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第5 国と地方の負担原則に関する法令
1,地方自治法
地方自治法は、「地方自治の本旨に基いて、地方公共団体の区分並びに地方公共団体の組織及び運営に関する事項の大綱を定め、併せて国と地方公共団体との間の基本的関係を確立することにより、地方公共団体における民主的にして能率的な行政の確保を図るとともに、地方公共団体の健全な発達を保障することを目的とする」(1条)とされている。
そして、地方分権推進のために99年(平成11年)7月法律87号で追加された1条の2の2項では、「国は、国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的に統一して定めることが望ましい国民の諸活動若しくは地方自治に関する基本的な準則に関する事務又は全国的な規模で若しくは全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を重点的に担い、住民に身近な行政はできる限り地方公共団体にゆだねることを基本として、地方公共団体との間で適切に役割を分担するとともに、地方公共団体に関する制度の策定及び施策の実施に当たって、地方公共団体の自主性及び自立性が十分に発揮されるようにしなければならない。」とされた。
そもそも、「普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。」(2条2項)とされている。
「地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づき、かつ、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえたものでなければならない。」(同条11項)、「地方公共団体に関する法令の規定は、地方自治の本旨に基づいて、かつ、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえて、これを解釈し、及び運用するようにしなければならない。」(同条12項)、「地方公共団体は、法令に違反してその事務を処理してはならない。」(同条16項)、「前項の規定に違反して行った地方公共団体の行為は、これを無効とする。」(同条17項)とされている。
また、「地方公共団体は、当該地方公共団体の事務を処理するために必要な経費を支弁する」(232条1項)ものとされているから、その反面として、地方公共団体は、当該地方公共団体の事務に属しない事務の処理のために費用を支弁することは許されない。
2,地方財政法
(1)地方財政法は、「地方公共団体の財政の運営、国の財政と地方財政との関係等に関する基本原則を定め、もって地方財政の健全性を確保し、地方自治の発達に資することを目的とする。」(1条)、「地方公共団体は、その財政の健全な運営に努め、いやしくも国の政策に反し、又は国の財政若しくは他の地方公共団体の財政に累を及ぼすような施策を行ってはならない。」(2条1項)、「国は、地方財政の自主的な且つ健全な運営を助長することに努め、いやしくもその自律性をそこない、又は地方公共団体に負担を転嫁するような施策を行ってはならない。」(2条2項)とする相互尊重の原則を掲げ、国費と地方費の負担区分を明らかにしている。
(2)「地方公共団体の事務を行うために要する経費については、当該地方公共団体が全額これを負担する。(但し次条から10条の4までは除く)」(9条)とし、この「次条から10条の4まで」において国が負担すべき経費については、国から地方公共団体に支出がなされ(17条)、当該地方公共団体は法令の定めるところによりこれを使用する(25条)とされている。よって、9条の反面として、地方公共団体は、当該地方公共団体の事務に属しない事務の処理のために費用を支弁することは許されない。
他方、地方公共団体が処理する権限を有しない事務に要する経費については、「法律又は政令で定めるものを除く外、国は、地方公共団体に対し、その経費を負担させるような措置をしてはならない。」(12条1項)、「前項の経費は、左に掲げるようなものとする。一
国の機関の設置、維持及び運営に要する経費、二
警察庁に要する経費、三 防衛庁に要する経費、四
海上保安庁に要する経費、五 司法及び行刑に要する経費、 六
国の教育施設及び研究施設に要する経費」(12条2項)とされている。
すなわち地方財政法12条の規定は、国と地方公共団体との間における経費負担の区分の存在を明らかにし、さらに国の機関設置等個々の行政事務に要する費用につき地方公共団体の財政面の侵害を規制している。
