次回期日  二〇〇〇年三月二日(木)一時一〇分〜
                                    

 平成一一年(行ウ)第一七号 県営渡船情報非公開処分取消請求事件

                       原  告  寺町知正  他九名
     被  告  岐阜県知事 梶原拓

準備書面(三)


                       選定当事者    寺  町  知  正  
                       選定当事者    山  本  好  行    

      (連絡先) (寺町)岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
         TEL・FAX 0581−22−4989
 (山本)岐阜県揖斐郡谷汲村岐礼一〇四八の一
         TEL・FAX 0585−55−2627
二〇〇〇年二月二八日
岐阜地方裁判所 民事一部 御中

第一 本件非公開文書の分類整理について
一 本件公文書を、その公開をしない理由ごとに訴状の第二〜五の処分の存在の記述を整理して分類する。(表示番号は本件文書@〜Cに枝番をつける)。
  分類した中で非公開部分が明瞭なものを別途、書証として提出する。ただし、部分公開文書の中には、一枚の中に異なる理由による、あるいは複合の理由による非公開部分があること、あるいは複数の理由による非公開部分の存在もあり得ようが、非公開部分と非公開理由の精緻な適合は当該処分をなした被告しか分からないことである。

二1 本件文書@ー一(甲第一一号証)。一号(個人情報)該当(別紙−一)。
   個人に関する情報であって、特定の個人が識別されるため本件条例(ただし、平成九年岐阜県条例第二二号による改正前のもの。以下、「改正前のもの」という)第六条第一号又は条例第六条第一項第一号に該当するとして、次の情報が非公開として墨塗りされた。
    ○ 旅行命令(依頼)書中の職務の級欄に記載されている出張した職員の級(行政職に読み替えた級を含む。)及び号給
    ○ 旅費に関する支出内訳書中の支払方法に記載されている口座名義・・・・ただし、右二項は本件訴訟では取消を求めていない部分である。
    ○ 委託に関する検査調書中の立会人欄に記載されている氏名
    ○ 渡船場業務日誌に記載されている勤務者名
 
 2 本件文書@ー二(甲第一二号証)。四号(事業活動情報)該当(別紙−一)。
   事業活動に関する情報であって、公開すると、当該事業者の競争上の地位その他正当な利益が揖なわれるおそれがあるため本件条例第六条第一項第四号に該当するとして、次の情報が非公開として墨塗りされた。
    ○ 委託料精算書に記載されている渡船組合の代表者名
    ○ 領収証(書)に記載されている納入業者の印影、住所、氏名等
 
 3 本件文書@ー三(甲第一三号証)。八号(行政運営情報)該当(別紙−一)。
   公開すると、海津町の出納事務の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生するおそれがあるため本件条例第六条第一項第八号に該当するとして、次の情報が非公開として墨塗りされた。
    ○ 委託に関する支出命令番号000200101、000200102、00030101、000030102、000210101、000210102、000180101、000180102の支出金調書中の支払方法欄に記載されている海津町の口座番号
 
 4 本件文書@ー四(甲第一四号証)。合算情報、請求外情報の非公開(別紙−一)。
   当該情報は、公開請求対象外の情報又は公開請求対象外のものが合算された情報であり、公開すると、すべてが公開請求された県営渡船越立業務に関するものであると混同される恐れがあるため、として次の情報が非公開として墨塗りされた。
    ○ 旅費に関する支出負担行為兼支出金調書、旅行命令(依頼)書、旅費(合算)請求書及び支出内訳書中の、公開請求された県営渡船越立業務に関するもの以外の情報及び当該情報と県営渡船越立業務に関するものが合算して記録されている情報

三1 本件文書Aー一(甲第一五号証)。一号(個人情報)該当(別紙−二)。
   個人に関する情報であって、特定の個人が識別されるため本件条例第六条第一項第一号に該当するとして、次の情報が非公開として墨塗りされた。
    ○ 船舶検査手帳に記載されている検査員の氏名及び印影
    ○ 振込依頼票(控)及び振込金受取書の出納印にある取扱銀行の担当者名
 
 2 本件文書Aー二(甲第一六号証)。四号(事業活動情報)該当(別紙−二)。
   日本小型船舶検査機構の振込先銀行、口座番号等及び印影は、当該法人の内部管理に関する情報であって、公開すると当該法人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれるおそれがあるため、また、取得先については、取得先事業者の営業活動に関する情報であって、公開すると当該業者の競争上の地位その他正当な利益が損なわれるおそれがあるため本件条例第六条第一項第四号に該当するとして、次の情報が非公開として墨塗りされた。
    ○ 振込依頼票(控)・手数料納付請求書・振込金受取書に記載されている日本小型船舶検査機構の振込先銀行、口座番号等及び手数料納付請求書・船舶検査手帳に押印された印影
    ○ 物品登録調書に記載されている取得先
 
 3 本件文書Aー三(甲第一七号証)。合算情報、請求外情報の非公開(別紙−二)。
   当該情報は公開請求対象外の情報であり、公開するとすべてが公開請求された県営渡船越立業務に関するものであると混同されるおそれがあるためとして、次の情報が非公開として墨塗りされた。
    ○ 物品品目別一覧表中の、公開請求された県営渡船越立業務に関するもの以外の情報

四1 本件文書Bー一(甲第一八号証)。一号(個人情報)該当(別紙−三)。
   個人に関する情報であって、特定の個人が識別されるため本件条例(改正前のもの)第六条第一号に該当するとして、次の情報が非公開として墨塗りされた。
    ○ 旅行命令(依頼)書中の職務の級欄に記載されている出張した職員の職名(平成九年六月以前の出張に係るもの)・氏名、級(行政職に読み替えた級を含む。)・号給及び印影
    ○ 旅費請求(精算)・領収書中の、出張した職員の氏名び印影
    ○ 旅費に関する支出内訳書中の支払方法に記載されている口座名義
    ○ 旅費(合算)請求書中の出張した職員の氏名・・・・ただし、職員の級及び号給並びに口座名義は、本件訴訟では取消を求めていない。
 
