次回期日 九九年一〇月二八日(木)一〇時〜
平成一一年(行ウ)第一三号 氏名等非公開処分取消請求事件
原 告 寺町知正 他九名
被 告 岐阜県知事 梶原拓
被 告 岐阜県教育委員会教育長 日比治男
準備書面(一)
原告選定当事者 寺 町 知 正
別 処 雅 樹
(連絡先)
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
(寺町)TEL・FAX 0581−22−4989
(別処)TEL・FAX 058−234−5241
一九九九年一〇月二八日
岐阜地方裁判所 民事一部 御中
第一 個人識別情報(旧条例第六条第一号・新条例第六条第一項第一号)該当性など
一 氏名や債権者名等被告の主張する部分は、個人情報ではない。この数年来、公文書非公開取消訴訟では、取消事例が相次ぎ、長の裁量が比較的許容されているとみられる交際費でさえ、同様の傾向である。以下に判例を示す。
1 公文書非公開決定処分取消請求事件(平成九年三月二五日、大阪地裁判決)は、大阪市の食糧費支出に係る支出決議書、支出命令書及び歳出予算差引簿に記載された会議等の相手方の氏名、所属する団体名及び役職名につき、六条二号(個人識別情報)規定は、プライバシーを保護する趣旨の規定であるから、個人に関する情報であってもプライバシーに関係しないことが明らかな情報については非公開とすることは許されないとした上、会議等の相手方の氏名は、それ自体個人を識別する情報ではあるが、相手方が個人としての資格を離れて、公務又はその所属する団体の職務として行った行為についての情報は、私的な領域の問題とはいえず、プライバシーに関係のないものとして所定の情報に当たらないところ、前記各文書に氏名を記載された公務員等は公務又はその所属する団体の職務として出席したものであるから、これらの者の氏名は同号所定の情報に当たらず、また、相手方が所属する団体名及び役職名は、それ自体は所定の情報には当たらず、これらと容易に知り得る他の情報とを組み合わせることにより、特定の個人が識別される可能性がある場合に所定の情報に当たるところ、これらによって識別され得る個人について、同人の会議等への出席が私的な領域の範囲の行為であることの主張立証はないから、これらの団体名及び役職名が同号所定の情報に当たるとはいえない、とした。(行政事件裁判例集四八巻三号二一九頁)
2 公文書非公開決定取消請求事件(平成七年一一月二七日、神戸地裁判決)は、兵庫県の条例八条一号(個人識別情報)該当性の判断に当たって、同号にいう「通常他人に知られたくないと認められるもの」とは、持定の個人の主観的判断のいかんを問わず、社会通念に照らして判断すると他人に知られたくないと思うことが通常であると認められる情報をいうものと解するのが相当であるとした。(行政事件裁判例集四六巻一〇・一一合併号一〇三三頁)
3 都非公開処分取消請求事件(平成九年二月四日、東京地裁判決)は、都の執行機関が開催した都議会議員との会議の際の飲食費等の支出に関する、財務局主計部議案課の起案に係る起案文書及び所要経費見積書、債権者の請書、支出命令書、請求書、支払金口座振替依頼書並びに領収書に記載された会議の名称及び開催目的等、債権者名並びに開催場所につき、これらを開示することによって相手方が特定識別され得るとの事実について立証がなく、また、仮に相手方が特定識別され得るとしても、前記会議への出席が出席者個人のプライバシーを侵害するものと推認することもできないから、前記会議の名称等は、九条二号(個人情報適用除外)に定める非開示事由に該当しない、とした。さらに、都の超過勤務等命令簿に記載された職員氏名等につき、個人名を開示したとしても、これによって新たに判明する事実は、当該個人が所属する勤務部署において超過勤務命令権者の命令に従って既に開示されている超過勤務時間にわたって職務を遂行したという事実にとどまり、超過勤務の状況から特定個人の勤務態度又は個人に固有な事情が推認されるなどの特段の事情も認められないなどとして、前記職員氏名等は、九条二号に定める非開示事由に該当しないとした。(行政事件裁判例集四八巻一・二合併号三一頁)