(3)しかし、この負担区分の基本理念が徹底しなかったため、52年(昭和27年)の改正により4条の5(割当的寄附金等の禁止)が追加され、国は地方公共団体又は住民に対し、地方公共団体は他の地方公共団体又は住民に対し、直接間接を問わず寄附金の割当的な強制的徴収をしてはならないものとされた。
(4)4条の5の趣旨を一層徹底するために、60年(昭和35年)に28条の2が新設され、割当的な強制的徴収に当たらなくても、地方公共団体相互間の寄附、補助、負担金等が経費の負担区分を乱すようなものであれば、禁止されることになった。
28条の2において地方公共団体相互間における経費の負担関係について、「地方公共団体は、法令の規定に基づき経費の負担区分が定められている事務について、他の地方公共団体に対し、当該事務の処理に要する経費の負担を転嫁し、その他地方公共団体相互の間における経費の負担区分をみだすようなことをしてはならない。」旨を規定している。この規定は、地方公共団体相互間の財政秩序に関する基本原則を明らかにしたものである。
「経費の負担区分をみだすようなこと」という規定から、経費の負担区分を定める法令の規定と異なる地方公共団体が経費を負担する結果になるような行為は、すべて法定された経費の負担区分を乱すものとして、本条により禁止される。
また、任意の補助金、寄附金等の名の下に実質的な負担転嫁が行われることを防止することも地方財政法28条の2の立法趣旨に含まれると解されている。
3,地方財政再建促進特別措置法(以下、地財再建法という)
(1)国と地方公共団体との間の財政秩序について、地方財政法4条の5は、国等が地方公共団体やその住民に対して寄付金等を強制的に徴収することを禁じているが、この規定のみでは自発的な寄付等の形式を取った場合には規制の対象とならないために、55年(昭和30年)、さらに地方財政再建促進特別措置法を制定し、24条2項で地方公共団体の立場から国及び公社等に対する自発的な寄付金等も原則として禁止することによって、地方公共団体の国に対する財政自主権の確立を徹底している。
地財再建法は、「地方公共団体の財政の再建を促進し、もって地方公共団体の財政の健全性を確保するため、臨時に、地方公共団体の行政及び財政に関して必要な特別措置を定めるものとする。」(1条)とし、24条2項では、「地方公共団体は、当分の間、国(国の地方行政機関及び裁判所法第二条に規定する下級裁判所を含む。)、独立行政法人又は公団等に対し、寄附金、法律又は政令の規定に基づかない負担金その他これらに類するもの(これに相当する物品等を含む。以下「寄附金等」という。)を支出してはならない。ただし、地方公共団体がその施設を国、独立行政法人又は公団等に移管しようとする場合その他やむを得ないと認められる政令で定める場合における国、独立行政法人又は公団等と当該地方公共団体との協議に基づいて支出する寄附金等で、あらかじめ総務大臣に協議し、その同意を得たものについては、この限りでない。」としている。
(2)この立法趣旨等については明確に判示されているので、引用する。
ア, 東京地方裁判所は、品川区が品川区、東京都、東京商工会議所の三者で構成した期成同盟を経由して国鉄に対し新駅建設費用などを支出することは地財再建法24条2項に違反するとした。品川区が14億6千万円の公金支出を予定して基金条例を制定し、既に4億6000万円を積み立てしていたにもかかわらず、公金支出を差し止めた。期成同盟等を経由して新駅建設費用を地元地方公共団体が負担するのは通常であったが、住民訴訟として初の裁判所の判断が出たものである。
イ, 新横須賀線西大井駅建設費支出禁止住民訴訟事件/東京地方裁判所/昭和53年(行ウ)第51号/昭和55年6月10日判決の判示は以下である。 「地方自治法232条の2によれば、地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができるものとされているが、地財再建法24条2項はその特則として、『地方公共団体は、当分の間、国等に対し、寄附金、法律又は政令の規定に基かない負担金その他これに類するものを支出してはならない。』と規定ししている。