 2 本件文書Bー二(甲第一九号証)。合算情報、請求外情報の非公開(別紙−三)。
   当該情報は、公開請求対象外の情報又は公開請求対象外のものが合算された情報であり、公開すると、すべてが公開請求された海津町への出張に関するものであると混同されるおそれがあるためとして、次の情報が非公開として墨塗りされた。
    ○ 支出負担行為兼支出金調書・旅費(合算)請求書・支出内訳書及び旅行命令(依頼)書/旅費請求(精算)・領収書中の、公開請求された海津町への出張に関するもの以外の情報及び当該情報と海津町への出張に関するものが合算して記録されている情報

五1 本件文書Cー一(甲第二〇号証)。一号(個人情報)該当(別紙−四)。
   個人に関する情報であって、特定の個人が識別されるため本件条例(改正前のもの)第六条第一号に該当するとして、次の情報が非公開として墨塗りされた。
   ◎平成九年度委託料支出金調書に添付されている請求書送付文書に記載されている担当者名

第二 合算情報、請求外情報を非公開とすることの違法性
一 本件条例は公開することを大原則としているから、第六条に定める非公開理由に該当する場合にのみ「非公開とすることができる」というものである。そして、非公開部分が存在してもできるだけ公開すべき、との立場から第八条に部分公開を規定しているが、その解釈運用基準(甲第二一号証の一)にも、「合算情報及び他の目的の支出」などの概念は無く、公開事務取扱要綱(甲第二一号証の二)にも何ら想定、規定されていない。
  本件条例は公開の請求の方法として、第九条(1)で「住所、氏名」を求め、(2)で「請求しようとする公文書を特定するための必要事項」の記入を定めているのみで、請求の目的や趣旨を明らかにすることは規定していない。
  即ち、第八条本文の「請求の趣旨が損なわれることがない」か否かの判断についても、その判断の基準を客観的に求めることは困難であって、一方、請求者には知りたいと思う情報の内容を特定の上公開請求を行う義務はないのだから、この点について行政機関が判断を行うことは制度の仕組みとして著しい矛盾があることは明らかである。本来的に、法令としての整合性を考えたとき、公開を原則とする条例において、部分公開の規定の本文中に「請求の趣旨云々」を盛り込んだこと自体に瑕疵があったというべきである。公開された公文書等により、請求者が自分の知りたい情報を得られないことがあっても、それは請求者の期待が満たされないだけであって、特段の弊害を生ずることはない。
  また、第三条「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、運用する」と定められていることが忘れられている。
  被告の準備書面(一)四の「公開する義務がない」との主張は、条例の解釈を誤っている。本件条例は、第六条に該当しない限り公開を義務づけ、第六条に該当しても「公開しないことができる」としているのみである。

二 「公文書の公開請求」とは、「公文書のうちの請求事項の部分のみを摘示した公開を請求」したことでなく、「請求した情報を記載した(一連の)ペーパーとしての公文書そのもの全体の公開を請求」したことであるのは明らかである。にもかかわらず、岐阜県の公開方法によると、請求事項の書き方次第で、「公文書中に他の情報が含まれた」と判断されたり、「全部が請求にかかる情報」と判断されたりするのである。
  しかし一般に、文書は極めて多くの情報から構成されているのは当然で、文書中の情報は、「全部」 と請求しない限り、一言、一行ずつ精査し、「他の情報」と峻別を行うと、「全部公開」というような文書はなくなってしまうのは明らかである。
  条例第八条前段で「規定により公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合」としているが、この「それ以外の情報」とは「それ以外の全ての情報」を指すことは明らかである。
  さらに、公文書の部分公開とは、同条後段で「公文書に記載されている情報のうち公開しないことができる情報に係る部分を除いて、公文書の公開をすることをいう」とされており、「公開しないことができる情報」以外は全て公開することを定めている。
  また、「当該分離により請求の趣旨が損なわれることがないと認めるとき」とされているが、解釈運用基準3「公開しないことができる情報が記録されている部分を除いた部分について、公文書の公開をすることにより、請求の趣旨を一部でも達成充足できると認めるとき」と示されている。これに該当すると思われるのは、例えば、本文が非公開とすべきことから、そこを墨塗りすると部分公開文書は「枠の罫線だけになってしまう」などの場合しか考えようがない。しかし、この場合でも、請求者が枠の大きさ、面積でそこにある情報の量を推測・比較できるから、と公開を求めれば、部分公開すべき、と解釈すべきである。
  なおかつ、このような場合には、解釈運用基準4に「電話等で確認する」とされているところ、岐阜県は、日常的に、この確認を一切行っていない。本件処分に際しても、何ら確認はなかった。

三 本件処分は、そもそも、「請求の趣旨が損なわれる」ことがあるという場合ではない。直接の請求事項に関する支出額と他の目的の支出額との合計額は、請求事項を内包しているのだから当然に公開されるべきである。また、そのページにある他の目的の支出額を公開しても、請求以外の情報が付随的に列記されているだけで、「請求の趣旨が損なわれる」ことはあり得ない。

四 愛知県公文書公開条例(甲第二二号証)は、第六条二項で岐阜県と同様に「請求の趣旨が損なわれることがないと認められるとき」の部分公開を規定している。
  愛知県は実際に、原告らの「一宮土木事務所の西中野渡船に係る需用費」に関する公開請求に対して、非公開事由に該当していない他の支出の情報や合算部分も公開している(甲第二三号証の一、甲第二四号証の一)。 
  この公開に際して、愛知県は「支出金調書は科目明細により支出しております。中部電力(株)より街路灯など含めてまとめて、請求がありますので、それぞれの目的別に明細を付けています。西中野渡船分をマーカーで示しました。」と説明して、該当支出をマーカーで緑色で明示しつつ、合計欄や他の支出は原本のまま公開した。
  これを岐阜県の運用方法で公開すると非公開部分が生ずることとなる(甲第二三号証の二、甲第二四号証の二は原告が岐阜県の運用に習って墨塗りしてみたもの)。

