控   訴   状


      控 訴 人   (原告) 寺町知正  他九名
      被 控 訴 人 (被告) 岐阜県知事 梶原拓

  東海環状道関連情報非公開取消請求事件
      訴訟物の価格 金九五〇、〇〇〇円
      手数料額  金一二、三〇〇円
      郵券     七六〇〇円
             一〇〇〇−六   四〇〇−二
              一〇〇−二    五〇−二 
                二〇−二〇  一〇−一〇

              原告選定当事者 寺 町 知 正
                同     別 処 雅 樹 
      (連絡先) 岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
         (寺町)TEL・FAX 0581−22−4989
         (別処)TEL・FAX 058−234−5241

 一九九九年一二月二二日
名古屋高等裁判所 御中

 右当事者間の岐阜地方裁判所民事第一部平成一一年(行ウ)第五号東海環状道関連情報非公開取消請求事件について、一九九九年一二月九日に言い渡された判決は、一部不服であるから、控訴をする。

    原判決の表示


    主 文


 一 被告が原告選定当事者ら及び選定者らに対して平成一〇年一二月一日付けでした別紙文書目録記載の公文書の非公開決定処分のうち、同目録(二)及び(三)記載の公文書を非公開とする部分を取り消す。

 二 原告選定当事者らのその余の請求を棄却する。

 三 訴訟費用はこれを二分し、その一部を原告選定当事者らの、その余を被告の負担とする。

    控訴の趣旨


 一 原判決の一部を取り消す。

 二 被告が原告選定当事者ら及び選定者らに対して平成一〇年一二月一日付けでした別紙文書目録記載の公文書の非公開決定処分のうち、同目録(一)及び(四)記載の公文書を非公開とする部分を取り消す。

 三 訴訟費用は、第一審、二審とも、被控訴人の負担とする。
 との判決を求める。

   控訴の理由


 詳細は、おって準備書面をもって提出する。
 右控訴人  原告選定当事者 寺 町 知 正 
                    外九名     
                                
                      以 上


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


平成一二年(行コ)五号
 東海環状道関連情報非公開取消請求控訴事件

      控 訴 人   (原告) 寺町知正  他九名
      被 控 訴 人 (被告) 岐阜県知事 梶原拓

  控 訴 理 由 書


         原告選定当事者 寺 町 知 正   
              同     別 処 雅 樹 
    (連絡先) 岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
         (寺町)TEL・FAX 0581−22−4989
         (別処)TEL・FAX 058−234−5241

 二〇〇〇年一月三〇日
名古屋高等裁判所 民事二部 御中

 一九九九年一二月九日付け岐阜地裁判決、一二月二二日付け控訴の理由を次のように述べる。

第一 争点1・非公開理由の追加主張は許されない

一 本件条例は、非公開処分によって県民に保障された権利を侵害もしくは影響を与えることが有り得るからこそ「処分時に理由を付記すること」を定めている。実施機関は処分決定に際して、条例との適合を十分に検討して処分をしたはずであるから、追加主張はあり得ない。
 追加主張を認めることは、処分庁の安易な処分を是認し助長することにもなるから許されない。

二 理由付記について《警視庁情報開示訴訟控訴審》平成三年(行コ)第四四号、平成三年一一月二七日東京高裁判決は「東京都公文書の開示等に関する条例七条四項が公文書非開示決定通知書にその理由を付記することを要求している趣旨は、開示請求に対する実施機関の判断の慎重、合理性を担保し、恣意的な判断を抑制するとともに、処分理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与えることにあるのであるから、同項により付記すべき理由の程度については、開示請求者が理由を推知できると否とにかかわらず、いかなる理由で非開示事由を定める条項に該当するかを具体的事実に基づいて記載しなければならず、口頭の説明により補充することも許されないものと解すべきところ、開示請求に係る文書の非開示の理由として単に同条例九条八号(狭義行政運営情報)に該当すると記載するのみでは、当該文書が同号前段の列挙する複数の文書のうちいずれに該当するのか、また、いかなる事実により同号後段の列挙する複数の障害事由のうちいずれが存するのかが不明であり、同条例七条四項により付記すべき理由としては不備である」として、公文書非開示決定処分を取り消した。
 右上告審(平成四年(行ツ)第四八号、平成四年一二月一〇日最高裁判決)も同旨である。

