訴 状
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
原 告 寺 町 知 正
他 九 名(目録の通り)
岐阜市薮田南二丁目一番地の一
被 告 岐阜県知事 梶 原 拓
東海環状道関連情報非公開処分取消請求事件
訴訟物の価格 金九五〇、〇〇〇円
貼用印紙額 金八、二〇〇円
予納郵券
金九、一五〇円
一〇四〇×(五) 五〇〇× 五
一〇〇× 五 八〇× 五
五〇× 五 四〇× 五
一〇×一〇
一九九九年三月二日
岐阜地方裁判所民事部御中
請 求 の 趣 旨
一 被告岐阜県知事梶原拓が原告に対して一九九八年一二月一日付でなした「『東海環状自動車道(西回りルート)に関する公開条例施行から現在までの計画策定に関する資料、国・市町との協議に関する文書、要望書等(都計審及び公告縦覧資料は除く)』のうち、別記に掲げるもの」(別紙の通り)の文書を公開しないとの処分決定(都計第四一二号の三)を取り消す。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決を求める。
請 求 の 原 因
第一 当事者
一 原告らは肩書地に居住する岐阜県民であり、本件各文書の公開請求を行った。
二 被告岐阜県知事梶原拓(以下、被告知事という)は、本件条例第二条第一項の実施機関である。
第二 非公開処分の存在
一 原告らは、一九九八年九月一七日付で「東海環状自動車道(西回りルート)に関する公開条例施行から現在までの計画策定に関する資料、国・市町との協議に関する文書、要望書等(都計審及び公告縦覧資料は除く)」(以下、請求文書という)についての公開請求を行った。
二 右請求に対し、被告知事は、一九九八年一二月一日付けで、左記の理由により、請求文書のうち「別記に掲げるもの」(以下、本件文書という)を非公開とする処分(都計第四一二号の三)(以下、本件処分という)を行った(甲第一号証)。
(別記) 【非公開】
○都市計画決定の公告縦覧に係る意見書
(公開をしない理由)
意見書は、都市計画法第一七条第二項の規定により関係市町村の住民及び利害関係人が都市計画にその意見を反映させるべく提出したものであり、第三者に公開されることは想定されていない。
非公開を前提にして、初めて自由な意見が担保されるものである。
意見書の提出は住民、利害関係人に認められ、極めて個人的性格の強い意見も含まれ、意見書を公開することは個人の信条、社会・経済活動等に影響を及ぼす可能性が大きい。
場合によっては、名誉毀損になる可能性がある。
(岐阜県情報公開条例第六条第一項第一号に該当)
意見書を開示することになれば、意見書を提出しようとする住民及び利害関係人に対し、提出者本人
の文書が公開される可能性があるといった心理的な圧力を与えることになり、将来の事務事業の公正か
つ円滑な執行に著しい支障が生じるおそれがある。
(岐阜県情報公開条例第六条第一項第八号に該当)
○第一二六回岐阜県都市計画地方審議会の協議事項に係る文書、資料
○岐阜県都市計画地方審議会協議会の協議事項に係る文書、資料
○岐阜県都市計画地方審議会東海環状自動車道(関市〜養老町)環境影響評価専門部会の協議事項に係る文書、資料
(公開をしない理由)
公開することにより、将来の同種の事務事業の公正かつ円滑な執行に著しい支障が生ずるおそれがあるため
(岐阜県情報公開条例第六条第一項第八号に該当)
三 しかし、本件文書は、被告が指摘する非公開事由各号に該当せず、本件処分は違法である。
第三 都計審の位置付けと本件事業手続きの概略
一 都市計画地方審議会は、都市計画の策定ないし変更に際し、適正手続きの保障の見地から設けられた法定の機関であり(都市計画法第一八条一項、二一条)単なる諮問機関にとどまらず、都道府県被告知事は、右審議会による承認の答申を得なければ、都市計画を決定し又は変更することができない。
また、審議会の手続きに関しては、都市計画法第一八条二項によれば、関係市町村の住民及び利害関係人から提出された意見書の要旨を都計審に提出することが義務付られている。