五 岐阜市は一九八五年、全国でも先駆け的に情報公開制度を開始し、「請求の趣旨が損なわれることがないと認められるとき」の明文はなく(甲第二五号証)、公開原則の理念も岐阜県と変わりはない。
 当時は、精緻な条例の解釈はなされておらず、部分公開にあたっての解釈運用基準も詳しくはないが、合算情報やその他の目的の支出等を非公開とする扱いは無い(甲第二六号証)。

六 九八年一月に施行された多治見市の情報公開条例は、「請求の趣旨が損なわれることがないと認められるとき」の明文はなく(甲第二七号証)、公開原則の理念にも変わりはない。
  多治見市は、学説に加え、岐阜県が「合算情報、その他の目的の支出は非公開である」として大部分墨塗りした文書(例えば甲第一四、一七、一九号証のような)を乱発したことの問題を聞き及び、第七条本文の中に解釈運用1「部分公開は、請求の趣旨を損なうか否かを問わない。趣旨に適うか否かは、公開された後に、請求者が判断することになる。これは、請求時においてその目的、趣旨を問わないこととしていることによる。」と記載して、実施機関側が判断するものではないことを明確にすることで、条例の公開原則をより分かりやすく示し、同時に、岐阜県のような混乱と職員の墨塗り事務の手間の増加を回避した(甲第二八号証)。

七 九九年一〇月施行の愛知県日進市も、多治見市と同様である(甲第二九、三〇号証)。

八 合算情報及びその他の目的の支出に関する岐阜県の現状
  岐阜県の公開においては、同一の公文書でも、請求事項の記載の仕方によって、公開部分が異なる。
  実際に、原告らが過去に行った、岐阜県民ふれあい会館についての公開請求では、「県からの委託業務に関する文書」として請求すると全面公開される(甲第三一号証の一)が、ふれあい会館の個別事業を特定して請求する、即ち例えば「モーツアルトコンクールの委託事業に関する文書」として請求すると、全く同じ文書であるのに、それ以外の情報は丁寧に墨塗りされてしまった(甲第三一号証の二)のである。
  岐阜北税務推進協議会に関する文書を請求すると、岐阜市は全面公開(甲第三二号証の一)したが、同じ文書を岐阜県の運用方法に従えば「岐阜県に関する欄」以外は墨塗りになる(甲第三二号証の二は原告が墨塗りしてみたもの)。

九 処分に当たっては、条例に明記された非公開事由以外の理由などで非公開とすることは許されない。
  情報の性質等他の理由で、特別に緩やかに判断することは容認されないとした判例を示す。
   教育行政情報非公開決定処分取消等請求控訴事件・平成二年(行コ)第三号・平成三年四月一〇日・福岡高等裁判所判決・棄却確定は「福岡県情報公開条例に基づく開示請求に係る情報が学校教育に関するものであることを理由として、他の一般的な行政情報とは異なった配慮の下に開示の適否を判断すべきであるとする県教育委員会の主張が、情報の開示を原則とする条例の解釈に当たっては、明記された非開示事由以外に当該情報の開示を拒否できる場合を認めることは許されず、また、非開示事由該当性の判断においても、特に条例で認められたもののほかには、その情報の性質等を理由として、特別に緩やかに判断することは容認されない。また、右開示請求は正当な権利行
  使というべきであり、権利の濫用に当たらない」として、処分を取り消した。

第三 岐阜市は支障がないとして公開している
一 主として個人情報に関して 
  個人情報に関する岐阜県と岐阜市の規定は同旨であるにもかかわらず、岐阜市が全面公開する情報を、岐阜県が部分公開とする場合が極めて多く、全面非公開とする場合すらある。
  岐阜市は、従来より、特別土地保有審議会の委員名、自宅住所、電話番号、印影も公開している(甲第三三号証)。業務に係る宿泊先の旅館名、電話番号も明らかにし、これらは当然に市の債権者の情報でもある。
  岐阜市は、従来より他の地方公共団体の職名、職員名も公開し(甲第三四号証の一、二)(甲第三五号証の一)、研修会出席者の年齢、性別も明らかにしている(甲第三五号証の二)。
  さらに、研修会の参加者の職名、氏名、部屋割り、他の地方公共団体の職名、職員名も公開し、実質的な債権者情報である宿泊施設に関する情報も公開している(甲第三六号証の一、二、三)。
  児童・生徒の事故報告書について、岐阜市は個人氏名等を除いて部分公開している(甲第三七号証の一)が、岐阜市教育委員会が県に上げた当該文書を岐阜県は全面非公開としている(甲第三七号証の二)。

二 主として事業活動情報、行政運営情報に関して
  岐阜市は、従来より、債権者としての任意団体「岐阜税務研究会」「東海都市税務協議会」などの
 金融機関、口座種別、口座番号、口座名義や団体の印影などの情報を公開し(甲第三八号証)(甲第三九号証)、公的団体である「市長会」の情報も同様で(甲第四〇号証の一)、さらに印刷(代金支払い)業者名やその金額なども公開している(甲四〇号証の二)、(甲第四一号証の一、二、三)。

三 岐阜県も債権者情報を公開している場合もある(甲第四二号証の一、二)。

四 地方公共団体の指定金融機関は法第二三五条、同施行令第一六八条の一〇項において、これを告示すべきことが定められている。

五 非公開事由の規定においては県と市は大差ないけれど、以前より岐阜市は様々な情報を、公開しても支障がない、としてきた。これは、公開条例の正当な解釈に則るもの、というべきで、県は、あまりに違法な処分が多い。

第四 情報公開条例における基本原則
一 本件条例は第三条で「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用する」と規定し、手引き(九頁)では「この条例の基本理念である『原則公開』の精神に基づき、公文書公開制度が運用されなければならない」と明確にしている。本件条例は情報の公開を原則とし、非公開を例外とし、第六条各号に該当する場合でも、「公開してはならない」としているのでなく、「公開しないことができる」としているだけである。また、各号の非公開事由の条文構造をよく理解し、正確に適合性を判断しなければならない。

