、「地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない」(地方自治法第2条16項)との規定に違反する。

9 磯崎アトリエらとの随意契約は違法であり、違法な契約は地方自治法第2条16項及び17項により無効である(第9で詳述する)。

10 国も県も財政は極めて厳しいから、経費削減の社会的要請は一層強い。
 県営住宅と美術館とは明らかに違う。本件のような、趣味的かつ放漫な建設方針に基づいて、基本的建設費に上乗せされることになる浪費的支出は、そもそも許されない。
 加えて、県民の生活が厳しく、快適な住環境整備も未だ不十分な岐阜県の現状からすれば、公営住宅に関する社会通念からも許されないというべきである。

11 公営住宅法等からは前記1〜5、地方自治法等からは前記6〜10のとおりであるから、本件北方県営住宅の「中北ブロック」建設事業に、必要以上の支出を決定づける計画を立案すること、続いて建設費の支出を重ねることは許されない。

第8 本件請求の趣旨1の額の計算
 民間マンションの事業者は、厳しいコスト計算をしつつ固有の建築としての特徴を発揮させ、市場経済の中で流通させている。同様のことが行政にできない理はない。以下に示す部分が、支出の根拠を欠き、あるいは支出は許容されないから、原告が違法で、岐阜県の損害を生ずるとして差し止める額である。

1 中北ブロックの事業費に関して、被告知事は01年8月16日付けで国に補助金申請書を提出、この中には「敷地面積 62891u」、「年度別整備戸数」等も明示され、基本計画の図面も添付されている。
 そして、申請と同日8月16日付け、国土交通省中部地方整備局長名で被告知事に補助金交付決定が通知された。
 これを受けて、被告知事は、同年8月28日付けで基本設計委託業務を1億1550万円で磯崎アトリエ・県内設計事務所JVと契約した。この委託業務仕様書等には「建設の条件 工事費 約110億円程度」の記載がある。
 また、上記契約に先行して実施された、前記磯崎アトリエ・県内設計事務所JVの候補募集要綱(01年5月付け)にも、「総概算事業費 約110億円以内(消費税及び地方消費税相当額を含む)」と記載されている。
 即ち、当該事業の実施は確実な計画であり、当該事業費は約110億円である。
2 差し止め額算定の基本は、「設計費、監理料、外溝等を除いた純粋な本体工事費に関しての、民間マンションの建設単価」との比較である。
 県営北方住宅の南ブロックの全体事業費は、次のとおりである。
      基本設計料    6281万円 (構成比 0.68%)
      実施設計料  2億4737万円 ( 同  2.67%)
      工事監理料  1億4010万円 ( 同  1.52%)
      本体工事費 79億2877万円 ( 同 85.78%)
      外溝等    8億6427万円 ( 同  9.35%)
      全体事業費 92億4332万円 ( 同 99.97%)

3 (1) 民間の場合、建設経費試算のために用いる面積には、通常、バルコニーのうちの建築基準法で建築面積として認定する部分を含めているところ、本件においては、設計の詳細の資料が原告側にはないから、本件ではバルコニーの面積の加算に関して「極めて多めに見て『半分』加える」こととする(この結果として、“建設単価が安く”計算される)。

 (2) 南ブロック全4棟の住棟合計床面積(430戸)は、合計床面積は37747u、住戸部分の面積は31121u。この差はバルコニー部分にある、とみれる。よって、本件においては、両者の中間の面積、34434uを基本とする。

 (3) 中北ブロック全4棟の住棟合計床面積(620戸)は「北方住宅 北ブロック再生・活用調査報告書(H12年度作成版)/8頁」に示されている。合計床面積は50014u、住戸専用部分の面積は43032u。この差は、バルコニー部分にある、とみれるから、前記と同様に考えて、両者の中間の面積、46523uを基本とする。 