都市計画地方審議会設置の主旨は、「都市計画が都市の将来の姿を決定するものであり、かつ、土地に関する権利に相当な制約を加えるものであるから、各種行政機関と十分な調整を行い、相対立する住民の利害を調整し、さらに、利害関係人の権利、利益を保護することが必要で」あることから、「学識経験者、国の出先機関の長等からなる審議会の議を経ることが適当と考えられるためである」(建設省都市局都市計画課監修・第二次改訂版「逐条問答都市計画法の運用」二七七項)とされている。
広島地裁平成六年三月二九日判決《都市計画決定変更にかかる都市計画事業認可処分及び土地収用裁決等無効・取消請求事件》においては、「右審議会では、利害関係人などから提出された意見書等の要旨を勘案して審議がなされるのであるから(都市計画法第一七条二項、一八条二項、二一条二項)、都市計画審議会は、利害関係人等の権利・利益の保護を目的とする重要な機関である。そうすると、審議会の議を経ていても、右審議会に当然提出されるべき重要な資料が提出されず、また重要な事実につき、誤った前提の下に審議がなされるなど審議が尽くされていない場合には、当該都市計画の決定又は変更には、第一八条二項又は二一条二項の規定に違背する違法が存するというべきである」と判示している。
浦和地裁昭五八(行ウ)第一八号、五九・六・一一判決《行政情報非公開決定処分取消請求事件》は「都市計画地方審議会の権限とされる事項については、関係者の激しい利害の対立、錯綜が予想され、そのことが地方自治体の行政意志形成の過程に審議会の議を経るものとした理由の一つであり、審議会の議事を住民意志に根ざしたものとするには、かかる意志形成の過程における情報の公開が不可欠であって、また、一面地方自治体の行政が陥りがちな腐敗、事大・形式主義や技術専門的事項であるための住民意思からの離反などの諸弊害に対する有効な対応手段ともいえる」と判示している。
二 被告知事は一九九六年三月一二日〜二六日、東海環状自動車道・西回りルートの都市計画決定の手続きの一環として、ルート案及び環境影響評価準備書を公告縦覧に供した。さらに、被告知事は都市計画決定権者としての処置方針を付して同年八月二三日開催の第一二六回岐阜県都市計画地方審議会に道路の被告知事案を諮問し、この際、縦覧期間中に寄せらた意見書の要旨も提出した。
これを受けて、審議会は同日「・・・別紙の意見を付して、原案を適当と認める」との答申をなした。なお、審議会は、被告知事の諮問に先立って四回の審議会協議会を開催、道路計画について協議したとされている。また、環境影響評価部会は、九四年三月に都市計画地方審議会の専門部会として設置され、本件道路計画の環境影響評価手続きに関しての協議を進めた。そして、環境影響評価準備書及び環境影響評価書の成案をした。
第四 本件条例の主旨、目的、適用除外等
一 本件条例の主旨、目的
本件条例第一条は、条例制定の目的を「県民の県政への参加を促し、県政に対する理解と信頼を深め、もって開かれた県政を実現すること」と規定している。本件条例は、県政の実情などに対する県民の理解を深め、県政に対する県民の信頼を高めるために制定されたものである。
二 非公開事由の判断基準
一般的に情報公開条例が、過去において、行政機関の保有する文書が、行政庁側の種々の名目のもとに、ややもすれば恣意的、濫用的に秘密扱いにされ、住民の知る権利を妨げ、ひいては地方自治の健全な発展を阻害する面のあったことに鑑み、それらの弊害を除去する点をも考慮に入れて制定されたことは公知の事実である。
そのようにして制定された情報公開条例の非公開事由該当性(適用除外事由)を、専ら行政機関の側の利便等を基準・根拠に、その主観的判断に基づいて決するとすれば、その範囲が不当に拡大する危険性があり、情報公開制度の実質的意味が失われることにもなりかねない。
本件条例は、情報を公開することこそが県民の県政への参加を促し、県政に対する理解と信頼を深めるという考え方にたって制定されたからこそ(第一条)、「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする」と規定したのである(第三条前段)。
第五 本件非公開処分の違法性
以下、各文書毎に違法性を述べる。
一 都市計画決定の公告縦覧に係る意見書について
右文書は、公告縦覧に係る住民や利害関係人等からの意見書である。
1 本件条例第六条第一項第一号への非該当性
