平成一二年七月一九日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官
平成一一年(行ウ)第一三号 氏名等非公開処分取消請求事件
(口頭弁論の終結の日 平成一二年四月一三日)

       判  決

     岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
                   原告選定当事者  寺 町 知 正
     岐阜市黒野四七一番地の一
                   原告選定当事者  別 処 雅 樹

               (選定者は別紙選定者目録のとおり)

     岐阜市薮田南二丁目一番一号
                   被     告  岐阜県知事
                            梶 原  拓
     右同所
                   被     告  岐阜県教育委員会
                   右代表者教育長  日 比 治 男
                   右両名訴訟代理人弁護士 端元博保
                   同             伊 藤 公 郎
                   同             池 田 智 洋

       主  文

一 被告岐阜県知事が原告選定者らに対して平成一一年五月二六日付けでした別紙文書目録一記載の1の公文書の部分公開決定処分のうち、同目録記載の2(一)ないし(五)の公開をしないとした部分を取り消す。


二 被告岐阜県教育委員会が原告選定者らに対して平成一一年五月二六日付けでした別紙文書目録二記載の1の公文書の部分公開決定処分のうち、同目録記載の2の旅費に関する公文書の(四)及び(五)、需用費に関する公文書の(一)、(三)ないし(五)の公開をしないとした部分を取り消す。

三 原告選定当事者らの被告岐阜県教育委員会に対するその余の請求を棄却する。

四 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を原告選定当事者らの、その余を被告らの負担とする。

       事 実 及 び 理 由

第一 請求
一 被告岐阜県知事(以下「被告知事」という。)が原告選定者らに対して平成一一年五月二六日付けでした別紙文書目録一記載の1の公文書の部分公開決定処分(以下「本件処分一」という。)のうち、同目録記載の2(一)ないし(五)の公開をしないとした部分を取り消す。


二 被告岐阜県教育委員会(なお、原告選定当事者らは、後出の条例の実施機関である岐阜県教育委員会を被告としているものと解する。以下「被告教育委員会」という。)
  が原告選定者らに対して右同日付けでした別紙文書目録二記載の1の公文書の部分公開決定処分(以下「本件処分二」という。)のうち、同目録記載の2の旅費に関する公文書の(三)ないし(五)(なお、本件訴訟において、(一)及び(二)は取消請求の対象となっていない。)、需用費に関する公文書の(一)ないし(五)の公開をしないとした部分を取り消す。

第二 事案の概要
 本件は、原告選定者らが、岐阜県情報公開条例(平成一一年岐阜県条例第三〇号による改正前のもの。以下、右条例を「新条例」といい、後出の平成九年岐阜県条例第二二号による改正前のものを「旧条例」という。)に基づき、被告知事に対し、県議会と執行部の懇親会に関する食糧費関係の公文書の公開を請求し(以下「本件請求一」という。)、被告教育委員会に対し、県議会と執行部の視察に関する旅費及び食糧費関係の公文書の公開を請求した(以下「本件請求二」 という。)ところ、原告選定者らに対し、被告知事が本件処分一をし、被告教育委員会が本件処分二をしたので、原告選定当事者らが、被告知事に対し、本件処分一の取消しを求め、被告教育委員会に対し、本件処分二の取消しを求めた事案である。

一 争いのない事実等
 1 当事者
   原告選定当事者ら及び原告選定者らは、いずれも岐阜県内に住所を有するものであり、新条例五条一号による公文書の公開を請求することができるものである。
 被告らは、いずれも新条例二条一項の実施機関である。

2 本件条例
   新条例には、次の通りの規定がある。
ただし、六条一項一号ただし書ハ、四号ただし書二の規定は、平成九年一二月二六日岐阜県条例第二二号による改正に基づくものであって、平成一〇年四月一日以後に実施機関が作成し、又は取得した公文書について適用される(附則平成九年一二月二六日条例第二二号一、三項参照)。
 また、六条二項の規定は、一〇年七月一日岐阜県条例第二一号による改正に基づくものであって、平成一一年四月一日から施行される(附則平成一〇年七月一日条例第二一号一項参照)。

(解釈及び運用の基本)
第三条 実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする。この場合において、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。

(公開しないことができる公文書)
第六条 実施機関は、次の各号のいずれかに該当する情報が記録されている公文書については、当該公文書に係る公文書の公開をしないことができる。

一 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され得るもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

 イ 法令及び条例(以下「法令等」という。)の定めるところにより、何人でも閲覧することができるとされている情報

 ロ 公表を目的として実施機関が作成し、又は取得した情報

 ハ 公務員(国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第二条第一項に規定する国家公務員及び地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第二条に規定する地方公務員をいう。)の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の職名及び氏名に関する情報(公開することにより、当該公務員の権利利益が著しく侵害されるおそれがあるものを除く。)

 ニ 法令等の規定に基づく許可、免許、届出等に際して実施機関が作成し、又は取得した情報であって、公開することが公益上必要であると認められるもの

四 法人(国及び地方公共団体を除く。)その他の団体(以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの。ただし、次に掲げる情報を除く。

 イ 事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、身体又は健康を保護するために、公開することが必要であると認められる情報

ロ 違法又は不当な事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある支障から人の生活を保護するために、公開することが必要であると認められる情報

 ハ イ又はロに掲げる情報に準ずる情報であって、公益上公開することが必要であると認められるもの


ニ 県との契約又は当該契約に関する支出に係る公文書に記録されている氏名又は名称、住所又は事務所若しくは事業所の所在地、電話番号その他これらに類する情報であって、実施機関があらかじめ岐阜県公文書公開審査会の意見を聴いて公示したもの