4 民間の分譲マンションの本体工事費は、概ね45万円/坪でかなりな水準のものができ、50万円/坪なら、相当豪華な分譲マンションができるといわれる。また、賃貸マンションは、もっと低い本体工事費である。
 このことから、県営住宅建設においても、民間相場の「45万円/坪」を基準とすることが正当かつ許容されるものである、というべきである。
 つまり、本件における許容工事費は、
 45万円×46523u÷3.3=63億4405万円である。

5 南ブロックの全体事業費に占める本体工事費の割合、即ち前記1の本体工事費欄の「約85.78%」を中北ブロックの事業費約110億円に適用すると、94億3580万円が中北ブロックの本体工事費と試算される。
 よって、約94億円を中北ブロック本体工事費とみて良い、といえる。
 南ブロック全4棟の基本面積は34434uだから、本体工事費は
 792877÷34434u=23.0万円/u=76.0万円/坪となる。 一方、中北ブロックの基本面積46523uだから、 本体工事費は
 940000÷46523u=20.2万円/u=66.7万円/坪とみれる。 南ブロックに比して中北ブロックは外形的には単純であること等考えると、この額の比較からも、約94億円万円を中北ブロックの本体工事費とみることは、不自然ではない。
 なお、事業費110億円と本体工事費94億円との差額16億円は諸々の経費であり、この差額16億円は、華美な建築にしても、シンプルな建築にしても、それほどの相異なく必要な部分(経費)とみれる。

6 即ち、前記4の63億4405万円に前記5の16億円を加えると約80億円となる。
 よって原告は、本件において正当な支出として許容される基準額は80億円である、と判断する。
 このことから、本件請求の趣旨1の「県営北方住宅中北ブロック建設事業に関して、金80億円を超えて、公金を支出し、契約を締結もしくは履行し、債務その他の義務を負担してはならない。」が導かれる。

7 予備的主張
 もし、本体工事費が94億円でない場合も、少なくても本体工事費が民間相場の「45万円/坪」を超える支出については、県の損害となるものとして差止すべきとする額である。

8 現時点における差し止め額の計算
 中北ブロックの現在の計画において本体工事費80億円を超える建設費については、県民の税金で賄う必要はない。敢えて南ブロックのような特殊な建築とするなら、当該経費増の部分は、被告梶原拓や設計者らの個人的な趣味の実現として、自ら支払うべきである。
 つまり、中北ブロックにおいて、45万円/坪を超える「21.7万円/坪」が浪費的支出というべきであるから、
 21.7万円×46523u÷3.3=30億5924万円
 全体工事費が概算であることから、本件においては、過剰な部分は30億円とみれるから、本件訴訟において、違法であって県の損害が生ずるとして差止すべき額は、現時点で予定する事業費110億円のうちの30億円であるともいえる。 なお、当然ながら、前記5の全体工事費94億円から前記4の約63億4405万円を減じても、約30億円である。

第9磯崎アトリエとの随意契約の違法性1 入札について
 (1) 岐阜県は、事業を委託発注等する場合の契約について定め(岐阜県会計規則第125条)、まず一般競争入札を規定している(岐阜県会計規則第109条)。

 (2) 指名競争入札の場合(同会計規則第137条)、発注する事業毎に入札参加資格者名簿の中から選定基準に基づいて指名した5人以上により競争入札を行う方式(同規則137条3項)を採用している。実際に、指名競争入札を行うに当たって、多くの自治体では入札参加資格を有する業者を予め登録させ、その入札参加資格登録業者を一定の基準で格付けし(格付等級制)、個々の工事に見合った業者の中から指名業者を選定しており、岐阜県でも、発注する工事の種類ごとに業者登録をし、業者の多い工種については格付等級制を採用して、工事に応じて適切な業者を指名しているのである。

 (3) しかし、全国的に業者による談合が発生している中で、岐阜県においては、これを防止するため、様々な工夫をこらし、談合に関する情報があった場合には調査を開始するマニュアルもつくり、実行してきた。

