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◆H15. 5.29 名古屋高等裁判所 平成14年(行コ)第60号,平成15年(行コ)第3号 首都機能移転情報非公開処分取消請求控訴,同附帯控訴事件


事件番号  :平成14年(行コ)第60号,平成15年(行コ)第3号
事件名   :首都機能移転情報非公開処分取消請求控訴,同附帯控訴事件
裁判年月日 :H15. 5.29
裁判所名  :名古屋高等裁判所
部     :民事第4部
結果    :変更
原審裁判所名:岐阜地方裁判所
原審事件番号:平成12年(行ウ)第24号
原審結果  :一部認容

判示事項の要旨:
首都機能移転に関連する情報公開請求につき,一部公開一部非公開とした事例


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
15年5月29日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
14年(行コ)第60号,平成15年(行コ)第3号 首都機能移転情報公開処分取消請求控訴,同附帯控訴事件(原審・岐阜地方裁判所平成12(行ウ)第24号)
口頭弁論終結日 平成15年3月4日

       判      決
岐阜市薮田南二丁目1番1号
   控訴人兼被帯被控訴人   岐  阜  県  知  事
                 梶   原     拓
   訴訟代理人弁護士    毛   利   哲   朗

岐阜県山県郡高富町西深瀦208番地の1
              選定当事者
   被控訴人兼附帯控訴人   寺   町   知   正

岐阜県揖斐郡谷汲村岐礼1048番地の1
               選定当事者
   被控訴人兼附帯控訴人   山   本   好  ノ行

.        (選定者は別紙選定者目録記載のとおり)

 (以下,「控訴人兼附帯被控訴人」を単に「控訴人」,
     「被控訴人兼附帯控訴人」を単に「被控訴人」,
     「別紙選定者目録記載の選定者ら」を「選定者ら」という。
  なお,原判決引用部分中に「原告ら」とあるのは「選定者ら」の
  意である。)


       主      文
1 本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1)控訴人が選定者らに対して平成12年11月16日付けでした原判決別紙処分目録記載の文書に係る公文書部分公開決定のうち,下記部分以外を公開しないとした処分を取り消す。
             記
@ 原判決別紙非公開情報目録記載4(3)の文書における「債権者の評価に関する質疑,応答」,同目録記載13(3)の文書における「債権者の評価に関する質疑」及び「債権者の評価に関する応答」並びに同目録記載14(6)の文書における「入札指名業者の評価に関する質疑」及び「入札指名業者の評価に関する応答」 
A 同目録記載6(3)及び8(5)の各文書中の「個人氏名」及び「個人氏名推認情報」並びに同目録記載9(3)の文書中の「個人氏名」
B 同目録記載11(3)及び12(2)の各文書中の「委員の会議出席旅費額」
  C 同目録記載14(2)ないし(5)の各文書中の「入札代理人印影」   
(2)被控訴人らのその余の請求を棄却する。

2 本件附帯控訴を棄却する。

3 訴訟費用は,1,2審を通じ,これを5分し,その4を控訴人の負担とし,その余を被控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記取消にかかる被控訴人らの請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,1,2審とも,被控訴人らの負担とする。

第2 附帯控訴の趣旨
1 原判決中被控訴人ら敗訴部分を取り消す。
2 控訴人が選定者らに対して平成12年11月16日付けでした原判決別紙処分目録記載の文書に係る公文書部分公開決定のうち,次の部分を公開しないとした処分を取り消す。(1)原判決別紙非公開情報目録記載6(3)及び8(5)の各文書中の「個人氏名」及び「個人氏名推認情報」並びに同目録記載9(3)の文書中の「個人氏名」
(2)同目録記載11(3)及び12(2)の各文書中の「委員の会議出席旅費額」
3 訴訟費用は,1,2審とも控訴人の負担とする。

第3 事案の概要
1 本件は,選定者らが控訴人に対し,岐阜県情報公開条例(平成6年岐阜県条例第22号。平成12年12月27日改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,岐阜県(以下「県」という。)地域計画政策課において,首都機能移転誘致事業に関連して,平成7年度から平成12年11月8日までに計画立案等のために外部委託した契約仕様書,見積書,契約書並びに上記に関連する物品購入等契約審査会調書及び伺書の公開を請求(以下「本件請求」という。)したところ,控訴人が本件請求に係る公文書について原判決別紙処分目録記載のとおり,一部を公開し,一部を公開しないとする処分をしたので,選定者らが控訴人に対し,同処分中公開しないとする部分の取消しを求めたものであるが,原審が公開しないとした処分のうち一部を取り消し,その余の請求を棄却する旨の判決を言い渡したので,これに不服がある控訴人が控訴し,被控訴人らが附帯控訴した事案である。