この地財再建法の規定は、従来から地方財政法4条の5によって国の地方公共団体からの強制的な寄附金の徴収が禁止されてはいたが、同条が禁止しているのは、専ら国の側において強制的に寄附金等を徴収することにとどまり、地方公共団体の側から国に対して任意自発的な寄附をすることまでも規制の対象とするものではないため、かかる規定があるにもかかわらず、国等がその優越的な地位を背景にして、本来自己の負担すべき経費につき自発的寄附という名目で地方公共団体にその負担を転嫁したり、あるいは地方公共団体の側においても、国等の機関や施設等を誘致するために国等の負担すべき経費を自ら進んで拠出したりするといった事例が後を断たず、これを放置するときは、国等と地方公共団体との間の経費負担区分をみだし、地方財政秩序を混乱させるおそれがあるので、あえて地方自治法の原則を修正し、このような地方公共団体の国等に対する自発的寄附又は任意負担をも原則として禁止することによって、右の弊害を防止し、地方財政の健全化を図ることとしたものである。」(下線は原告による)
ウ, 要約すれば、地財再建法24条2項は、地方財政法4条の5が国の地方公共団体に対する寄附金等の強制的徴収を禁止したにもかかわらず、国等の機関や施設等を誘致するために国等の負担すべき経費を自ら進んで拠出したりするといった実質的に負担転嫁となる行為が自発的・任意的寄附等という名目で行われていたことにかんがみて、地方公共団体の側からの自発的・任意的な寄附等をしてはならないこととした、というものである。
(3)地財再建法24条2項は、地方公共団体の国等に対する寄附金・補助金・負担金等について同項但書に当たる場合を除き、強制的なものであると恣意的なものであるとを問わず、また、それが当該地方公共団体にとって必要ないし利益であると否とにかかわりなく、すべてこれを禁止しているのである。
地方公共団体が寄附金・補助金・負担金等を支出する直接の相手方が形式的には国等ではなく、何らかの経由組織を通じて間接的に支出する場合であっても、その経由組織の実態等に照らし実質的にみて国等に対して直接支出する場合と同一と認められるような場合も同項に定める規制の対象となる。
(4)地財再建法は、地方公共団体で多額の赤字を抱え、適正な行政運営が困難であったため、財政再建の促進を図るために、55年(昭和30年)に制定されたものである。臨時の法律であるとされているが、現在まで廃止されることなく存続している。
この規制は「当分の間」(24条2項)と定められているところ、現実に廃止又は変更の措置がとられていない以上、なお法規としての効力を失うものでないことは当然である。 なお、今日の地方財政の状況は、制定当時よりもはるかに深刻なもので、24条2項の立法理由はまだ消滅せず、地財再建法を維持すべき必要性は全く失われていない。
4,判例
名古屋高等裁判所は、「地方自治法232条1項によれば、地方公共団体は、当該地方公共団体の事務を処理するために必要な経費を支弁するものとされているのであるから(なお、地方財政法9条本文)、その反面として、地方公共団体は、当該地方公共団体の事務に属しない事務の処理のために費用を支弁することは許されないのである。」と判示して、岐阜県が呼びかけて設置した「岐阜東濃新首都構想推進協議会」(会長岐阜県知事梶原拓)に関して、岐阜県とは異なる団体であると認定してその団体の経費を岐阜県が直接支弁したことは違法であるとして、「被控訴人は、岐阜県に対し、164万8000円及びこれに対する平成8年12月28日から支払済まで年5分の割合による金員を支払え。」と命じた。(民事2部/平成12年10月6日判決/平成11年(行コ)第22号損害賠償請求控訴事件)(原審/岐阜地方裁判所平成8年(行ウ)第16号は棄却した/原告・県民19人、被告梶原拓・被告参加人岐阜県知事梶原拓)。
5,まとめ
国は、国際社会における国家としての存立にかかわる事務、全国的な規模、全国的な視点に立って行わなければならない施策及び事業の実施その他の国が本来果たすべき役割を担い、地方公共団体との間で適切に役割を分担(地方自治法1条の2の2項)し、地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する(同2条2項)とされている。
地方公共団体の事務を行うために要する経費については、当該地方公共団体が全額これを負担し、当該地方公共団体の事務に属しない事務の処理のために費用を支出することは許されず(地方自治法232条1項、地方財政法9条)、地方公共団体に権限のない事務については、原則として国は地方に負担させてはならない(地方財政法12条)。
地方公共団体は国及び公団等に対して寄附金、法律又は政令の規定に基かない負担金その他これに類するものを支出してはならない(地財再建法24条2項)。 負担金等の支出がたとえ任意自発的に行われるものであっても、それが負担区分をみだす結果となる場合には、国に対しては地方財政法12条により、他の地方公共団体に対しては、地方財政法28条の2により禁止されている。しかも、経費の負担区分を実質的に乱すようなことは、それが直接であれ、又は間接であれ、いかなる形式によるものであっても、禁止されているのである。