2 実施機関は、前項第一号の規定の解釈に当たっては、岐阜県個人情報保護条例(平成十年岐阜県条例第二十一号)第七条が規定する個人情報に係る提供の制限の趣旨に反することのないようにしなければならない。

(公文書の部分公開)
第八条 実施機関は、公文書に第六条及び前条第一項ただし書の規定により公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合において、公開しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ、かつ、当該分離により請求の趣旨が損なわれることがないと認めるときは、公文書の部分公開(公文書に記録されている情報のうち公開しないことができる情報に係る部分を除いて、公文書の公開をすることをいう。以下同じ。)をしなければならない。

3 本件各請求
(一) 本件請求一
 原告選定者らは、平成一一年五月一七日付けで、被告知事に対し、県議会と執行部の懇親会に関する食糧費関係の公文書の公開を請求した。

(二) 本件請求二
 原告選定者らは、右同日付けで、被告教育委員会に対し、県議会と執行部の視察に関する旅費及び食糧費関係の公文書の公開を請求した。
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4  本件各処分  
(一) 本件処分一
 被告知事は、平成一一年五月二六日付けで、本件請求に係る公文書の件名又は内容を別紙文書目録一記載の1の公文書(以下「企画経済委員会食糧費文書」という。)と特定した上、右文書のうち、同目録記載の2(1)ないし(四)は旧条例六条四号に、(五)は同条一号にそれぞれ該当するとの理由で、これらの部分を公開しない旨決定し、原告選定者らに対し、その旨通知した。


(二)本件処分二
 被告教育委員会は、右同日付けで、本件請求に係る公文書の件名又は内容を別紙文書目録二記載の1の公文書と特定した上、右文書中の同目録記載の2の旅費に関する公文書(以下「文教・警察委員会旅費文書」という。)のうち、(一)及び(二)は新条例六条一項一号に、(四)及び(五)は旧条例六条一項にそれぞれ該当し、(三)は旅費が合算して関係書類が作成されているため、これらを併せて公開すると、すべて公開請求の旅費であると混同されるとの理由で、需要費に関する公文書(以下「文教・警察委員会需用費文書」という。)のうち、(一)は新条例六条一項一号に、(二)は同項四号に、(三)は旧条例六条四号に、(四)及び(五)は同条一号にそれぞれ該当するとの理由で、これらの部分を公開しない旨決定し、原告選定者らに対し、その旨通知した。

5本件非公開情報
 被告らが公文書の公開をしないとした部分で、かつ、本件訴訟において取り消し請求の対象となっているのは、企画経済委員会食料費文書につき別紙文書目録一2(一)ないし(五)記載のとおり、文教・警察委員会旅費文書につき同目録二2(旅費に関する公文書)(三)ないし(五)記載のとおり、文教・警察委員会需用費文書につき同目録二2(需用費に関する公文書)(一)ないし(五)記載のとおりであるが、これらを類型ごとに分類すると、以下のとおりである。

(一)企画経済委員会に係る懇親会及び文教・警察委員会に係る懇談会(以下、単に「懇親会等」という。)の出席者の職名及び氏名
 企画経済委員会食糧費文書のうち、出席者名簿中の職名及び氏名欄(別紙文書目録一2(五)に対応)
 文教・警察委員会需用費文書のうち、


ア 経費支出伺書、支出金調書の添付書類中の私立学校職員の職氏名(同目録二2(需用費に関する公文書)(一)に対応)


イ 懇談会に出席した職員等の職名(ただし、平成九年六月三〇日以前の開催に係る文書)(同目録二2(需用費に関する公文書)(四)に対応)

ウ 懇談会に出席した職員等の氏名(ただし、平成一〇年三月三一日以前に作成した文書に係るもの)(同目録二2(需用費に関する公文書)(五)に対応)

(二)文教・警察委員会に係る視察(以下、単に「視察」という。)への出張者の職名及
 文教・警察委員会旅費文書のうち、

ア 出張した職員の職名(ただし、平成九年六月三〇日以前の出張に係るもの)(同目録二2(旅費に関する公文書)(四)に対応)

イ 出張した職員の氏名(ただし、平成一〇年三月三一日以前に作成した文書に係るもの)(同目録二2(旅費に関する公文書)(五)に対応)

(三)懇親会等の債権者名等
 企画経済委員会食糧費文書のうち、
ア 経費支出伺書中の支出予定先欄  (同目録一2(一)に対応)

イ 支出負担行為書中の債権者欄   (同目録一2(二)に対応)

ウ 支出金調書及び支出負担行為兼支出金調書中の受取人欄及び支払方法欄(同目録一2(三)に対応)

エ 支出金調書及び支出負担行為兼支出金調書に添付されている請求書中の債権者に関する情報(同目録一
2(四)に対応)
   文教・警察委員会需用費文書のうち、経費支出伺書中の支出予定先欄、支出負担行為兼支出金調書、支出負担行為書及び支出金調書中の受取人欄、支払方法欄、並びに当該調書に添付されている請求書中の債権者が識別され得る情報(ただし、平成一〇年三月三一日以前に作成された文書に係るもの)(同目録二2(需用費に関する公文書)(三)に対応)

(四)債権者の印影及び口座番号等
 文教・警察委員会需用費文書のうち、支出負担行為兼支出金調書、支出金調書及び支出負担行為書の添付書類中の債権者に係る印影及び債権者口座番号等(同目録二2(需用費に関する公文書)(二)に対応)

(5)合算情報
 文教・警察委員会旅費文書のうち、支出負担行為兼支出金調書及び支出内訳書、旅費(合算)請求書中の公開請求された同行職員の旅費以外の情報及び同行職員の旅費と、それ以外の旅費とが合算された情報(同目録二2(旅費に関する公文書)(三)に対応)

