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山県市ごみ処理計画差止請求事件
  訴訟物の価格 金1,600,000円
  貼用印紙額     金13,000円
  予納郵券代金    金10,000円

訴      状  
原告 寺町知正 外5名(目録の通り)
被告 岐阜県山県市長 平野元
   岐阜県山県市高木1000−1
                            2006年6月7日
岐阜地方裁判所民事部御中
                       原告     寺 町 知 正                         岐阜県山県市西深瀬208−1                          TEL・FAX 0581−22−4989
                     
       請 求 の 趣 旨
1.被告市長は、山県市クリーンセンター整備・運営・維持事業に関して、公金を支出し、契約を締結もしくは履行し、債務その他の義務を負担し、又は起債手続を行ってはならない。
2.被告市長は、山県市クリーンセンター整備・運営・維持事業に関して、前項の各行為がなされた場合の当該各行為に起因する支出相当額につき、当該意思決定した職員が連帯して、山県市に補填するよう命令せよ。
3.被告市長は、2005年度予算の環境アセスメント事業費619万5千円に関して、当該意思決定した職員が連帯して、山県市に補填するよう命令せよ。
4.被告市長は、単独処理計画であるがゆえに起債が許可されなかった場合に、それに対応する市の単独支出の増加分相当額につき、当該意思決定した職員が連帯して、山県市に補填するよう命令せよ。
5.被告市長は、単独処理計画であるがゆえに循環型社会形成推進交付金が得られなかった場合に、それに対応する市の単独支出の増加分相当額につき、当該意思決定した職員が連帯して、山県市に補填するよう命令せよ。

       請 求 の 原 因
第1 当事者
1, 原告は山県市に居住する住民である。
2. 被告岐阜県山県市長平野元は、山県市の執行機関である(以下「被告市長」という)。

第2 本件請求と事業
1, 概要
 市民生活のゴミ処理をする新たな施設を造ることについて、市が進めている市単独の計画ではなく、現在と同様に岐阜市との広域処理(岐阜市域の1/3位+山県市)の方がはるかに経済的で合理的である。
 山県市は、「岐阜市と一緒に組むと用地を山県市内で出すよう求められるし、地元の同意を得るのが大変だから単独がいい」、という考えである。
 事業費は、単独処理なら81億円、広域処理なら49億円と試算される。選択すべき方法は岐阜市との共同処理以外にない。

2. 経費の概算の基礎
 2003(H15)年7月に山県市が「ごみ処理施設整備基本構想策定業務」としてコンサルタントに委託した報告書(第1号証)及び2005年9月並びに同年12月議会の市の答弁から概略を整理すると次のようである。
    ・広域処理とは、「岐阜市と広域処理で山県市内の新敷地に建設(含用地費)」。
          → 焼却施設規模は100トン炉×2基
    ・単独処理とは、「山県市が美山地内の昔からの敷地内に建設」。
          → 焼却施設規模は20トン炉×2基
    ・施設建設費は、広域は新たな用地費を含み、単独は既設として所有地あり。
    ・施設の使用期間は、山県市の見込む20年間で想定。維持費には人件費含。
 (基礎データの比較)
        施設建設費  20年間の維持費  合 計    運搬経費    
   広域処理  20億     29億     49億     基本
   単独処理  28億     53億     81億    +2千万
 
  ・単独は広域より建設費で30%高く維持費で80%高い。合計で60%高。
  ・1年当たりの経費(含人件費)は、広域は毎年2.4億円単独は毎年4億円。
・運搬経費とは、各収集地点から処理場まで運ぶ費用の試算であり、広域処理の建設地までを「基本」としてみると、単独施設の美山までは割高であること。
   
3. 岐阜市にとっても広域が有利
 岐阜市にとって、単独で負担する「80トン炉×2基分」と、広域で負担する「100トン炉のうちの80トン炉×2基の相当分」の建設・維持費を比べれば、広域処理の方がはるかに経済的に優れる。
 岐阜市は、善商の椿洞の産廃の後始末の経費の問題で周辺市町との合併が破綻し、不法投棄物の撤去についても経費が高額であることから「一部撤去」を選択せざるを得ない状況である。ゴミ処理の現行の広域処理を維持することは、岐阜市にとってもきわめて望ましい材料である。

