訴   状

      原  告    寺  町  知  正  
              外九名 (目録の通り)

     被  告    梶  原  拓
          岐阜市御手洗
      被  告    坂  井  昭
       各務原市那加新加納町二六三七の二
 

 県議会非会議日支給旅費返還請求事件

     訴訟物の価格   金九五〇、〇〇〇円
     貼用印紙額      金八、二〇〇円
     予納郵券      金一一、二三〇円
  一〇四〇×(五+二)  五〇〇×五 一〇〇×五
  八〇×五  五〇×五  四〇×五  一〇×一〇

二〇〇〇年七月一七日
岐阜地方裁判所民事部御中

   請 求の趣旨

一 被告梶原拓、被告坂井昭は、岐阜県に対し、連帯して、金一五〇〇万円及びそれに対する本訴訟送達の日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
  との判決、ならびに第一項につき仮執行宣言を求める。

    請求の原因

第一 当事者

一 原告は肩書地に居住する住民である。

二 被告梶原拓は一九八九年施行の岐阜県知事選挙において当選し、九三年、九七年と再選され、以降 もその職にあるものである。

三 被告坂井昭は、九九年度岐阜県議会事務局次長兼総務課長の職にあった。

第二  本件住民訴訟の意義

 税金である自治体の公費の使い道に対する世論は厳しく、近年、各地で不適正な支出があらわにされるにつけ、住民、納税者の批判は一層強まっている。
 岐阜県では、県議会関連の懇談会や視察に関する支出についての九七年以来住民監査請求が何度かなされ、九八年七月二一日には、住民訴訟が提起された。そして、議会側も懇談会の中止や視察の改善など行った。
 一方、同じ訴訟で、議会会期中の正規会議(本会議及び委員会)がない日の議員の登庁行為に対する費用弁償が違法支出であることも争点となっているものの、これは一切改められていない。その後の九八、九九年の二年間の支出額は約三〇〇〇万円の巨額になる。
 議員は、正規の会議(本会議・委員会/年間で約三〇日程度)への出席以外に、議員個人の様々な活動、所要のために会期の内外にかかわらず議事堂に赴くものである。実際、会期中に個別の政治活動、政党活動等を行う者も少なくなく、議会会期中に記者会見や政党の会議を議事堂で行うことすら日常である。これらを何らの区別なしに、届け出さえあれば一律に議員の公務・職務とみなす、という岐阜県議会の習慣は許されない。
 そして、これら議員の多面的な活動に対して年間一人当たり一八五〇万円余の報酬と調査費が支給・交付され、約三五〇万円平均の旅費が支給されている(本件を除く)。
 加えて、市町村議会の範となるべき立場の県議会が自ら、自治体行政における憲法といわれる地方自治法を全く無視しているところの本件事案は一層看過しがたい。
 そこで、本来的かつ健全な行政と議会の在り方の実現を願って本件住民訴訟を提起する。

第三  県議会の予算及び旅費等
一 県議会の予算
 岐阜県議会は、九九年度当初予算書及び説明書に示されるように、議会費一二億一二八五万六〇〇〇円のうち、議員報酬八億三三二六万円(一人当たり約一四五〇万円)の外、別途に議員活動費二億五三二二万七〇〇〇円を計上している。議員活動費の内訳は県政調査交付金約二億円(一人当たり約四〇〇万円)、その他は議員応招旅費五一九一万円である。また、委員会費三五九〇万九〇〇〇円が計上され、この内容は県政調査旅費である。また、別に、海外事情調査費として、二七六〇万一〇〇〇円(四年の任期中に全議員が一回行くように組まれる)もある(甲第二、三号証)。
 そして岐阜県議会は、議会会期中の正規の会議(本会議・委員会)のない日にも、ただ議会棟に登庁し、「議会事務局へ一枚の届出書を出す」だけで、会議へ出席したのと同じように費用弁償をしてきた。
  その額は、例年一五〇〇万円前後である。

