県寄付土地買戻金31億円支出差止住民監査請求書


請求の要旨


1 岐阜県は県立盲学校の移転用地として岐阜市北野町七〇番の一の土地一万六六七四uを三一億七三一九万五〇〇〇円で文部省より購入する目的で、県土地開発公社に先行取得の委託契約に必要な債務負担行為及び本年度の損失補償額一五億一七六五万九〇〇〇円の債務負担行為の議決を、九九年三月県議会で行い、県の用地費支出は確実となった。

2 東海財務局も売払を了承している。

3 県は二〇〇〇年一月初にも土地開発公社と取得委託契約を締結、三月に土地代金等を公社に支払い、残金は後の三年以内に完了する予定である。

4 本件土地はもともとは岐阜県所有で、一九七〇年に国に寄付したものである。

5 地方財政再建促進特別措置法第二四条二項で「国等に対する地方自治体の寄附金の支出等を禁止」されているが、そもそも、当時の寄付行為が適正に行われたかは疑問である。

6 この土地をそっくり、県が国より時価で買い戻すことは、二一〇万県民一人当たり四五万円もの借金を抱える逼迫した財政状況の中、率直な県民感情、納税者感覚からは、決して容認できない。

7 国のいう「時価での売買」原則を本件に適用すべき必然性はない。

8 別途、法的な減額制度もある。

9 特例としての寄附をした原所有者が買い戻す本件は、地方財政再建に特段の配慮をすべきである。

10 本件土地は広大特殊で一般的売買が成立する可能性のない土地であり、極めて買手優位の売買である。

11 盲学校は現在の場所でも適切な新築整備が十分に可能である。

12 県は本件土地が必要不可欠とは言えないから、購入を差し控えることも可能である。

13 路線価、評価額は四二%も下落している。

14 以上、本件土地を「国のいうままに、時価で取得すること」は、社会通念上決して許されるものではなく、公序良俗や信義則にも反し、当該用地取得への支出は違法かつ著しく不当である。また、地方公共団体の事務を処理するにあたっては、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(地方自治法(以下、法という)第二条一三項)、経費はその達成するために必要且つ最小の限度をこえて支出してはならない(地方財政法第四条一項)とされており、これらにも違反する。

15 よって、本件土地取得費三一億七三一九万五〇〇〇円の支出の全部もしくは一部を支出してはならない、と岐阜県知事及び関係職員に勧告することを求める。

監査委員の監査に代えて個別外部監査契約に基づく監査によることを求める理由


1 本件は、支出予定額が極めて高額で、特殊な経緯を有していることなどを考慮すれば、新しい制度による監査の意義は大きい。

2 四名の監査委員のうち三名は、下記の理由により、自らの最近の職務を否定するようなことは想定し得ず、中立・公正な監査、判断を期待することは不可能であるから、法第一九九条の二に規定される直接の(しかも自らの)利害関係事件として当然に除斥の対象である。


(一)委員白木昇氏は三月五日付け譲渡要望書(第五号証)に明記されている通り、本件土地の先行取得者である県土地開発公社の理事長として、本件土地取得に関する手続きや債務負担行為に関する試算、県との委託契約の実質的な事前合意に関する協議に当たっての意志決定者である。そして本年度になって県代表監査委員となった。その後の公社の作業は後任者が実務的に進めてきただけである。

(二)県議会選出の二名の監査委員は、右債務負担行為の議会議決の当事者で、しかも賛成した立場である。
 本件は右債務負担行為の議決がなされなければ支出が確実になることはなかった。

3 右三名が除斥になれば残るは丹羽委員一人である。“一人監査”ができないことはないが、氏は土地開発公社による本件先行取得などについても通常の業務監査において説明を受け、本年の予定事業としても承知していたはずであるから、これを白紙でみるような公正・中立な視点は期待し難い。

4 このように、委員に程度の差こそあれ、どの監査委員も本件に関与していた。法改正による外部監査が本年四月より制度化した。この「監査制度の諸問題の解決を進める」という立法主旨に照らし、また、条例を提案、議決した議会、そして県民の多くの期待が「専門性・独立性の強化及び住民の信頼感の向上」という導入主旨が実現されることにあるのだから、本件請求は外部監査人による監査によることが相当である。

5 以上の理由で、監査委員の監査に代えて個別外部監査契約に基づく監査を求めるものである。

請求者


 別紙 くらし・しぜん・いのち 岐阜県民ネットワーク   寺町知正 他一一名


以上、法第二四二条第一項により、事実証明書を添えて、必要な措置を請求します。
併せて、法第二五二条の四三第一項により、当該請求に係る監査について、監査委員の監査に代えて、個別外部監査契約に基づく監査によることを求めます。