2 随意契約
 (1) 随意契約は、契約の相手方を競争によらず自治体が任意に決定することから、不適正になったり、不公正になったりするおそれが常に指摘されており、その公正さが特段に要求されている。
 地方自治法234条1項は「売買、貸借、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」とし、同条2項は「前項の指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる。」としているが、これは、地方自治法が、普通地方公共団体の締結する契約については、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置づけたうえで、随意契約の形式は、手続が簡略で経費の負担が少なくてすみ、しかも、契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定できるという長所がある反面、契約の相手方が固定化し、契約の締結が情実に左右されるなど公正を妨げる事態を生じるおそれがあるという短所も有することから、同法施行令167条の2第1項は一定の場合に限定して随意契約の方法による契約の締結を許容することとしたものである。

 (2) 随契についての最高裁判例
 地方自治法施行令第167条の2の第1項2号(改正前1号)の「その性質又は目的が競争入札に適しない」とは、「当該契約の性質又は目的に照らして競争入札の方法による契約の締結が不可能又は著しく困難というべき場合や不特定多数の者の参加を求め競争原理に基づいて契約の相手方を決定することが必ずしも適当ではなく、当該契約自体では多少とも価格の有利性を犠牲にする結果になるとしても、普通地方公共団体において当該契約の目的、内容に照らしそれに相応する資力、信用、技術、経験等を有する相手方を選定しその者との間で契約の締結をするという方法をとるのが当該契約の性質に照らし又はその目的を究極的に達成する上でより妥当であり、ひいては当該普通地方公共団体の利益の増進につながると合理的に判断される場合をいうものと解されるところ、右の場合に該当するか否かは、契約の公正及び価格の有利性を図ることを目的として普通地方公共団体の契約締結の方法に制限を加えている同法及び同法施行令の前記趣旨を勘案して、個々具体的な契約ごとに、当該契約の種類、内容、性質、目的等諸般の事情を考慮して当該普通地方公共団体の契約担当者の合理的な裁量判断により決定されるべきものと解するのが相当である(最高裁判所/昭和57(行ツ)第74号/昭和62年3月20日/第2小法廷判決/民集41巻2号189頁)。」とされている。

3(1) 違法な契約は、地方自治法第2条16項及び17項(「前項の規定に違反して行った地方公共団体の行為は、これを無効とする」)により無効である。
 (2) 特別な事情により随意契約する場合、岐阜県会計規則第4章《契約》第4節《随意契約》の第141条において「随意契約をしようとするときは、二人以上の者から見積書を提出させなければなない」とされている。

 (3) このように、自治体の契約、特に随契に関しては、制度の宿命として不正の温床ともなり得るからこそ、手続き上制限を受けているのである。
 しかるに本件では、いずれの場合も、複数社から見積書を徴していない。
 本件随契は、いずれも、複数社から見積書を徴して行なわなければならないもので、しかもそれが可能であったことは、客観的に見て明らかであるから、下記判示に照らしても、違法は明らかである。

 (4) 静岡地方裁判所判決/昭和50年(行ウ)第5号/昭和51年(行ウ)第8号/昭和56年5月26日判決は、「町と民間計算センターとの間のコンピューターによる事務処理委託契約が地方自治法施行令(改正前)167条の2第1項1号の「その性質又は目的が競争入札に適しないものに当たる」として契約の締結が町財務規則に違反してされた違法なものであり、町長に対し、システム開発費用相当額の損害賠償を命じた。「なるべく2人以上の者から見積書を徴する」としている自治体の場合に、経緯や当該契約相手方以外に多くの計算センターが受託態勢にあったと判断した上で、「1人から見積書を徴して随契した場合」について裁量権の濫用であるから違法であるとし、その結果損害が生じたとして、返還を命じたものである。

4 90年頃より、被告梶原拓と訴外磯崎新が北方住宅の建て替え設計を委託する合意があったことをもって、南ブロックに続いて、中北ブロックを同一人が設計する必要性はなく、このような大規模な事業の場合は、なおさらである。
 なお、この両氏の関係は県の他の事業にも及び、「岐阜県現代陶芸美術館/セラミックパークMINO」(多治見市)は見積書を徴しないままに磯崎新アトリエと随契、その設計のもと、84億円の建設費をかけて01年度末完成、02年10月オープンの予定で事業が進められているのである。
 被告梶原拓と訴外磯崎新には、極めて特異な関係が存するというしかない。まさに、訴外磯崎新いわく「私のクライアント」という関係なのである。