二 旅費・費用弁償の支給について
 正規に議会から付託を受けた事件について、各議員(当該委員)が県内外視察に出席するために自宅からの登庁及び自宅への退庁行為に対しては、岐阜県議会議員の報酬、費用弁償に関する条例(以下、費用弁償条例という・甲第四号証)第四条一項「議長、副議長及び議員がその職務を行うのに要する費用弁償の額は、岐阜県職員等旅費条例(以下、旅費条例という・甲第五号証)に定める知事職にある者の例による」との定めによって、距離に応じて「交通費実費」(普通旅費)が支給される。その後の実際の視察旅行に対しては、知事と同額の日当及び宿泊料が支給される。この日当には「昼食代等」が含まれ、宿泊料は「一泊二食代」を意味する。
 これに対して、本件争点であるところの、本会議や委員会に出席するために県議会棟まで登庁する行為に対しては、費用弁償条例第四条二項「前項の規定にかかわらず、議長、副議長及び議員が議会又は委員会の招集に応じた場合の費用弁償の額は、別表のとおりとする」によって議会費より旅費が支給され(これを応招旅費という)、その支給額は居住地に応じて県内を七ブロックに分けて、定めている(甲第四号証)。

第四  本件費用弁償の違法性

一 地方自治法第二〇三条及び費用弁償条例第四条二項違反
 1 議会(本会議)は地方自治法(以下、法という)第一〇二条の規定により定例会及び臨時会の会期中のみ開催することができ、第一〇九条等によって委員会も原則的に会期中のみ活動能力を有している。また法第九八、一〇〇条によって議員個人ではなく、議会にのみ調査権が与えられている。
  議員は「職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる」(法第二〇三条三項)が、この場合は「条例で定める」(同五項)とされている。このように費用弁償は「職務の執行に要した経費を償うために支給される金銭給付」であるところ、法第二〇三条三項に規定する議員の職務とは、後述するように、@「本会議」及びA「委員会」への出席のみであり、これを逸脱して規定する条例は違法となる。
   議員への費用弁償は、法第二〇三条三項、五項を満たす支出のみが法律上の根拠を有する。

 2 しかし、被告らは、「費用弁償条例第四条二項の応招とは会期中のすべての日を指す」との解釈をし、B「会期中で正規の会議はなくとも、議員が登庁報告届を提出した日」、正規の会議へ出席したのと同じように費用弁償をしてきた。
 
3 もし、被告らの解釈のように、執務の内容を問わずに「登庁したこと、即ち、公務・職務」とするなら、C「議員が登庁しながら、登庁報告届を提出していない日」及びD「休日(土日)に登庁した場合」にも支給しなければ、条例解釈としての整合性がない。
  しかし、被告らはCDの場合には費用弁償していないのである。

4 また、「議案の調査等も職務であるから費用弁償をする」との被告らの条例解釈(監査委員も認定・甲第一号証)に立つなら、「議員が会期中に、議会に関する調査等の職務を行った場合は、登庁の有無にかかわらず、費用弁償すべきこと」が被告らの採るべき方法のはずである。
  議員は自宅や県庁外にあっても議案の調査や検討をするのが通常であるから、E「会期中の議員が登庁していない日」も支給して、「会期中の全の日」に支給しなければ、「議案の調査等も職務であるから費用弁償をする」との被告らの条例解釈としての整合性がないことになる。

 5 一方、「応招とは会期中すべてを指す」との被告らの条例解釈なら、法第一〇一条一項「議会は、普通地方公共団体の長がこれを招集する」とされているとおり、明らかに招集行為は一会期につき一回であるから、「招集に応ずること」は一会期につき一回だけであり、費用弁償も一回と見るべきことである、との帰結も正当なものということになる。

 6 支出に関する規定が複数の解釈を許容することはあり得ないにもかわらず、もし、被告らのような解釈が可能であるなら、右に示した解釈も可能となってしまう。他方、本会議及び委員会の出席だけが職務であるとするなら、複数の解釈の余地はないのである。
   これは結局、本件に関して、被告らが地方自治法等を無視したまま解釈しているからである。