4. 財源構成について
 (1) 合併特例債に関して
 「合併特例債を使ったときの交付金は、合併特例債借入額は17億1千万円で、地方交付税算入額は11億97百万円となる」(05年12月議会市民部長答弁)、「公共施設の改修、整備の項目で申請し、特例債の活用は可能であると思われる。が、審査基準が厳しいため活用できない場合があるかと思われるので、ご承知おきをお願いする」(同)。
 市町村合併における新市建設計画に本件単独ゴミ処理施設が位置づけられていないことから、合併特例債が許可される可能性はきわめて低い。

 (2) 循環型社会形成推進交付金に関して
 国は、自治体の一般ゴミ処理などに関して、従来の「補助金制度」を2005年度より「交付金制度」に切り替えた。この際、広域処理の事業もしくは大規模な事業であることが基本的前提とされている。県の資料では山県市の交付金は9億2060万円となっている。しかし、1999年3月策定の県の広域化計画に反して、単独処理することで国に申請しても交付金が下りない可能性が高い。

第3  被告市長の方針の問題点
1. 用地問題
 「用地が決まっていない中で、特に、ごみ処理施設の建設については、地元住民にすれば迷惑施設というイメージが強い施設であること。また、なぜ、私たちの地域に作らなければならないのかというような問題などが生じ、地元の理解と協力を得るには長期間を要することが予想される」(05年9月議会市民部長答弁)
 施設建設の経費だけでも7億円の違いがある。仮にその1/2を地元対策に使ったとしても、なお余りあるが、それでも市は地元対策・用地問題が解決困難としていることには何の根拠もない。

2. スケジュール
 「用地問題は大変紛糾していくだろう、そういった中で、平成22年という限度がある中で、それに対応しきれん」(同市長答弁)
 山県市は時間が無いというが、リミットはまだ5年先。しかも、岐阜市からは協議するならその期限は延ばしてもいい、との話も聞こえてくる。
 これだけの財政負担の違いが明らかになった以上、財政が厳しいからと合併した山県市が選ぶべき方向が広域処理なのは明らかである。それを、試みてもいない「地元調整が困難」を理由に安易に走るのは、現在と将来の市民に対して無責任である。

3. 岐阜市の圧力への懸念 
 市は、広域にすると岐阜市が過剰な負担を要求してくる可能性があるから、経費の違いは一概には言えないと流布しているようだ。
 百歩ゆずって、岐阜市が経費負担を余分に要求することがあると仮定しても、それは全体の数パーセントとかせいぜい一割以内のこと。それ以上は、独立した地方公共団体同士として許容されないことだから心配は無用である。

4. 多目的利用の可能性
 「単独の場合、施設内での利用が中心で、場内給湯、燃焼用空気の予熱及び煙突からの白煙防止のための利用方法。広域の場合、温水施設の規模にもよるが、一般的には1日のゴミ処理能力が100トン以上であれば可能と考えられる」(05年9月議会市民部長答弁)。
 温泉施設などに対する住民要望は非常に強い。施設やエネルギーの有効利用は時代の要請である。県の広域化計画にも熱利用が明示されている。

第4 住民監査請求前置と本件事業が行われる確実性
1. 住民監査請求
 原告らは、2006年3月10日に山県市監査委員に対して住民監査請求を行った。
 山県市監査委員は、2006年5月8日付けで、却下ではない全面「棄却」の監査結果を通知してきた。
「・・・岐阜市との広域処理の場合は用地が確定しておらず、用地確保の面で大きな課題があることに加え、工期の面で現実性に欠けるという結果が出ている。よって平成15年12月2日の山県市議会全員協議会において、総合評価で最も点数が高かった山県市での単独処理により既設ごみ処理施設敷地内で建設することで了解を得て、平成15年12月22日付けで山県市長より岐阜市長あてに、平成22年度以降の山県市から排出される可燃ごみの処理は、山県市単独でごみ処理を行っていく旨を公文書で回答している。
 山県市は、平成22年3月までにごみ処理施設を建設しなければならない状況にあり、ごみ処理施設の計画から施設の完成までのスケジュ−ル及びそれに要する期間を推定しても、早急にこの業務を行う必要性があると認められる。財源について山県市は、循環型社会形成交付金制度に基づく交付金について、出来るだけ早い時期に内示が受けられるよう全力で取り組んでいる状況にあり、県も交付金の交付が受けられるよう協力されている。
 合併特例債の活用についても山県市は、新市まちづくり計画の「循環型社会の構築」の項目により申請予定であると説明している。よって、ごみ処理計画が新市建設計画に計上されていなかったこと、単独処理に起因して合併特例債が認められなかった場合のこととは論点が根本的に異なるうえ、平成22年3月までの4年間という短期間の中で、市民生活に直結するごみ処理施設を完成させなければならないという厳しい状況下にある。・・・以上のことから、平成17年度、平成18年度当初予算に計上されているごみ処理施設関連経費の支出及び山県市単独のごみ処理施設整備についての将来の事業費を差し止める必要はなく、また、職員の市への賠償責任は認められず、請求人の主張には理由がないものと判断する。」

