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 今回の小泉解散問題について、地方議員としての精算をしようと考えています。
              2005.9.11(衆議院総選挙の投票日に当たって)
地方公共団体(自治体)は、国政選挙の執行を手伝うことが義務づけられています。そして、その経費は、国がすべて支払うことになっています。
 しかし、地方公共団体の職員の執務時間中の人件費は支給されていません。
 制度上も法律上も間違っているままに、強引に国民や地方に解散・選挙を押し付けてきた政府を検証するために、論点を整理します。

ちょうど、8月8日の解散で、全国の地方公共団体が、選挙費用を専決(とりあえず首長が支出を決定し、後の議会で承認してもらうこと)あるいは臨時議会等で可決して選挙を費用を使っています。多くの議会が9月定例会で審議している途中でもあり、議論の材料として提供します。

当市は人口3万人のところ、約1800万円が専決されています。全国で見ると一体どれだけになるでしょう。
実際、前回2003年の衆議院解散・総選挙は、760億円だったといわれます。財政破綻といいながら、国家予算90兆円の1%弱をあっさり使う決定は理解しがたいことです。

事実
 地方公共団体の選挙管理委員会関係職員(+応援職員)は、各種会議や準備のほか、期日前投票のために、相当の勤務時間を費やしている。国は、時間外手当は地方公共団体に支給するが、通常勤務時間中の人件費は支給していない。

行政とのやりとり
 9月の議会に出されている議案の審査として、今回の国政選挙における地方公共団体職員の「通常勤務時間中の人件費」について、先日、市、県、国の担当とやり取りしました。その要点は次のようです。


(担当)確かに支給は無い。交付税で後年に戻って来るのではないか。
(寺町)交付税では、その額が自治体によって、バラバラだから、実働に対するものとは言えない。うちの職員の勤務に対するものといえる根拠や額の明示が交付税あるか?
(担当)確かにそういえなくもない。調べてみる。
(寺町)ともかく、実際に今回の選挙での「通常勤務時間中の人件費」の概算を求める。
(担当)分かった。
(寺町)地方分権が明確になった今、市町村が国や県の選挙を手伝う義務の根拠は?
(担当)地方自治法第2条2項の別表に1号で国政選挙、2号で県の選挙とある。
(寺町)市長から国に請求しなきゃ、監査請求も(笑)。
(担当)この人件費のことを指摘されたことは初めてで考えたこともなかった。


(寺町)国の選挙を県や市町村が担うときの経費の算定根拠は?
(担当)「国会議員の選挙等の執行経費の基準に関する法律」に手当がある。
(寺町)それは時間外手当のこと。執務時間中の分はどこでみるのか?
(担当)基準法に「調整」という規定がある。
(寺町)それは、極めて特殊な場合の経費のことではないか。人件費ではない。
(担当)確かにそうだ。交付税制度でみているのではないか。
(寺町)交付税の不交付団体は、支給されないことになるから、そんな解釈はできない。
(担当)交付税の基準の解説に、選挙費用も示されているから・・・
(寺町)交付税が少ないところと多いところの違いは、どう説明する?
(担当)・・・・
(寺町)県の選挙でも同じではないか。補助金でも出しているなら、ともかく。
(担当)勤務時間中の人件費のことなど、考えたこともなかった。

総務省・選挙経費担当
(寺町)国の選挙を県や市町村が担うときの経費の算定根拠は?
(担当)「国会議員の選挙等の執行経費の基準に関する法律」に手当がある。
(寺町)それは時間外手当のこと。執務時間中の分はどこでみるのか?
(担当)地方交付税でみているからいい。
(寺町)交付税の不交付団体は、支給されないことになるから、そんな解釈はできない。
(担当)・・・・
(寺町)交付税が少ないところと多いところの違いは、どう説明する?
(担当)・・・・
(寺町)交付税は、選挙関係の事務の分も見るとの概念を示しているだけではないのか?
(担当)・・・。基準法に「調整」という規定がある。
(寺町)それは、極めて特殊な場合の経費のことで人件費ではない。
(担当)同法で、そもそも、選挙のいろんな経費をみている。個々に基準と違って、バラツキがあっても、総枠の中で考えて行けばいい。総枠で収まっている。
(寺町)地方公共団体側が勝手にそんな解釈はできない。しかも、「基準法」が定められている制度だから、なおさら、拡大解釈はできない。