4 静岡県知事交際費情報公開請求事件(平成七年一一月二四日、静岡地裁判決)は、県知事等の交際費に関して、交際の相手方が識別され得るものを非開示とした部分は適法とされ、贈答品等の購入先等である債権者名、債権者の取扱者である個人の氏名、捺印を非公開とした部分は違法、とした(判例地方自治一四九号九頁)。
5 行政処分取消請求控訴事件(平成八年六月二五日、大阪高裁判決(差戻審))は、大阪府知事の交際費に係る領収書、歳出額現金出納簿及び支出証明書のうち、生花等は葬儀に際して大阪府知事の名を付して一般参列者の目に触れる場所に飾られるのが通例であるから、一般に公開されることが予定されているというべきであり、官庁関係連絡会など知事がその地位に基づいて会員となっている団体の会費に関するもの及び国会議員の後援会の会合等に出席した際に贈った祝金に関するものについては、知事がこれらの団体に関係し、又は、会合に出席することは秘密にされておらず、その交際が公開されていると認められ、報道出版関係各社の団体等への周年祝いの祝金に関するものについては、祝金が儀礼的なものであることに加え、当該団体の性質上、交際の相手方や支出金額を公開されても不満や不快の念を抱くおそれは認められず、公開しても知事の交際事務を適切に行うことに著しい支障を及ぼすおそれがあるとは認められないなどとして、前記各文書は、条例八条四号(機関内・機関間情報)、五号(狭義行政運営情報)所定の公開しないことができる公文書又は条例九条一号(個人識別情報)所定の公開してはならない公文書に当たらない、とした。(行政事件裁判例集四七巻六号四四九頁)
二 以上で明らかなように、被告の特定部分を旧条例第六条第一号・新条例第一項第一号該当として非
公開とする本件処分は違法である。
第二 事業活動情報(旧条例第六条四号・新条例第六条一項四号)該当性など
一 千葉地裁民事一部・平成九年(行ウ)第一六号公文書非公開決定処分取消請求事件(平成一一年三月三日判決)においてはタクシー会社の口座情報や印影に関して「悪用される危険性は公文書公開請求により公開されるか否かに関わらず、当初から存在している」として、事業活動情報には当たらないと判示している。
二 東京高裁第三民事部・平成一〇年(行コ)第一五四号公文書開示拒否処分取消請求控訴事件(平成一一年四月二八日判決)では、「個人に関する情報とは、専ら私事に関するものに限定されるのであって、個人の行動であっても、それが公務としてされた場合はもちろんのこと、法人等社会活動を行っている団体において職務上の行為としてされた場合には、個人に関する情報には該当しない。・・たとえ行為者を識別可能とする事項であっても本号には該当しない」とした。
そして同判決は、債権者の従業員の氏名、印影、サインについて、「債権者が県に対して提出した請求書等に記載されたものであるが、当該従業員の私事に関する行為ではないから、個人に関する情報とはいえない」とした。さらに「県職員の個人の口座番号も、公務に関連して記載されたものは個人に関する情報とはいえない」とした。
このように、第一審原告敗訴部分を取り消した(甲第五号証)。
三 以上、公務員、民間を問わず、氏名、印影、サイン等や債権者の口座番号等は、私事に関する事でない限り個人に関する情報(旧条例第六条一号・新条例第六条一項一号)とはいえず、事業活動情報(旧条例第六条四号・新条例第六条一項四号)でもない。また、公開によって、信頼関係を損ない、その後の同種の事務事業の妨げとなるものでもない。
よって、右該当とする本件処分は違法である。
第三 被告答弁書の条例第三条及び第六条第二項に関して
条例第三条は公開に当たっての抽象的原則論を示したもので、具体的な非公開部分の規定は第六条(第一項)各号によることは当然である。