二 情報公開訴訟は迅速に
  非公開処分取消訴訟(以下「情報公開訴訟」という。)の手続は迅速に行なわれるべきである。
  情報公開条例をその制度趣旨(第一条)に従って利用しようとする者にとって、実施機関が保有する情報が公開される時期は何年先であってもとにかく見られればよいというものではない。公開されるべき情報は情報公開請求後速やかに公開されなければならない。なぜなら、情報公開制度を使う住民は何年後かに過去を振り返って政治を論じたいと考えているのではなく、いま行なわれている政治に主権者たる住民として責任ある適切な意見を言って行きたいと考えている。そして本件条例は情報公開請求権の位置づけについて、「県民の県政への参加を促し、県政に対する理解と信頼を深め、もって開かれた県政を実現すること」(第一条)としており、そこでは実施機関と住民とが噛み合った議論をするために実施機関が保有する情報が住民に速やかに提供されることを予定している。情報を持たない住民の意見はその主観はともかく客観的には行政実務の現実を無視した自分勝手なものになりかねないが、行政と情報を共有する住民は「知らなかった」という弁解ができなくなるので自分勝手な意見を言わなくなるか、言いたくても言いにくくなる。そのような状況は行政にとっても誠実に自治体のことを考える住民にとっても好ましい効率的な関係である。
  したがって、非公開処分が誤っているとして処分の取消を求める裁判の場合、その処分が違法であることの発見と判決は速やかに実現されなければならない。

三 立証責任の転換
  ふつうの裁判では、訴えを起こした原告の側で自分の主張が正しいことを主張立証しなければならないとされている。これはだれがだれを訴えることも訴訟手続としては自由であるだけに(濫訴として不法行為責任を問えるかどうかという問題は置くとして)、身に覚えのないことで訴えられた側(被告)の主張立証の負担を軽くしてやる必要があるということが一般的に言える。
  ところが情報公開訴訟ではちがう。立証責任が転換している。つまり訴えた原告の側で当該処分が違法であることを主張立証しなければ勝てないのではなく、訴えられた被告の側で当該処分が適法であることを主張立証できなければ原告側の勝訴となるのである。実質的に考えても、原告側に主張立証責任を負わせるとなると、原告側は非公開文書の内容がわからないために的確な主張立証ができないという事態が十分に予想され、情報公開制度の公開原則が空洞化してしまうことは明らかである。
 このことは本件条例に基づく非公開処分にも当てはまる。本件条例第一条が公開原則を認め第八条で例外的に非公開とすることができるという規定になっている仕組みからして、立証責任は被告側に転換されていると解すべきである。
  これまでの情報公開訴訟における原告勝訴の判決書の理由部分において、「被告が非公開事由に該当する事実を具体的に主張していないので」とか「被告が非公開事由に該当する事実を具体的に立証していないので」という書き方をしているのは、立証責任が転換されていることを端的に示している。

四 被告の負担
  立証責任の転換は実施機関である被告にとって特に負担になるものではない。本件非公開処分が本件条例の解釈運用として合理的なものであるならば、被告は主張立証について特に負担を感じることはないはずである。まして、被告は原告から情報公開請求されたときに、本件公文書のどの部分がどのような理由で非公開にできるかを十分に吟味検討したはずである。その検討の結果が本件処分であることからすると、被告は、本件訴訟の当初において本件非公開処分の理由をすべて詳しく説明し尽すことができる。

第五 情報公開条例の条文解釈
  被告が本件訴訟において主張立証責任を果たしているか否かを検討する前提として、本件条例の関係条文の解釈について述べる。

一 第六条第一号(改正前のもの)、第六条第一項第一号(個人情報)について
  本件条例第六条第一号(改正前のもの)、第六条第一項第一号は、憲法第一三条が保障する個人のプライバシーの権利、すなわち私生活をみだりに公開されない権利の保護を目的とするものであるから、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であっても、その公開によって、個人のプライバシーの権利の侵害が生じない場合は、公開義務は免除されない。
  本号について、原則公開を定めた本件条例の趣旨に鑑みると、個人識別型かプライバシー型かという議論は生産的でない。本号がどのような規定の仕方になっているかが端的に検討されれば足りる。
  本号による例外は、「個人に関する情報」(A)であって「特定の個人が識別され得るもの」(B)であることが要件とされている。「A又はB」ではなく、「A+B」でなければならない。
  まず(A)に当たる「個人に関する情報」とは、岐阜県作成の『情報公開事務の手引き(改訂版)』(以下『手引き』という。)によれば(一六頁)
 (1)思想、信条、信仰、意識等個人の内心に関する情報
 (2)職業、資格、犯罪歴、学歴、所属団体等個人の経歴、社会的活動に関する情報
 (3)所得、資産、住居の間取り等個人の財産の状況に関する情報 
 (4)体力、健康状態、病歴等個人の心身の状況に関する情報
 (5)家族関係、生活記録等個人の家族・生活状況に関する情報
 (6)個人の名誉に関する情報
 (7)個人の肖像
 (8)その他個人に関する情報
  とされている。
 「(8)その他個人に関する情報」という説明がどこまでの広がりを持っているか限界は明確ではないが、(1)から(7)に類するものと考えるのが常識的であろう。
  手引きの〔趣旨〕欄で「本号は、個人のプライバシー保護を主要な制定趣旨とする」とし、〔解釈・運用〕欄で「個人に関する情報は、一度公開されると、当該個人に対して回復し難い損害を与えることがある。したがって、個人のプライバシー・名誉毀損等の人格権的利益を最大限に保護する」としていることからすると、本号の目的が「基本的人権」であるところの「個人のプライバシー」の保護にあることは明らかである。ただその限界を明確に画することが運用上困難だろうと考えて本号のような規定の仕方になっているのである。そうである以上、「(8)その他個人に関する情報」は前記のような解釈こそが本号の解釈として正しいと言える。
  次に(B)に当たる「特定の個人が識別され得るもの」とは、手引きによれば(一六頁)、「特定の個人が直接識別される情報(住所、氏名等)はもとより、公文書に記載されている情報からは直接特定の個人が識別されなくとも、容易に取得できる他の情報を組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報を含む」とされている。
  被告は「特定の個人が識別され得るもの」である事だけでなく、同時に、右に示される「個人に関する情報」であることを主張立証しなければならない。