議会議論の要点
 今回は、実際に選挙を執行していますから、予算に出ている諸経費の支出は、国も支払うとしているのだから、とりあえず正当との位置付けが成り立ちます。よって、ここで質疑を終わると賛成するのが筋、ということになります。
 ところで、「通常勤務時間中の人件費」については、国は払う予定はなく、実際に予算にも計上されていませんから、地方公共団体の長は、国に請求する義務があります。
 よって、議会議論の最後は、「では、(知事・市町村)長よ、あなたは、この選挙経費とは別に、国に通常勤務時間中の人件費を請求するのか、しないのか」というものです。
 「請求しない」と答えるのは当然です。今までと同じにするしかないから。
 しかし、請求しない予算建てということは、当然、「選挙経費の認定」として不十分ですから、議案自体に反対することになります。
 なお、既に議決・承認済み団体でも、「不足分の話」だから、同様の議論は、9月議会でできます。

違法性と損害
 地方公共団体からみた通常勤務時間中の人件費を請求しないことの違法性と損害について述べます。(なお、各種住民訴訟など訴訟をしてきた経験からの端緒としての整理です)

@
地方財政法第10条の4の1項は、地方公共団体は、国会議員の選挙、最高裁判所裁判官国民審査及び国民投票に要する経費を負担する義務を負わないと定めています。

A
同法第2条2項では「国は地方公共団体に負担を転嫁してはならない」と定めています。

B
同第18条では「国は事務を行うために必要で且つ充分な金額を基礎として、これを算定しなければならない」としています。なお、ごていねいに同第19条が「国の支出金は経費の支出時期に遅れないように支出しなければならない」とも規定しています。

C
同第25条では「国の負担金は、法令の定めるところに従い、これを使用しなければならない」としていますから、国の担当のいう「大枠・総枠で収まれば」という詭弁は排除されます。この意味では、通常勤務時間中の人件費を定めていない基準法の規定自体が、地方自治法や地方財政法に反した違法な法律であるといえます。

D
地方交付税法では、「長・議員選挙費」とあるから、地方公共団体の選挙とみられ、いずれにしても「職員給与」はなく「超過勤務手当費」が示されているだけであるから、交付税で充当はされない 。

E
民法の債権債務の関係において、全国の地方公共団体は、それぞれ、国に対して、「職員の通常勤務時間中の人件費」分の債権を有しています。

F
このように、地方公共団体の職員の人件費が国から支払われないことは違法な行為です。、よって、当然、損害に置き換わります(訴訟では「損害賠償請求」)

G
また、そのこととは別にこの人件費分これを国に請求しないという首長の判断は、「財産(=債権)の管理を怠る事実」として違法です(訴訟では「違法確認請求」)
 その金額の特定はするに越したことはありません。しかし、怠る事実の場合の金額の確定は、行政側(あるいは司法機関)の立証(認定)事項ですから、気にしなくてもいいことです。違法に「怠る事実がある」、というだけで十分です。

おまけ=都道府県の選挙でも市町村は同じ状態だったこと
 国の選挙に準じて県の選挙も同旨の規定です。同法第28条で「都道府県は市町村に対し、その事務を執行するに要する経費の財源について必要な措置を講じなければならない」、同第29条で「都道府県が負担する金額を市町村に対して支出する」、とされています。
 また、同第30条で、第18条、第19条及び第25条の規定は、「都道府県の負担金に準用する」とされています。

(2010.9.13 追記 ⇒ 公職選挙法(衆議院議員又は参議院議員の選挙管理費用の国庫負担)

263条 衆議院議員又は参議院議員の選挙に関する次に掲げる費用は、国庫の負担とする。

2.選挙事務のため都道府県及び市町村の選挙管理委員会、投票管理者、開票管理者、選挙長及び選挙分会長において要する費用

(地方公共団体の議会の議員又は長の選挙管理費用の地方公共団体負担)

264条 地方公共団体の議会の議員又は長の選挙に関する次に掲げる費用は、当該地方公共団体の負担とする。) ←追記


ぜひ一度、検討し、調査、議論して問題点を整理してください。
象徴的には、今回の解散を自治体住民あるいは国民側から整理する一つの方法として、長期的には、制度改正を目指して、進めてみたいと考えます。