第六条第二項の個人情報保護への配慮について、一般に個人情報保護条例は「個人に関する情報の自己情報コントロール権」を規定したものであり、岐阜県のそれも同様である。個人情報保護条例と情報公開条例とは、制定趣旨が異なっているのである。
以上、第六条第二項の規定は抽象的原則論を示したものである。
第四 合算情報等の非公開規定はない
本件公開請求にかかる支出と他の目的の支出が合算された数字等は、公文書公開請求事項に密接に関係する、というより請求した情報そのものというべきであり、公開すべきは実施機関の当然の責務である。それを「混同されるため」という理由だけで、黒塗り(非公開)とすることは許されない。
混同されるおそれがある場合は非公開(部分公開)とすることができる、との条例の定めはないから、合算部分等をも公開することが条例の規程である。非公開事由以外の理由をもって、たとえ公文書の一構成部分であっても黒塗りして非公開とすることは、許されない。
本件条例の対象とする公文書は、原則として一枚、一葉をもって最低単位としている。この一枚一枚を公開するとき、その一枚に記載されている全ての文字、図表、絵写真などに関して、非公開事由に該当する内容を有しない文字、図表、絵写真などを全て公開するのが公文書公開制度である。
仮に、公開に当たって行政庁に不都合な内容が記載されていようと非公開事由に該当しない限り全て公開し、もって県政への県民の信頼を確保することが条例の立法趣旨であり、無用な疑いを生じさせるような処分は、条例の原則公開の精神を意図的に否定するものであり、許されない。
第五 求釈明
一 被告は、新条例において、職氏名や債権者名などを公開している(甲第六号証)。
このことによって具体的にどのような支障が生じたのか。
二 被告は、本年四月より、条例を何ら改正せずに、懇談会参加者などの氏名を公開している(甲第七号証)。債権者名や印影も公開している。
このことによって具体的にどのような支障が生じているのか。
以 上
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次回期日 二〇〇〇年一月二〇日(木)一時一〇分〜
平成一一年(行ウ)第一三号 氏名等非公開処分取消請求事件
原 告 寺町知正
他九名
被 告 岐阜県知事 梶原拓
被 告 岐阜県教育委員会教育長 日比治男
準備書面(二)
原告選定当事者 寺 町 知 正
別 処 雅 樹
(連絡先)
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
(寺町)TEL・FAX 0581−22−4989
(別処)TEL・FAX 058−234−5241
二〇〇〇年一月二〇日
岐阜地方裁判所 民事一部 御中
第一 不遡及について
一 本件条例第六条第一項第一号但し書きハ、第四号但し書きニについて、被告は、新条例附則第三項によって、改正規定施行日以後に作成または取得した公文書にのみ適用されると主張しているが、原告の主張は、そもそも、旧条例においても新条例においても、本件非公開部分は公開されるべきである、というものであって、不遡及云々の問題ではない。
二 被告岐阜県は、九七年七月一日より、条例を改正しないまま会議、旅費関係の公文書について、「県職員氏名、相手方の所属団体名、会議の目的」等を公開することとした(甲第八号証)。これは、旧条例においてこれらを公開しても、プライバシーの保護、その他公務等の遂行に支障もなく、何ら条例の規定に反しないから可能であったのである。
三 本件条例によって設置されている岐阜県公文書公開審査会は、県民の異議申立を受け、九七年八月二八日、公務員の職や氏名、相手方団体の関係者の氏名を公開すること等を検討するよう岐阜県知事に答申した(答申一〇号、一一号)。
四 そして、岐阜県は九七年一二月二六日、条例改正し、九八年四月に施行したものである。
五 右のような改正に際して「公務員の職務に係る情報に含まれる当該公務員の職及び氏名」を非公開から除外する旨の規定が設けられた場合の改正前の判断等について、名古屋高裁民事三部・平成九年(行コ)第一二号公文書一部非公開処分取消請求控訴、同第一八号附帯控訴事件(平成一〇年七月二九日判決)(甲第九号証)は次のように判示している(判決文四一〜四四頁)。