法令の規定は、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえて、これを解釈し、及び運用するようにしなければならず(地方自治法2条12項)、法令に違反してその事務を処理してはならず(同16項)、前項の規定に違反して行った地方公共団体の行為は無効である(同17項)。
第6 国会等の移転に関する法律
国会等の移転に関する法律(以下、移転法という)は以下のようである。
1,首都機能移転に関する国等の責務
「国は、国会等の移転の具体化に向けて積極的な検討を行う責務を有し」(1条)、「国は、検討を行うに当たっては、広く国民の意見を聴き、その合意形成を図る」(3条)、「内閣総理大臣は、諮問に対する答申を受けたときは、これを国会に報告する」(13条2項)としている。
2,国会等移転審議会
「内閣府に国会等移転審議会を置き」(12条)、「審議会は、内閣総理大臣の諮問に応じ、移転先の候補地の選定及びこれに関連する事項について調査審議し」(13条1項)、「審議会は、国会等移転調査会の報告及びこれに関する国会の審議を踏まえ、調査審議する」(14条)、「審議会は、関係機関に対して、資料の提出、意見の開陳、説明その他の必要な協力を求めることができる」(19条1項)、「審議会は、必要があると認めるときは、現地調査を行うことができる。この場合に、あらかじめ、当該現地調査を行おうとする区域の地方公共団体の長に通知して、その意見を聴かなければならない」(19条2項)とされ、移転先について、「災害に対する安全性、地形の良好性、水の供給の安定性、交通の利便性、土地取得の容易性等の条件を配慮する」(7条)とされている。
3,3候補地の決定
これを前提に、99年(平成11年)12月20日に「栃木・福島地域」「岐阜・愛知地域」「三重・畿央地域」の3候補地が選定・答申された。
4,現在と今後
「審議会の答申が行われたときは、国民の合意形成の状況、社会経済情勢の諸事情に配慮し、東京都との比較考量を通じて、移転について検討する」(22条)、「移転を決定する場合には、第13条第2項の規定による報告を踏まえ、移転先について別に法律で定める」(23条)とされている。
5,土地投機に対する地価監視
都道府県知事は、「第19条第2項に規定する現地調査を行う区域又は候補地の区域のうち、地価が急激に上昇し、又は上昇するおそれがあり、これによって適正かつ合理的な土地利用の確保が困難となるおそれがあると認められる区域を、国土利用計画法の規定により監視区域として指定するものとする」(24条)として、候補地の選定に伴う土地投機対策を知事の権限としている。「国は、候補地等の区域における国土利用計画法の規定による規制区域に関する事務が円滑に行われるよう適切な財政上の配慮に努めるものとする。」(25条)と財政上の配慮の責務までもが定められている。
第7 本件固有の法令違反
1,支出の形式的な違法
(1)国は地方公共団体との間で適切に役割を分担しなければならず(地方自治法1条の2の2項)、地方公共団体は、地域における事務及び法律令により処理することとされるものを処理する(同2条2項)。
地方財政の健全性を確保し、かつ地方自治の発達のため(地方財政法1条)、地方公共団体が処理する権限を有しない事務を行うために要する経費については、国は地方公共団体に負担させてはならない(同12条1項)。
国の機関の設置、管理及び運営に要する経費は国の負担とされているところ(同12条2項)、国会等の移転の経費は「国の機関の設置」に含まれるのは明らかであり、「国は、広く国民の意見を聴き、その合意形成を図る」(移転法3条)とされている。
前記第4等岐阜県の首都機能移転誘致に関する過去及び今後の支出に関して、岐阜県が直接支出する場合はもちろん、「岐阜愛知新首都推進協議会負担金(愛知県との協議会の負担金)」との名目で協議会を経由して負担することも、「首都機能移転誘致助成事業費(東濃の市町の期成同盟会への補助金)」との名目で同盟会を経由して負担することも、予算決算上の当該名目がどうであるかにかかわらず、国会等の移転の経費の一部としての「寄附金、法律又は政令の規定に基かない負担金その他これに類するもの(地財再建法24条2項)」に該当するのは明白である。
(2)地財再建法24条2項は但書において同法施行令12条の2の各6号に掲げる場合につきあらかじめ自治大臣の承認を得ることを必要としているが、本件支出に関して県や国は総務大臣の承認手続を経ていない。そもそも各6号に該当しないからである。