2. 本件事業が行われる確実性
 被告市長が山県市単独でクリーンセンターを建設・整備し、運営・維持していく事業(以下、「本件事業」という)は、業務委託報告を前提に、すでに県の交付金申請関連の書面において集約されている事業である。しかも、2005年度予算、06年度予算では、単独計画の施設を造るための環境アセスメント事業費(最終の契約額は619万5千円)及び山県市クリーンセンター整備計画仕様書作成業務委託料(2980万円)が組まれるなどしており、その熟度からして、明らかに、「当該行為がなされることが相当の確実さをもって予測される場合」(地方自治法第242条1項の括弧書)に当たる。

3. 差し止め請求に関する最新の最高裁判決
 2006年4月25日、最高裁は、地裁、高裁が「本件監査請求において,各公金の支出が他の支出と区別して特定認識できる程度に個別的,具体的に摘示されているものと認めることはできない。・・本件監査請求のうち金員返還に係る部分も公金支出差止めに係る部分も,請求の対象の特定を欠くものとして不適法であるというべきである」とした事案を逆転させた。つまり、市施行の土地区画整理事業が違法であると主張して同事業のために支出された公金の返還及び同事業に対する公金支出の差止めを求める住民監査請求が請求の対象の特定に欠けるところはないとして、原判決を破棄し,第1審判決を取り消して、東京地方裁判所に差し戻した。
 判示の要点は以下である。

「4 しかしながら,原審及び第1審の上記判断は是認することができない。その理由は・・・次のとおりである。
 (1) ・・・特定の程度としては,監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資料等を総合して,住民監査請求の対象が特定の当該行為であることを監査委員が認識することができる程度に摘示されているのであれば,これをもって足り,上記の程度を超えてまで当該行為を個別的,具体的に摘示することを要するものではない。
 また,対象となる当該行為が複数であるが,当該行為の性質,目的等に照らしこれらを一体とみてその違法性又は不当性を判断するのを相当とする場合には,対象となる当該行為とそうでない行為との識別が可能である限り,個別の当該行為を逐一摘示して特定することまでが常に要求されるものではない。そして,地方公共団体が特定の事業(計画段階であっても,具体的な計画が企画立案され,一つの特定の事業として準備が進められているものを含む。)を実施する場合に,当該事業の実施が違法又は不当であり,これにかかわる経費の支出全体が違法又は不当であるとして住民監査請求をするときは,通常,当該事業を特定することにより,これにかかわる複数の経費の支出を個別に摘示しなくても,対象となる当該行為とそうでない行為との識別は可能であるし,当該事業にかかわる経費の支出がすべて違法又は不当であるという以上,これらを一体として違法性又は不当性を判断することが可能かつ相当ということができる。また,当該行為を防止するために必要な措置を求める場合には,これに加えて,当該行為が行われることが相当の確実さをもって予測されるか否かの点についての判断が可能である程度に特定されていることも必要になるが,上記のような事案においては,当該事業を特定することによって,この点を判断することも可能である場合が多い。 したがって,そのような場合に,当該事業にかかわる個々の支出を一つ一つ個別具体的に摘示しなくても,住民監査請求の対象の特定が欠けることにはならないというべきである。
 (2) ・・・本件事業に関する平成13年度以降の一切の公金の支出を対象として,既支出分の返還と今後の支出の差止めの措置を求めているのであって,本件事業にかかわる公金の支出を全体として一体とみてその違法性又は不当性を判断するのを相当とする場合に当たる。・・・対象外の支出との区別は可能である。本件監査請求において対象となる各支出行為の年月日や金額等が具体的に摘示されていなくとも,監査委員としては,当該事業を担当する区画整理課への確認,同課からの書類提出等により本件事業に関する各支出行為を明らかにさせることによって,本件監査請求の対象である各支出行為を容易に把握することができるものというべきである。・・・・・本件事業の位置付けや本件事業のための経費に関する予算上又は決算上の会計区分は変動するとしても,本件事業の同一性が失われるものではなく,本件事業のための経費支出の特定性が失われるとも考えられないのであって,本件事業を特定することにより差止めを求める対象となる公金の支出の範囲も識別することができるものということができる。・・・事業計画の正式な決定前であるため,その後に本件事業の基礎的事項に変更があり得るとしても,上告人らの主張する違法性ないし不当性の内容からして,その変更が本件事業及びこれに伴う公金の支出の適否等の判断に大きく影響するものとは考えられない。したがって,将来の公金の支出についても,住民監査請求の対象の特定として欠けるところはないということができる。」
(平成16(行ヒ)312/公金支出差止請求事件/平成18年04月25日判決/最高裁判所第三小法廷/破棄自判/東京高等裁判所・平成16(行コ)21・平成16年07月20日判決)