 次に、理由の追加を認めないとした判決を示す。
 《ゴルフ場開発事業事前協議書等一部開示決定取消請求控訴事件》平成六年(行コ)第六号、平成九年四月三〇日、札幌高裁判決は「北海道公文書の開示等に関する条例一一条一項が公文書の非開示の決定又は一部開示の決定通知書にその理由を付記すべきものとしている趣旨にかんがみると、実施機関である県知事は、一部開示決定の非開示部分の取消訴訟において、右通知書に記載していなかった理由を主張することはできない」と判示している。
 《アマミノクロウサギ生息分布調査報告書開示拒否処分取消訴訟事件》平成八年(行ウ)第一〇号、平成九年九月二九日、鹿児島地裁判決は「ゴルフ場開発事業者が県教育委員会に提出した『アマミノクロウサギ生息分布調査報告書』に対する鹿児島県情報公開条例に基づく開示請求について、その非開示決定の理由中で触れていなかった事業者の右文書の著作権を非開示処分取消訴訟において被告が新たな非開示理由として主張することは許されない」と判示している。

第二 都市計画手続き

 都市計画審議会設置の主旨は「都市計画が都市の将来の姿を決定するものであり、かつ、土地に関する権利に相当な制約を加えるものであるから、各種行政機関と十分な調整を行い、相対立する住民の利害を調整し、さらに、利害関係人の権利、利益を保護することが必要」であることから、「学識経験者、国の出先機関の長等からなる審議会の議を経ることが適当と考えられるためである」とされている(建設省都市局都市計画課監修・第二次改訂版「逐条問答都市計画法の運用」二七七項)。
 そして、都市計画の手続きに関しては、都市計画法一七条二項によって関係市町村の住民及び利害関係人は意見書を提出でき、同法一八条二項によって知事は意見書の要旨を都市計画審議会に提出することが義務付られている。
 環境影響評価手続きは、昭和五八年八月二八日の「環境影響評価の実施について」の閣議決定を受けて、「建設省所管事業に係る環境影響評価の実施について」(昭和六〇年四月一日付け建設事務次官通達)及び「都市計画における環境影響評価の実施について」(昭和六〇年六月六日付け建設省都市局長通達)により取り扱いが定められている。

第三 争点2・意見書について

一 本件条例第六条一項一号(個人情報)該当性

1 一号本文は「個人情報であり、かつ個人識別情報である文書」を非公開とすることができる旨規定し、但し書きで、なお、公益上必要なものは公開することとしている。しかし、原審は「特定の個人が識別され、又は識別され得る情報」(判決文二九頁五行目)としており、「かつ」ではなく「又は」としていることは、明らかに条例の理解を誤っている。

2 情報非公開処分取消訴訟においては、処分を決定した実施機関に立証責任があるにもかかわらず、本件においては、意見書の公開によってプライバシーが侵害されることについて被告から何ら具体的な立証がなされていない。しかし、原審判決は、本件意見書の公開によって、「プライバシーが侵害されること」の具体的な立証が被告から何らなされていないのに、一方的に「個人のプライバシーの権利が侵害されないことが明白な場合ということはできない」(同二九頁八行目)としていることは、審理不尽、理由不備である。

3 住民や利害関係人は、法に定められた権利の行使として、定められた期間内に、都市計画に自らの意見を反映させることを目的として本件意見書を提出している。一方、都市計画決定権者や審議会はこれを無視することは許されないから、意見書の要旨が報告され、これに対する都市計画決定権者の対処方針が必要とされている。意見書は都市計画決定の判断に事実上重大な影響を及ぼし得るものであるから、通常の私的な要望書、陳情書、請願書等とは、全く性格を異とする。
 原審は、本件意見書が都市計画という法定手続きの中の一連の文書であって、私的な文書ではないことを、全く考慮していない。審理不尽である。