2 争いのない事実等は,原判決の事実及び理由欄の「第2」の「1」に摘示のとおり(但し,次のとおり加除訂正する。)であるから,これを引用する。
(1)原判決3頁9行目の「乙14の5」を「乙22」と改める。
(2)同頁17行目から18行目の「本件条例6条1項1号又は同項4号」を「本件条例6条1号又は4号」と改める。以下,本件条例6条につき「1項」とある部分をすべて削除する。
(3)同頁20行目末尾に,行を改め,以下のとおり加える。
「(3)本件条例
本件条例6条1号及び4号の規定は,下記のとおりである。
   記
第6条 実施機関は,次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については,当該公文書に係る公文書の公開をしないことができる。
(1)個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,特定の個人が識別され得るもの。ただし,次に掲げる情報を除く。
イ 法令及び条例(以下「法令等」という。)の定めるところにより,何人でも閲覧することができるとされている情報
ロ 公表を目的として実施機関が作成し,又は取得した情報
ハ 公務員(国家公務員法(昭和22年法律第120号)第2条第1項に規定する国家公務員及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第2条に規定する地方公務員をいう。)の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の職名及び氏名に関する情報(公開することにより,当該公務員の権利利益が著しく侵害されるおそれがあるものを除く。)
ニ 法令等の規定に基づく許可,免許,届出等に際して実施機関が作成し,又は取得した情報であって,公開することが公益上必要であると認められるもの
(4)法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,公開することによって,当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。
イ 事業活動によって生じ,又は生じるおそれがある危害から人の生命,身体又は健康を保護するために,公開することが必要であると認められる情報
ロ 違法又は不当な事業活動によって生じ,又は生じるおそれがある支障から人の生活を保護するために,公開することが必要であると認められる情報
ハ イ又はロに掲げる情報に準ずる情報であって,公益上公開することが必要であると認められるもの
ニ 県との契約又は当該契約に関する支出に係る公文書に記録されている氏名又は名称,住所又は事務所若しくは事業所の所在地,電話番号その他これらに類する情報であって,実施機関があらかじめ岐阜県公文書公開審査会の意見を聴いて公示したもの」

3 争点及び当事者の主張は,原判決の事実及び理由欄の「第2」の「2」ないし「4」に摘示のとおり(但し,次のとおり付加する。)であるから,これを引用する。
(1)原判決11頁18行目末尾に,行を改めて,以下のとおり加える。
「また,本件条例6条4号の事業活動情報に関して,原則非公開とされ,但書で公開すべき場合につき,当該情報を公開する意義・必要性が,行政活動の適法性・公益性を担保する見地から客観的に重要な場合を列挙したものであることから,その逆に当該情報を公開する意義・必要性が,行政活動の適法性・公益性を担保する見地から客観的に僅少・皆無である場合は,公開することにより事業活動の面に与える不利益・弊害は具体的,現実的でなければ非公開にできないとする必要性及び合理性はないというべきである。
さらに,原判決は,情報公開することによってどのような不利益がどの程度生じるのか具体的な主張立証を控訴人に要求しているが,情報を公開せずに具体的現実的な不利益の主張立証をすることは不可能であり,原判決の見解は控訴人に無理を強いるものである。」

(2)同13頁14行目の末尾に,以下のとおり加える。
「逆に,これらの情報を公開しなくても,行政活動の適法性・妥当性の検証に影響はなく,公開することに何らの必要性も合理性もない。」

第4 当裁判所の判断
1 当裁判所は,控訴人の本件処分中,原審が非公開を是とする部分についてはこれを是認することができ,原審が公開するのが相当であるとした部分については,主文掲記の限度で原審の判断と異なるものの,その余は原審と同様に被控訴人らの公開の請求は理由がないと判断するが,その理由は,以下のとおり訂正するほか,原判決の事実及び理由欄の「第3 当裁判所の判断」の「1」から「3」までに説示のとおりであるから,これを引用する。

(1)原判決20頁6行目の「入札に関する事務が」から14行目末尾までを,以下のとおり改める。「入札に関する実際の事務手続がどのように行われたかを明らかにすべきであるから,現実に入札手続を行った入札代理人の氏名及び役職を公開することが公益上求められているというべきであり,これらの情報が公開されることによって入札代理人が被るプライバシー侵害の程度を斟酌しても,公開すべきであると判断されるものの,入札代理人の印影については,この印影がいかなるものであるかを明らかにすることによって得られる公益上の利益は希薄であって,これが公開された場合に入札代理人が被るプライバシー侵害の程度を考えた上でなお公開することが公益上求められるということはできない。
 すると,目録記載14の(2)ないし(5)の各文書中の「入札代理人印影」は本件条例6条1号に該当し,「ニ」の公開することが公益上必要な情報には該当しないから,公開しないとした処分は適法であるが,上記各文書の「入札代理人氏名」及び「入札代理人役職」については本件条例6条1号ニに該当するから,これを公開しない処分は違法であり取消しを免れない。」
(2)同21頁16行目の「当該情報が開示されることにより,」から22行目の末尾までを,以下のとおり改める。
「当該情報が開示されることにより,競争上の地位その他の正当な利益が損なわれるおそれがあることが必要であり,そのおそれは相当程度具体性を有する客観的かつ現実的なものでなければならないと解することが相当である。
 したがって,事業活動情報につき原則非公開を強調する控訴人の主張をそのまま採用することはできない。」