二 争点
1 被告らが公文書の公開をしないとした部分は、新条例六条一項一号又は旧条例六条一 号(同号本文の文言自体は改正がないので、以下、単に「本件条例六条一号」という。)に該当する情報に当たるか。

2 被告らが公文書の公開をしないとした部分は、新条例六条一項四号又は旧条例六条四号(同号本文の文言自体は改正がないので、以下、単に「本件条例六条四号」という。)に該当する情報に当たるか。

3 公開請求の対象外の情報が併せて記録されている部分(以下「合算情報」という。)につき、被告教育委員会が公文書の公開をしないとしたことは許されるか。

三 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件条例六条一号の該当性の有無)について
 (被告ら)
 本件条例六条一号は、いわゆるプライバシー型ではなく、個人識別型を採用している。
これは、プライバシーか否かが不明確なものも含めて、特定の個人を識別し得る情報が記録されている公文書は原則として公開しないことを定めたものであるから、プライバシーの保護が必要でない情報は個人に関する情報に当たらないと解することはできない。
 個人の氏名は、個人に関する情報の中でも最も根元的なものであり、人が個人として尊重される基礎であって、個人の人格の象徴というべきである。また、個人の職名は、特定の個人が社会的にどのような地位にあるのかを判別できる情報であり、個人の社会的評価及び信用に大きな影響を与えるものである。
 したがって、個人の氏名及び職名は、本件条例六条一号に該当する情報に当たる。
 なお、公務員の氏名等は、行政事務を遂行した公務員の特定のために公文書に記録されることが一般的であるが、それと同時に、公務員の私生活における個人識別のための基本情報としての性格も有しており、これを公開した場合には、公務員の私生活に影響を及ぼす可能性が大きいから、公務員の氏名等を公開すべき規定が条例上存しない限り、公開すべきでない。

 (原告選定当事者ら)
 本件条例六条一号は、個人のプライバシーの権利の保護を目的とするものであるから、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であっても、個人のプライバシーの権利を侵害しない場合には、公開の義務は免除されない。
 個人の氏名及び職名は、これにより個人を識別することはできるが、それは、同号の「特定の個人が識別され得るもの」に当たることが認められるというにすぎず、そもそも「個人に関する情報」に当たらないというべきである。
 被告らが公文書の公開をしないとした部分は、いずれも県民の税金の使途に関する情報であり、懇親会又は視察への出席は、公務の遂行に係るものである。また、出席者中の公務員は県民全体の奉仕者であり、私人にしても公務に準ずるものであって、その氏名等の公開により、個人のプライパシーの権利を侵害する余地は全くない。

2 争点2(本件条例六条四号の該当性の有無)について
 (被告ら)
 本件条例六条四号は、事業者の経済的自由権の保護として、営業・販売に関する情報、経営方針、経理等の内部管理に関する情報、社会的評価、信用が損なわれるおそれのあるものを公開することにより、事業活動が損なわれるおそれのある場合にはこれを公開しないことができるとするものである。
 印影は、無関係な第三者に知られた場合には偽造を許すなどの危険をはらみ、また、口座番号は、事業者の財産の所在又は種別が明らかになるなど、事業者が事業活動を行う上で重要な内部管理に関する情報であるから、これを一般に公開することにより事業活動が揖なわれることは明らかであり、本件条例六条四号に該当する情報に当たる。
 飲食業者が県に提供したサービスの内容、価格の設定に関する情報は、当該事業者の営業上のノウハウ、ひいては営業の実態そのものを形成するものであり、いわゆる企業秘密とされるものである。そして、一定期間にわたる県と特定の業者との間の具体的な取引の状況が公開されると、特定事業者の事業所得が推測され得ることになるほか、当該事業者の競争上の地位その他の事業上の利益が著しく損なわれることになる。

 (原告選定当事者ら)
 債権者に関する事業者名、住所、印影、金融機関、口座名義及び口座番号等の情報は、通常の取引において公になっているものであり、およそ競争上の地位その他正当な利益が損なわれるたぐいの情報ではあり得ない。
 また、これらの情報が公開されることにより、県と事業者の信頼関係を揖ない、又は事業者のその後の同種の事務事業の妨げとなるものでもない。
 したがって、被告らが公文書の公開をしないとした部分は、本件条例六条四号に該当する情報に当たらない。

3 争点3(合算情報の取扱い)について
 (被告ら)
 原告選定者らが公開を請求したのは、県議会文教・警察委員会の県内・県外視察に同行した県職員に関する旅費及び需用費の執行に関する情報であり、それ以外の情報は、そもそも条例上公開の義務のないものである。
 また、公開請求の対象に係る旅費とそれ以外の旅費とが合算されている情報は分離することが不可能であり、本件条例八条の趣旨に照らしても、これを公開しないことができるものというべきである。

 (原告選定当事者ら)
 公開請求の対象に係る旅費とそれ以外の旅費とが合算されている情報は、請求の対象そのものであるから、当然に公開されるべきである。
 公開請求の対象外の旅費と混同されるおそれがある場合には公開をしないことができるとの規定はないから、合算情報も公開することが条例の趣旨である。本件条例六条所定の非公開事由以外の理由により、公文書の公開をしないことができることは到底許されない。
 また、これらの情報をすべて公開しても、公開請求の対象外の旅費が付随的に列記されているというにすぎず、本件条例八条にいう「請求の趣旨がそこなわれる」こともあり得ないというべきである。

第三 当裁判所の判断
一 本件各文書の記載内容等について
 前記争いのない事実等に、証拠(甲一ないし四(技番を含む。)、一四、一五、一八ないし二四)及び弁論の全趣旨を総合すると、以下のとおりの事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