「右附則規定は、改正条例の施行時の前後における適用の有無を定める経過規定であり、かかる経過規定において、改正規定施行前の事物・事象について『なお従前の例による。』とすることは、しばしばみられる規定形式であるから、右附則規定の存在だけから、改正前の条例において、『個人に関する情報で特定の個人が識別されるもの』には『公務員の職務の遂行に係る情報に含まれる当該公務員の職及び氏名』は含まれないという解釈を排除するものであったとまでは解し得ない。」
このよう、岐阜県の九八年四月施行附則第三項の「施行日以後に作成または取得した公文書にのみ適用」と規定した条例には、右判例に示される解釈が適用されることは当然である。
六 愛知県は九九年八月一日より新条例を施行し「全公務員や相手方が国家公務員や民間企業の社員」等を公開することとした(甲第一〇号証)。
右名古屋高裁判決は、この改正前の旧条例における非公開事由該当性の判断として、公務員氏名等を公開すべし、としたものである。
同様に、名古屋地裁は九九年一〇月一日、愛知県の九六年度の文書について「懇談は公務に準じ、人のプライバシーも侵害されない」として、公務員や民間の相手方参加者名、店名等の公開を命じた(甲第一一号証)。
七 岐阜県は条例第六条一項八号の非公開事由から「入札の予定価格」の文言を削除しないまま、九九年一月より「入札の予定価格を事前に公表する」という条例の運用を行っている(甲第一二号証)。
現在も同ようである。この方針によって九九年一月以後の作成取得の文書は予定価格も公開され(甲第一三号証の一)、そればかりでなく、溯って、九八年一二月末以前の作成取得の文書の予定価格も公開され(甲第一三号証の二)、これは情報公開請求で通常に公開される(甲第一三号証の三)。
支障がなければ公開する、という本件条例の適正な運用がなされた場合の結果を如実に示している。
八 以上、いずれも、本件訴訟の争点は不遡及の問題でない。公開を原則とする本件条例について、新条例は当然ながら、旧条例においても本質的解釈として、公務に関する公務員、民間人の氏名、債権者名などを公開することは、正当である。
第二 個人識別情報(旧条例第六条第一号・新条例第六条第一項第一号)該当性など
右名古屋高裁判決(甲第九号証)は、「同号は、プライバシーの保護に必要な限度でのみ非公開とされる」「公務に関する情報は、公務員個人に関する情報としての側面を有するものであっても、@行政機関内部で特に秘密として取り扱われていないもの、A内部で特に秘密に取り扱われていても、客観的に見て、当該公務員がプライバシー侵害から秘密とすることを欲すると認められないものについては、公開してもプライバシー保護には欠けない」「当該公務員に対し、個人としての立場から、その開示する範囲を決定することまでは保障していない」「この理は、他の地方公共団体の公務及び公務員に関する事柄についても妥当する」「よって、公務に関する情報は、個人に関する情報としての側面を有したものであっても、右@Aのものについては、同号によって保護される『個人に関する情報』には該当しない」としている(判決文三二〜三五頁)。
第三 情報公開法について
そもそも、情報公開法は本件条例同様に情報を公開することを原則とする法律である。
全国の地方公共団体において条例による情報の公開が国の制度に先行してきた。国の機関に関する後発の情報公開法は、原則公開の精神において、最低のラインを示しているものと考えるべきであり、実際、地方公共団体の情報公開を何ら規定していない。情報公開法の制定施行によって、地方公共団体の情報公開条例の運用に関する司法判断の積み重ねが否定されるものでもないし、条例による地方公共団体の情報の公開を排除するものでもない。
第四 応釈明に関して
被告の「具体的支障は不明」という釈明から、条例を改正して職氏名や債権者名などを公開しても、あるいは条例を改正せずに懇談会参加者などの氏名を公開しても、具体的に何ら支障は生じていない、というべきである。