二 第六条第一項第四号(事業活動情報)について
  本号による例外は、「法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」(A)であって「公開することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの」(B)であることが要件とされている。これも一号と同じく、「A又はB」ではなく、「A+B」でなければならない。
  まず(A)の前段の「法人等に関する情報」ついて見ると、何が「法人等に関する情報」なのかという点について、手引きには何ら説明していない。とりあえず広く解釈しておくしかないのかもしれない。後段「当該事業に関する情報」とは、「事業活動に関する一切の情報をいう」とされている。
  次に(B)に当たる「競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの」とは、手引きによれば(二一頁)、「(1)生産技術、営業、販売等に関する情報であって、公開によって事業活動が損なわれるおそれのあるもの、(2)経営方針、経理、金融、人事、労務管理等の内部管理に関する情報であって、公開によって事業活動が損なわれるおそれのあるもの、(3)公開によって社会的評価、信用が損なわれるおそれのあるもの」とされている。そもそも(B)の規定は、本件条例第一条第一項第五号・犯罪捜査情報のように「生ずるおそれのある」と規定しないで、あえて「損なわれると認められる」と規定していることが明確に意識されるべきであり、被告は「損なわれると認められる」事実の存在を主張立証しなければならない。
 
三 第六条第一項第八号(行政運営情報)について
  本号による例外は、「監査、検査、取締り等の計画及び実施要領、争訟または交渉の方針、入札の予定価格、試験の問題及び採点基準その他県又は国等の事務事業に関する情報」(A)であって「公開することにより、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が損なわれ、又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれのあるもの」(B)であることが要件とされている。これも第一号、四号と同じく、「A又はB」ではなく、「A+B」でなければならない。
  まず(A)について見ると、「監査、検査、取締り等の計画及び実施要領、争訟または交渉の方針、入札の予定価格、試験の問題及び採点基準」のほか「その他県又は国等の事務事業に関する情報」とがある。「その他県又は国等の事務事業に関する情報」とは、手引きによれば(二六頁)、「前示の事務事業に関する情報のほか、県又は国等が行う一切の事務事業に関する情報をいう」とされている。
  規定の仕方からして本号が保護することを予定しているのは事務事業の具体的な内容についてであり、だれがどこで行なうかというような事務事業の内容とは関係がなく、事務事業の内容を推測させるようなことのないものは、事務事業の内容と比較して非公開による保護を与える価値があるか疑わしいのであり、「事務事業に関する情報」には含まれないと解するのが相当である。
  次に(B)に当たる「当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が損なわれ、又はこれらの事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれのあるもの」とは、手引きによれば(二六頁)、公開することにより「(1)当該事務事業を実施しても、予想どおりの成果が得られず、実施する意味がなくなるおそれのある情報、(2)特定のものに不当な利益又は不利益を与えるおそれのある情報、(3)県又は国等と相手方との信頼関係を損ない、当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の遂行を著しく阻害するもの、(4)当該事務事業の経費が著しく増大し、又は当該事務事業の実施の時期が大幅に遅れるなど行政が著しく混乱するおそれのある情報、(5)その他」とされている。
  ここにいう「おそれ」とは抽象的観念的な想像の世界について並び立てろということではなく、「おそれ」を基礎づける具体的な事実の存在を被告が主張立証する責任を負うということである。
  また、手引きの趣旨の2では(二六項)、「『著しい支障が生ずる』と限定したのは、事務事業の目的が損なわれることがなく、事務事業の執行に生ずる支障が軽微なときは、当該公文書は公開されるべきであることを明らかにした」とされており、支障の著しさの主張立証責任は右同様である。

第六 本件の場合
一 第一号(個人情報)について
 1 本件非公開とされた情報は、いずれも岐阜県民の税金である委託事業費に直接関係する情報であって、関係する公務員はそもそも全体の奉仕者であり(憲法第一五条)、私人にしても公務に準ずる者であって、その氏名等の公開に何らの問題がないことは議論するまでもないことである。債権者に関する情報も同様である。
 
 2 そもそも、本条例第六条一号が個人のプライバシーを保護する趣旨で規定されたものであるあるならば、個人のプライバシー侵害のおそれがない情報は、「個人に関する情報」に該当しないというべきであり、この種の情報は公開されなければならない。もし規定の形式的な文言に拘泥し、実質的なプライバシー侵害がないにもかかわらず、非公開にするというのでは、プライバシー保護という規定の本来の趣旨を逸脱することになり、非公開範囲が広くなりすぎ、本条例が定める情報公開制度の精神を無に帰せしめることになるのである。
   この点について、東京高裁平成九年二月二七日判決(平成八年(行コ)七八号事件)は、「控訴人は、本件各文書に係る会議・懇談会等の出席者(都の出席者を除く。)に関する情報は本件条例九条二号の「個人に関する情報」に該当すると主張する。東京都情報連絡室作成の「情報公開事務の手引(再訂版)」(以下「情報公開事務の手引」という)によれば、「個人に関する情報」(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)とは、思想、心身の状況、病歴、学歴、職歴、成績、親族関係、所得、財産の状況その他一切の個人に関する情報をいうとされているが、本件条例九条二号は、私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている文書を公開してはならないとしているものと解される。
   ところで、右事件においては、本件各文書に係る会議・懇談会等は、都の公務として開催され、これに出席した相手方は、国(関係省庁・国税当局)と地方公共団体(隣接県、大都市及び特別区)の担当職員であり、いずれも右会議・懇談会等には公務員の職務の遂行として出席したものである。
  したがって、国及び地方公共団体の担当職員の右会議・懇談会等出席に関する情報は、私事に関する情報ではなく、公務員の私人としてのプライバシー保護に対する配慮は必要でないから、同号の「個人に関する情報」には当たらない。」と判示している。
   さらに、大阪高裁平成一〇年六月一七日判決(平成九年(行コ)第一七号事件)も、「控訴人は、二号の趣旨及び文理から、特定の個人が識別され又は識別され得る情報は、プライバシーに関係しないことが明らかであっても、公開の適用除外事項に該当すると解すべきであると主張する。しかしながら、二号の規定が前記のとおり『個人に関する情報』を適用除外事項の要件としていること、二号の規定の趣旨が右にみたとおりプライバシーの保護を目的とすることからすると、プライバシーに関係しないことが明らかな情報は二号の適用除外事由に当たらないと解すべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。」と判示している。
   このように、東京・大阪両高裁判例は、いずれも、個人のプライバシー侵害のおそれがない情報を、非公開とすることは許されないという判断を下しているのである。
 
