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平成15年1月29日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成13年(行ウ)第21号 市職員調査票非公開処分取消請求事件
平成14年11月27日口頭弁論終結

           判         決
当事者    別紙当事者目録記載のとおり

           主         文

1 被告が原告ら及び選定者らに対して平成13年9月19日付けでした別紙1の1,2記載の公文書非公開決定のうち,公職選挙法違反事件等に関する聞き取り調査票中にある所属,職名,氏名の非公開決定部分を取り消す。
2 被告が原告ら及び選定者らに対して平成13年9月19日付けでした別紙2記載の公文書一部非公開決定(平成14年11月7日付け別紙3の書面により一部変更した後のもの)を取り消す。
3 原告らのその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを2分し,その1を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求
1 被告が原告ら及び選定者らに対して平成13年9月19日付けでした別紙1の1,2記載の公文書非公開決定のうち,別紙1の2のbTに係る部分を取り消す。

2 主文第2項と同旨。

第2 事案の概要等
1 本件は,原告ら及び選定者らが,被告に対し,岐阜市情報公開条例(以下「本件条例」という。)に基づき,@平成13年1月28日施行の岐阜市長選挙における選挙違反(以下「本件市長選挙違反」という。)に関する調査について作成した文書等及びA本件市長選挙違反に関与した職員の懲戒及び任意処分の通知書類等の公文書等の開示を請求したところ,被告が,@につき別紙1の1,2記載の全部非公開処分(以下「本件処分1」という。)をし,Aにつき別紙2記載の一部非公開処分(ただし,別紙3の書面により一部変更されている。以下「本件処分2」という。)をしたので,原告らがこれらの処分(ただし,本件処分1のうち,別紙1の2のNo1ないし4の人事記録の全部非公開処分を除く。)の取消しを求めている事件である。

2 争いのない事実
(1)被告は,岐阜市長であり,本件条例3条1項に定める実施機関である。

(2)原告ら及び選定者らは,平成13年9月5日,本件条例5条に基づき,被告に対し,以下の書類のの公開請求をした。
@ 本件市長選挙違反に関しての調査において作成取得した文書等
A 本件市長選挙違反に関与した職員の懲戒及び任意処分の通知書類
(3)被告は,原告ら及び選定者らに対し,平成13年9月19日,以下のとおり,前項@につき本件処分1を,前項Aにつき本件処分2を,それぞれ行った。

ア 本件処分1
(ア) 別紙1の2記載のとおり(このうち,公職選挙法違反事件等に関する聞き取り調査票を「本件調査栗」という。)
(イ) 決定内容 全部非公開
(ウ) 非公開理由 個人に関する情報で,特定の個人が識別され,又は識別され得るもののうち,通常他人に知られたくないと認められるもの及び人事管理に係る事務に関し,公正な人事の確保に支障を及ぼすおそれがあるものに該当するため

イ 本件処分2
(ア) 公文書名   別紙2記載のとおり(具体的には,処分説明書及び訓告書(以下,併せて「本件訓告書等」という。))

(イ) 決定内容 一部非公開(非公開部分は,氏名,職名,所属,処理事務及び団体に係る情報)

(ウ)非公開理由 本件条例6条1項2号に該当するため

3 争点
(1)本件処分1のうち本件調査票の全部非公開処分の適法性
(2)本件処分2の本件訓告書等の一部非公開処分の適法性

4 争点(1)についての原告らの主張
(1)本件条例6条1項2号該当性
ア(ア) 本件条例6条1項2号本文は,個人のプライバシーの権利の保護を目的とするものであるから,個人に関する情報で特定の個人が識別され得るものであっても,個人のプライバシー侵害のおそれがない場合は,公開義務は免除されない。
また,同号本文は,個人に関する情報から個人事業者の事業情報を除外しているが,これは,個人事業者の活動が社会に少なからず影響を及ぼすため,その社会的責任に照らして公益を優先する必要があるからである。
 そうすると,これよりもさらに公益性を有する公務員の公務に関する情報,勤務中の行為についての情報を非公開とすることはできないというべきである。
 すなわち,本件条例6条1項2号本文の「個人に関する情報」とは,個人に関する私的な情報に限定されているのであって,個人の行動であっても,それが公務としてなされた場合は上記「個人に関する情報」に該当しないというべきところ,本件調査票に記載されている情報は,公務員がその勤務時間中に職場においてなした行為についてのものであるから,上記「個人に関する情報」に該当せず,したがって,非公開とすることは許されないものである。