以 上
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次回期日 二〇〇〇年二月二四日(木)一時一〇分〜
平成一一年(行ウ)第一三号 氏名等非公開処分取消請求事件
原 告 寺町知正
他九名
被 告 岐阜県知事 梶原拓
被 告 岐阜県教育委員会教育長 日比治男
準備書面(三)
原告選定当事者 寺 町 知 正
別 処 雅 樹
(連絡先)
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
(寺町)TEL・FAX 0581−22−4989
(別処)TEL・FAX 058−234−5241
二〇〇〇年二月二二日
岐阜地方裁判所 民事一部 御中
第一 本件非公開文書の分類整理について
一 本件公文書を、その公開をしない理由ごとに訴状の第二、三処分の存在の記述を整理して分類する。
(表示番号は本件文書@Aに枝番をつける)。
分類した中で非公開部分が明瞭なものを別途、書証として提出する。ただし、部分公開文書の中には、一枚の中に異なる理由による非公開部分があること、あるいは複数の理由による非公開部分の存在もあり得ようが、非公開部分と非公開理由の精緻な適合は当該処分をなした被告しか分からないことである。
二1 本件文書@ー一(甲第一四号証)
企画経済委員会関連の一号(個人情報)該当(別紙−一の前段)。
「出席者名簿中の職名及び氏名欄」には、懇談会の相手方及び懇談会に出席した県職員に関する情報が記載されており、これらを公開すると、「特定の個人が識別され、又は識別され得る」ため本件条例(ただし、平成九年条例第二二号による改正前のもの。以下、「改正前のもの」という)第六条第一号に該当するとして、非公開とされた。
2 本件文書@ー二(甲第一五号証)
企画経済委員会関連の四号(事業活動情報)該当(別紙−一の後段)。
「経費支出伺書中の支出予定先欄並びに支出負担行為兼支出金調書及び支出金調書、支出負担行為書中の受取人欄及び支払方法欄及び当該調書に添付されている請求書中の債権者に関する情報」には、債権者及び債権者に係る住所、店名、印影、口座番号等の情報が記載されており、これらを公開すると、「債権者の営業の実態、取り引きの状況が明らか」となり、当該債権者の競争上の地位その他正当な利益が損なわれるため、本件条例第六条第四号に該当するとして、非公開とされた。
三1 本件文書Aー一(甲第一六号証)
文教・警察委員会関連の一号(個人情報)該当(別紙−二の旅費関連)。
「旅行命令(依頼)書中職務の級欄に記載されている、出張した職員の給料の級及び号給。支出負担行為兼支出金調書の添付書類である支出内訳書中受取人支払方法欄に記載されている口座名義」は、公務員個人に関する情報であるため本件条例第六条第一項第一号に該当するとして、非公開とされた。
本件訴訟においては、処分取消を求めていない部分である。
2 本件文書Aー二(甲第一七号証)
文教・警察委員会関連の請求情報と非請求情報の合算情報記載の文書(別紙−二の旅費関連)。
「支出負担行為兼支出金調書及び支出内訳書、旅費(合算)請求書中の公開請求された同行職員の旅費以外の情報及び同行職員の旅費と、それ以外の旅費とが合算された情報」は、旅費が合算して関係書類が作成されているため、これらを併せて公開すると、「全て公開請求の旅費であると混同される」ため、非公開とされた。
3 本件文書Aー三(甲第一八号証)
文教・警察委員会関連の一号(個人情報)該当(別紙−二の旅費関連)。
「出張した職員の職名(ただし、平成九年六月三〇日以前の出張に係るもの)」は、これらを公
開すると、「特定の個人が識別され得る」ため、本件条例(改正前のもの)第六条第一号に該当す
るとして、非公開とされた。
4 本件文書Aー四(甲第一九号証)
文教・警察委員会関連の一号(個人情報)該当(別紙−二の旅費関連)。