4 原審は、本号但し書きロ及びニに該当する否かの検討も行っていない。審理不尽である。


5 意見書を提出したかどうかということ自体はプライバシーとして保護される情報に含まれない。 
 仮に、意見書に何を書いたかという情報が、個人の内心にかかわる情報としてプライバシーとして保護されるべき情報であるとしても、本件意見書は純粋に私的な事柄についてのものではなく、交通量の極めて多い四車線の高規格道路という周辺の環境に重大な影響を及ぼす可能性 のある事業、しかも純粋な公共事業についてであることに照らせば、右情報が公開されることによるプライバシー侵害の程度は相対的に低いものであって、意見書公開の意義を上回る程のものとはいえない。以上、本件意見書を公開することについて、公益上の必要があるというべきである。
環境に関わる行政は、人の生活と自然に及ぼす影響が大きいことから、近年は、それらに対する地域住民の関心が高まっており、県民の県政への理解と信頼を深め、公正な行政運営の確保と県民参加による県政の一層の推進を図るという本件条例の目的に照らしても、本件意見書が公開されることの意義は特に深い。
 《公文書非公開決定取消請求控訴事件》平成九年(行コ)第一号、平成九年一二月一七日仙台高裁秋田支部判決は「林地開発許可申請において添付された水利権者の同意書に記載された住所、氏名、印影は、公文書の非公開事由を定めた秋田県公文書公開条例六条一項一号本文に規定する『個人に関する情報』に該当するが、非公開事由の除外事由を定めた同号ただし書(三)に規定する『公開することが公益上必要と認められる』場合に該当する」と判示している。

6 本件条例の対象とする公文書は、原則として一枚、一葉をもって最低単位としている。この一枚一枚を公開するとき、その一枚に記載されている全ての文字、図表、絵写真等の情報のうち、非公開事由に該当する部分を除いたその他の全てを公開するのが公文書公開制度である。
 仮に、公開に当たって誰かに不都合な内容が記載されていようと非公開事由に該当しない限り全て公開し、もって県政への県民の信頼を確保することが条例の制定趣旨である。
 意見書の一通ずつについて、個人識別情報及び個人情報該当性の判断をすべきところ、原審はこれを行っていない。
 最高裁は「一件ずつの情報について、個別に判断すべきで、一括して判断することは誤っている」と高裁に差し戻している。それは《栃木県知事交際費情報公開訴訟》平成三年(行ツ)第六九号、平成六年一月二七日最高裁判所第一小法廷判決「情報が非公開事由に該当するというためには、その要件の存在が個別、具体的に立証されなければならない。相手方が識別されるか否かの個別具体的な検討なく、
開示しないこととした処分を違法とした部分は条例に関する法令の解釈適用を誤った違法があるという
べきであり、その違法は判決に影響を及ぼすことは明らかである」というものである。

7 本件意見書の中には、被控訴人が第一二六回岐阜県都市計画地方審議会に提出した資料によれば、無記名のもの(甲第五号証・欄外注三)もあり、住所不明のもの(甲第五号証・欄外注一)もあるが、建設省都市計画課は「都市計画の手続きにおける意見書は、特に様式は問わないし、氏名や住所の記載がなくても意見書である」としているにもかかわらず、被控訴人は記名のない者は無効と集計(甲第五号証)している。当然、無記名意見書は要旨が審議会に報告されていない。被控訴人は、都市計画の手続きにおける意見書制度の理解を根本的に誤っているのである。
 参考に、原告らが所持している本件意見書の提出時の写しの幾つかを示すと、学者が肩書を表示して提出した意見書(例・甲第六号証)、個人の意見書(例・甲第七号証)などもある。
 これらを含めて、一律に一号該当とすべきことが許されないのは、明らかである。

8 被控訴人は、九七年七月一日より、本件条例を改正しないまま会議、旅費関係の公文書について、「県職員氏名、相手方の所属団体名、会議の目的」等を公開することとした(甲第八号証)。これは、旧条例においてこれらを公開しても、プライバシーの保護、その他公務等の遂行に支障もなく、何ら条例の規定に反しないから可能であったのである。さらに九九年四月一日からは、何ら条例を改正せずに会議、宴会などの民間参加者の氏名を公開している(甲第九号証)。個人識別情報であっても、当該事務が個人に関することではないから問題はないのである(甲第一〇号証)。
 このように非公開事由に該当しても、公開して何ら問題がないあるいは公益が勝るということは多々あり、実際に実施機関は従来より、自主的にそのように公開してきたのである。

9 全面非公開でなく部分公開とすることによって、条例の公開原則がより実現できるのだから、部分公開の検討をせずに、非公開とした処分を是認した原審の判断は審理不尽である。