(イ) 当該情報が本件条例6条1項2号本文に該当するか否かについては,本件条例3条1項が,「実施機関は,市民の知る権利が十分に尊重されるようこの条例を運用するものとする。この場合において,個人の秘密、その他の情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定し,個人情報の開示に「みだりに」との絞りをかけていることを前提にして,公開することにより得られる利益と公開しないことによって守られる利益とを具体的に利益衡量して決すべきである。
 しかして,本件調査票が公開されることにより得られる利益は,行政の透明性の確保,公正性の担保,市民の理解と信頼の確保等であり,公開されないことにより守られる利益は,被聴取職員,被処分職員のプライバシーの保護であるところ,後者は不適法に選挙運動に関与したことが知れるという程度のことであるから,前者が重視されるべきことは明らかである。
 したがって,本件調査票は本件条例6条1項2号本文の非公開情報に該当しないというべきである。

イ(ア)仮に,本件調査票が本件条例6条1項2号本文に該当するとしても,本件調査票に記載された情報は,市職員の職務中の行為について市の幹部が聴取したものであるから,公務員の職務の遂行に係る情報については,職,氏名及び当該職務内容を非公開とすることができない旨規定している同号ただし書ハに該当する。
 なお,本件条例について岐阜市が作成した「情報公開事務の手引」(乙第1,以下「本件手引」という。)によれば,上記ただし書ハの「職務」とは,当該公務員の職務の範囲内にあるか否かを問わず,広く公務に該当していれば足り,また,公務に該当しない場合でも,違法な職務命令により行われたもの又は公務に付随して行われたものは「職務」に該当すると解すべきであるとされている。

(イ) 仮に,被告主張のとおり,本件調査票が本件条例6条1項4号ロ(1)又は(4)に該当するとしても,本件手引によれば,「この場合においても,職及び氏名は,原則として公開しなければならない」とされているのであるから,本件調査票が公務に係る情報である以上,当該公務員の職及び氏名を公開すべきことは明白である。

(2) 本件条例6条1項4号ロ(1)又は(4)該当性
ア 情報公開請求に対する非公開処分の理由を,訴訟になってから追加することは許されない。
 したがって,本件調査票について,被告が本件処分1を行った際に挙げていなかった本件条例6条1項4号ロ(1)を非公開事由として主張することはできない。

イ 本件調査票は,地方公務員法,岐阜県条例等の法令で位置付けられた公務員の公務に係る懲戒処分の必要性判断等のための調査記録,あるいはその結果であり,純粋な公務に関する情報である。

ウ 本件調査票を公開することにより公正な人事の確保に著しい支障を及ぼすおそれが生じることはなんら立証されていないから,本件条例6条1項4号ロ(4)には該当しないし,今後同様の事案において適切な情報収集に著しい障害が生じることもなんら立証されていないから,同号ロ(1)にも該当しない。
  なお,将来の不祥事の再発防止を期待すれば,本件調査票は公開されることがより意義深いと考えるのが当然である。

エ 本件条例1条,16条,17条,6条の2の各規定からすると,仮に,本件調査票が本件灸例6条1項4号ロ(1)又は(4)に該当すると判断されても,本件調査票は,公益上公開をすべき必要性が高いものとして,その裁量によって公開すべき場合に当たる。
 すなわち,本件調査票は,市の代表者を選ぶ市長選挙において,公平・公正であるべき市職員が「特定の候補を利する行為を組織的になした」という,絶対にあってはならない事案についての調査記録であるから,これを市民に公開すべき事情は格別に高いものというべきだからである。
 また,岐阜市は,職員の休暇整理簿,離席簿,運転記録等を公開しているところ,これらの人事記録は公開しながら本件調査票を非公開とするのは,著しい裁量権の濫用として違法である。

5 争点(1)についての被告の主張
(1) 本件調査票の内容
 本件調査票は,本件市長選挙違反に係る懲戒処分を行うために職員から聞き取り作成されたもので,被聴取者の氏名・役職名,選挙に関連して行った行為等(紹介者カードに関して配ったか否か,配布されたか否か,選挙事務所等への動員に関して,依頼したか否か,依頼されたか否か,それらの相手方等)が記載されている。

