告 発 状 


                 2000年4月24日 
岐阜県警本部 刑事部捜査2課
        司法警察員警視 **** 様

第1 告発人


     くらし・しぜん・いのち 岐阜県民ネットワーク
     告発人代表者 山県郡高富町西深瀬208
          寺町知正   TEL・FAX 0581-22-4989 
     山県郡高富町西深瀬208       寺町みどり
     揖斐郡谷汲村岐礼1048       山本好行
     岐阜市殿町4−8            堀 安男 
     美濃市大矢田1434          後藤兆平 
     美濃加茂市太田町立石         杉下芳松
     加茂郡八百津町伊岐津志1405   白木康憲
     岐阜市黒野471−1          別処雅樹 
     児郡御嵩町上恵土1230       小栗 均  
     加茂郡八百津町潮見407       宮沢杉郎 
     養老郡上石津町上鍛冶屋97     三輪唯夫
                  

第2 被告発人


 T 大垣市入方3−70−1  
       社会福祉法人 麋城会
 U 社会福祉法人 麋城会    
            理事長 ****
 V 麋城会の設立段階から関与していた
          氏名不詳の行為者
 W 麋城会の事務的な業務に携わって
         いた氏名不詳の行為者

第3 法令違反


 H12年2月23日、岐阜県が社会福祉法人麋城会(以下、麋城会という)に、金45,606,000円の返還を命令した事件について、右の者の行為は次の法令に違反すると思料されますが、当事者らが告訴しないので、捜査の上、被告発人及びその共犯者について、厳重に処罰されたく、ここに告発いたします。

1国庫補助金16,463,000円、県義務補助8,233,000円に関して
 @ 補助金等にかかる予算の執行の適正化に関する法律(以下、補助金適正化法という)第29条「偽りその他不正の手段により補助金等の交付を受け、又は間接補助金等の交付若しくは融通を受けた者は、5年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」に当たる。

 A 補助金適正化法第11条《補助事業等及び間接補助事業等の遂行》2項「間接補助事業者等は、法令の定及び間接補助金等の交付又は融通の目的に従い、善良な管理者の注意をもって間接補助事業等を行わなければならず、いやしくも間接補助金等の他の用途への使用をしてはならない」に違反した場合、同法第30条第11条の規定に違反して・・・他の用途への使用をした者は、3年以下の懲役若しくは50万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する」に当たる。

 B 補助金適正化法第32条《両罰規定》「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前3条の違反行為をしたときは、その行為者を罰するほか、当該法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する」に当たる。

 C 刑法第246条《詐欺》「人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する」に当たる。

2 県単独補助20,444,000円、愛のともしび基金466,000円に関して、刑法第246条《詐欺》に当たる。

第4 事件の経過及び関係者


1 法人設立等の経緯


 麋城会は、特別養護老人ホーム等の老人福祉施設を建設する目的で、H7年12月19日に「麋城会設立発起人会」を開催し、法人設立の準備を進め、県からH8年7月5日付けで「麋城会」の設立認可を受けた。そして、H8年7月10日、建設業者10社の入札により工事請負契約を締結し、施設の建設に着手した。

2 本件事件の県への通報


 特別養護老人ホーム「友和苑」の建設に関して、セキュリティシステムの工事請負業者を名乗る者から「契約に基づく工事をさせてもらえない」との通報(H11年4月1日、以後数回同一人物と思われる)が県の高齢福祉課に電話でなされ、担当者らが現地調査等を行ったところ、麋城会が補助金を不正に受給していたことが判明した。

3 補助金の不正受給の方法等


 H9年4月4日、県に提出された補助金実績報告書には、実施していない重度痴呆性老人徘徊管理のためのセキュリティシステム等を記載したり(第1号証@)、建設工事の中で設置した車椅子入浴装置等の備品について、他の業者からの見積・請求・納品書を添付する等(第1号証A)の方法により虚偽の報告を行った。
 補助金の不正受給については、補助対象外工事費への流用、民間金融機関への償還等に充当されたと思われる(第2号証@A)。

4 事件関係者


 補助金の不正受給は、麋城会の設立準備段階から関与していた氏名不詳の者と事務的な業務に携わっていた氏名不詳の者の2人であると思われる。また、補助金不正受給に対する法人の理事長としての監督責任は免れない。(県の認定・第3号証)
 また、県の福祉局長も「明確な悪意が感じられる部分もある」と述べた、と報道されている(2月24日付け新聞朝刊)。
 事業者も申述書(いわゆる始末書)で、不正受給を認めている(第4号証)。

5 法人及び役員の責任等(第3号証)


 @ 県は、法人及び役員の責任に関して、社会福祉事業法第54条第2項の規定に基づく業務改善命令を行った。

 A 本件の不正受給に関わっていた氏名不詳の者及び監督を怠っていた理事長の交替を求めた。

 B 法人運営及び施設運営の適正化を図るべき理事会の機能が十分に果たしていないことに鑑み、理事の交替を求めた。ただし、理事全員の交替は、今後の適正な法人運営に著しく支障きたす恐れがある。そのため、法人設立当時から就任しその職責を十分果たさなかった理事について交替を求めた。