二、地方自治法第二条一三項及び地方財政法第四条違反
 1 《平成七年(行ウ)第五一号損害賠償請求事件・平成九年四月二五日・東京地裁判決》は、「普通地方公共団体は、その事務を処理するめたに必要な経費を支弁するものであるから(地方自治法)必要な経費と解することができない場合、当該支出は違法というべきである。また、普通地方公共団体の事務を処理するに当たっては、最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(法第二条一三項)、経費はその達成するために必要且つ最小の限度をこえて支出してはならない(地方財政法第四条一項)から、普通地方公共団体の事務処理経費に該当する場合であっても、右規定に抵触する各個の支出は違法と評価され得るものというべきである。・・・したがって、具体的な支出が当該事務の目的、効果との均衡を欠いているときは不当の評価に止まるものであるとしても、具体的な支出が当該事務の目的、効果と関連せず、又は社会的通念に照らして目的、効果との均衡を著しく欠き、予算の執行権限を有する財務会計職員に与えられた裁量を逸脱してされたものと認められるときは、違法というべきである。」と判示した。

 2 地方財政法第四条一項は個々の経費の支出目的達成のための必要かつ最小の限度をこえて支出してはならないとするもので、このことは執行機関に課された当然の義務であり、法第二条一三項の「最小経費による最大効果」の原則を、予算執行の立場から表現したものである(石原信雄・地方財政法逐条解説)。従って、「必要かつ最小の限度」をこえてされた支出は、地方財政法第四条一項に違反することになり、このような違法な支出をした執行機関は地方公共団体に対する損害賠償義務を負うことになる。そして、その違法性の判断基準となる「必要かつ最小の限度」については、個々の経費について個別具体的に判定されるべきであって、その判定は、広く社会的、政策的ないし経済的見地から総合的になすべきである(石原・前掲)。

 3 《平成一年(行コ)第二四号・損害賠償請求控訴事件・名古屋高等裁判所判決》は、「地方財政法四条一項は、予算執行機関に法的義務を課したものと解するのが相当である」と判示している。

三 以上、議会の会期中の会議のない日にも費用弁償を行うことは、法律上の根拠のない行為に対する支出として、法第二〇三条三項及び五項並びに費用弁償条例第四条二項に違反し、社会通念上決して許されるものではなく、公序良俗や信義則にも反し、法第二条一三項並びに地方財政法第四条一項にも違反する。

第五  議員の職務とその費用弁償について

一1 法第一〇五条「議長は、委員会に出席し、発言することができる」とされている。これに関する行政実例(昭和二七・一二・二六 自行行発第一九三号鹿児島県総務部長宛行政課長回答)では 
 「問 議長又は副議長が委員会に出席したとき、費用弁償の支給を受けることができるか。

  答 議長又は副議長(議長の職務を行う場合に限る)が法第一〇五条の規定により、委員会に出席したときは、支給すべきである。

  問 議員が議会の付議又は議長の命なくして調査旅行したとき、費用弁償の支給を受けることができるか。

  答 これを支給すべきではない。
 
 問 議員が議会の付議又は議長の命なくして、委員長の命で調査旅行したとき、費用弁償の支給を受けることができるか。
  答 これを支給すべきではない。」

 2 行政実例
 「問 議員の報酬及び費用弁償等に関する条例に「議員(議長、副議長、委員長及び副委員長を含む)が招集に応じ若しくは委員会に出席するため旅行したとき又は公務のため旅行したときは、その旅行について費用弁償として旅費を支給する」旨の規定があるとき、左記いずれの場合も議会等への出席の事実がなくても職務執行に要した経費の支出があったものとして、議員に対して費用弁償を支給すべきか。
   