(2) 本件条例6条1項2号該当性
ア 個人のプライバシーの保護に関しては,一般私人のみならず,公務員も個人として保護されるべきプライバシーを有するものであり,私的な行為だけでなく,公務員の公務に関連した情報であっても,公務員の勤務態度,勤務成績,処分歴等,個人の資質,名誉に関わる当該公務員固有の情報であって,本人としては一般的にこれを他人に知られたくないと望み,そう望むことが正当と認められるものについては,本件条例6条1項2号により非公開とすることが許される。
イ 本件調査票に記載された懲戒処分等の処分の前提となる情報は,公務に関連する情報ではあるが,個人の資質,名誉に関わる当該職員固有の情報というべきであって,本人としては一般的にこれを他人に知られたくないと望み,そう望むことが正当と認められるから,同情報は非公開とすることが許される。

(3) 本件条例6条1項4号ロ(1)又は(4)該当性
ア 岐阜市は,本件市長選挙違反に関する調査として,本人のほか,上司,同僚,部下等の関係者からの事情聴取等を行った。岐阜市には,強制的に調査を行う権限はないため,本人及び関係者からの事情聴取は,情報を得る手段として非常に重要なものである。そして,本件調査票を作成する際には,任意に事実,心情等を述べてもらうため,供述者に対し,聴取を行ったこと及び聴取した内容について,処分等に必要な範囲のほかは一切公表しないとの前提で,事実をありのままに話すように求めた。したがって,本件調査票を公開すれば,聴取に応じた本人及び関係者の信頼を裏切ることになり,今後同様の事案における情報収集に大きな支障となる。
 よって,本件調査票に記載された情報は,本件条例6条1項4号ロ(1)に該当する。

イ また,本件市長選挙違反による懲戒及び訓告は,本件調査票に基づいてなされたため,本件調査票を公開すると,上記同様に,将来の同種の処分関係事務の公正又は円滑な執行に支障が生ずるおそれがあり,関係当事者間の信頼関係が損なわれる。
 よって,本件調査票に記載された情報は本件条例6条1項4号ロ(4)に該当する。

ウ なお,原告は,処分時の理由として付記されていない本件条例6条1項4号ロ(1)該当性を被告が訴訟で主張することを問題とするが,処分理由は口頭弁論終結時に存在すれば足りるものであるから,非難されるいわれはない。

6 争点(2)についての原告らの主張
(1) 本件条例6条1項2号該当性
ア(ア) 本件条例6条1項2号の趣旨,解釈については第2の4(1)アと同じ。

(イ) 本件訓告書等のうちの非公開とされた情報は,いずれも公務中の非違行為に対する法に基づく処分若しくは同旨の任命権者の処分に関する情報であるから,「個人に関する情報」には該当しない。

(ウ) 本件訓告書等に係る懲戒,訓告の処分は地方公務員法によるものであるから,公開されても個人のプライバシーの侵害が生じる余地はない。

(エ) 本件訓告書等の非公開部分が公開されることから得られる利益は,行政の透明性の確保,公正性の担保,市民の理解と信頼の確保等であり,公開されないことによって守られる利益は,被処分職員のプライバシーの保護であるところ,後者は不適法に選挙運動に関与したことが知れるという程度のことであるから,前者が重視されるべきことは明らかである。

(オ) 本件訓告書等のうちの「団体に係る情報」の記載が公開されても,個人名が特定されることはあり得ない。
(カ) よって,本件訓告書等の非公開部分は,本件条例6条1項2号本文に該当しない。

イ 仮に,本件訓告書等の非公開部分が本件条例6条1項2号本文に該当するとしても,そのうち氏名,職名,所属及び処理事務について,市職員の職務中の行為についての処分文書中の情報であるから,同号ただし書ハに該当する。

(2) 本件条例6条1項3号本文該当性
ア 情報公開請求に対する非公開処分の理由を,訴訟になってから追加することは許されない。
 したがって,本件訓告書等の非公開部分について,被告が本件処分2を行った際に挙げていなかった本件条例6条1項3号本文を非公開事由として主張することはできない。

イ 本件条例6条1項3号本文に該当するのは,事業者の不利益又は支障が生じることが客観的かつ明白である場合に限定されるところ,本件訓告書等の「相手方団体名」の記載を公開しても,このような不利益又は支障は生じないから,本件訓告書等のうちの「相手方団体名」の記載は同号本文に該当しない。

7 争点(2)についての被告の主張
(1) 本件訓告書等の内容
ア 本件訓告書等のうち,処分説明書は,被告が職員に対し,本件市長選挙違反について懲成処分をした際に,地方公務員法49条1項に基づき,懲戒処分の事由の説明書面として被処分者に交付された文書の写しである。