 C 監事についてもその職責を果たしていないため交替を求めた。

第5 補助金不正受給事件の県の調査結果


1 県の特別監査及び現地検査によって、契約当事者間での工事代金の値引きを約した確約書が発見されるとともに、ソーラーシステム等未実施の付帯工事やベッド等未購入の備品があることが判明したため、県の指示で、それらを差し引いた実際の事業費に基づく事業実績報告書を作り直した。

2 県の現地検査(H11年4月8日)での問題点(第5号証・第1号証の@A)
 @ 建設工事について
  ・国庫補助対策設備である非常通報装置は、実績報告書では別会社の契約書・領収書が添付されているが、実際には本体工事に含めており、間違った補助金交付申請がなされていた。
  ・同じく特殊浴槽機器にも、実績報告書では別会社の契約書・領収書が添付されているが、実際には本体工事に含めており、間違った補助金交付申請がなされていた。
  ・その他カーテン・ブラインド等設備として処理すべきものを、本体工事の中に含めていた。

 A 備品購入について
  ・セキュリティシステム工事、非常警報装置の契約書原本が保管されておらず、業者へ代金を支払った実績もなかった。
  ・購入していない特殊浴槽が、業者の納品書に記載されており、施設側で検収したことになっていた。
  ・デイの設備整備費に含めた移動縁台の代金を後で減額していた。
  ・冷温配膳車の契約書原本が保管されておらず、業者へ支払った実績もなかった。

3 県の現地検査(H11年6月7日)での問題点(第6号証)
 @ 前回の検査によりカーテン等本体工事から除外すべきものを指摘したが、今回、さらに次の品目を除外するよう指示した。
      〇 畳敷移動縁台   〇 観賞用水槽   〇ファクシミリ

 A A社との間で、契約書の外に確認書等を交わしており、不可解な請負関係であり、未払い金(8,450,150円)が生じていた(第7号証@A)。
   この時点で、麋城会は、未払い金を請求しているA社と争う構えであった。

4 県の特別監査(H11年8月11日)での問題点(第8号証)
 @ 補助対策事業費(建設工事契約額)について麋城会とA社の間で請負契約時の合意事項を確認した確認書なるもの(第9号証@)が見つかった。
  ・確認書にH9年3月31日時点の合意事項であると明確に書かれていること。  ・31,500,000円(第10号証@)、9,598,050円(第10号証A   )の2件の工事について、注文書による工事の期間はH9年5月1日から同月   31日までであり、補助対象外の事業であると認定できること。
  ・支払いを拒否し続けていた未払い金を11年度予算から支払う準備をしており、麋城会側としても確認書及び注文書が合意に基づくものであると認めたこと。 A そして、確認書に本来の工事請負金額が契約書に記載された額とは異なる旨の  記述があったので、契約額を根拠としてきた事業費の額を修正しなければならな  くなった。
  ・契約による支払額  (第9号証A+B)   1,771,600,000円
   ・確認書による本来の工事代金支払額
     (第6号証の2ページ目中の@+B+C)1,758,148,200円
                       差  引   ※ 13,451,800円 

 B 理事会運営について
   建設事業に関することや資金計画など本来理事会で審議されるべき事項について、実際に審議されたかどうかは議事録で確認できない(審議されていない)。   また、H10年度決算について、H11年8月時点で理事会で審議されていな  いことなど、H11年度の理事会開催も著しく遅延しており、適正な理事会運営  がなされているとはとても言えない。

 C 借入金について
   H10年度決算時点(理事会に付議されていないので未承認)で、5億2千万円であり、うち2億円についてはこれまで「寄付金」で処理されてきたものをH  11年3月31日付けで「借入金」に修正仕訳されたために発生したこととなっ  ているなど、通常考えられない処理をされている。また、これらのことは全く理  事会に諮られずに処理されている。
   また、多大な借入金について、償還計画を提出するよう県が強く指導した。
  この借入金の内訳は、B銀行からの4億7000万円、C銀行から5000万円となっているが、前者は「手形貸付」であり、借入日数の短いものを繰り返した  結果でとても計画的な借入とは考えられず、また、この借入に係る保証等の内容  も不明である。一方、後者についても貸付契約書等の証拠書類が施設に保管され  ていないとのことで、提示されていない。

第6 補助金の返還額の確定等


1 補助金不正受給額の返還命令
 補助金は各種自治体から交付されている(第11号証)。
 よって、県は、本年2月23日、岐阜県補助金等交付規則第18条第1項に基づき不正に受給した補助金の返還、及び補助金の受領の日から返還の日までの日数に応じ、同規則第19条第1項に基づき加算金の納付をあわせて命じた。
       ・国庫補助金分 16,463,000円
       ・県義務補助分  8,233,000円
       ・県単独補助分 20,444,000円
               合計 45,140,000円
 