 一九九九年一二月六日  岐阜県監査委員 各位

   別紙事実証明書目録


第一号証 九九年度三月県議会当初予算明細書のうち、県土地開発公社に関する債務負担行為部分


第二号証 右債務負担行為にかかる事業等の内訳

第三号証 第九〇回国有財産東海地方審議会・九九年五月一九日・諮問事項第二号書

第四号証 一九七〇年に岐阜県が文部省に譲与したことを示す閉鎖登記簿の一部他


第五号証 の1 九九年三月五日付け譲渡要望書
    の2 本件用地及び盲学校の周辺図

第六号証 同、県から国へだした減額要望書


第七号証 の1 右に対する三月二五日付け国の回答書 
    の2 減額拒否に対する県の決済文書 


監査請求 補充書 (一九九九年一二月六日)


1 岐阜県は県立盲学校の移転用地として岐阜市北野町七〇番の一の土地一万六六七四uを三一億七三 一九万五〇〇〇円(利息を除く)で文部省より購入する目的で、県土地開発公社に先行取得の委託契 約に必要な債務負担行為及び本年度の損失補償額一五億一七六五万九〇〇〇円の債務負担行為の議決 を九九年三月県議会で行った(第一、二号証)。これによって、県の用地費支出は確実となった。

2 東海財務局も国有財産東海地方審議会の答申を得て岐阜県への売払を了承している(第三号証)。


3 現在、県や国は二〇〇〇年一月初にも国と価格の擦り合わせを行って売買協議が成立したら、県は 速やかに土地開発公社と取得委託契約を締結、公社は三月までに登記等を完了し、一方、県は当年三 月議会に取得費の一部を「一一年度補正予算」として提案、可決されれば直ちに公社に支払い、残金 は後の三年以内に完了する予定である。

4 本件土地はもともとは岐阜県所有で、一九七〇年に国に寄付したものである(第四号証)。

5 地方財政再建促進特別措置法(以下、地財再建法という)第二四条二項本文は「国等に対する地方 自治体の寄附金の支出等を禁止」し「但書で特例」を定めている。禁止した目的は、国等が地位を背 景に経費を寄附の名目で地方その負担を転嫁したり、地方が国等の機関を誘致するために国等の経費 を進んで拠出するという事態が生じ、ひいては、国等と地方との間の経費負担区分を乱し、地方財政 秩序の混乱を防止するものであるところ、当時の寄付行為が適正に行われたかは疑問がある。

6 このような土地をそっくり、県が国より時価(第七号証)で買い戻すというようなことは、県関係 者らが廉価を要求する(第六号証)努力は評価されるとはいえ、財政が逼迫し県民のための諸事業が 縮減され、起債残高は九五〇〇億円(本年度)にのぼり、これは二一〇万県民一人当たり四五万円も の借金に相当し、さらにその分の元利償還金だけでも県民一人当たり三万円をかかえる現在、率直な 県民感情、納税者感覚としては、決して容認できない。

7 「一般の土地取引において、その取引価格は本来取引当事者の自由な意志の合致によって定められるべき事柄であり、地方公共団体が公共の利益となる事業に必要な土地を売買契約に基づいて取得す る場合も同である」(判例・学説)とされている。これに対して、減額を求めたことへの国の回答 は「跡地等の処分は原則として時価での売払い」(第七号証)と一般的な国の方針を述べているだけ であるから、経緯等を考慮すれば国の「時価での売買」原則を本件に適用すべき必然性はない。

8 国有財産特別措置法第三条第一項一号ハで減額する制度もある。

9 七〇年当時の寄附が仮に違法でなかったとしても、国と地方との間の経費負担区分を乱すことを禁 止した地財再建法の右主旨を考えれば、同法の特例としてなされた寄附による土地を原所有者である 地方公共団体が買い戻す場合は地方財政再建に特段の配慮をすべきことは当然である。

10 本件土地は一万六六七四uに及ぶ広大な土地であり、それまで学校用地として利用されてきた土地 であって、その面積、地域性からいって買い手をうる事は極めて困難な性質の土地である。民間私人 ないし私企業がこれを取得しても採算可能な投資とはいえず、地方公共団体や公法人等にでもこれを 売却しなければ売買が成立する可能性のない土地である。このように極めて買手優位の売買である。