 3 利益衡量
  条例は「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする。この場合において、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定して個人情報の開示に「みだりに」としぼりをかけていること(三条)や公文書公開事務の手引が、具体的に説明していることを前提に利益考量を行うべきものである。即ち、公開されることが「みだりに」という主観的ではなく客観的評価となるか否か、また手引に例示列挙されたものと同質またはそれに近い価値をもつものであるか否か、という基本的スタンスで当該情報につき具体的利益衡量をなすべきものである。
   本件委託事業は、県として非常に重要な事業として県営で行うものであるから、関係者は公務の遂行にほかならず、当該職員は県民全体の奉仕者としてその業務を行っているに過ぎないから、個人のプライバシーの侵害は生じる余地がない。また、船頭らは公務遂行への関与という点、あるいは役務に対する対価を受けるという点では県職員と何ら異なるところがない。
   船頭らも、県営渡船の運行管理と認識して従事しているのだから右業務に従事していたという事実そのものについて、それが非公開とされなければならない一般的なプライバシー保護の領域に入るとして、公開されないことから得られる個人的な利益は、特段に存在しない。それは、公務員にしても、債権者やその従事者等の関係者に関しても同様である。
   本件業務等に関係したものについての情報が公表されることから得られる利益は、公文書公開条例の立法目的そのものである行政の透明性の確保、行政の公正性の担保、県民の理解と信頼の確保等であり、公開されないことによって得られるプライバシーの保護の利益は既述のとおりであるから、その利益衡量は公開の利益を重しと結論されるのは、当然である。
 
 4 被告が本号に該当するとしたのは、公務員職名・氏名や船頭・検査員・担当者等の氏名、印影などである。
   被告は本号への当てはめ以前に本号の解釈を誤っている。被告は個人が識別できる情報はすべて本号によって非公開にできると考えているようであるが、右記のとおり、本号の規定の趣旨が個人のプライバシー保護にあることは手引きの説明から明らかであり、「個人に関する情報」(A)による絞り込みが必要なのである。
   被告は、氏名等が、「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され(る)」と説明しているだけで、手引きが「個人に関する情報」とはどのようなものであるかという説明をしていることを全く無視している。
   実質的に考えても、犯罪捜査などごく例外的な場合を除けば、住民に対して「個人識別」を口実に公務がコソコソと行なわれることはかなり異常なことである。公務は基本的に堂々と行なわれるべきである。本件で問題になっている渡船は県の公務である。だから公費が支出されるのである。
  関係者が関与したこと、もしくは給付を受けたこと自体を隠そうとするのは不可解である。

二 第四号(事業活動情報)について
  被告が本号に該当するとしたのは、「組合代表者名、債権者に関する事業者名、住所、印影、金融機関、口座名義、口座番号」等である。
  組合代表者名は、かねてより述べているとおり、船頭自体が公衆の面前にさらされ、会話をする業務であるから、秘密とすべきことではなく、組合代表者も同様である。
  その他の情報はいずれも不特定の顧客に公にしている事柄である。「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」ような状況は到底考えられない。「正当な利益を害すると認められる」現実が存在するならば、債権者らが右情報を日常的に公にするはずがない。仮に何らかの不利益があったとしてもそれを上回る利益・便宜があるからこそ公にしているのであり、総体として利益が大きいということである。
  往々にして、他の自治体において、右情報を非公開とすることが頻繁に行われるのは、例外なく、情報公開を受けた者が各債権者らに対して「実際にこの請求書に書いてあるような支出が行なわれたのか」と問い合わせをすることへの懸念である。公文書に記載されたとおりの支出が実際に行なわれていたのなら、債権者はそのまま答えればよいだけのことである。
  しかし、岐阜県に限っては虚偽の支出など絶対に行われていないはずであるから、公開すればよい。

三 第八号(行政運営情報)について
  被告が本号に該当するとしたのは、海津町の口座番号である。
  しかし、被告は右情報が「国等の事務事業に関する情報」(A)に該当するか否かの当てはめをしていない。これらが右情報に該当しないことはあまりにも明白である。
  後段の「当該事務事業若しくは将来の同種の事務事業の目的が損なわれるおそれ」や「事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障を生ずるおそれがある」(B)についてみても、右の「おそれ」があると言えるためには、口座番号によって海津町の出納事務の内容が相当程度推測できるのなければならない。しかし、口座番号だけでは、それ以外の何も分からない。それだけで右の「おそれ」があるとは到底言えない。
  右「おそれ」を裏付ける具体的な事実の主張立証はない。

第七 以上にて、原告の主張、立証は尽くしていると考える。
 
         以 上

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    次回第六回弁論期日二〇〇〇年六月二九日(木)二時半〜
                                        
 平成一一年(行ウ)第一七号 県営渡船情報非公開処分取消請求事件

                       原  告  寺町知正  他九名
     被  告  岐阜県知事 梶原拓

準備書面(四)