二 本件条例第六条一項八号(行政運営情報)該当性

1 原審は、本件意見書の都市計画手続きとしての公的性格を全く考慮しておらず、都市計画法の法令の解釈を誤っている。
 原審判決の「意見書は、地域的事情に根差した個人的性格の強い主張」(三一頁八行目)であるとの認識について、本件意見書は、利害関係人らが都市計画に自らの意見を反映させようと提出するものであるから、個人的性格の強い主張がなされることは、当然である。
 本件意見書制度は、自分の意見で行政に影響を与えようとすることを保障する住民参加の制度であるから、他人から強制されたり、求められたりして提出するものでもない。このような動機で提出する「自らの意見」が他人に知られることを懸念する人はいないし、まして「公開されるなら意見書は出さない」と判断するとは考えられず、公開が事務事業に影響することはあり得ない。
 もし仮に「知られてまずい意見」(「名誉毀損に該当するものもある」・被告主張準備書面(一)の第一の1)等が出されているとしたら、それは本件都市計画決定に何ら影響のない個人的批判、非難、誹謗中傷等にほかならない。しかし、民意の反映の制度としては、そのような意見はそもそも都市計画決定の審議に必要ではないし、そのような「うさん臭い内容の意見書」を提出した者(しようとする者)が、そのように主旨をはき違えた私的な意見書を「将来、意見書が公開される可能性がある」として提出を差し控えることは、何ら都市計画法で定められた意見書制度に支障を生じさせるものではなく、かえって、適正な審議を促進し、事務事業の遂行に資するというべきである。

2 条例は支障が著しい場合に非公開とできるとしているのであって、支障が軽微なときは公開しなければならない。これは岐阜県が作成している本件条例の解釈運用基準(甲第一一号証の一)の趣旨2にも明示されている(甲第一一号証の四)。本件意見書の公開は、「著しい」支障があるとは考えられない。支障の有無についても、その程度の著しいことについても、被告からの明確、具体的な立証もないままに、著しい支障があると断じた原審の判断は明らかに誤っている。

3 右6の場合同様、意見書ごとにその内容に応じた個別の判断をしていないから審理不尽である。 

4 岐阜県は条例第六条一項八号本文の非公開事由から「入札の予定価格」の文言を削除しないまま、九九年一月より「入札の予定価格を事前に公表する」という条例の運用を行っている(甲第一二号証)。
この方針によって九九年一月以後の作成取得の文書は予定価格も公開されている(甲第一三号証の一)。
そればかりでなく、方針決定の以前に溯って、九八年一二月末以前の作成取得の文書の予定価格も公開され(甲第一三号証の二)ている。これは情報公開請求で通常に公開されるものである(甲第一三号証の三)。
 このように非公開事由に該当しても、公開によって支障が生じないあるいは生じても著しくない、という場合は多々あり、実際に実施機関は従来より、自主的に公開しているのである。
 また、右8の運用実態のように、公務に関する氏名等の公開をしても、本号における支障はない、もしくは著しくはないのである。

第四 争点2・環境影響評価専門部会の文書、資料

一 本件条例第六条一項七号(意志形成過程情報)該当性

1 原審は、環境影響評価専門部会に関する時系列とその間における公開文書の判断(訴状第三の二、第五の四等)を誤っている。
 本件都市計画手続きの流れと本件文書の関係を「別表−1」にまとめた。

2 被告は「最終意志決定がなされていない情報を公開すると」(被告準備書面(一)第一の二の2)といい、裁判所も「環境影響評価準備書及び環境影響評価書は、専門部会の最終的な見解を示した文書である」(四二頁八行目)としているが、事実誤認である。
 本件都市計画手続きにおける「環境影響評価についての最終的な見解」とは「環境影響評価書のみ」であって、それに至る過程の資料の公開を求めたのが本件請求である。しかも、この途中段階の「環境影響評価準備書」は、公告縦覧の際に、事業計画関係図書とともに既に公開され、かつ準備書等は縦覧の終了次第、通常の文書として本件条例の対象文書として公開されているのである。
 都市計画審議会議事録(甲第三号証・二三頁六行目)に示されているように、「部会は、九四年三月に設置され、九四年一一月に第一回を開催、準備書のために三回、環境影響評価書のために四回審議した」ものである。従って、部会サイドからすれば「二つの段階がある」と考えられる。
 もし、原審の判断のように「環境影響評価準備書及び環境影響評価書が専門部会の最終的な見解」として二つの独立したものと考えられるとするなら、少なくても、部会の後半の「環境影響評価書のための四回の審議の場」に供された文書、資料は本件文書(二)(三)と同様に、「ほぼ確定」(三四頁五行目)、「もはや未成熟又は不確定なものではない」(三八頁三行目)と判断し、もって公開すべし、としなければ整合性、合理性のない、誤った判示ということになる。
 実際に、準備書と環境影響評価書は実質的には異なっていない。本件控訴人は、これらを明らかにするために本日、別途、文書送付嘱託の申し立てを行っているものである。被控訴人から、速やかに提出がなければ、文書提出命令の申し立てを直ちに行わざるをえない。