1 企画経済委員会食糧費文書について
(一)企画経済委員会食糧費文書は、平成七年から平成一○年までの間の県犠会企画経済委員会の事務事業説明会後の懇親会に関する支出関係書類、債権者発行の請求書又は納品書(以下「請求書等」という。)、出席者を示す資料のうち、平成一〇年分を除いたものである。

(二)右文書のうち、被告知事がその一部を公開しない旨決定した文書の記載内容は、次のとおりである。
 (1)経費支出伺書
 執行機関コード、執行機関名、事前決裁番号、経費支出伺文言及び日付、経費支出内容、取得期日又は実施期日(期間)、支払区分及び執行区分、契約方法及び決定理由、支出予定額、執行状況、支出予定先、科目内訳件数並びに支出予定先件数等の欄があり、決裁印が押捺されるようになっている。
 このうち、非公開の部分は支出予定先の欄である。
 
 (2)支出負担行為書
 執行機関コード、執行機関名、支出負担行為番号、支出負担行為伺文言及び日付、支払区分、執行区分、負担行為整理日、債権者、支出負担行為額、事前決裁未執行額及び戻し処理額並びに内訳件数等の欄があり、決裁印が押捺されるようになっている。
 このうち、非公開の部分は債権者の欄である。

 (3)支出金調書
 執行機関コード、執行機関名、支出命令番号、支出命令文言及び日付、執行区分及び支払区分、負担行為整理日、蒲求書受理日、支出命令年月日、審査確認年月日及び支払(予定)日、支払内容及び資金枠番号、内訳件数、支出命令額、受取人、支払方法並びに執行残額等の欄があり、決裁印が押捺されるようになっている。そして、支出金調書には請求書が添付されており、請求書には、宛名、日付、摘要、債権者に関する情報が記載されている。
 このうち、支出金調書の非公開の部分は受取人及び支払方法の欄である。
 また、請求書の非公開の部分は債権者に関する情報であり、これは、具体的には、債権者の社名、代表者名、住所、電話番号及びファックス番号等であると推認される。

 (4)支出負担行為兼支出金調書
 支出金調書と同じ事項のほか、控除額及び支給額の欄があり、決裁印押捺されるようになっている。
 このうち、非公開の部分は受取人及び支払方法の欄である。

 (5)出席者名簿
 「企画経済委員会委員との情報交流会出席者」と題する書面には、開催月日、場所、出席者が記載されている。また、「企画経済委員会(事務事業概要説明会)開催要領」と題する書面には、日時、場所、平成七年度事務事業の概要説明、その他が記載されている。
 このうち、非公開の部分はいずれも職名及び氏名の欄である。

(三)当該文書に係る懇親会の出席者は、県議会側からは議員ないし職員、県側からは企画部、商工労働部又は開発企業局等所属の職員であり、いずれも右懇親会に公務員の職務の遂行として出席した。

2 文教・警察委員会旅費文書について
(一)文教・警察委員会旅費文書は、平成七年から平成一〇年までの間の県議会文教・警察委員会の県内外への視察に同行した県職員について、旅費の執行に関する支出関係書類、同行者を示す資料である。

(二)右文書のうち、被告教育委員会がその一部を公開しない旨決定し、かつ、本件訴訟において取消請求の対象となっている文書の記載内容は、次のとおりである。
 (1)支出負担行為兼支出金調書
 執行機関コード、執行機関名、支出命令番号、支出命令文言及び日付、執行区分及び支払区分、負担行為整理日、請求書受理日、支出命令年月日、審査確認年月日及び支払(予定)日、支払内容及び資金枠番号、内訳件数、支出命令額、受取人、支払方法、控除額及び支給額、執行状況、領収の宛先、領収金額、日付及び請求受領代理人の住所・氏名等の欄があり、決裁印が押捺されるようになっている。
 このうち、非公開の部分は資金枠番号、支出命令額、控除額及び支給額、領収金額の欄である。

 (2)支出内訳書
 支出負担行為兼支出金調書に別紙として添付されており、機関コード、年度、支出命令番号のほか、内訳番号ごとに、略科目、款、項、目、節、細節事業、細事業節集計の欄が設けられた上、小計の欄がある。
 このうち、非公開の部分は細事業節集計、小計の欄である。

 (3)旅費合算請求書
 旅費請求文言、日付、請求の宛先及び請求代理者の氏名・押印、請求書番号、旅行命令書との照合印、請求金額合計、旅行命令番号、氏名コード、氏名、金額及び備考並びに小計等の欄がある。
 このうち、非公開の部分は請求金額合計、旅行命令番号、氏名コード、氏名、金額、小計の欄である。

(三)当該文書に係る視察の同行者は、県の職員であり、いずれも公務員の職務の遂行として視察に同行したものである。

3 文教・警察委員会需用費文書について
(一)文教・警察委員会需用費文書は、平成七年から平成一〇年までの間の県議会文教・警察委員会の県内外の視察に同行した県職員について、需用費の執行に関する支出関係書類、債権者発行の請求書等、出席者を示す資料である。

(二)右文書のうち被告教育委員会がその一部を公開しない旨決定した文書の記載内容は、次のとおりである。
 (1)経費支出伺書
 執行機関コード、執行機関名、事前決裁番号、経費支出伺文言及び日付、経費支出内容、取得期日又は実施期日(期間)、支払区分及び執行区分、契約方法及び決定理由、支出予定額、執行状況、支出予定先、科目内訳件数並びに支出予定先件数等の欄があり、決裁印が押捺されるようになっている。
 このうち、非公開の部分は支出予定先の欄である。