                   選定当事者    寺  町  知  正  
                    選定当事者    山  本  好  行    
      (連絡先) (寺町)岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
         TEL・FAX 0581−22−2281
 (山本)岐阜県揖斐郡谷汲村岐礼一〇四八の一
         TEL・FAX 0585−55−2627
二〇〇〇年六月一九日
岐阜地方裁判所 民事一部 御中

   記

   主張についての新たな根拠を入手したので、以下に追加する。
第一 事業活動情報について
一1 事業者等の経営の全体の実態を明らかにする程度の量、規模であれば、事業者等にとって営業秘密に属する情報である場合があり得るが、発注・購者等した債務者が自己の発注・購入者等した相手方を明らかにすることは何ら妨げがないのであり、このことは、公的機関が債務者である場合も同様であるから、自己の発注・購入等したものに関する限度においては、事業者等も公表されることを忍受すべきであり、これらの情報は、事業者等の営業秘密に属する情報であるとはいえない。
   本件非公開部分には、常識的に考えて、事業者等の営業上の有形・無形の秘密、ノウハウ等、同業者との対抗関係上、特に秘匿を要するような情報が記載されているとは考えられないのである。
   また、海津町や渡船組合が競争上の問題を考慮する必要のない性質の団体であることは、従前より述べてきたとおりである。
 
 2 一般的に債務者の代金の振込先ないし振替先の口座番号を書面に記載することは通常のことであり、請求書や領収書にある口座番号は、もともと事業者等が代金請求のために一般的に取引先に公開している情報であるから、それが公開されても、経験的に、事業者に不利益等生じないことは明らかである。
 
 3 事業を営む個人又は法人等の代表者の印影は、個人事業者の事業ないし法人の営業の遂行のために押印されたものであり、請求書等に押捺された事業者等の印影も、右代金請求等の際に、債権者の同一性を確認するための手段として同様に取引先に公開されるのが通常であるから、印影や口座番号は、事業者等の営業活動上の内部情報には当たらない。
   本件条例が、形式的には六条一号の個人に関する情報に該当する情報であっても、事業を営む個人の当該事業に関する情報を同号の対象から除外して、その公開の当否を本件条例六条四号によって決定する構造であるから、個人事業者の事業ないしこれと同等の法人の営業の遂行のために用いられた事業を営む個人又は法人等の代表者の印影は、本件条例六条一号の個人に関する情報に該当しない。したがって、事業を営む個人又は法人等の代表者の印影に関する部分は公開されるべきである。
   更に、印影や口座番号の偽造・偽装等による不正行為は一般に相当頻度の少ない出来事であるし、他方発行者の印影や口座番号は、一般的に公開されている可能性が高いから、本件公開請求によって、直ちに不正行為誘発の危険が増加するとはいえない。

二1 「愛知県公文書公開条例」(昭六一年三月二六日条例二号)は第六条一項三号において「法人(国及び地方公共団体を除く)その他の団体の(以下「法人等」という)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって、公開することにより、当該法人等又は当該個人の競争上の地位その他正当な利益を害すると認められるもの。ただし・・・」を非公開とすることができる、と規定している。
   この点に関して、愛知県公文書公開審査会は、補足意見等として「行政の透明性の確保を図る必要から、県と契約する法人等は少なくとも名称は明らかにされるべきであることから、契約先である法人等の名称を公開する旨をただし書きに規定し・・・これらの情報は、本来原則として本文の『正当な利益』に該当しないものとして解釈すべきである。・・・特別事情のない限り、県との契約先である法人等の名称については、本号により非公開としない解釈運用がされるべきであるとの意見が多数を占めた。」としている(甲第四三号証)。
 
 2 愛知県は、この審査会の議論にかかわらず、従前より、県との契約先である法人等の名称や住所、代表者等を記載した各種公文書を公開している(甲第四四号証の一〜七)。

三1 岐阜県の情報公開公開条例の規定も、愛知県の公文書公開条例の規定も概ね同様である。
 
 2 このように、自治体との契約(契約書の有無の問題でなく)を前提とする情報の非公開事由該当性は極めて限定的に解釈されるべきものである。

第二 個人情報について
一1 民間団体である納税貯蓄組合連合会に関する県の公文書の公開において、当該民間団体が独自に設置した「納貯モニター」の氏名が公開されている(甲第四五号証の一)。
 
 2 同じく納税貯蓄組合連合会の構成組織に関して、氏名のほか、職種や地名、組織員数、職の肩書等が明らかとなる情報が公開されている(甲第四五号証の二)。
 
 3 同じく納税貯蓄組合連合会の構成組織に関して、氏名のほか、地名、設立年、組織員数が明らかとなる情報が公開されている(甲第四五号証の三)。
 
 4 同じく納税貯蓄組合連合会の構成組織の現況に関して、会社名、所在地、代表者名、設立年が明らかとなる情報が公開されている(甲第四五号証の四)。
 
 5 このように、公務員ではない者に関して、個人が識別できる情報であっても、個人に関する情報に該当しない限り、各文書において公開されているのである。これは本件条例の規定が、個人に関する情報であって同時に個人識別情報である場合のみ非公開とすることができる、という条例構造であることから、当然のことである。

二 右神奈川県公文書公開運営審議会は、「ア 個人に関する情報」について「現行どおり」(甲第四六号証六頁)としつつ、「(三)部分公開 個人に関する情報について、個人の権利利益が侵害されるおそれがないときは、氏名、住所、生年月日その他特定の個人が識別される部分を除いて公開する旨を明記する」(甲第四六号証七頁)としている。
  これは、現行条例においても氏名、住所、生年月日その他特定の個人が識別される部分を除いて公開するものであるが、基本を確認する意味で明記する、との趣旨である。

三 法人の従業員の印影も、業務上の文書に押印されたものである限り、「個人情報」かつ「個人識別情報」である場合だけに非公開とすることができる、という条例構造から考えれば、個人を識別し得るとしても、個人情報ではないから、非公開とすることはできない。
  このように、個人情報であっても、極力公開することが、公開を原則とする条例の基本である。