3 原審の判断は、協議会の文書は「もはや未成熟又は不確定なものではない」(三八頁三行目)としながら、環境影響評価専門部会の文書は「いまだ未成熟かつ不確定なもの」(四三頁一行目)としているが、その「成熟度合」の根拠、判断基準が何ら示されておらず、極めて情緒的、主観的な判示と言わざるを得ず、理由不備、審理不尽である。

4 原審は「これを公開すると、本件都市計画事業による環境への影響の予測ないし評価が既に確定したものとの印象を県民に与える事が予想され、無用な混乱を招き、本件都市計画事業に関する議論が錯綜するなどして、現在又は将来の都市計画事業の審議に係る意志形成に著しい支障が生じるおそれがある」(四三頁二行目)としている。
 しかし、途中段階のものを住民らに公開し、意見を採り入れ、ボタンの掛け違いのないようにして行くのが、都市計画手続きであり、環境影響評価制度である。そのためにこそ、都市計画決定の途中段階、すなわち「行政の意志形成過程」における「行政の内部の計画に関する諸々の文書・図書」を敢えて公告縦覧に供し、住民の意見を求めることが制度化されているのである。
 行政内だけでなく、県民の間でもいろいろな議論が高まることが、都市計画手続きの主旨に適うものであるから、原審は、文書(一)意見書について「都市計画事業は、民意の反映を目的の一つともしているから、できる限り意見書の内容を公開して議論を深めることは、右目的に沿うもの」(三一頁五行目)、文書(二)審議会について「前示のとおり、都市計画事業は、民意の反映を目的の一つともしている」(三五頁八行目)、文書(三)協議会について「協議会の審議も民意の反映が要請される」(三九頁七行目)、さらに「被告の見解の是非が問題となり、都市計画事業に影響を生ずることがあり得るとしても、それは都市計画決定手続きの公正な運営によって解決されるべきもの」(三六頁四行目、四〇頁一〇行目)としている。
 しかし文書(四)についてだけは、唐突に「議論が錯綜するなど」(四三頁四行目)ということを大きな支障の原因としていることは、論理的整合性がなく、誤っている。

5 今日、意志形成過程情報を非公開とすることは、情報公開制度の意味を阻害、減ずるおそれが高いとされている。よって、東京都はこの条項を情報公開条例から削除することとし、愛知県も決済前の文書、会議や審議会の資料、企画案等も公開するよう条例改正する方向である(甲第一四号証の一)。
 また、公開条例制定時から意志形成過程情報を非公開事由としない自治体もある(甲第一四号証の二)。
 以上、本号の適用は極めて制限的でなければならない。

6 原審被告の「圧力団体の牽強付会な引用により、(案と)最終意志決定の齟齬をとらえ県民に誤解を与える可能性が大である」(被告準備書面(一)第二の二の2)など根拠のない勝手な憶測である。もって被告自ら制定した本件条例第一条「県民の県政への参加を促し、県政に対する理解と信頼を深め、もって開かれた県政を実現すること」という目的に反して、岐阜県民がいかにも愚かで、悪意に満ち、過ちを犯すと決めつけ、県民を敵対視する恣意的な処分を行ったものといわざるを得ない。
 もし、案と最終意志決定に齟齬があるとしても、それは事実として受け入れられものである。
 さらに「原告らの一部が陳情活動・・・」(被告準備書面(一)第二の二の2)にいたっては、特定の県民を陥れようという主張である。本件道路計画には、実際に、多くの人たち、多くの団体が計画案に疑問と不安を抱いていた(甲第一五号証)のであり、その現れが多数の意見書(甲第五号証)となっている。もちろん計画推進の意見書も多数提出されている。
 原審被告の主張を鵜呑みにした「確定したものとの印象をあたえる」「無用な混乱を招く」(四三頁三行目)という判断もまた、同様に本件条例の「住民参加の県政を実現するために県の公文書は原則公開する」という精神を無視している。