5 一般に、設計において、随契契約とすることができる場合があるとしても、本件では、南ブロックと中北ブロックとは明確に分断されており、設計上、同一視する必要性はない。
 南ブロックの建設費は極めて高額であったし、公営住宅の基本を著しく逸脱し、住民からも極めて不評であったから、中北ブロックに関しては、少なくても基本設計の段階では、他の設計者に委託する、あるいは設計方針を変更することは容易であった。
 入札に付せば、はるかに安価に実現できると考えて不合理はない。

6 (1) 被告知事は00年6月15日付けで訴外磯崎アトリエと「北方住宅 北ブロック再生・活用調査」業務委託を随意契約した(以下、「本件第1契約」、という)が、他にも適当な事業者は多々あったし、入札に付していれば格段に廉価にできた可能性は高い。
 本件第1契約は、随意契約の方法によることができないにもかかわらず、随意契約により締結したことは、被告知事がその裁量権を著しく逸脱、濫用したものであり、地方自治法第234条第1項、2項、同令第167条の2の第1項各号に定める特定一社と随意契約をすることができる事情があるときにあたる、とはとうていいえない。
 よって、磯崎アトリエと随契したことには、合理的理由がなく、違法である。 なお、被告知事は業務完了後の01年4月2日に500万円を支払った。

 (2) 本件第1契約は違法であるから、本件委託契約の効力は地方自治法第2条16項、17項により無効である。
 無効な契約に係る経費について県費を支出することは許されないから、本件第1契約に対して支出した500万円は返還されなければならない(本件請求の趣旨の3)。

7 (1) 前記違法で無効な契約、及び当該成果物としての活用調査報告を前提に、プロポーザルを行い、磯崎アトリエと県内設計事務所とのJVを契約の相手方として01年8月28日付けで「北方住宅中北ブロック(仮称)基本設計」業務委託を随意契約した(以下、「本件第2契約」という)が、随意契約には合理的かつ正当な理由がない。

 (2) 仮に、本件第1契約が違法でないとしても、磯崎新アトリエも含めて複数の者から何らの見積書も徴収しておらず、他者の場合の比較検討を怠った。

 (3) 磯崎アトリエを主体とすることを決定、それを前提にして、訴外磯崎新を選定委員会の委員長として県内設計事業者を絞り込んで選定した手続きは、契約の公正確保の手段とは、とうていいえない。「磯崎アトリエを決定済でのプロポーザル」という過程を経た本件第2契約は、随契とする合理的理由がない。
 (4) しかも、本件第2契約の日(01年8月28日)の前日に相手方JVから「総額のみを記載した見積書」を取得しただけであるから、会計規則に反して複数社から見積書を徴収していないのは明白である。

 (5) 本件第2契約は、随意契約の方法によることができないにもかかわらず、随意契約により締結したことは、被告知事がその裁量権を著しく逸脱、濫用したものであり、地方自治法第234条第1項、2項、同令第167条の2の第1項各号に定める特定一社と随意契約をすることができる事情があるときにあたるとはとうていいえないから、本件第2契約は違法である。

 (6) 本件第2契約は違法であるから、本件委託契約の効力は、地方自治法第2条16項、17項により無効である。
 無効な契約に係る経費について県費を支出することは許されないから、本件第2契約(精算払契約)の契約額である1億1550万円の支出を差し止めなければならない(本件請求の趣旨の2)。