(一) 第一号は、憲法第一三条が保障する個人のプライバシーの権利、すなわち私生活をみだりに公開されない権利の保護を目的とするものであるから、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であっても、その公開によって、個人のプライバシーの権利の侵害が生じない場合は、公開義務は免除されない。
(二) 意見書の記述内容と、住所・氏名等の個人情報は、当然に峻別して判断すべきであり、意見書全体を一括して一号該当として非公開決定としたのは、明らかに違法である。
(三) さらに、住所・氏名等の個人情報が記された文書であっても、個々の意見書毎に、右述べたプライバシーの権利の侵害の有無、程度を検討することなく一括して一号該当として非公開決定された本件処分は明らかに違法である。
(四) 意見書の要旨等は公開されている。
(五) 同号は、特定個人が識別されるものについても、なお「ニ 法令等の規定に基づく許可、免許、届出等に際して実施機関が作成し、又は取得した情報であって、公開することが公益上必要であると認められるもの」は除外している。意見書は、東海環状自動車道の計画決定のために、都市計画法の法定手続の一連として提出されたものであって、その意見の中身等は計画決定に影響を与え得るものであり、提出された時点において既に私的文書の範疇を越えている。本件文書の公開は、個人情報識別の問題より公益上の必要性が優先される。
(六) また、第四号は事業活動事業を除外規定しているが「イ 事業活動によって生じ、又は生ずるおそれがある危害から人の生命、身体又は健康を保護するために、公開することが必要であると認められる情報」として公開すべき例外を定めている。本件道路計画は、高架型の四車線国道であって事業の影響の多様性、広範性からして、公共の事業であるとはいえ、第四号の主旨は同様に尊重されるべきことは言うまでもない。
(七) 都市計画において、公告縦覧制度を定め、さらに期間中に「意見書の提出」を認めた制度の主旨からして、公告縦覧期間中に、住民や利害関係人がどのような意見が他の住民らから出されたのかを知ることは、自らの意見を述べるに当たっても重要なことというべきである。
公告縦覧期間中においても、公開されたからといって、何ら制度の主旨に反しない。というより、積極的に公開が認められてしかるべきである。
2 本件条例第六条第一項第八号への非該当性
(一) 単に実施機関の主観において「著しい支障が生ずるおそれがある」としているだけで、本件においてはそのような危険が具体的に存在することはあり得ない。主観的な判断が許容されるなら、適用除外事項が、明確かつ限定的、必要最小限のものとしては運用されず、本号が非開示とする情報の範囲を違法に広げることになるだけである。
(二) 本号にいう「将来の事務事業」等についても、何ら特定性がなく、条例の拡大解釈によって、漠然とした抽象的理由で非開示としたものである。
(三) そもそも、意見書に関する事務が第八号の「監査」以下の各種の事務に該当しないにもかかわらず、本件処分は誤って、本号を適用している。本件条例と概ね同様の適用除外を定めた条例を根拠とした非公開決定処分について争われた宇都宮地裁平二(行ウ)九号《公文書開示決定処分取消請求事件、平成六・五・二五》では、「本件情報は・・補助金交付事務が六条五号の挙げる『検査』以下の各種の事務に該当しないことは明らかである」と判示している。
二 第一二六回岐阜県都市計画地方審議会の協議事項に係る文書、資料について
右文書は、審議会協議会に提出された都市計画決定権者としての「意見書(の要旨)に対する知事の見解(処置方針)」である。
以下に、本件条例第六条第一項第八号への非該当性について述べる。
1 本件東海環状自動車道(西回りルート)は既に、都市計画決定がなされている。都市計画決定権者としての知事の見解や処置方針は、自ら提案した計画を是とする立場、観点から作成、表明されることは当然であって、仮に、文言上の表現の整理途中の文書であるとしても、最終的な「見解」に限りなく近く、これらが公開されても、具体的、客観的に支障が生ずるおそれはない。