イ 本件訓告書等のうち訓告書は,被告が職員に対し,本件市長選挙違反について訓告をした際に,被処分者に交付された文書の写しである。
 なお,訓告とは,公務員の非違に対する上司の指導監督措置の一種で,懲戒処分のような法的効果を有しないので法律の根拠に基づかず行われているものである。

ウ 本件訓告書等の中には,被処分者が岐阜市長選挙に際し団体に対して選挙運動を行ったとの記載部分がある。

エ 被告は,本件訓告書等のうち,被処分者の「氏名,職名,所属,処理事務に係る情報」及び上記団体の名称を非公開とした。

(2) 本件条例6条1項2号本文該当性
ア 本件条例6条1項2号本文の趣旨,解釈については,第2の5(2)アと同じ。

イ 本件訓告書等に記載されているような懲戒処分,訓告という職員の身分に関する情報は,公務に関連する情報ではあるが,個人の資質,名誉に関わる当該職員固有の情報というべきものであって,本人としては一般的にこれを他人に知られたくないと望み,そう望むことが正当であると認められるものである。

ウ よって,本件訓告書等の非公開部分のうち「氏名,職名,所属,処理事務に係る情報」の記載は,本件条例6条1項2号本文により非公開とすることが許される。
 また,「団体に係る情報」に関しても,これを公開することにより関係する個人の特定が可能となり,ひいては個人情報そのものの公開と同じ結果となるので,同号により非公開とすることが許される。

(3) 本件条例6条1項3号本文該当性
 本件訓告書等の非公開部分のうち「相手方団体名」については,これが公開された場合,実際に当該団体が選挙運動にどのように関与したかは別として,当該団体が本件市長選挙に関し,被処分者からの働きかけを受け,選挙運動になんらかの関わりを持ったことが明らかになるところ,これにより,当該団体への非難や,その社会的信頼への影響及び今後の事業活動への支障が生ずることが予想される。
 よって,本件訓告書等のうちの「相手方団体名」の記載は,本件条例6条1項3号本文に該当する。
 なお,原告は,処分時の理由として付記されていない本件条例6条1項3号本文該当性を被告が訴訟で主張することを問題とするが,処分理由は口頭弁論終結時に存在すれば足りるものであるから,非難されるいわれはない。

第3 当裁判所の判断 
1 本件調査票及び本件訓告書等の作成経緯等
 証拠(甲第1ないし第32,乙第4,第6,第7(各枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 平成13年1月28日に実施された本件市長選挙に先立ち,同選挙への立候補を表明していた現職市長を当選させるため,市長室長及び部長ら幹部職員から,課長らを介し,順次指揮監督下にある職員らに対して,勤務時間中に各職場において,紹介者カード(現職市長の支援者の氏名等を記入してもらって回収し,電話による選挙運動等に利用するもの)が配布されたり,職員の家族の選挙事務所への動員が要請されたりした。

(2) 本件市長選挙により現職市長が再選されたが,その後,市長室長及び部長ら複数名が,公務員の地位利用による選挙運動や事前運動の公職選挙法違反の罪により刑事処分を受けた。
 しかして,本件市長選挙違反は岐阜市政を揺るがす大問題に発展した。そこで,岐阜市は,本件市長選挙違反への関与が大きかった職員に対して懲成処分等を行うため,助役,収入役及び弁護士らを委員とする「選挙違反事件に係る職員懲戒審査特別委員会」を設置し,同委員会により事実関係の調査が行われた。

(3) 上記調査は,主に約240名の職員からの事情聴取により行われ,その際,本件調査票が作成された。
 本件調査票は,所属欄,職名欄,氏名欄及び選挙に関連して行った行為等(紹介者カードに関して配ったか否か,配布されたか否か,選挙事務所等への動員に関して,依頼したか否か,依頼されたか杏か,それらの相手方等)の記入欄が設けられた用紙に,聴取者が職員から聴取した内容を記入することにより作成された。
 なお,上記調査に際しては,聴取内容の秘密厳守が当然の前提とされており,調査委員らは被聴取者に対し,本件調査票は懲戒処分のための資料であり,他の目的には使用しない旨を告知していた。

(4) 上記調査の結果,約290名の職員に紹介者カードが配布されたことが判明し,岐阜市は,選挙違反の程度に応じて,職員10名に対し懲戒処分,職員56名に対し訓告処分,職員16名に対し厳重注意処分をそれぞれ行った(なお,訓告とは,公務員の非違に対する上司の指導監督措置の一種であり,法律の根拠に基づかず行われているものである。)。
 なお,懲戒処分及び訓告処分の処分事由は,政治的に中立であるべき公務員が,指揮監督下にある職員に対して紹介者カードの配布や職員の家族の選挙事務所への動員の要請を行ったというものや,職員間でそのような行為が行われるという事態を生じさせたという監督責任を問うものであった。