第5 本件における違法性
1. 廃掃法における山県市の責務と地方自治法
 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という)において
 「市町村は、当該市町村の区域内の一般廃棄物処理計画を定め」(同法第6条1項)、
 「次に掲げる事項を定める。・・・5.一般廃棄物の処理施設の整備に関する事項」(同2項)
 「基本構想に即して、一般廃棄物処理計画を定める」。(同3項)
「当該市町村の区域内の一般廃棄物の処理に関し関係を有する他の市町村の一般廃棄物処理計画と調和を保つよう努めなければならない。」(同4項)とされている。
 本件にかかる一般ゴミの処理は市町村の固有の責務とされているのである。
 そして地方自治法第2条第4項で議会の議決を経て定められた山県市の基本構想(2005年制定)の文書中の関連と思われるところには、「序 第2章 5.広域的な連携によるごみ処理対策やリサイクルなどを進めています」「基本構想 第2章 2.環境との共生・・・ごみの減量化やリサイクルを推進します」との文言があるのみだ。「3.効率的で質の高い行政経営の推進  ・・・民間委託や事務事業の見直し、広域的な連携などにより、財政の効率化・安定化を推進・・・B 広域行政の推進」とある。
 文言上も「広域」の概念しかない。
 結局、今回の本件事業計画は、被告の責務を定めた廃掃法第6条、地方自治法第2条第4項に違背する。

2. 市長及び職員の責務
 普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を代表する者であり(法第147条)、当該地方公共団体の条例、予算その他の議会の議決に基づく事務その他公共団体の事務を自らの判断と責任において誠実に管理し及び執行する義務を負い(法第138条の2)、予算の執行、地方税の賦課徴収、分担金、使用料、加入金又は手数料の徴収、財産の取得、管理及び処分等の広範な財務会計上の行為を行う権限を有し(法第149条)、予算を調整し議会に提出する権能がある(法第211条1項)。
 長は、当該地方公共団体から委任を受けた者として、当該地方公共団体の事務を管理し執行する義務を負っている(法148条、149条)。
 また、長は、補助機関たる職員に対して一般的な指揮監督権を有し(法第154条)、会計事務を監督する義務を負う(法149条5号)。
 被告は、岐阜市と広域計画について真摯に交渉する意思がない。広域処理の可能性の手法や広域処理を不可能とする障害などについて、岐阜市と山県市との共同での各種協議の実質もなく、単に用地選定・地元同意が大変だからというだけで、著しく高い経費の山県市単独を選択することは裁量権を著しく逸脱している。
 本件事業計画の選択は、地方自治法上、市長ほか職員に与えられた責務及び許される裁量を著しく逸脱しており、違法である。

3. 自治体会計の原則違反
 安易かつ不合理な単独計画に過剰な公費をつぎ込むことは、地方自治法2条14項「最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない」に違反し、地方財政法第4条1項「必要且つ最少の限度をこえて、これを支出してはならない」に違反している。