 (2)支出負担行為兼支出金調書
 執行機関コード、執行機関名、支出命令番号、支出命令文言及び日付、執行区分及び支払区分、負担行為整理日、請求書受理日、支出命令年月日、審査確認年月日及び支払(予定)日、支払内容及び資金枠番号、内訳件数、支出命令額、受取人、支払方法、控除額及び支給額、事前決済未執行額及び戻し処理額等の欄があり、決裁印が押捺されるようになっている。そして、支出負担行為兼支出金調書には請求書や納品書が添付されており、請求書等には、宛先、合計金額、日付、摘要、債権者に係る印影及び債権者口座番号等が記載されている。
 このうち、支出負担行為兼支出金調書の非公開の部分は受取人、支払方法の欄である。
 また、請求書等の非公開の部分は債権者に係る印影及び債権者口座番号等、その他債権者が識別され得る情報であり、債権者が識別され得る情報は、具体的には、債権者の社名、代表者名、住所、電話番号及びファックス番号等であると推認される。
 (3)出席者名簿
 「文教警察委員会教育懇談会出席者名簿」と題する書面には役職名及び氏名、「平成九年度文教警察委員会県内視察西南濃地区教育懇談会出席者名簿」と題する書面には、団体名等、役職及び氏名などの欄がある。
 このうち、非公開の部分は懇談会に出席した私立学校職員や職員等の職名及び氏名である。

(三)当該文書に係る懇談会の出席者は、県議会の議員及び職員、県教育委員会職員、県警本部職員、私立学校職員等であり、いずれも出席者が公務員である場合には、公務員の職務の遂行として懇談会に出席し、出席者が公務員でない場合には、公務の遂行に準じるものとして懇談会に出席した。

(四)債権者発行の請求書等は、取引関係のあった顧客に対して交付されるが、それ以上に、不特定多数の者に対して頒布されることはなく、とりわけ右請求書等に記載されている債権者の印影及び口座番号等が一般的に公開されていることはない。

二 争点1(本件条例六条一号の該当性の有無)について
 1 本件条例六条一号は、個人のプライバシーを十分に保護する目的で設けられたも
のであるが、プライバシーの内容や保護の範囲について一律的な結論を出すことが困難であるため、明確にプライバシーと認められるものに限らず、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものが記録されている公文書については、同号ただし書に掲げる情報を除き、当該公文書に係る公文書の公開をしないことができるとしたものである。そうすると、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものが記録されている公文書は、すべて公開をしないことができるとの趣旨であるといえなくもない。
 しかしながら、本件条例は、実施機関は、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしながらも、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする旨規定し(三条)、また、岐阜県作成の情報公開事務の手引きは、「個人に関する情報」について、個人の内心に関する情報、個人の経歴や社会的活動に関する情報、個人の財産の状況に関する情報、個人の心身の状況に関する情報、個人の家族や生活状況に関する情報、個人の名誉に関する情報、個人の肖像等を例示している。したがって、右のような本件条例の解釈及び運用の基本、情報公開事務の手引きの個人に関する情報の例示の内容にかんがみると、本号により保護が予定されているのは、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るもののうち、私生活上の事実に関する情報で、かつ、性質上公開になじまないようなものをいうと解するのが相当である。

 2 そこで、右解釈を前提に、被告らが公文書の公開をしないとした部分が本件条例六条一号に該当する情報に当たるか否かについて、本件非公開情報の類型ごとに検討していくこととする。
(一)懇親会等の出席者の職名及び氏名について
 (1)被告らが本号に該当するとして非公開とした部分は、前記「争いのない事実等」欄記載のとおり、企画経済委員会食糧費文書のうち、出席者名簿中の職名及び氏名欄、文教・警察委員会需用費文書のうち、ア 経費支出伺書、支出金調書の添付書類中の私立学校職員の職氏名、イ 懇談会に出席した職員等の職名、ウ 懇談会に出席した職員等の氏名である。

 (2)そこで検討するに、前記一1及び3認定のとおり、右懇親会等は、いずれも岐阜県の公的行事として開催されたものであり、その出席者が公務員である場合には、公務員の職務の遂行として懇親会等に出席したものであって、懇親会等に出席することはまさに公務の一環にほかならないというべきである。したがって、個人の職名及び氏名は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものではあるが、私生活上の事実に関する情報ではなく、性質上公開になじまないようなものでもないから、本号により保護が予定されている情報には当たらないというべきである。
 しかし、他方、懇親会等の出席者が公務員以外の者である場合には、懇親会等に出席することは公務には当たらないものの、県職員らとの懇親会等は公的会合ということができ、公務に準じるものとして懇親会等に出席したものというべきである。したがって、懇親会等への出席に関する情報は、特段の事情のない限り、私立学校職員にとっても、私生活上の事実に関する情報ではなく、性質上公開になじまないようなものでもないから、本号により保護が予定されている情報には当たらないというべきであり、本件においては、右特段の事情は見当たらない。

 (3)被告らは、公務員の氏名等は、公務員の私生活における個人識別のための基本情報としての性格も有しており、これを公開した場合には、公務員の私生活に影響を及ぼす可能性が大きいから、公務員の氏名等を公開すべき規定が条例上存しない限り、公開すべきでない旨主張する。
 しかし、公務員の職務の遂行に関する情報のうち、公務員の職名及び氏名は、当該公務の遂行者を特定するとともに、責任の所在を明示するために表示されるものにすぎず、それ以上に、当該公務員の私生活に関する情報を含むものではない。もっとも、被告らが主張するように、当該公務員の職名及び氏名が知られることにより、その私生活上の平穏を不当に侵害されることも全く考えられないわけではなく、そのような場合には、被告らにおいて、当該情報が私生活上の事実に関するものであり、かつ、性質上公開になじまないものであることの特段の事情の存在が具体的に主張立証されなければならないところ、本件においては、右特段の事情の存在に関する具体的な主張立証はない。
 したがって、被告らの右主張は直ちには採用できない。