(5) 本件訓告書等のうち処分説明書は,地方公務員法49条1項に基づき交付が義務付けられている懲戒処分事由の説明書として,上記懲戒処分をした際に被処分者に交付された文書の写しであり,本件訓告書等のうち訓告書は,上記訓告処分をした際に被処分者に交付された文書の写しであって,いずれについても,被処分者の氏名,職名,部名,課名,職務内容及び処分事由等が記載されていた。
 しかして,本件処分2においては,本件訓告書等のうち,被処分者の「氏名,職名,所属,処理事務に係る情報」が非公開とされた。また,本件訓告書等の中には,被処分者が本件市長選挙に際し団体に対して選挙運動の依頼を行ったとの記載部分があったが,この団体名も非公開とされた。

2 乙第1,第2によれば,以下のことが認められる。
(1) 本件条例1条は,本件条例の目的について,「・・・,市の行政運営を市民に説明する責務が全うされるよう市の保有する情報の総合的な公開に関し必要な事項を定めることにより,市政に対する市民の理解と信頼を深め,地方自治の本旨である市民による一層公正で開かれた市政の実現に寄与することを目的とする。」と定めている。

(2) そして,公文書の開示義務について,本件条例5条の2は,「実施機関は,公開請求があったときは,当該公開請求に係る公文書が次条の非公開とすることができる公文書に該当するときを除き,公開請求者に当該公文書を公開しなければならない。」と定めているところ,同条は平成12年3月に原則公開の責務を明確にするために改正されたものであり,本件手引によれば,「実施機関は,公開請求がなされたときは,まず非公開とすることができないかではなく,公開することを考えなければならない。」とされている。

3 争点(1)本件調査票の全部非公開処分の適法性)について
(1)本件条例6集1項2号該当性について
ア 本件調査票には,被聴取者の所属,職名,氏名及び本件市長選挙に関連して行った行為等が記載されているところ,当該情報は,個人に関する情報で特定の個人が識別され,又は識別されうるものであって,かつ,通常他人に知られたくないと認められるものであるから,本件条例6条1項2号本文に該当する。上記認定に反する原告らの主張はいずれも採用できない。その理由は,後記4(1)ア(エ)及び(オ)に記載したとおりである。

イ しかし,本件調査票は,岐阜市の職員が職務上の指揮監督権を利用して,勤務時間中に職場で部下に対し選挙運動を行ったか否かについて記載されているものであるから,同情報は公務員の職務の遂行に係る情報に該当し,本件条例6条1項2号ただし書ハによって,当該公務員の職,氏名及び当該職務内容は公開を拒むことができないものである。
 上記認定説示に反する被告の主張は採用できない。その理由は,後記4(1)イ(ウ)に記載したとおりである。

ウ したがって,本件条例6条1項2号により本件調査票に記載されている情報の公開を拒むことができる旨の被告の主張は理由がない。

(2)本件条例6条1項4号ロ(4)該当性について
 ア 本件条例6条1項4号ロは,「市の機関が行う事務又は事業に関する情報であって,公開することにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の公正又は適正な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあることが明らかなもの」は公開しないことができる旨規定し,その(4)として,「人事管理に係る事務に関し,公正な人事の確保に支障を及ぼすおそれ」を掲げているところ,これらにいう「事務」には,本件の情報公開請求に係る情報に関する当該事務のみならず,将来の同種の事務も含まれると解すべきである。