一 参集して応招の通知があったがその後に、自己の都合により会議に出席しなかったとき。

 二 応招の通知があり、開議されることなく流会となったとき。

 三 委員長の会議通知により正規の委員会に出席するため控室等で待機し、その事実が確認されたとき。
 
 答 自治法第二〇三条によれば、普通地方公共団体は、その議会の議員等非常勤の職員に対し、職務を行うために要する費用の弁償を支給しなければならない義務を負い、当該費用の支給方法につき条例で定めなければならない旨規定されている。
  設問においては、自治法第二〇三条第五項の規定に基づく条例により「議員(議長、・・・・・・を含む。)が招集に応じ若しくは委員会に出席するため旅行したとき又は・・・・・・ときは、その旅行について費用弁償として旅費を支給する」と規定しているところである。
  問一の場合は、長の招集告示に応じて、議員が指定された招集場所へ参集するため旅行したわけで、このことは条例上の「招集に応じ、・・・・・・旅行したとき」という要件に該当するものと考えられる。
  したがって、開会当日参集し、会議規則所定の手続をなしたときはその後会議に自己の都合により欠席したとしても、それは旅行の事実とは別個の行為であり、またこのような場合費用弁償はしない旨の規定がない(設問からだけでは不明であるが)以上、招集日における費用弁償そのものはこれを行う必要がある。
  問二の場合においても、問一の場合と同様、旅行の事実が、正当な招集行為に基づくものであれば、その後の事実を問わず、費用弁償をすべきだと考える。
  問三の場合においても、委員会が議会として活動能力を有している場合、すなわち議会が開会中又は閉会中であっても継続審査の議決がなされている場合は、一、二の場合と同じく、正当な招集権者(多くは当該委員長)の招集に基づき、指定された場所への旅行の事実をもって、「委員会に出席するため旅行したとき・・・・・・」に該当し、後発の事実を問わず、費用弁償すべきだと考えられる。
   以上、まとめると、招集に応じて指定された場所へ旅行したことに対して、費用弁償はなされるのであり、その後の事実によっては影響されないものである。」

 3 行政実例(昭五七年)は、
  「問 議会において常任又は特別委員会のいずれでもない委員会を設置し、その委員会に出席した議員に対して費用弁償を支給することができるか

   答 議会に置き得る委員会は、法一〇九条の規定による常任委員会と第一一〇条の規定による特別委員会に限られるものと解すべく、したがって、できないと解する。」

二 右のように、正規の委員会への当該委員の出席など、法定の根拠ある活動だけが費用弁償の対象となり得るものである。よって、会期中、副議長が正規の委員会に出席しても、「法定の議長の職務を行う場合」でない限りは公務性は認められず、これに対する費用弁償は許されないから、同様にして、正規の委員会を当該委員でない他の議員が傍聴する行為に対して費用弁償ができないのは当然である。
 また、議案精読や調査は県庁外で行うことが必要な場合もあるし、自宅で行うこともあり、また会議や打ち合わせは、どこでもなし得るのであり、これらを議事堂や県庁で行うことは議員の任意の行為であって、敢えて特別に公費で費用弁償すべき法的根拠はない。
 別途報酬や調査費等があることを考慮すればなおさらである。

三 以上から、岐阜県議会における費用弁償条例第四条二項による支出が可能である職務は、「長の招集に基づき会議が成立し、会期が決定された場合の当該会期中の本会議に出席した場合」「会期中の委員長の招集(岐阜県議会委員会条例第八条一項「委員会は、委員長が招集する」)に応じ指定場所に赴いた場合」だけである(無論、閉会中の審査議決を得た委員会は別途あり得る)。

四1 秋田地裁は、九八年七月二七日、秋田県議会議員である被告に対し、被告が、実際には委員会会議の前日に宿泊していないにもかかわらず、宿泊したものとして支給を受けた旅費・日当について、不必要であり、かつ、法令に違反する公金の支出を受けたものであるとして、返還を命じた。
 争点に対する裁判所の判断の要旨は、


 「本条例(県議会議員の報酬及び費用弁償等に関する条例)四条三項本文においては、県議会議員が、召集に応じて議会又は委員会に出席したときの旅費の額につき、一日あたりの日当を三〇〇〇円、一夜当たりの宿泊料を一万三三〇〇円と定めるが、しかし、本条例中には、旅費計算上の旅行日数に関する規定はなく、本条例五条において、費用弁償に関して本条例四条に定めるもののほかは、一般職員の旅費の支給方法の例によると定められている。そして、職員旅費条例八条一項本文におては、旅費計算上の旅行日数については、旅行のために現に要した日数によるとされているのであるから、県議会議員の右旅費についても、旅行のために現に要した日数を超える日数に基づいて旅費・日当を支給することは許されていないものと言わざるを得ない。
 以上によれば、県議会議員が委員会に出席するために旅行した場合に、当該委員会開催日の前日に旅行及び宿泊をした事実がないにもかかわらず、その前日分の旅費及び日当を支給した本件支出は、本条例五条、職員旅費条例八条一項本文に反するといわざるを得ないのであって、これに反する被告の主張は採用できない。」