7 本件は既に意志決定が終了しており(二六頁)、本件請求は事後公表を求めるものであるから、文書の公開で、本件都市計画がどのように意志決定されたか、はたまた正しかったかどうかなどが県民の目にふれるだけであるから、意志形成自体に支障が生ずる事はあり得ない。

8 部会は都市計画審議会の下部機関であるから、右に引用した「都市計画事業は、民意の反映を目的の一つとする」という判示は、文書(四)部会にも適用されるべきものであるところ、原審は「協議会に関する資料を事後的に公開することは重要」(三九頁八行目)としながら、この判断を適用していない。
 環境影響評価専門部会設置要綱(甲第一六号証)第四条には「調査審議が終了した時には、部会長がその結果を審議会に報告する」とされている。実際、本件においても、右要綱に従って報告がなされ、審議会議事録に掲載されることでその全体が公開されている(甲第三号証二三頁)。
 また、毎回の部会の招集通知には、その都度の議題が明示されており(甲第一七号証の一〜五)、その審議内容は、議題や審議会議事録その他既公開の文書を総合的にみれば明らかとなるから、特別に秘密としておかなければ支障が生ずるという事情は何もない。
 例えば、議題に示される「御望山について」という具体的事案は、審議会議事録(甲第三号証一〇頁冒頭以降、二六頁一四〜二七行目)に表現されているし、「御望山調査報告書」は別途公にされている。

9 岐阜県土木部長は衛生環境部長に意見を問い(甲第一八号証の一)、衛生環境部長は土木部長に環境影響評価準備書に係る意見を回答し(甲第一八号証の二)、これらは公開されており、審議会議事録にも報告されている(甲第三号証一六頁一四行目〜一七頁八行目)。
 本件道路計画のルートの通過する三市九町の首長の意見も公開されている(甲第一九号証)。
審議会は答申において付帯意見(甲第二〇号証の一)をなし、知事は建設省にも環境影響評価資料とともにこの付帯意見を報告し(甲第二〇号証の二)、これらは公開されている。

10 支障が軽微なときは公開すべきであり、これは解釈運用基準にも明示されている(甲第一一号証の三)。本件文書の公開は、「著しい」支障があるとは考えられない。支障についても、著しいことについても、被告からの明確、具体的な立証もないままに、「著しい支障がある」と断じた判決は誤っている。

11 右第一に述べたとおり、誤って理由の追加主張を容認してなした判断はそもそも誤っている。

二 本件条例第六条一項八号(行政運営情報)該当性

1 七号の追加主張を前提に八号への判断を何らなさなかったのは、重大な違法、理由不備、審理不尽である。

2 原審は八号に関しても、「被告の見解の是非が問題となり、都市計画事業に影響を生ずることがあり得るとしても、それは都市計画決定手続きの公正な運営によって解決されるべきもの」(三六頁四行目、四〇頁一〇行目)との判断を適用すべきであった。

3 右一に述べたように、部会の調査審議報告、衛生環境部長の意見、地元首長の意見、審議会の意見等は公開されているのである。

4 本件文書が八号に該当しないことは、右第二の二の4に述べた「入札の予定価格」「氏名公開」等の公開によって支障が生じないのだから、右意見書の場合と同様である。
             以 上



《別表−1》  本件都市計画の流れと本件文書との関係


                           
     本   件   文   書
意見書 
 審議会
協議会 
    
  環境影響評価専門部会 
  準備書   評価書
94年 2月28日 
          
国によるルート原案の発表
  環境影響評価資料の県への提供





94年 3月24日  環境影響評価専門部会設置
   11月 7日  環境影響評価部会      第1回
   11月 8日〜 地元住民への各地での説明会開始
   11月21日  環境影響評価部会     第2回
96年 2月16日  環境影響評価部会     第3回
    3月12日 
       〜   
      26日 
知事原案の公告縦覧期間
事業計画案・環境影響評価準備書
意見書の提出期間    







これ以後公表


5月27日  都市計画審議会協議会                 第1回
6月21日  環境影響評価部会           第4回
7月 4日  都市計画審議会協議会                  第2回
7月12日  環境影響評価部会           第5回
7月29日  都市計画審議会協議会                  第3回
8月 6日  環境影響評価部会           第6回
8月 7日  都市計画審議会協議会                  第4回
8月20日  環境影響評価部会       第7回
8月23日  都市計画審議会     第126回
10月 4日
本件都市計画(変更)決定
事業計画・環境影響評価書




これ以後公表


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