イ 前記認定事実によれば,岐阜市は,多数の職員が関わった本件市長選挙違反について,関与の程度に応じて職員に対して懲戒処分等の処分を適切に行うため,事実関係を的確に把握する必要があったことから,できるだけ多くの職員から十分に事情を聴取することを可能にするため,聴取すべき事項を定型化して記入欄を設けた用紙を作成し,これに聴取者が職員から聴取した内容を記入するという方法で本件調査票を作成したものと解される。 そして,このような事情聴取が上記目的を十分に達成するためには,供述者が自らの知っている事実を職制上の上司等に遠慮することなくありのままに事実を話すことのできる状況が確保される必要があることはいうまでもないところである。そのため,岐阜市は,聴取内容の秘密厳守を当然の前提とし,職員に対し,本件調査票は懲戒処分のための資料であり,他の目的には使用しない旨を告知して事情聴取を行ったものと認められる。
 したがって,本件調査票に記載されている事情聴取内容が公開されれば,供述者との約束に反したことになり,信頼関係が破壊され,今後同種の事情聴取が必要となった場合に,聴取内容が公開されることを意識して供述者が忌憚なく供述することができなくなるおそれがあるし,また,多数の職員から事情聴取を円滑かつ効果的に実施することができなくなるおそれもある。しかして,その結果,岐阜市として事実関係を的確に把握し,適切な懲戒処分等の処分をすることができなくなるおそれがあるということができる。
 多くの職員に対して厳正な処分を行い,組織の自浄作用を機能させることもまた重要な岐阜市の公務(人事管理)であり,この公務に支障を及ぼさないためには,供述者との間の信頼関係を守らなければならないと解される。
 そうすると,本件調査票に記載されている事情聴取内容を公開することにより,職員との信頼関係が破壊され,将来の同種の人事管理に係る事務に関し,公正な人事の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるから,本件調査票に記載されている事情聴取内容は本件条例6条1項4号ロ(4)に該当し,その公開を拒むことができるというべきである。

ウ しかし,本件調査票に記載されている職員の所属,職名及び氏名については,これを公開したとしても上記イで説示したおそれが生ずるとは認められない。
 すなわち,職員が所属,職名及び氏名のみを公開されることを理由として事情聴取を拒否する可能性は極めて低いものと考えられるからである。
 したがって,本件調査票中の職員の所属,職名及び氏名は本件条例6条1項4号ロ(4)に該当しないから,これらの公開を拒むことはできないものというべきである。

(3)本件条例6条1項4号ロ(1)該当性について
ア 原告らは,被告が訴訟になってから本件条例6条1項4号ロ(1)該当性を主張することは許されないと主張するが,後記4(2)アに記載したとおり,原告らの上記主張は採用できない。

イ 本件調査票に記載されている職員の所属,職名及び氏名を公開したとしても,本件条例6条1項4号ロ(1)のおそれが生ずるとは認められない。その理由は上記3(2)ウに記載したとおりである。
 したがって,本件調査票中の職員の所属,職名及び氏名は本件条例6条1項4号ロ(1)に該当しないから,これらの公開を拒むことはできないものというべきである。

(4) 原告らは,本件調査票に記載されている情報が本件条例6条1項4号ロ(1)又は(4)に該当するとしても,公益上公開すべき必要性が高いから,それを公開しないのは裁量権の濫用として違法であると主張する。
 しかし,本件調査票中の事情聴取の内容を公開することにより得られる利益は,行政の透明性の確保,公正性の担保,市民の理解と信頼の確保及び同種事犯の再発防止等であり,これを公開しないことにより守られる利益は,将来における公正な人事の獲得であるところ,本件市長選挙違反事件が岐阜市政を揺るがす大問題であったことを考慮しても,前者の利益が後者の利益を明らかに優越しているとは認められないから,被告が上記情報を公開しないとした措置について裁量権の逸脱があったということはできない。
 また,被告が職員の休暇整理簿,離席簿,運転記録等を公開しているとしても,これらの情報が公開されることによる人事管理上の影響と本件調査票中の事情聴取内容が公開されることによる人事管理上の影響とでは,その性質,程度が全く異なるから,上記人事管理上の情報が公開されていることをもって,本件調査票中の事情聴取内容を非公開とすることが被告の裁量権の逸脱に該当するということはできない。
 したがって,原告らの上記主張は採用できない。

(5) 以上によれば,本件調査票中の事情聴取内容を非公開とした処分は適法であるが,本件調査票中の職員の所属,職名及び氏名を非公開とした処分は違法ということになる。

4 争点(2)本件訓告書等の一部非公開処分の適法性)について
(1)本件訓告書等の非公開部分の本件条例6条1項2号該当性
ア 本件条例6条1項2号本文該当性
(ア) 被告は,本件訓告書等の非公開部分に記載されている情報は本件条例6条1項2号本文に該当すると主張するところ,同号本文は,「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)で特定の個人が識別され,又は識別され得るもののうち通常他人に知られたくないと認められるものは,公開しないことができる」旨規定している。

(イ) そこで,まず本件訓告書等のうちの「団体に係る情報」の記載について検討するに,被告は,これを公開することにより関係する個人の特定が可能となると主張するが,同主張を根拠付けるに足りる具体的な事情を明らかにしていない。
 したがって,上記「団体に係る情報」は本件条例6条1項2号本文に該当しない。