というものである。

2 名古屋地裁は九八年一〇月三〇日、名古屋市議会の部会制度における活動への費用弁償を違法と関係者に返還を命令した。議員の任意活動への報酬や費用弁償はできない、としたものである。
  そして、議員らは、控訴審開始後に自主的に返還した。

 3 以上、議員が本会議等に出席するために旅行した場合であっても、条例や規則に基づかず、かつ合理的必要性のない旅行及び宿泊に対しては、費用弁償の他いかなる給付も許されない。

第六 公務災害と認定できる公務とは

一 被告らは、会期中の会議のない日に登庁し議案調査等を行うことは議員の職務であるからこれに対する費用弁償は正当であるとしているから、議員の職務、すなわち「公の仕事」といえる場合を確定するために、公務災害と認定できる場合を明らかにする。議員の行為が公務もしくは直接公務に関係なければ公務災害補償はなし得ないからである。
 地方議会の公務上の災害補償制度は、議員の職責及び活動の実態から、地方公務員の統一的補償制度の実施と機を同じくして実施された。そして、地方公務員災害補償法第六九条によって、議員を含む非常勤の職員の災害補償制度を定めることが地方公共団体に義務づけられ、一般職との均衡も要求されている。国は準則を示し、岐阜県も全く準則のとおりに「岐阜県議会の議員その他非常勤の職員の公務災害補償等に関する条例」を定めた。災害補償という制度の性質上、公務災害の認定において、岐阜県のみ、あるいは一部の地方公共団体のみの独自の見解をとることは許されていない(甲第六、七号証)。

二 《議員の公務上の災害の取り扱いについて》自治省行政局公務員部長通知(昭四三・五・六・自治給第五一号)(甲第八号証)は、「公務とは議員が議員としての職務を遂行する行為」であり、「公務上の災害とは、公務に起因、又は公務と相当因果関係をもって発生したもの」で、「会期中の議会活動に従事中」「閉会中、正規の手続きを経て開かれた委員会」を公務災害の認定の前提事実として明確に位置付けている。さらに、右通知は「議会の議員の議会への出席義務は公権力が作用しかつ費用弁償の対象とされている法制的関係から、特定のときのみでなく、一般に、議会の議員の議会への出席途上の災害は公務上と認めて差し支えないか」の問いに対して、これを「公務上の災害とは認められない」としている。「会期中の議会活動(に従事中)」とは、続語が「閉会中、正規の手続きを経て開かれた委員会」として法定の委員会を指していることからも、本会議及び正規の委員会の会議への出席を指すことは明らかである。同様に、右の「出席義務」がある場合とは、本会議及び正規の委員会以外にあり得ない。

 《議会議員の出張中における災害の取り扱いについて》自治省行政局公務員部給与課長回答 (昭四四・三・二〇・自治給第二二号)(甲第九号証)は、「議長の命令による一般的行政視察出張中の事故を公務災害の対象とできないこと」を明らかにしている。この回答の後段のなお書きの意味は、会期中の委員会活動における出張は公務であり得ることを、あえて丁寧に示したものである。

三 右自治省通知の元になった全国町村議会議長会は、公務災害補償を解説し、その趣旨は右同様であり、一般的な定例会、臨時会、委員会などへの出席の場合の『往復の道中』については公務災害ではなく、通勤災害(補償)である、としている(甲第七号証)。

四 一般職の災害補償は全国を一本化した地方公務員災害補償基金から支払われるが、非常勤職員は右のように地方公共団体の独自に定めた条例によって当該地方公共団体が支払うことが基本である。この際、右基金との整合が必要であることから、地方公務員災害補償基金愛知県支部は「公務災害質疑応答集」を、従来より作成配布している(九九年三月版・甲第一〇号証)。ここに示されることは、災害補償制度として公平公正を求められるものであることから、当然、全国共通の原則である。
 この質疑応答のE項は、議員の公務遂行性は「会期中の本会議、委員会」「正規の委員会としての出張」等にあると、明確に位置付けている。ここにいう、「議会代表として」は、議長としてもしくは議長の代理としての意味である。