4. 国や県の意向に反すること
 (1) 2005年11月17日の岐阜県庁での県と山県市の会議記録では、「県としては、県ごみ処理広域化計画に従い、山県市が岐阜市と広域処理を行うことがよいと考えている」
 
 (2) 2006年2月15日の環境省中部地方環境事務所における岐阜県と山県市の会議記録では、環境省の考え方について、次のとおり記録されている。 
「・H18.2.7の通知文書は、環境省が交付要綱で設けた地域特例について、特例を認める理由を検討し、将来的な広域的循環型社会を形成するために、追加付記を要請したものである。
・小規模な施設は建設コストばかりか、ランニングコストもかかり、公費の不効率な投入となる。
・環境省は、県のごみ処理広域化計画等に基づくごみ処理の広域化を要請してきており、特例を安易に認めることは、補助を行っている本来の主旨に沿わないと考える。
・原則的に、特例を認める場合は、半島、離島、広大な地域等であり、今回のケースについては、広域化できない理由をよく検討する必要がある。」
 
 (3) 2006年2月22日に環境省中部地方環境事務所において、国と岐阜県が協議した記録は次のようである。
「・環境省としては、県のごみ処理広域化計画に沿った形で広域化施設に交付金を投入したいと考えており、岐阜市との広域処理を行うべきではないかと考えている。
 ・岐阜市との広域処理に向けて努力する必要がある。
 ・したがって県、岐阜市、山県市で次の事項を協蔵することを提案したい。
 ・今回の山県市が計画している単独処理施設について、岐阜市との広域処理の可能性がないか、再度検討すること。」

 (4)  循環型社会形成推進交付金は国の事務であるところ、上記の見解からすれば、被告市長が進める山県市の単独計画では、国の交付金が得られる可能性は低い。
 これに対して、岐阜市との広域処理計画であれば国の助成金が得られることは制度上確実である。
 以上、本件山県市の単独計画は、循環型社会形成推進交付金の原則に反している。
 さらに、交付金が出ない事業に起債が認められる可能性は著しく低い。
 
5. 被告の基本構想策定業務・報告書との乖離
 2003年7月に被告市長が「ごみ処理施設整備基本構想策定業務」として236万2500円で、名古屋市の株式会社・環境工学コンサルタント中部支社に委託した報告書のまとめの記載は次のようである 。
 「評価の結果はケースCが最も点数が高く、次いでケース得Dが高い結果となった。ただし、ケースD(山県市内の新用地)、E(岐阜市と広域処理)は用地によっては、用地費、搬入道路工事費、敷地造成工事費が安くすみ、点数が高くなる可能性がある。
 この結果から、既存施設の場所もひとつの候補地としながら、まず、用地選定を行い、新たに適当な場所が見出された場合には、その場所で処理施設を新設する計画をすすめ、なかった場合には既存施設の場所で計画をすすめることが適切であると考えられる。」
 言い換えると、
 「単独の場所もひとつの候補地としながら、まず、用地選定を行い、新たに適当な場所が見出された場合には、その場所で処理施設を新設する計画をすすめ、なかった場合には既存施設の場所で計画をすすめることが適切であると考えられる。」と言うもの。報告書は、「山県市の単独でいくのが望ましい」とはしていない。ちゃんと、各種検討してから決めるべきといっている。
 本件事業の計画は、被告自らの経費で委託して策定した報告書とも矛盾しているのである。

6. 社会通念上も認められない
 社会通念上も、公序良俗としても、社会正義としても、これほどの無駄な支出をすることは許されない。

第6 支出や歳入の見込みと損害や職員
 事業が進められた場合に関して、現時点で認識できる収支は以下である。
1. 支出経費の見込み
 (1) 事業費関係は、前記第2の2項のとおり概算されている。(下記再掲)
          施設建設費  20年間の維持費   合計
    広域処理   20億     29億     49億 
    単独処理   28億     53億     81億 

 (2) 既決予算額
 2005年、2006年度予算には、単独計画の施設関連の環境アセスメント事業費619万5千円及び山県市単独計画を描くための山県市クリーンセンター整備計画仕様書作成業務委託費2980万円が計上されている。