11 仮に盲学校が老朽化したとするなら、現在の場所は十分な広さを有しており(東側の明徳小学校の 約半分の敷地面積)、適切な新築整備は十分に可能である。


12 右のとおり、県の行政目的上、本件土地が必要不可欠とは言えないから、県に損害を与えてもなお 取得し
なければならない必要性はなく、購入を差し控えることも可能である。

13 先般一一月二六日に県固定資産評価審議会が公表した路線価、評価額では、岐阜市内は前年比で四 二%下落している。右県の取得経費試算は、今からおおよそ一年前になされたものであるから、現在 は、かなり下落しているのは当然である。

14 以上、本件土地を「国のいうままに、時価で取得すること」は、社会通念上決して許されるもので はなく、公序良俗や信義則にも反し、当該用地取得への支出は違法かつ著しく不当である。また、地 方公共団体の事務を処理するに当たっては、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければなら ず(法第二条一三項)、経費はその達成するために必要且つ最小の限度をこえて支出してはならない (地方財政法第四条一項)とされており、これらにも違反する。

15 法第二四二条第一項において住民監査請求ができる場合として「当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測される場合」としているところ、本件はこのまま放置すれば支出行為がなされる ことは確実であるから、本件請求は差止要件を満たしている。
 法第二四二条の二の第一項一号は住民訴訟の類型として「当該行為の全部又は一部の差止め」の請求を認め、この場合第一項本文において「ただし、第一号の請求は、当該行為により回復の困難な損 害を生ずるおそれがある場合に限る」としているところ、本件は支出の予定されている額が極めて高 額であって、後日、違法な支出と認定されても県幹部らが右損害を賠償することは到底不可能で、事 前に差止めなければ、岐阜県の損害は回復不能なものとなるから住民訴訟の要件も満たしている。   法第二四二条一項は「監査委員に対し、監査を求め、当該行為を防止し、若しくは是正・・するた めに必要な措置を講ずべきことを請求することができる」としているから、本件請求者は、土地取得 費三一億七三一九万五〇〇〇円の支出の全部もしくは一部を支出してはならない、と執行機関である 岐阜県知事及び右補助者である職員に勧告することを求めるものである。
 以 上

参考資料


◆《昭和五三年(行ウ)第五一号・違法公金支出差止請求事件・昭和五五年六月一〇日・東京地方裁判所民事三部判決/認容》
「地方財政再建促進特別措置法(昭和六一年法律第九三号による改正前)二四条二項本文が国等(日本国有鉄道も合む。)に対する地方自治体の寄附金の支出等を禁止した目的は、国等がその優越的な地位を背景として、本来自己の負担すべき経費につき寄附の名目で地方公共団体にその負担を転嫁したり、地方公共団体側が国等の機関を誘致するために国等が負担すべき経費を進んで拠出するという事態が生じ、ひいては、国等と地方公共団体との間の経費負担区分を乱し、地方財政秩序を混乱させるおそれを防止し、地方財政の健全化を図ることにあると解され、また、右規定により禁止される支出とは、形式的には国等に直接されるものでなくとも、実質的に国等に対する支出と同視できるものを含むと解すべき」として品川区が期成同盟を通じて新駅建設費用を国鉄に対して支出したことは違法とした。《昭和五八年(行ウ)第六六号・地方自治法に基づく公金返還請求事件・昭和六三年三月二二日・東京地方裁判所判決》も、措置法解釈は同旨。

◆《平成七年(行ウ)第五一号損害賠償請求事件・平成九年四月二五日・東京地裁判決》
「普通地方公共団体は、その事務を処理するめたに必要な経費を支弁するものであるから(地方自治法第二三二条一項)、具体的な支出を普通地方公共団体の事務処理のための経費と解することができない場合、当該支出は違法というべきである。また、普通地方公共団体の事務を処理するに当たっては、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(同法第二条一三項)、経費はその達成するために必要且つ最小の限度をこえて支出してはならない(地方財政法第四条一項)から、普通地方公共団体の事務処理経費に該当する場合であっても、右規定に抵触する各個の支出は違法と評価され得るものというべきである。・・・したがって、具体的な支出が当該事務の目的、効果との均衡を欠いているときは不当の評価に止まるものであるとしても、具体的な支出が当該事務の目的、効果と関連せず、又は社会的通念に照らして目的、効果との均衡を著しく欠き、予算の執行権限を有する財務会計職員に与えられた裁量を逸脱してされたものと認められるときは、違法というべきである。」と判示した。

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