五 以上明らかなように、会期中の本会議・委員会の会議以外の議員活動も、閉会中の審査の議決を正しく経ていない委員会(任意の委員会。通常は「協議会」という)活動も、議員総会や全員協議会等の活動も、公務とは認定されないのである。「公務災害と認定できる場合」は、公務の場への途上・道中も対象とするという意味で、厳密にみると「公務と認定できる場合」よりも広い概念であるが、逆に、公務災害を認定できない前提事実の中に公務性を見いだすことは不可能である。
 「会期中の会議日でない日の議員の登庁」が公務と認定できないことは明らかであるから、これに対する費用弁償は、職務に要する経費を償う金銭給付とは言えず、法第二〇三条三項に違反している。

六 もし、被告らの主張のように費用弁償条例が会期中の正規の会議のない日、即ち公務・職務でない行為にまで適用可能と解釈できる規定であるとするなら、費用弁償条例自体が法第二〇三条三項等に違反しているのである。

第七 県議会議員の公職選挙法違反

一 地方公共団体は、条例や規則等に定められた旅費や報酬・費用弁償等を支給する義務を負うから、被告らの「費用弁償条例第四条二項の応招とは会期中すべてを指す」との解釈が正しいとするなら、第四で述べたCDの場合に費用弁償を支出していないのは、論理的には「議員が報酬や費用弁償の受領を拒否している」との解釈しか成り立たない。議員が旅費請求権を放棄していることになるのである。 
よって、本件費用弁償の支給態様にしたがい、登庁したにもかかわらず届けを出さないことで費用弁償を受けていない議員は、公職選挙法第一九九条の二の規定《公職の候補者等の寄附の禁止》の第一項「公職の候補者又は公職の候補者となろうとする者(公職にある者を含む。)は、当該選挙区内にある者に対し、いかなる名義をもってするを問わず、寄附をしてはならない。」に違反するものである。
 これに違反した場合、公職選挙法第二四九条の二第一項で「一年以下の禁錮又は一〇万円以下の罰金」とされている。

二 議員の請求権放棄についての行政実例において「市長や市議会議員が、支給された給与のうち一定部分を返還すること、また具体的に生ずる給与請求権の一定部分をあらかじめ放棄することは、いずれも寄附に該当する。したがって、給与の返上又は辞退の問題の処理については、その行為が直ちに社会的公正に反するものとは言い切れない場合もあろうが、そのような場合においても、条例を改正し、給与の暫定的な減額措置をとる事が相当である」(昭五〇、一一、二〇)、「市長が自己の財産を @当該市 A当該市を包括する県 B国に対し寄附することは、いずれも公職選挙法第一九九条の二に違反する」(昭五〇、一一、二〇)とされている。

三 議員報酬の受領拒否について、明確な解釈がなされている(「議会運営質疑応答集」全国町村議会議長会監修・第一法規発行)。
 
「問 本町では、議員報酬・費用弁償について議会事務局長が各議員から一括受領の委任を受け、議員名義の口座に振込むことになっているが、諸種の事情により議員が報酬の受領を拒否した場合、どのように取り扱うべきかご教示下さい。
  
 1 公職選挙法第一九九条の二の規定による寄付の禁止にあたるか。もし、あたるとすれば、報酬条例の改正により減額措置をとらなければならないと思うが、特定の議員だけが受領を拒否した場合、条例の改正はどうすべきか。
 2 予算経理方法について
   報酬条例改正前に受領拒否した場合に、経理方法としては、歳入(雑入)として取扱うべきか、当該支出科目(報酬)の戻入とすべきか。
 
 結論 1の議員報酬の受領拒否については、公職選挙法第一九九条の二の規定に抵触するものと考える。 なお、報酬条例は議員全員を一体不可分として適用するもので、一部議員を対象とする改正ではない。
    2 1により承認されたいが、受けとらない以上供託するより方法がない。」