「出張した職員の氏名(ただし、平成一〇年三月三一日以前に作成した文書に係るもの)」は、 「特定の個人が識別され得る」ため、本件条例(改正前のもの)第六条第一号に該するとして、非公開とされた。
5 本件文書Aー五(甲第二〇号証)
文教・警察委員会関連の一号(個人情報)該当(別紙−二の需用費関連)。
「経費支出伺書、支出金調書の添付書類中、私立学校職員の職氏名」は、これらを公開すると、「特定の個人が識別される」ため本件条例第六条第一項第一号に該当するとして、非公開とされた。
6 本件文書Aー六(甲第二一号証)
文教・警察委員会関連の四号(事業活動情報)該当(別紙−二の需用費関連)。
「支出負担行為兼支出金調書、支出金調書及び支出負担行為書の添付書類中、債権者に係る印影及び債権者口座番号等」は、債権者の内部管理に関する情報であり、これらを公開すると、「当該債権者の競争上の地位その他正当な利益が損なわれる」ため、本件条例第六条第一項第四号に該当するとして、非公開とされた。
7 本件文書Aー七(甲第二二号証)
文教・警察委員会関連の一号(個人情報)該当(別紙−二の需用費関連)。
「経費支出伺書中の支出予定先欄、支出負担行為兼支出金調書、支出負担行為書及び支出金調書中の受取人欄、支払方法欄、並びに当該調書に添付されている請求書中の債権者が識別され得る情報(ただし、平成一〇年三月三一日以前に作成された文書に係るもの)」は、これらを公開すると、債権者の営業の実態、取り引きの状況が明らかになり、「当後債権者の競争上の地位その他正当な利益が損なわれる」ため、本件条例(改正前のもの)第六条第四号に該当するとして、非公開とされた。
8 本件文書Aー八(甲第二三号証)
文教・警察委員会関連の一号(個人情報)該当(別紙−二の需用費関連)。
「懇談会に出席した職員等の職名(ただし、平成九年六月三〇日以前の開催に係る文書)」は、これらを公開すると、「特定の個人が識別される」ため、本件条例(改正前のもの)第六条第一号に該当するとして、非公開とされた。
但し、原告はこの時期の文書のうち「懇談会に出席した職員等の職名」を記載したものを所持していない。これは公開時に、一部の文書について(文書が多量であったなどの理由で)閲覧のみを行い、写しの交付を受けなかったものがあり、そこに該当していると考えられる。被告が作成し、所持している閲覧用の当該文書の提出によるしか、視覚的な確認は不可能な部分である。
原告としては、手持ちの文書から、需用費に係る参加者が存在したことを記録する文書を示す。
9 本件文書Aー九(甲第二四号証)
文教・警察委員会関連の一号(個人情報)該当(別紙−二の需用費関連)。
「懇談会に出席した職員等の氏名(ただし平成一〇年三月三一日以前に作成した文書に係るもの)」は、「特定の個人が識別され得る」ため、本件条例(改正前のもの)第六条第一号に該当するとして、非公開とされた。
第二 合算情報非を公開とすることの違法性
一 本件条例は公開することを大原則としているから、第六条に定める非公開理由に該当する場合にのみ「非公開とすることができる」というものである。そして、非公開部分が存在してもできるだけ公開すべき、との立場から第八条に部分公開を規定しているが、その解釈運用基準(甲第二五号証の一)にも、「合算情報及び他の目的の支出」などの概念は無く、公開事務取扱要綱(甲第二五号証の二)も同様である。
本件条例は公開の請求の方法として、第九条(1)で「住所、氏名」を求め、(2)で「請求しようとする公文書を特定するための必要事項」の記入を定めているのみで、請求の目的や趣旨を明らかにすることは規定していない。
即ち、第八条本文の「請求の趣旨が損なわれることがない」か否かの判断についても、その判断の基準を客観的に求めることは困難であって、一方、請求者には知りたいと思う情報の内容を特定の上公開請求を行う義務はないのだから、この点について行政機関が判断を行うことは制度の仕組みとして著しい矛盾があることは明らかである。本来的に、法令としての整合性を考えたとき、公開を原則 とする条例において、部分公開の規定の本文中に「請求の趣旨云々」を盛り込んだこと自体に瑕疵があったというべきである。公開された公文書等により、請求者が自分の知りたい情報を得られないことがあっても、それは請求者の期待が満たされないだけであって、特段の弊害を生ずることはない。