8 実質的に、どのような基本設計をするかによって、本体工事費や全体事業費が決まるのであるから、一刻も早く差し止める必要がある。

第10 請求の遅延
1 01年6月初旬、本件原告らが、岐阜県住宅課職員に、北方住宅の建設(計画)等に関する文書はどのようなものがあるかの教示を求めた。「南ブロックの建設の計画書的な文書や基本方針に関する文書は何か」の問に対して、「何も残っていない。自分たちは知らない。建設が済むと、過去のものは必要ないので保存しない」旨だった。「次の建設の方針や計画についての文書は、どうか。少なくても、これから造るものについては、何もないことはあり得ない」との問いに対しては、「まだ、今年基本設計に出すので、文書は特別にない」との旨であった。「基本設計は今年度に委託、とのことだがいつ頃か」との問いに対しては、「現在、検討中で、まだすぐには委託できない」との旨だった。
 そこで、「こういうものがある」と回答のあった文書のうちから、適宜選択し、同年6月13日に公開請求した。

2 同年7月2日の文書公開の際にも、「基本設計の委託は」との問いに「まだすぐには委託できない」とのことだった。

3 同年10月16日に確認したところ、既に委託した、とのことなので委託契約書等の公開を請求した。

4 同10月16日に、「補助金申請は済ませた」と聞いたので、10月17日に補助金申請書の公開を請求した。その際、「国は、『補助申請書の受理が補助決定だ』という」とのことだった。

5 同年10月30日に公開された文書のうちの業務委託仕様書の2頁中、5(2)Cに【「北方住宅再生計画(H4年度作成版)」(3〜5頁)及び「北方住宅 北ブロック再生・活用調査報告書(H12年度作成版)」(6〜8頁)に基づき基本設計業務の骨格を形成すること】との記述を発見し、驚愕した。何もない、といわれていたのに。
 同年11月1日、当該文書の公開を請求した。
 公開されたプロポーザルの会議資料(H13年3月26日付け)にも、中北ブロックの建物の基本外形の図面などもあり、少なくても、01年6月には、計画や方針が具体的であったのは、明らかだ。

6 以上のように、本件原告は、01年6月以来「計画や方針」の文書の存在を確認しているのに、住宅課職員は「H4年度作成版」「12年度作成版」の存在を秘匿し続けたのである。もし、6月に両文書の存在が回答されていれば、あまりに高額の建設費用であることは容易に判明し、さらに計画面積等も分かるから、本書面で述べるとおりの経費試算もできたから、8月26日の委託契約締結の前に本件と全く同様の差し止め請求等をなし得た。
 契約締結以前に差し止め請求すれば、被告知事も、設計者らも、計画の見直しの検討がより容易であったのは明らかである(このことが、地方自治法第242条の2第1項1号の差し止め制度を規定した趣旨である)。
 原告らは、今までに、岐阜県に対して数百件の文書公開を行い、そのつど、担当各課の職員らと日常的に話し合っているが、本件住宅課のごとき、存在する文書を「何もない」と虚偽の説明をするような文書非公開体質は経験がない。隠蔽体質も甚だしい。
 本件請求の趣旨2に係る差し止め請求の提起が契約後になったのは、まさに被告知事の支配下にある岐阜県職員の不正な行為、意図に因るのである。

第11 被告知事に対する差し止め
 本件基本設計委託費は住民監査請求、続く本件住民訴訟提訴時点では支出されていないが、本件においては、今後、県営北方住宅中北ブロックの建設事業として、順次、各種契約締結、それに対する支出等の財務会計行為がなされていくのは確実である。
 よって、原告は地方自治法第242条の2第1項1号に基づき、本件第2契約に関して請求の趣旨の2(1)のとおり、その後の県営北方住宅中北ブロックの建設事業に関して請求の趣旨の1のとおり、差し止めを求めるものである。

第12 被告知事の怠る事実の違法確認 本件第1契約に関する違法行為により、岐阜県に損害が生じているから、被告知事は関係職員に損害賠償請求しなければならない。当該損害賠償請求権は「財産」に当たるところ、被告知事が請求権を行使していないことは、被告知事の「財産の管理を怠る事実」として違法である。
 以上、本件第1契約に関して財産の管理を怠る事実の違法があるから、原告は地方自治法第242条の2第1項3号に基づき、請求の趣旨の3(1)のとおり、その怠る事実の違法確認を求めるものである。