(3)同24頁17行目の「被告としては」から25頁2行目末尾までを,以下のとおり改める。
「上記各見積書を提出した各事業者の意見を聴取することによって,当該事業者の競争上の地位その他正当な利益が客観的かつ現実的に損なわれる具体的な事情を把握することが可能であり,このようにして公開すべきか非公開にすべきかを決定することが予定されているというべきである。すると,上記各見積書から事業活動情報が自ずと分かり,その競争上の地位が阻害されるという控訴人の主張は,当該事業者の競争上の地位その他正当な利益が損なわれるおそれについて,相当程度具体性を有する客観的かつ現実的な事情を主張したものとはいえず,このような控訴人の主張を採用することはできない。」

(4)同27頁3行目の「また,」の後に,以下のとおり加える。
「本件で問題となっている文書においては,通常銀行取引に使用される印章を押捺するものとは考えられないので,」

(5)同28頁4行目冒頭から6行目末尾までを,以下のとおり改める。
「しかし,事業者が調査実績を公表していない場合でも,当該事業者の調査実績が公表されて同業他者との比較の対象となること自体は自由競争が公正に行われる前提として望ましいものではあるし,公表されることによって正当な利益が損なわれるとはいい難く,ましてや徒に当該事業者の社会的評価の低下を招く可能性は乏しいものと考えられる。」

(6)同29頁10行目冒頭から16行目末尾までを,以下のとおり改める。
「なるほど,当該事業者の評価につき,特定の調査についての評価にすぎず,しかもその評価の内容も短い質疑応答に含まれる断片的なものにすぎないものと推定されるが,地方公共団体である控訴人において当該事業者自体の評価にかかわる質疑応答が公表されると,評価をした主体が公的な立場にある地方公共団体であることから,あたかもその評価が当該事業者に対する客観的で誤りのない評価であるかのように住民をはじめ一般市民に理解されることが十分予想され,評価や評価に関する質疑応答に誤りがあっても当該事業者に反論の機会が与えられている訳ではないし,特定の事項の調査についての評価であるにもかかわらず当該事業者の事業全般に関する評価であるとの誤解を生じる可能性も否定できないことも勘案すれば,このような情報が公開されると,当該事業者の評価に関する情報が公開されることによって,当該事業者の競争上の地位その他正当な利益を損なうおそれが十分予想されるので,本件条例6条4号に該当する事由があるというべきである。
すると,目録記載4(3)の文書における「債権者の評価に関する質疑,応答」,同目録記載13(3)の文書における「債権者の評価に関する質疑」及び「債権者の評価に関する応答」並びに同目録記載14(6)の文書における「入札指名業者の評価に関する質疑」及び「入札指名業者の評価に関する応答」を公開しないとした処分は適法である。」

(7)同頁22行目全文を,以下のとおり改める。
「しかし,本件条例3条前段において,実施機関が公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し,運用すべき旨を規定しており,同条後段において,個人に関する情報についてのみ,みだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない旨を規定していることも勘案すると,従業員数を公開することが当該事業者の選択権に属するものであるとの考え方は採用することができない。」

2 以上によれば,選定者らの本件請求に対し,控訴人が行った本件処分は,@原判決別紙非公開情報目録記載4(3)の文書における「債権者の評価に関する質疑,応答」,同目録記載13(3)の文書における「債権者の評価に関する質疑」及び「債権者の評価に関する応答」並びに同目録記載14(6)の文書における「入札指名業者の評価に関する質疑」及び「入札指名業者の評価に関する応答」,A同目録記載6(3)及び8(5)の各文書中の「個人氏名」及び「個人氏名推認情報」並びに同目録記載9(3)の文書中の「個人氏名」,B同目録記載11(3)及び12(2)の各文書中の「委員の会議出席旅費額」,C同目録記載14(2)ないし(5)の各文書中の「入札代理人印影」を公開しないとした限度では適法であるが,以上の@ないしCを除く部分を公開しないとした部分は違法であるから,これらの部分を公開しないとした処分を取り消すべきところ,これと異なる判断をした原判決を本件控訴に基づき変更することとし,本件附帯控訴は理由がないから棄却し,主文のとおり判決する。

名古屋高等裁判所民事第4部

   裁判長裁判官  小   川   克   介
     裁判官  鬼   頭   清   貴
      裁判官  濱   口       浩