 (4)以上によれば、懇親会等の出席者の職名及び氏名は、個人に関する情報とは認められず、結局、本件条例六条一号に該当する情報には当たらない。

(二)視察への出張者の職名及び氏名
 (1)被告らが本号に該当するとして非公開とした部分は、前記「争いのない事実等」欄記載のとおり、文教・警察委員会旅費文書のうち、ア 出張した職員の職名、イ 出張した職員の氏名である。
 
(2)そこで検討するに、前記一2認定のとおり、右視察は、いずれも県の職員が公務員の職務の遂行として行ったものであり、視察に同行することはまさに公務にほかならないというべきである。したがって、視察への出張者の職名及び氏名は、個人に関する情報であって、特定の個人が識別され得るものではあるが、私生活上の事実に関する情報ではなく、性質上公開になじまないようなものでもないから、本号により保護が予定されている情報には当たらないというべきである。
 なお、被告らは、視察への出張者の職名及び氏名についても、公務員の氏名等を公開した場合には、公務員の私生活に影響を及ぼす可能性が大きいから、これを公開すべきでない旨主張するかのようであるが、右(一)(3)で説示したのと同じ理由で、被告らの右主張は直ちには採用できなない。
 (3)以上によれば、視察への出張者の職名及び氏名も、個人に関する情報とは認められず、結局、本件条例六条一号に鼓当する情報には当たらない。

三 争点2(本件条例六条四号の該当性の有無)について
 1 岐阜県作成の情報公開事務の手引きは、「法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」の具体例について、必ずしも明らかにしていないが、「競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの」については、生産技術、営業、販売等に関する情報であって、公開によって事業活動が揖なわれるおそれのあるもの、経営方針、経理、金融、人事、労務管理等の内部管理に関する情報であって、公開によって事業活動が損なわれるおそれのあるもの、公開によって社会的評価、信用が損なわれるおそれのあるものを例示している。

 2 そこで、右趣旨を前提に、被告らが公文書の公開をしないとした部分が本件条例六条四号に該当する情報に当たるか否かについて、本件非公開情報の類型ごとに検討していくこととする。

(一)懇親会等の債権者名等について
 (1)被告らが本号に該当するとして非公開とした部分は、前記「争いのない事実等」 欄記載のとおり、企画経済委員会食糧費文書のうち、ア 経費支出伺書中の支出予定先欄、イ 支出負担行為書中の債権者欄、ウ 支出金調書及び支出負担行為兼支出金調書中の受取人欄及び支払方法欄、エ 支出金調書及び支出負担行為兼支出金網書に添付されている請求書中の債権者に関する情報、文教・警察委員会需用費文書のうち、経費支出伺書中の支出予定先欄、支出負担行為兼支出金調書、支出負担行為書及び支出金調書中の受取人欄、支払方法欄、並びに当該調書に添付されている請求書中の債権者が識別され得る情報である。

 (2)そこで検討するに、前記一1及び3認定のとおり、懇親会等の債権者名等の内容は、具体的には、債権者の社名、代表者名、住所、電話番号及びファックス番号等であると推認されるところ、これらの情報は、その性質上、不特定多数の者に開示され、しかも、債権者が内部情報として秘匿するものでもないから、それ自体としては、公開することにより、当該法人等の事業活動、社会的評価、信用が揖なわれるおそれがあるとはいえない。

 (3)この点、被告らは、飲食業者が県に提供したサービスの内容、価格の設定に関する情報は、当該事業者の営業上のノウハウ、ひいては営業の実態そのものを形成するものであり、いわゆる企業秘密とされるものであるから、一定期間にわたる県と特定の業者との間の具体的な取引の状況が公開されると、特定事業者の事業所得が推測され得ることになるほか、当該事業者の競争上の地位その他の事業上の利益が著しく損なわれることになる旨主張する。
 確かに、証拠 (甲二一、二二)によれば、支出負担行為兼支出金調書等の文書に添付されている債権者の請求書等中には、当該取引における品名、数量、単価、金額等が記載されていることがあり、右部分は公開されていることが認められるから、懇親会等の債権者名等が公開されると、既に公開されている請求書等の右記載内容を組み合わせることにより、当該事業者と県との間の当該取引の詳細な内容が明らかになり得る。しかしながら、右の取引内容は、当該債権者の顧客の一つにすぎない県の、かつ、一定期間の需用費の支出に関するものに限定されているし、しかも、どのような飲食物等をどのような単価で提供したかについては明らかになるものの、それ以上に、当該事業者の営業上のノウハウや営業の実態、経営方針又は経理内容等が明らかになるわけではなく、ましてや、当該事業者の事業所得が堆測されることもないのであるから、右各事実を公開することによって、当該法人等の事業活動、社会的評価、信用が損なわれるおそれがあるとまではいえない。
 したがって、被告らの右主張は採用できない。

 (4)以上によれば、右情報は、公開することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれるとは認められず、結局、本件条例六条四号に該当する情報には当たらない。

(二)債権者の印影及び口座番号等について
 (1)被告らが本号に該当するとして非公開とした部分は、前記「争いのない事実等」欄記載のとおり、文教・警察委員会需用費文書のうち、支出負担行為兼支出金調書、支出金調書及び支出負担行為書の添付書類中の債権者に係る印影及び債権者口座番号等である。