2. 国から山県市への交付金の想定額
 国からの交付金関係は、前記第2の4項のとおり概算されている。(下記再掲)
 (1) 合併特例債を使ったときの交付金は、合併特例債借入額は17億1千万円で地方交付税算入額は11億97百万円である。
 つまり、合併特例債が許可されなかったときは、その結果として、11億97百万円が山県市が市独自の財源で負担すべき額という位置づけに転換する。
    
 (2) 循環型社会形成推進交付金は9億2060万円である。
 つまり、同交付金が認められなかったときは、その結果として、9億2060万円が山県市が市独自財源で負担すべき額という位置づけに転換する。

3. 山県市の損害
 本件事業によって生ずる支出の一切が一義的な損害であり、岐阜市と広域処理したときとの比較した差額が二義的な損害である。
 即ち、必要性も合理性もなく、違法もしくは著しく不当に支出される金員、あるいは誤った政策遂行にともなう国庫助成金(起債や交付金等)の拒否に起因して生ずる山県市の独自負担の増加分は、山県市の損害である。

4. 職員
 被告市長は本件ゴミ処理施設に関連する市の支出と将来の事業の全責任を負うから、山県市が単独処理の意思決定をした場合には、それぞれの損害について賠償責任を負う。
 同時に、権限をもって単独処理の意思決定に関与した職員らは全員が連帯して、それぞれの損害について賠償責任を負う。
 本件ゴミ処理事業に関して、いずれの経費についても、後日、予算執行が強行された場合は、その時点の執行権限を有する職員らも上記職員に連帯して、それぞれの損害について賠償責任を負う。

第7 本件請求
1. 差し止め請求 (請求の趣旨−1)
 単独の計画でスタートするか、広域の計画でスタートするかによって、供用開始以後20年のゴミ処理事業の全体事業費(建設費及び維持費、運搬費など)のほぼすべてが、事実上、決定する。
 よって、現在の山県市の計画を遂行するために開始されたところの、環境アセスメント事業費は執行してはならない。
 そして、現在進めようとしている市単独の事業計画を一刻も早く差し止める必要がある。
 よって、原告は、地方自治法第242条の2第1項1号に基づき、本件事業の差し止めを請求するものである。
 被告は、現在策定中の本件事業に関して、「環境アセスメント事業費619万5千円」及び「山県市クリーンセンター整備計画仕様書作成業務委託料2980万円」並びにその余の事業費支出一切をしてはならない。

2. 前項各行為がなされた場合の弁済の命令の請求 (請求の趣旨−2)
 もし、単独の計画が実行された場合の過剰な支出については、計画を意思決定した職員らが私費で市に賠償する義務がある。
 原告は、本件山県市クリーンセンター整備・運営・維持事業に関して請求の趣旨−1の各行為がなされた場合、地方自治法第242条の2第1項4号に基づき、被告市長が、権限をもって当該行為の意思決定をした職員に、山県市の損害を補填するよう命令することを求めるものである。

3. 既執行額の返還請求 (請求の趣旨−3)
 2005年度予算の、単独計画の施設関連の環境アセスメント事業費619万5千円が執行分とみられるところ、原告は、地方自治法第242条の2第1項4号に基づき、被告市長が、権限をもって当該行為の意思決定をした職員に、山県市の損害を補填するよう命令することを求めるものである。

4. 起債に関する請求 (請求の趣旨−4)
 山県市の一般ゴミ処理計画を遂行する際に、仮に起債手続をしたとして、単独処理計画であるがゆえに合併特例債や一般の起債が許可されなかった場合に、それに対応する市の単独支出の増加分は、当該の事業の意思決定に関与した職員ら全員が個人として市に賠償すべきところ、原告は、地方自治法第242条の2第1項4号に基づき、被告市長が、権限をもって当該行為の意思決定をした職員に、山県市の損害を補填するよう命令することを求めるものである。

5.  循環型社会形成推進交付金に関する請求 (請求の趣旨−5)
 山県市の一般ゴミ処理計画を遂行する際に、単独処理計画であるがゆえに交付金が得られない場合に、それに対応する市の単独支出の増加分は、当該の単独事業の意思決定に関与した職員ら全員が個人として市に賠償すべきところ、原告は、地方自治法第242条の2第1項4号に基づき、被告市長が、権限をもって当該行為の意思決定をした職員に、山県市の損害を補填するよう命令することを求めるものである。

                                 以 上
 《証 拠 方 法》
 口頭弁論において、必要に応じて、提出する。