四 以上、「応招とは会期中すべてを指し、費用弁償が可能」との岐阜県議会の解釈が正しいとするなら、請求権を有する議員が費用弁償の一部を受領していないことは、議員自ら公職選挙法に違反しているものである。

第八 本件財務会計行為に関する返還責任

 被告梶原拓は知事として、被告坂井昭は県議会事務局次長兼総務課長として、本件支出の権限と責任を有する。しかも、九七年には岐阜県監査委員に対する監査請求、岐阜地裁への住民訴訟が起こされているところ、何ら改善する事なく九八、九九年と費用弁償を続けた。本件違法な財務会計行為に関する被告らの故意、過失責任は極めて重大である。よって、原告は、地方自治法第二四二条の二第一項四号に基づき、岐阜県に代位して、被告両名に対して、本件違法支出によって岐阜県が損害を受けた全額である金一五〇〇万円の賠償を請求する。

第九 監査請求前置

 原告は二〇〇〇年四月一七日付けで本件費用弁償に関する支出について、岐阜県監査委員に監査請求を行い、監査委員は六月一六日、「平成一〇年七月一三日付け告示八号に示した同一の理由により、違法・不当な支出とは認められない」とした(甲第一号証)。
 右告示の要点は「議会会期中の休会日であっても、会期中は議会が活動能力を有する期間であり、その期間中に議員がその職務として登庁し、議案調査等を行った場合は費用弁償の対象となる正規の議会活動と解する。」というものである(甲第一号証添付文書)。

            以 上

 《証 拠 方 法》
 添付書証の外、口頭弁論において、随時、追加提出する。

   岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八の一
      右  原  告     寺  町  知  正
                    外 九 名

岐阜地方裁判所民事部御中

二〇〇〇年七月一七日

当事者目録《原告》

 岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八の一
     原  告     寺  町  知  正  
  岐阜県養老郡上石津町上鍛冶屋九七の一
     原  告 三  輪  唯  夫   
 岐阜県加茂郡八百津町伊岐津志一四〇五
     原  告     白  木  康  憲
岐阜県揖斐郡谷汲村岐礼一〇四八の一
      原  告 山  本  好  行
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八の一
    原  告     寺  町    緑  
岐阜県美濃市大矢田一四三四
    原  告     後  藤  兆  平
岐阜市御望九五六の一四
   原  告     別  処  雅  樹   
岐阜県不破郡垂井町一二九二
    原  告 白  木  茂  雄
岐阜県加茂郡八百津町潮見四〇七
   原  告     宮  澤  杉  郎
 岐阜県可児郡御嵩町上恵土一二三〇の一
   原  告 小  栗    均

以 上

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


   県議会非会議日支給旅費返還請求事件
         原  告    寺  町  知  正  
                   外九名       
         被  告    梶  原  拓
                       外一名 

    証拠説明書


         原  告    寺  町  知  正  
                         外九名 

二〇〇〇年七月一七日

岐阜地方裁判所民事部御中

甲第一号証 本件住民監査請求に対する岐阜県監査委員の監査結果通知及び添付文書の関連部分の抜粋

甲第二号証 岐阜県平成一一年度予算説明書の本件関連部分の写し

甲第三号証 岐阜県平成九年度予算説明書・主要経費調の本件関連部分の写し(平成一一年度は非公開)

甲第四号証 岐阜県議会議員の報酬、費用弁償に関する条例及び別表の写し

甲第五号証 岐阜県職員等旅費条例及び別表の関連部分の写し

甲第六号証 《地方公務員災害補償法等の施行について》自治事務次官通達(都道府県知事宛て/昭四二・九・一/自治給第五六号)の関連部分外

第八号証 《議員の公務上の災害の取り扱いについて》自治省行政局公務員部長通知(都道府県総務部長宛て/昭四三・五・六/自治給第五一号)

甲第九号証 《議会議員の出張中における災害の取り扱いについて》自治省行政局公務員部給与課長回答(昭四四・三・二〇/自治給第二二号)

甲第一〇号証 「公務災害質疑応答集」(地方公務員災害補償基金愛知県支部/九九年三月版)関連部分

以 上

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