2 審議会の議案書や議事録などや「審議会の別紙・意見」などは既に公開にされている。知事の見解(処置方針)だけを非公開とすべき理由はない。
3 「環境影響評価書の第一〇章には、意見書の要旨、都市計画決定権者の見解を載せ、環境影響評価書の修正個所を参考資料の四五〜四八ページに載せている」(九六年八月二三日開催第一二六回岐阜県都市計画地方審議会議事録一八頁)とされている。右記の「参考資料」も公開されている。 また、知事の見解(処置方針)は審議会で朗読、説明されたことで、「都市計画地方審議会の議事録」の中にも実質的に記載されて情報が開示されており、あらたに見解(処置方針)の文書が公開されても、何ら支障はない。
4 その他、右述べた意見書に関する第八号への非該当性の理由(一)乃至(三)と同様である。
三 審議会協議会の協議事項に係る文書、資料について
右文書は、協議会に提出された都市計画決定権者としての「意見書(の要旨)に対する知事の見解(処置方針)」である。
本件条例第六条第一項第八号への非該当性に関して、審議会での最終結論に至る経過段階としての協議会の文書が公開されても何ら支障がないのは、右審議会の場合の理由と同様である。
四 環境影響評価専門部会の協議事項に係る文書、資料について
右文書は、順次、環境影響評価部会の調査・審議にかかって少しずつ修正されたところの「環境影響評価準備書の成案前のもの」及び「環境影響評価書の成案前のもの」である。
以下、本件条例第六条第一項第八号への非該当性について述べる。
1 「準備書としての成案」とするための環境影響評価部会での協議と同時進行で、住民への説明会が、各地で何度も開催され(九四年一一月以降)ており、環境影響評価のデータ、経過の、その概略は公表され、行政関係者だけでなく、議会や住民に何度も説明されている。その後、実質的には、文言上の表現の整理などがなされた程度で、「環境影響評価準備書」として公告縦覧に供されている(九六年三月)。そして、同年八月には、わずかの文言等の修正だけをして「環境影響評価書」として公表されている。
以上、実質的に、「成案前のもの」も「成案」もほぼ同様であって、これらが公開されたからとて、支障は生じない。特に計画決定手続きが全て終了した現時点において公開しても、具体的、客観的に「支障が生ずるおそれ」は全くない。
2 その他、環境影響評価部会関連の文書が公開されても何ら支障がないのは、右審議会及び協議会の場合の理由と同様である。
五 以上、本件各文書を公開しないとの処分は理由がなく違法であるので、取消されるべきである。
第六 結び
都市計画審議会は、諮問された案と付属文書類を前提にした審議を経て知事への答申を決定するのであるから、これら公文書が公開されることで、県民の県政への理解と信頼が高まることは明らかである。本件情報が公開されることは、本件条例の解釈、運用として正当なものである。
以 上
証 拠 方 法
甲第一号証 処分決定通知書。本件請求に係る公開請求者、処分番号、非公開理由等が記されている。
その他、口頭弁論において、随時、追加提出する。
一九九九年三月二日
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
右 原 告
寺 町 知 正 外九名
岐阜地方裁判所民事部御中
当事者目録
岐阜市御望九五六番地の十四
原 告 別 処 雅 樹
岐阜県加茂郡八百津町伊岐志津一四〇五番地の一
原 告 白 木 康 憲
岐阜県養老郡上石津町上鍛冶屋九七の一
原 告 三 輪 唯 夫
岐阜県美濃市大矢田一四三四番地
原 告 後 藤 兆 平
岐阜県加茂郡八百津町潮見四〇七
原 告 宮 澤 杉 郎
岐阜県揖斐郡谷汲村岐礼一〇四八の一
原 告 山 本 好 行
岐阜県恵那郡坂下町坂下二三八四番地の十六
原 告 原 昌 男
岐阜県可児郡御嵩町上恵土一二三〇の一
原 告 小 栗 均
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
原 告 寺 町
緑
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
原 告 寺 町 知 正
以 上
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