2 補助金返還に伴う財源の確保等
 @ 今回の補助金不正受給に伴う返還金は、理事長である「名和嘉久氏」個人の寄付により返還させる(第13号証)、とされた。

 A また、県は、「民間金融機関からの借入金に対する償還計画については、法人に対し、ケアハウスの管理費・民間給与等改善費管理費加算相当額等による実現  性のある償還計画を早期に作成させ、健全な法人運営に努めるよう今後とも厳し  く指導していく」、としている。

第7 県の姿勢が甘い


1 国は厳しい姿勢である
  県は、事件の認識後、厚生省と何度も協議した。H11年8月27日、厚生省老 人福祉計画課との協議では、次のように厳しい指摘があった(第14号証)。

 @ 追加契約1億3千万円は、国内示額の範囲内か。通常変更協議は、簡単に認めていないはずである。

 A 補助金不正受給を行った麋城会に対する処分について、次の事項について県の対応はどのようか。あいまいであれば、厚生省は乗れない。
   ア 告発はしないのか
   イ 記者発表はしないのか
   ウ だれの責任で、何のため、何を行ったのか、金の行方はどうなったのか
   エ 補助金を返せば済むのなら再発防止にならない。厳格な処分をしてほしい

2 厚生省の指摘に対する県の対応
 @ 追加契約は本工事とは別のものであると同時に、当初内示額内での変更である。 A 法人及び理事の責任は免れないと思われるので記者発表を行う。

 B 告発について
   本県の他の補助金不正受給と比して計画的でないこと等の理由により行わない。 C ウに付いては、「麋城会は、提出を拒否」している(ことを容認している)。

第8 告発人の意見
1 麋城会は、本書面記載事項外、当初返還を拒否する意向を示し(第2号証A・7月15日)、補助としての追加認定を要求したり(第2号証A・7月23日)、県幹部との接触を続けるなど、右「ウ」の解明文書提出を拒否する(第2号証A・11月16日)など、福祉事業への信頼を無くさせたことへの反省がなく、悪質である。

2 行政担当課において事実関係の把握、原因解明、責任の所在を明確にするには限界がある(第15号証@)。結果として、「甘い対応」をもたらしたり、時に「癒着のおそれ」も存在する。
 岐阜県において、福祉施設建設等に伴う補助金不正受給の発覚は2件目で、一県で2件は全国的にも稀である(第15号証A)。にもかかわらず、県は、麋城会に対して、非常に弱腰である。これは返還額の減額や、右「ウ」の解明文書提出拒否を容認していること、そして究極的には告訴告発しないことに現れている(第15号証B)。

3 他県では、当局が速やかに動いているにもかかわらず、事件発表後2カ月経過しても岐阜県の当局は動かない(しかも、それ以前に協議がなされているはずである)ことも極めて疑問である(第15号証B)。

4 本件麋城会友和苑と全く同時期に認可され、同様の補助内容、補助決定も同日(第16号証)の「黒野あそか苑」の事件(H10年6月に発覚)では、事件発覚の数日後、岐阜県、岐阜市が名古屋地検特捜部に告発し、刑罰が科された。
 「あそか苑不正受給事件」以後の申請については、再発防止策が取られたが、同時期の本件及びそれ以前については、岐阜県は何ら調査もせず、対策を取らなかった。 本事件は、各種証拠から、計画的、故意に行ったことは疑い無く、貴重な国民の税金を多額に奪った行為は許されるものではない。
 さらに、先に述べたように、返還額を減額するような異常な精算方法が取られなければ、本来の返還額は1億円を上回るのであるから、県の責任も重大である。
 厚生省の指摘のとおり、再発防止には、厳しく望むしかなく、今回、県が告訴告発をしないことは、右減額とともに、極めて不可解である。
 よって、県に替わって、県民の立場から、関係者を告発するものである。
                    以 上

《添 付 書 類》


第 1号証@ セキュリティ等未実施工事の虚偽の見積書、契約書、実績報告書
 
      A その他の設備等に関するもの

第 2号証@ 事実経緯の表(岐阜県作成)
 
      A 麋城会に関する時系列の表(岐阜県作成)

第 3号証  経緯及び処分について(岐阜県作成)

第 4号証  理事長の申述書(始末書)

第 5号証@ 県の現地検査(H11年4月8日)・〓印のある復命書

       A 不正受給調査資料(契約書なし・購入なしなどのメモもある)
 
     B 振込関連資料(請求書なしのメモあり)

第 6号証  県の現地検査・復命書(H11年6月7日)

第 7号証  未収金関係資料(8,450,150円)

第 8号証  県の特別監査・復命書(H11年8月11日)

第 9号証@ 麋城会と業者との確認書(H8年10月)
 
     A 麋城会と業者との本体工事契約書(H8年7月10日付け)

     B     同          (H8年10月1日付け)

第10号証@A  追加工事注文書

第11号証  補助金内訳表

第12号証@ 修正前の事業費と実際の事業費の比較表

      A 主な修正理由表

      B 同右の明細関係資料

第13号証  不正受給返還の財源報告(H11年12月17日付け)

第14号証  厚生省協議の復命書(H11年10月15日付け)

第15号証@AB 関連新聞記事

第16号証  社会福祉施設補助金交付決定表(黒野あそか苑と友和苑) 
                             以 上