第13 職員個人の責任と返還義務
1 被告梶原拓に関して
 (1) 普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を代表する者であり(法第147条)、当該地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他公共団体の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し及び執行する義務を負い(法第138条の2)、予算の執行、地方税の賦課徴収、分担金、使用料、加入金又は手数料の徴収、財産の取得、管理及び処分等の広範な財務会計上の行為を行う権限を有し(法第149条)、予算を調整し議会に提出する権能がある(法第211条1項)。したがって、当該長は、財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものであるといえる。
 当該長は、当該地方公共団体から委任を受けた者として、当該地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し執行する義務を負っている(法148条、149条)。
 また、普通地方公共団体の長は、補助機関たる職員に対して一般的な指揮監督権を有し(法第154条)、会計事務を監督する義務を負う(法149条5号)。 以上述べたところから、当該長が一定範囲の財務会計上の行為を委任した場合であっても、当該長は、その財務会計上の行為の適否が問題とされている代位請求住民訴訟においては、「当該職員」に該当するというべきであり、当該長に民法上の不法行為責任があれば、当該長は地方公共団体に対し損害賠償義務がある。
 
(2) 知事である被告梶原拓は、「損害賠償命令を発しない」という「財産の管理を怠る事実」によって、岐阜県に損害を与えて続けているから、この相当分を岐阜県に損害賠償すべき職員個人としての責任がある。
 なお、自治体の長個人の損害賠償責任を問う場合に怠る事実を請求の原因とすることができるのは確定している(最高裁昭53年6月23日第3小法廷判決/昭52年(行ツ)第84号損害補償請求事件)(判例時報897号54頁)。

 (3) 本件において、被告梶原拓は、知事として、従前より訴外磯崎新と特別な関係にあることを前提に、県営北方住宅建設事業に際して、本件第1契約及び第2契約を磯崎アトリエらと随意契約して、訴外磯崎新に計画策定業務や設計業務を独占的に行わせ続けている。
 被告梶原拓は指揮監督義務の観点からみても、住宅課長が本件第1契約について支出を命令することを停止させることはできた。本件第2契約についても同様である。
 よって、被告梶原拓の故意・過失責任は著しく重い。
 なお、いうまでもなく、02年度の実施設計やその後の事業の遂行や契約の履行、それによって生ずる県費支出の有無及び額は、被告梶原拓の判断次第である。

2 被告松本忠司に関して
 被告松本忠司は01年度住宅課長として、本件第1契約の支出を決済した。
 続いて、本件第2契約を実質的に締結、今まさに支出を決済しようとしている。 さらに、02年度には実施設計も訴外磯崎アトリエらと随意契約することを意図し、将来の多額な事業費支出の基礎を固めようとしている。
 よって、被告松本忠司の過失責任は重い。

3 被告安藤恒次に関して
 被告安藤恒次は00年度住宅課長として、本件第1契約を実質的に締結、当該委託費の支出を事実上決定した。さらに、本件第2契約以降についても訴外磯崎新と随意契約するような道筋を引き、将来の多額な事業費支出の基礎を固めた。 よって、被告安藤恒次の過失責任は重い。

4 返還請求
 以上、本件支出に権限を有する被告らは県に損害を与え続けているから、個人として賠償・返還義務がある。よって、原告は、地方自治法第242条の2第1項4号に基づき、本件第1契約に関して請求の趣旨の3(2)のとおり請求する。 また、同旨により、本件提訴にもかかわらず、本件第2契約に関して支出された場合として請求の趣旨の2(2)のとおり請求する。
 以上
                        2002年2月4日
岐阜地方裁判所 民事部御中
原告 寺町知正 外10名
 《添付書証》
甲第1号証 01年11月9日付け住民監査請求に対する1月7日付け監査結果甲第2号証 同年11月28日付け住民監査請求に対する1月7日付け監査結果甲第3号証 01年1月実施・南ブロック居住者アンケートの『まとめ』のメモ その他、必要に応じて、弁論において提出する。
                                 以 上
当事者目録(原告)

(略)