 (2)そこで検討するに、前記一3認定のとおり、債権者発行の請求書等は、取引関係のあった顧客に対して交付されるものであるから、右請求書等に記載されていることがある債権者の印影及び口座番号等の情報も、一定範囲の者に知られ得る情報といえる。しかし、右情報は、法人等が自らの事業活動の中で使用するものであり、一定範囲の者に知られ得る性質のものであるとしても、開示の可否及びその寵囲は当該法人等が自ら選択できるものであって、自ら開示した者以外に対しては公開せずに内部情報として管理するのが通常であり、かかる取扱いは、一般的にも是認されているところである。しかも、本件においても、前記一3認定のとおり、県に飲食物を提供した債権者の印影及び口座番号等が一般に公開されているとは認められないのであるから、債権者の印影及び口座番号等は、その情報の性質自体から、公開することにより、当該法人等の事業活動、社会的評価、信用が損なわれるおそれを否定し難いというべきである。

 (3)この点、原告選定当事者らは、債権者の印影及び口座番号等の情報は、通常の取引において公になっているものであり、およそ競争上の地位その他正当な利益が損なわれるたぐいの情報ではあり得ない旨主張する。
 確かに、原告選定当事者らが主張するように、債権者の業種、取引の内容並びに請求書等の発行方法及びその範囲によっては、債権者の印影及び口座番号等が通常の取引において公になっているものもあり、およそ親争上の地位その他正当な利益が損なわれるたぐいの情報とはいえないものもあり、そのような場合には、原告選定当事者らにおいて、債権者の印影及び口座番号等が一般的に公開されているものであることを具体的に主張立証することを要するところ、本件においては、飲食物を提供した債権者の印影及び口座番号等が一般的に公開されていることに関する具体的な主張立証はない。
 したがって、原告選定当事者らの右主張は採用できない。

 (4)以上によれば、債権者の印影及び口座番号等は、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められ、結局、本件条例六条四号に該当する情報に当たる。

四 争点3(合算情報の取扱い)について
 1 被告教育委員会が、旅費が合算して関係書類が作成されているため、これらを併せて公開すると、すべて公開請求の旅費であると混同されるとして非公開とした部分は、前記「争いのない事実等」欄記載のとおり、文教・警察委員会旅費文書のうち、支出負担行為兼支出金調書及び支出内訳書、旅費(合算)請求書中の公開請求された同行職員の旅費以外の情報、及び、同行職員の旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報である。

 2 そこで、まず、請求に係る同行職員の旅費以外の情報につき、被告教育委員会が公文書の公開をしないとしたことは許されるか否かについて検討する。
 本件条例は、公文書の公開を請求しようとするものは、実施機関に対し、請求しようとする公文書を特定するために必要な事項等を記載した請求書を提出しなければならないとし(九条二号)、実施機関は、右請求書を受理したときは、当該藷求書を受理した日から起算して一五日以内に、請求に係る公文書の公開をするかどうかの決定をしなければならないと規定している(一〇条一項)。
 このように、公文書の公開の請求方法において、請求書には請求しようとする公文書を特定するために必要な事項の記載が要求されるとともに、公文書の公開の請求に対する決定において、公開をするかどうかの決定をしなければならない対象は右請求に係る公文書とされていることにかんがみると、実施機関は、請求に係る公文書の件名又は内容を特定した上、右公文書の公開をするかどうかの決定をすべき義務を負うものであるが、それ以上に、請求に係る公文書以外の情報が記録されている公文書についてまで、公開をするかどうかの決定をすべき義務がないことは明らかである。
 そうすると、本件において、文教・警察委員会旅費文書のうち、支出負担行為兼支出金調書等の書類中の請求に係る同行職員の旅費以外の情報は、請求に係る公文書以外の情報が記録されている公文書であり、実施機関において、このような公文書についてまで、公開をするかどうかの決定をすべき義務はないから、被告教育委員会が右情報の公開をしないとしたことに違法はない。
 もっとも、右解釈を前提とすると、同一の公文書の公開を請求した場合であっても、請求しようとする公文書を特定するために必要な事項の記載の仕方によって、公文書の公開がなされる部分が異なることも十分考えられるところである。しかしながら、右のような結果は、前記のとおり、公文書の公開の請求に対する決定が、すべての公文書の公開を決定しようとする者によって特定された公文書を基準にしてなされる以上、やむを得ないものというべきであるし、また、右のような結果が発生するのを回避するためにも、実施機関において、請求に係る公文書以外の情報が記録されている公文書についてまで、公開するかどうかの決定をすべき義務を負わせることは、かえって情報公開制度の適正かつ円滑な運用を阻害することとなり、相当でないというべきである。