第三 混同のおそれによる非公開について
 本件条例八条は、六条に規定する非公開事由がある場合に公文書の部分公開ができる旨を定めた規定であるから、「混同のおそれがある」ことを理由に非公開とした部分には、六条規定の非公開事由該当性はない。

第四 判例
一 岐阜地裁民事二部は、本年五月二四日、県の情報非公開処分の取消訴訟(平成一二年五月二四日判決言渡・平成一〇年(行ウ)第八号公文書公開拒否処分取消請求事件・被告岐阜県知事梶原拓、被告岐阜県教育委員会教育長日比治男)において、「請求書等の取扱従業員の印影を除くその余の部分の文書の非公開決定部分を取り消す。」との旨、判示した。
  本件に関連する理由の要点は、以下のようである。

二 本件条例六条四号該当性に関する判断
 1 @ 本件各公文書は、(ア)諸新聞の購入ないし右新聞への広告掲載または協賛等(以下一括して「購入等」という。)のために支出した代金に関し岐阜県の出納事務担当者が作成した支出金調書、(イ)諸新聞の発行者ないし販売店等が作成した請求書及び領収書であり、Aそのうち本件各非公開部分には、(a)発行者等の住所、社名、代表社名、印影、購入等の代金の振込先ないし振替先の口座番号等、発行者等自身に関する情報、(b)購入等の代金の請求手続あるいは領収手続を担当した、発行者等の従業員の印影、(c)支払に係る諸新聞の紙名、月号、部数などが記載されているもの、(d)一部の非公開部分には、支出命令額、控除額、支給額、事前決済未執行額、資金枠番号等が記載されている場合もあると認められるが、それ以上に、発行者等の営業上の有形・無形の秘密、ノウハウ等、同業者との対抗関係上、特に秘匿を要するような情報が記載されているとは認められない。
 
 2 右非公開部分が公開されたとしても、通常、岐阜県が諸新聞を購入等している状況や、発行者が一般の取引先に公開している振込先の口座番号等が明らかになるだけであるから、これから直ちに発行者等の営業実態が明らかになって、その営業上の秘密が侵されることになるとは認められない。
   また、岐阜県における諸新聞の購入等の事実が公開された場合に、特に発行者等が社会的評価の低下などの不利益を被る実態も容易に考え難い。したがって、右非公開部分の公開により、発行者等の競争上の地位その他正当な利益が損なわれるとは認められず、右本件非公開部分について、直ちに本件条例六条四号所定の非公開事由があるというのは困難である。
 
 3 諸新聞の売り先、数量等の情報は、発行者等の営業実態を明らかにする程度の量、規模であれば、発行者にとって営業秘密に属する情報である場合があり得るが、購読者が自己の購読している諸新聞を明らかにすることは何ら妨げがないのであり、このことは、公的機関が購読者である場合も同様であるから、自己の購読しているものに関する限度においては、発行者等も公表されることを忍受すべきであり、これらの情報は、発行者等の営業秘密に属する情報であるとは認め難い。
   また、本件条例六条所定の非公開事由については、被告に主張立証責任があると解するべきところ、本件では、一般に諸新聞の発行者等が特に小規模ないし零細業者であって、同業者との対抗上不利益な地位にあると認めるだけの証拠はなく、発行者等の中には相当規模のものも存する可能性もあるが、被告は、本件非公開部分に含まれるどの発行者等が問題となる小規模零細業者であるかを識別するに足りるだけの立証をしていない。
 
 4 請求書や領収書にある口座番号は、もともと諸新聞の発行者等が購入等の代金請求のために一般的に取引先に公開している情報であると認められる。
  また、右請求書等に押捺された発行者等の印影も、右代金請求等の際に、債権者の同一性を確認するための手段として同様に取引先に公開されるのが通常であると考えられる。したがって、本件では、本件非公開部分中の口座番号や印影の非公開を主張する被告において、口座番号や印影等に関し、取引先に公開されない特別な情報が右非公開部分に存在することの主張立証すべきものと解するのが相当である。しかし、被告は、この点について具体的な立証をしないから、問題の印影や口座番号をが直ちに発行者等の営業活動上の内部情報に当たるとは認められない。
   更に、印影や口座番号の偽造・偽装等による不正行為は一般に相当頻度の少ない出来事であるし、他方発行者の印影や口座番号は、右認定のように一般的に公開されている可能性が高いから、本件公開請求によって、直ちに被告主張のような不正行為誘発の危険が増加するとも認め難い。

三 本件条例六条一号該当性
 事業を営む個人に又は法人等の代表者の印影は、右個人事業者の事業ないし右法人の営業の遂行のために押印されたものと推認することができる。
 本件条例が、形式的には六条一号の個人に関する情報に該当する情報であっても、事業を営む個人の当該事業に関する情報を同号の対象から除外して、その公開の当否をもっぱら本件条例六条四号によって決定する構造に出ている点に鑑みれば、個人事業者の事業ないしこれと同等の法人の営業の遂行のために用いられた事業を営む個人又は法人等の代表者の印影は、本件条例六条一号の個人に関する情報に該当しないと解するのが相当である。したがって、事業を営む個人に又は法人等の代表者の印影に関する部分も取り消されるべきものと認められている。

四 混同のおそれによる非公開に関する判断
 この点について、被告は、諸新聞の購読に係る報償費とそれ以外のものとの混同のおそれがある場合は、本件条例八条を基礎として報償費の合計額に関する情報を公開しないことが許される旨主張している。しかしながら、本件条例八条は、同六条所定の公開除外事由がある場合に公文書の部分公開ができる旨を定めた規定であるところ、諸新聞の購読に係る報償費について本件条例六条所定の公開除外事由が認められない。したがって、本件非公開部分の非公開決定は違法というべきである。

五 以上の次第で、原告らの請求は、請求書及び領収書中の取扱者欄に押印されている取扱従業員の印影の非公開決定部分を除くその余の部分の各取消を求める限度で理由があるから、これを認容する。

 

             以 上