(ウ) しかし、本件訓告書のうち「氏名」又は個人が識別されうるものであり,「職名,所属,処理事務」はこれが公開されることにより個人が識別され得るものである。
 そして,本件訓告書等には,前記のとおり,被処分者の処分の種類及び理由が記載されているところ,これらの情報は,被処分者の名誉及びプライバシーに関わる情報であって,個人に関する情報であり,かつ,通常他人に知られたくないものであると認められる。
 したがって,本件訓告書等の非公開部分のうち氏名,職名,所属及び処理事務は本件条例6条1項2号本文に該当する。

(エ) 原告らは,個人に関する情報で特定の個人が識別され得るものであっても,公務員の公務に関する情報,勤務中の行為についての情報は公益性を有しプライバシーを侵害するおそれがないから,本件条例6条1項2号本文に該当しないと主張する。
 しかしながら,同号本文は文言上公務員と私人とを区別していないこと,同号本文に該当する情報であっても,公務員の公務の遂行に係る情報に関しては,同号ただし書ハにより非公開とすることができる情報から除外され,これらの情報を公開することによる公益性への配慮がなされていることからすれば,同号本文該当性の判断においては,公務員と私人とを区別する理由はないというべきである。
 よって,原告らの上記主張は採用することができない。

(オ) 原告らは,本件条例3条1項が,個人の秘密その他の情報公開については「みだりに」との絞りをかけていることから当該情報を公開することにより得られる利益と公開しないことによって守られる利益とを具体的に利益衡量して本件条例6条1項2号本文該当性を判断すべきであると主張する。
 しかし,本件条例は,6条の2で公益上の理由による裁量的公開の規定を定めているのであり,上記の利益衡量は同条においてなすべきものであって,本件条例6条1項2号本文該当性の判断要素ではないと解される。
 したがって,原告らの上記主張も採用することができない。

イ 本件条例6条1項2号ただし書ハ該当性
(ア) 原告らは,本件訓告書等の非公開部分に記載された情報が本件条例6条1項2号本文に該当するとしても,同号ただし書ハに該当すると主張しているところ,同号ただし書ハは,同号本文に該当する場合であっても,「当該個人が公務員である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員の職,氏名及び当該職務内容に係る部分」は公開しなければならないと規定している。
 そして,本件手引には,「『職務』は,当務公務員の職務の範囲内にあるか否かを問わず,広く公務に該当していれば足りる。また,公務に該当しない場合でも,違法な職務命令により行われたもの又は公務に付随して行われたものは『職務』に該当するものとする。」旨記載されている。

(イ) 本件訓告書等には,前記のとおり,懲戒処分及び訓告処分を受けた公務員の氏名や処分事由等が記載されているところ,一般的に,このような文書を直ちに「職務の遂行に係る情報」に該当するということはできないが,前記の本件条例1条及び5条の2の趣旨からすれば,少なくとも懲戒処分及び訓告処分の対象となった行為が職務の遂行に係る行為であった場合には,これに該当すると解するのが相当である。
 本件訓告書等に係る懲戒処分及び訓告処分の対象となった行為は,本件市長選挙に際して被処分者が職務上の指揮監督権を利用して,勤務時間中に市庁舎内で部下に対し紹介者カードを配布するなどして選挙運動を行ったというものであり,職務上の指揮監督権を利用して行われたという点に加え,勤務時間中に職場内で行われたという点も考慮すれば,これらの行為は,少なくとも公務に付随して行われたものというほかなく,職務の遂行に係る行為に該当するというべきである。
 したがって,上記懲戒処分及び訓告処分がされた際に被処分者に交付された本件訓告書等に記載された情報は,「職務の遂行に係る情報」に該当すると解すべきであるから,本件訓告書等の公務員の氏名,職名,所属及び処理事務は本件条例6条1項2号ただし書ハにより公開を拒むことができないものである。
 なお,本件条例には公益上の理由による裁量的公開の規定(6条の2)が存在するところ,本件訓告書等に係る懲戒処分及び訓告処分の対象となった行為は,本件市長選挙に際し,現職市長を再選させるために,被処分者が職務上の指揮監督権を利用して,勤務時間中に職務で部下に対し選挙運動を行ったというものであり,地方自治の根幹を揺るがしかねないものであって,本件訓告書等の非公開部分が公開されることによって得られる利益は,行政の透明性の確保,公正性の担保,市民の理解と信頼の確保,同種事犯の再発防止等であるのに対し,これを公開しないことにより守られる利益は,違法な選挙運動に関与したことを世間に知られたくないとの被処分者の感情にすぎないので,前者が後者をはるかに優越していることは明らかであるから,本件訓告書等の公務員の氏名,職名,所属及び処理事務は,上記裁量的公開の規定によっても公開すべきものであったと思料される。