 3 次に、同行職員の旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報につき、被告教育委員会が公文書の公開をしないとしたことは許されるか否かについて検討する。
 本件条例は、実施機関は、公文書に第六条及び前条第一項ただし書の規定により公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合において、公開しないことができる情報に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができ、かつ、当該分離により請求の趣旨が損なわれることがないと規定する(八条)。
 右規定の趣旨は、請求に係る公文書は、その一部に公開しないことができる情報が含まれていることを理由として、当然に全体を公開しないことができるとすべきではなく、これらの情報を容易に分離することができるときは、請求の趣旨が損なわれない限り、公開可能な部分は公開すべきである、しかし、これらの情報を容易に分離できなかったり又は、分離により請求の趣旨が損なわれたりするときには、公文書の部分公開をすることができなくてもやむを得ない、という点にある。
 そして、右規定は、公文書に六条各号のいずれかに該当する情報が記録されているなどのため、公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合に関するものであるが、その趣旨は、公開請求の対象となる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合においても、同じく妥当するものと解すべきである。
 そうすると、本件において、文教・警察委員会旅費文書のうち、支出負担行為兼支出金調書等の書類中の同行職員の旅費とそれ以外の旅費とが合算された情報は、それ自体、一つの数字として現れていると推認されるものであり、請求に係る部分とそれ以外の部分とを容易に分離することができないことは明らかであるから、当該分離により請求の趣旨が損なわれることがないかどうかを検討するまでもなく、これを公開すべき義務はないというべきであり、被告教育委員会が右情報の公開をしないとしたことに違法はない。
 この点、原告選定当事者らは、公開請求の対象に係る旅費とそれ以外の旅費とが合算されている情報は、請求の対象そのものであるから、当然に公開されるべきであると主張する。確かに、右情報は、請求の対象に係る情報を含んではいるものの、右情報とそれ以外の情報とが不可分一体となっているからこそ、これが公開されるべきであるか否かがまさに問題となるのであって、原告選定当事者らが主張するように当然に公開されるべきことにはならない。前示のとおり、実施機関において、請求の対象外の情報は公開をすべき義務を当然に負うものではないから、この場合には、公文書の部分公開の可否によって解決すべき問題である。したがって、合算情報は当然に公開されるべきであるとの原告選定当事者らの右主張は採用できない。

五 結論
 以上のとおりであるから、本件処分二のうち、別紙文書目録二記載の2の旅費に関する公文書の(3)、需用費に関する公文書の(二)の公開をしないとした部分は正当であるが、本件処分一のうち、同目録一記載の2(一)ないし(五)の公開をしないとした部分、本件処分二のうち、同目録二記載の2の旅費に関する公文書の(四)及び(五)、需用費に関する公文書の(一)、(三)ないし(五)の公開をしないとした部分は違法である。
 よって、原告選定当事者らの請求は、主文掲記の限度で理由があるから、右の限度でこれを認容し、被告教育委員会に対するその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

  岐阜地方裁判所民事第一部

   裁判長裁判官  中 村 直 文

    裁判官     倉 澤 千 巌

    裁判官     中 川 博 文

     選 定 者 目 録
岐阜市黒野四七一番地の一           別処 雅樹
岐阜県加茂郡八百津町伊岐津志一四〇五番地の一 白木 康憲
岐阜県養老郡上石津町上鍛冶屋九七番地の一   三輪 唯夫
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一    寺町  緑
岐阜県美濃市大矢田一四三四番地        後藤 兆平
岐阜県不破郡垂井町一二九二番地        白木 茂雄
岐阜県可児郡御嵩町上恵土一二三〇番地の一   小栗  均
岐阜県加茂郡八百津町潮見四〇七番地      宮澤 杉郎
岐阜県揖斐郡谷汲村岐礼一〇四八番地の一    山本 好行
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一    寺町 知正

     文 書 目 録

一 本件処分一
 1 公開を請求された公文書の件名又は内容
   一九九五年、九六年、九七年、九八年に実施された県議会の企画経済委員会の新規構成(五月)に伴い実施した事務事業説明会後の懇親会に関する支出関係書類(請求書、領収書などを含む)、参加者を表す書類などのうち一九九八年分を除く書類

 2 公文書の公開をしない部分
  (一)経費支出伺書中の支出予定先欄
  (二)支出負担行為書中の債権者欄
  (三)支出金調書及び支出負担行為兼支出金調書中の受取人欄及び支払方法欄
  (四)支出金調書及び支出負担行為兼支出金調書に添付されている請求書中の債権者に関する情報
  (五)出席者名簿中の職名及び氏名欄

二 本件処分二
 1 公開を請求された公文書の件名又は内容
   一九九五年、九六年、九七年、九八年に実施された県議会文教・警察委員会の県内・県外視察(国外を除く)に同行した県職員に関する以下の公文書

  (一)旅費の執行に係る支出負担行為兼支出金調書、旅費請求書、旅行命令(依頼)書及び旅費請求(精算)書・領収書など
 
 (二)需用費の執行に係る支出負担行為兼支出金調書(付属文書を含む、以下同じ)、支出金調書、支出負担行為書及び経費支出伺書など

 2 公文書の公開をしない部分

(旅費に関する公文書)
  (一)旅行命令(依頼)書中職務の級欄に記載されている、出張した職員の給料の級及び号給

  (二)支出負担行為兼支出金調書の添付書類である支出内訳書中受取人支払方法欄に記載されている口座名義
 
  (三)支出負担行為兼支出金調書及び支出内訳書、旅費(合算)請求書中の公開請求された同行職員の旅費以外の情報及び同行職員の旅費と、それ以外の旅費とが合算された情報

  (四)出張した職員の職名(ただし、平成九年六月三〇日以前の出張に係るもの)

  (五)出張した職員の氏名(ただし、平成一〇年三月三一日以前に作成した文書に係るもの)

(需用費に関する公文書)
  (一)経費支出伺書、支出金調書の添付書類中、私立学校職員の職氏名

  (二)支出負担行為兼支出金調書、支出金調書及び支出負担行為書の添付書類中、債権者に係る印影及び債権者口座番号等

  (三)経費支出伺書中の支出予定先欄、支出負担行為兼支出金調書、支出負担行為書及び支出金調書中の受取人欄、支払方法欄、並びに当該調書に添付されている請求書中の債権者が識別され得る情報(ただし、平成一〇年三月三一日以前に作成された文書に係るもの)

  (四)懇談会に出席した職員等の職名(ただし、平成九年六月三〇日以前の開催に係る文書)

  (五)懇談会に出席した職員等の氏名(ただし、平成一〇年三月二二日以前に作成した文書に係るもの)

右は正本である。                               

平成一二年七月一九日
  岐阜地方裁判所
       裁判所書記官    安井 啓夫


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