(3)岐阜県知事は99年12月の3地域選定以後、「東から戻した」、つまり当初は候補地が関東になると見られていたところ、西の方面も候補地に加えられて3カ所答申された、ということを自慢している。まさに、国の事業である候補地決定に岐阜県が直接関与し、そのために経費をつぎ込んでいることを認めているのである。
(4)結局、「国の機関の設置」としての国会等の移転の経費を県が自ら負担区分に違反して支出したことにかわりない。
2,具体的な使途の違法
(1)計画立案等の経費について
首都機能のうちどの機能を移転するのか、全省庁か一部の省庁か、各省庁のうちの全部か一部か、一カ所へ集中移転か複数地への分散移転か、など何も決まっていないから、本来は計画立案のしようがないのである。
しかも、首都機能の移転先が決定した場合でも、国がその地元の策定案を採用するとか、どこかの県の案を採用するという性質の事業でないのは明白である。 首都機能移転計画の立案は地方公共団体の事務ではない。採用されることのあり得ない計画の立案経費は、砂上の楼閣の設計費を支出するのと同じであって、全く必要性のない県費支出である。
そもそも、各地域が自治体の独自予算で策定した計画案等が候補地決定の要因にされるとしたら、それは国が負担区分を乱しているのである。
(2)PR費用等について
「国は、広く国民の意見を聴き、その合意形成を図る」(移転法3条)のとおり、国民の合意形成は国の責務である。
仮に、首都機能移転のPRが公益上有用であってかつ地方公共団体の負担が許される余地があるとしても、それは全国の地方公共団体が相応に分配する手続きがなされたときだけである。本件支出は、専ら岐阜県ほかごく一部の県に局在しているから支出に正当な理由はない。
(3)答申後は全て国の事務であること
国会等の移転に関する法律の定めに従って99年12月20日に3候補地が決定したのだから、少なくてもそれ以降は、首都機能移転に関する決定は国会の権限であって、今の段階は、地方公共団体の意思や世論の高揚などで左右されるものではない。
3,移転法に違反すること
法に従って99年12月20日に3候補地が選定・答申されたとを受けて、岐阜県知事は翌00年1月14日、「東濃地域が首都機能の移転の候補地に選定されたことに伴い、生じる危険性のある地価高騰、投機的取引等を未然に防止することを目的」(県のHP)として、東濃5市2町を監視区域に指定すると県公報で告示した(岐阜県告示第13号)。
少なくても、これ以後の宣伝活動は候補地決定に必要がないばかりか、逆に土地投機をあおる行為であるから、監視区域を定める権限を知事に付与した移転法24条の立法趣旨に違背する事務遂行である。
4,まとめ
法令の規定は、国と地方公共団体との適切な役割分担を踏まえて、これを解釈し、及び運用するようにしなければならず(地方自治法2条12項)、法令に違反してその事務を処理してはならず(同16項)、前項の規定に違反して行った地方公共団体の行為は無効である(同17項)。
首都機能移転の計画立案・PR等を岐阜県が直接支出したこと、協議会を経由して経費を支出したこと、補助金を現地団体へ支出したことは、いずれも法令の規定に基づき経費の負担区分が定められている事務について国と地方公共団体の間における経費の負担区分に反し財政秩序を乱すことに当たる。
このことは、国が県に強要したか、県が自主的に行ったかはともかく、国に対しては地方自治法1条の2の2項及び地方財政法第12条に違反する状態を生じさせ、県においては地方自治法2条2項、同16項、同232条1項、地方財政法第9条、地財再建法24条2項に違反する。
第8 自治体会計の原則違反
1,首都機能移転に関する支出は岐阜県が行う必要性がなく、移転に関して国に協力するのは国の正当なデータの求めや意見の開陳(移転法19条)でよいのだから、本件不要な支出は地方自治法2条14項「最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」に違反している。
2,前項同様の理由で、本件支出は地方財政法第4条1項「必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない」に違反している。
3,岐阜県の首都機能移転関連予算は、以上述べたとおり法令の定めに反し、何ら合理的基準もなく算定、計上されている。地方財政法第3条(予算の編成)「地方公共団体は、法令の定めるところに従い、且つ、合理的な基準によりその経費を算定し、これを予算に計上しなければならない」に違反している。
第9 支出に理由はなく、社会通念上も許されない