(ウ) 被告は,公務員の職務の遂行に係る情報であっても,個人の資質,名誉に関わるとしているから公務員固有の情報であって,本人としては一般的にこれを他人に知られたくないと望み,そう望むことが正当と認められるものについては,本件条例6条1項2号により非公開とすることができるかのように主張する。
 しかしながら,本件条例は,6条1項2号本文において「個人に関する情報で特産の個人が識別され,又は識別され得るもののうち通常他人に知られたくないと認められるもの」を非公開とすることができるとしつつ,同号ただし書ハにおいて,公務員の「職務の遂行に係る情報」に当たる場合をその例外としているのであり,このような規定に照らすと,公務員の「職務の遂行に係る情報」に該当するとされた場合は当該情報が通常他人に知られたくないと認められるものであったとしても,これを非公開とすることはできないと解すべきであるから,被告の上記主張は採用することができない。

(2) 本件免例6条1項3号本文該当性について
 被告は,本件訓告書等のうち「団体に係る情報」の記載が本件条例6条1項3号本文に該当すると主張するので,以下検討する。

ア まず,原告らは,情報公開請求に対する非公開処分時の理由として付記されていない非公開事由を訴訟になってから主張することは許されないと主張するが,実施機関が非公開決足の通知に併せてその理由を通知しているのは,非公開の理由の有無について実施機関の判断の慎重と公正妥当とを担保としてその恣意を抑制するとともに,非公開理由を公開請求者に知らせることによって,その不服申立てに便宜を与えることを目的としていると解すべきところ,そのような目的は非公開の理由を具体的に記載して通知すること自体をもってひとまず実現されるのであり,本件条例及び岐阜市情報公開条例施行規則をみても,上記理由の通知が上記の趣旨を越えて,非公開処分時に決定に付記された非公開理由以外の理由を非公開決定処分の取消訴訟で主張することを許さないものとする趣旨の規定は見当たらないから,原告らの主張は採用することができない(同旨・平成11年11月19日最高裁第二小法廷判決)。

イ そこで,本件訓告書等のうち「団体に係る情報」の記載が本件条例6条1項3号本文に該当するか否かにつき検討する。
(ア) 本件条例6集1項3号本文は,「公開することにより法人等の事業上の正当な利益を著しく害することが明らかであると認められるもの」については公開しないことができる旨規定しているところ,本件手引は,「正当な利益を著しく害することが明らか」とは,公開されると当該法人の事業遂行が不可能となる,変更を迫られる,事業が崩壊する等の影響を与えることが明確に推定されることをいうとしている。

(イ) ところで,被告は,本件訓告書等のうちの「団体に係る情報」が公開された場合,「実際に当該団体が選挙運動にどのように関与したかは別として,当該団体が本件市長選挙に関し,被処分者からの働きかけを受け,選挙運動になんらかの関わりを持ったことが明らかになるところ,これにより,当該団体への非難や,その社会的信頼への影響及び今後の事業活動への支障が生ずることが予想される。」と主張している。
 被告の上記予想はこれを肯認することができるが,本件手引の上記記載によれば,上記予想が現実化したとしても,当該法人の「正当な利益が著しく害される」とまではいまだいえないと解するのが相当である。
 したがって,本件訓告書等のうち「団体に係る情報」は本件条例6条1項3号本文に該当しないから,これを非公開とすることはできないというべきである。

(3) 以上によれば,本件訓告書等のうち「氏名,職名,所属,処理事務に係る情報」については,本件条例6条1項2号本文に該当するものの,同号ただし書ハに該当し,また,本件訓告書等のうち「団体に係る情報」については本件条例6条1項2号本文,3号本文のいずれにも該当しないものであるから,本件処分2(本件訓告書等の一部非公開処分)はすべて不適法である。

第4 結語
よって,原告らの本件請求のうち,本件処分1の本件調査票中にある所属,職名,氏名の非公開決定の取消しを求める部分及び本件処分2の取消しを求める部分はいずれも理由があるからこれを認容し,その余の部分はいずれも理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を適用して,主文のとおり判決する。

岐阜地方裁判所民事第2部

裁判長裁判官      林       道   春

裁判官      古   閑   裕   二

裁判官      宮   崎   朋   紀



これは正本である。

平成15年1月29日
 岐阜地方裁判所民事2部
    裁判所書記官 斎藤由美子