1,首都機能移転の理由として、東京の災害への脆弱性とともに地方分権の推進が挙げられてきた。しかし、首都機能移転がなくても分権や地方自治の強化は可能である。
移転はバブル絶頂期に国会で決議されたもので、バブル崩壊で具体化は遅々たる歩みになり、国民の関心も薄れている。国が歳入不足の時に、最大12兆3千億円の経費が必要と言われる事業に着手する余裕はない。
ここ数年問の総理官邸や中央省庁の庁舎建て替え等の状況を見れば、首都機能移転がなくなったということは、誰でも常識的に理解している。
さらに東京都が反対運動を強力に進めており移転可能性は極めて低い。
誘致運動は県民合意の運動でなく、知事らが勝手に騒いだものと県民の多くが認識している。県が莫大な費用を使ってきたにもかかわらず、国会議員の関心も極めて薄く、阜・愛知両県で作る「新首都推進協議会」の02年4月24日の総会には国会議員を80人招待したが、参加はたった1人であった。これが、「成果」であり「実態」である。
このように、移転の理由もなく移転の状況にもないから誘致は不要である。
2,岐阜県知事はIT推進を提唱し、全国知事会情報化推進対策特別委員会の委員長である。ITの推進は、物理的な施設や権限、人物等の移動の必要性の激減と表裏一体であるから、知事の首都機能移転論は著しく矛盾し破綻している。
3,地方自治法は、国と地方公共団体との間の基本的関係を確立する(第1条)とされているが、地方分権推進をさらに明確にするために、99年に大幅改正されて、1条の2の2項「国は国が本来果たすべき役割を担い、地方公共団体との間で適切に役割を分担する」が追加された。知事の移転推進論は、日頃よりの知事の地方分権(主権)論に矛盾し、かつ前記地方自治法の規定に反する。
4,公共事業としての経済効果を期待して移転を望む者もあるが、無駄な公共事業は縮小廃止すべきであるとの意見が強まっている現在、公共事業として慎重に検討されるべきである。その検討もせずに移転誘致運動を進めることに合理的理由はない。
5,県内の「首都機能移転」に対する温度差は著しく、東濃以外は、住民、自治体も全くの無関心である。岐阜県内の国会等移転の動きには、県の威光に逆らえない自治体の首長・職員・議員らと一部の土木・建設・不動産業等の事業所が表向き賛同しているだけである。
首都機能移転には、県民合意がないから、県民の血税を使う理由はない。
6,以上、本件支出に、合理的理由はなく、社会通念上も支出は許されない。
第10 被告の怠る事実の違法確認
本件違法な支出により岐阜県に損害が生じているから、被告は関係職員に損害賠償請求もしくは賠償命令しなければならない。損害賠償請求権は「財産」に当たるところ、被告が請求権を行使していないことは、被告の「財産の管理を怠る事実」として違法である。
本件支出に関して財産の管理を怠る事実の違法があるから、原告は地方自治法第242条の2第1項3号に基づき、違法確認を求めるものである。
同3号にいう当該職員とは、本件請求の趣旨の1においては同4号本文の当該職員に該当する知事梶原拓個人に、本件請求の趣旨の2においては同4号但し書きの当該職員に該当する地域計画政策課長ら首都機能移転対策費支出に権限を有する職員個人である。
第11 県の損害と求めること(知事個人)1,梶原拓に関して
(1)普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を代表する者であり(法第147条)、当該地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他公共団体の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し及び執行する義務を負い(法第138条の2)、予算の執行、地方税の賦課徴収、分担金、使用料、加入金又は手数料の徴収、財産の取得、管理及び処分等の広範な財務会計上の行為を行う権限を有し(法第149条)、予算を調整し議会に提出する権能がある(法第211条1項)。したがって、当該長は、財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものであるといえる。
当該長は、当該地方公共団体から委任を受けた者として、当該地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し執行する義務を負っている(法148条、149条)。
また、普通地方公共団体の長は、補助機関たる職員に対して一般的な指揮監督権を有し(法第154条)、会計事務を監督する義務を負う(法149条5号)。 以上述べたところから、当該長が一定範囲の財務会計上の行為を委任した場合であっても、当該長はその財務会計上の行為の適否が問題とされている代位請求住民訴訟においては、当該職員に該当するというべきであり、当該長に民法上の不法行為責任があれば、当該長は地方公共団体に対し損害賠償義務がある。
(2)本件における個別の支出は、知事から権限を専決された課長及び担当の対策室長によるが、首都機能移転誘致事業に関する岐阜県の基本方針は梶原拓の決定になるものであるのは明白である。梶原拓は、知事として、首都機能移転誘致に恣意的に乱費してきた。今後も使い続けるとの知事の態度は、無駄使いであることを承知しながら、故意に浪費を繰り返すことの表明である。
知事は、違法な支出をし、かつ故意にもとづく浪費をして、岐阜県に損害を与えたことにつき、個人として、当該損害を補填すべき賠償責任を負う。
2,知事梶原拓の損害賠償請求論
(1)02年5月、移転候補先の決定が延期もしくは不確定となったことで、候補地等の知事らが国会への不信感をあらわにしているが、勝手に誘致運動に熱を上げ多額の無駄使いをしてきたことの言い訳に過ぎない。
岐阜県知事は、国に対し損害賠償請求(損失補償・補償要求)を検討すると表明している。この意思表示は、国に法律上の賠償責任があるとの認識を前提にしていなければならないが、知事の賠償責任の発言は県民や報道関係者や世論を欺くパフォーマンスに過ぎない。
(2)知事の損害賠償請求論が成り立つためには、地方財政法第12条の定めに反して、国が地方に首都機能移転関係の計画立案やPR費用等の支出を求め、県もこれに応じていたところ、国の判断で首都機能移転が中止される、という事態であることが必要である。
知事が損害賠償請求論を国会の特別委員会(※)や会見等で述べていることからすれば、少なくても知事は国からの要求があったと受け止めて支出してきたと考えられる。だから、知事が首都機能移転を国が延期・中止するなら損害賠償すべきだ、と言うのは正当である。
そもそも国の要求を受けて岐阜県が行ってきた首都機能移転関係の計画立案やPR等は、本来、地方財政法第12条により国がなすべき事務であるから、首都機能移転を国が延期・中止するしないにかかわらず、知事は国に損害賠償請求すべきである。
ところで、私たち県民、国民は、本件支出に関して国に返還請求する権利がないから、地方自治法の住民監査請求、住民訴訟の制度に基づき、岐阜県の事務と誤って支出して岐阜県に損害を与えた知事に返還を求めるしかない。よって、本件申立に及ぶものである。
※01年11月15日の国会等の移転に関する特別委員会における岐阜県知事の 発言(参議院議事録)
「もともと国会の決議によって我々は動いてきたんです。それを今となってう やむやにしてしまうというようなことが万一ございましたら、岐阜県として はその損失補償を国会に対して要求したい、かように考えております。」
※01年11月28日国会等の移転に関する特別委員会における岐阜県知事の発 言(衆議院議事録)
「もともと国会の方で発議されたことでございまして、もしうやむやに決着さ れるということであれば、私たちは、国のためと思って候補地を挙げて協力 してきました。そういう立場から、国に対して補償要求をしたい、こんなふ うに思っております。」
(3)知事の損害賠償請求論が成り立たない場合は、首都機能移転関係の計画立案やPR等の事務を、国の求めが無いにもかかわらず岐阜県が独自に行ってきたという場合である。当該事務は本来、地方財政法第12条により国がなすべき事務であるから、首都機能移転を国が延期・中止するしないにかかわらず、県の事務と誤って支出し県に損害を与えた知事は個人として返還する義務がある。
3,以上、梶原拓は違法な支出により県に損害を与え続けているから、個人として賠償義務がある。
4,よって原告は、地方自治法第242条の2第1項4号本文に基づき、請求の趣旨3のとおり、被告に、当該職員である梶原拓に対して損害賠償請求するよう求める。
第12 県の損害と求めること(他の職員)
1,地域計画政策課長ら首都機能移転対策費支出に権限を有する職員
01年度及び02年度地域計画政策課長らは、本件支出に係る事務事業を遂行し、当該経費を専決した。
しかし、いずれも不要な支出であって、岐阜県の損害である。
岐阜県の事務と誤って支出して県に損害を与えた首都機能移転対策費支出に権限を有する職員は個人として賠償義務がある。
2,よって原告は、地方自治法第242条の2第1項4号但し書きに基づき、請求の趣旨3のとおり、被告に、当該職員らに対して賠償を命令するよう求める。
《添付書証》甲第1号証 02年12月26日付け監査結果 以 上
当事者目録(原告)
略