また、第三条「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようにこの条例を解釈し、運用する」と定められていることが忘れられている。
被告の準備書面(一)四の「公開する義務がない」との主張は、条例の解釈を誤っている。本件条例は、第六条に該当しない限り公開を義務づけ、第六条に該当しても「公開しないことができる」としているのみである。
二 「公文書の公開請求」とは、「公文書のうちの請求事項の部分のみを摘示した公開を請求」したことでなく、「請求した情報を記載した(一連の)ペーパーとしての公文書そのもの全体の公開を請求」したことであるのは明らかである。にもかかわらず、岐阜県の公開方法によると、請求事項の書き方次第で、「公文書中に他の情報が含まれた」と判断されたり、「全部が請求にかかる情報」と判断されたりするのである。
しかし一般に、文書は極めて多くの情報から構成されているのは当然で、文書中の情報は、「全部」と請求しない限り、一言、一行ずつ精査し、「他の情報」と峻別を行うと、「全部公開」というような文書はなくなってしまうのは明らかである。
条例第八条前段で「規定により公開しないことができる情報とそれ以外の情報が併せて記録されている場合」としているが、この「それ以外の情報」とは「それ以外の全ての情報」を指すことは明らかである。
さらに、公文書の部分公開とは、同条後段で「公文書に記載されている情報のうち公開しないことができる情報に係る部分を除いて、公文書の公開をすることをいう」とされており、「公開しないことができる情報」以外は全て公開することを定めている。
また、「当該分離により請求の趣旨が損なわれることがないと認めるとき」とされているが、解釈運用基準3「公開しないことができる情報が記録されている部分を除いた部分について、公文書の公開をすることにより、請求の趣旨を一部でも達成充足できると認めるとき」と示されている。これに該当すると思われるのは、例えば、本文が非公開とすべきことから、そこを墨塗りすると部分公開文書は「枠の罫線だけになってしまう」などの場合しか考えようがない。しかし、この場合でも、請求者が枠の大きさ、面積でそこにある情報の量を推測・比較できるから、と公開を求めれば、部分公開すべき、と解釈すべきである。
なおかつ、このような場合には、解釈運用基準4に「電話等で確認する」とされているところ、岐阜県は、日常的に、この確認を一切行っていない。本件処分に際しても、何ら確認はなかった。
三 本件処分は、そもそも、「請求の趣旨が損なわれる」ことがあるという場合ではない。直接の請求事項に関する支出額と他の目的の支出額との合計額は、請求事項を内包しているのだから当然に公開されるべきである。また、そのページにある他の目的の支出額を公開しても、請求以外の情報が付随的に列記されているだけで、「請求の趣旨が損なわれる」ことはあり得ない。
四 愛知県公文書公開条例(甲第二六号証)は、第六条二項で岐阜県と同様に「請求の趣旨が損なわれることがないと認められるとき」の部分公開を規定している。
愛知県は実際に、原告らの「一宮土木事務所の西中野渡船に係る需用費」に関する公開請求に対して、非公開事由に該当していない他の支出の情報や合算部分も公開している(甲第二七号証の一、甲第二八号証の一)。
この公開に際して、愛知県は「支出金調書は科目明細により支出しております。中部電力(株)より街路灯など含めてまとめて、請求がありますので、それぞれの目的別に明細を付けています。西中野渡船分をマーカーで示しました。」と説明して、該当支出をマーカーで緑色で明示しつつ、合計欄や他の支出は原本のまま公開した。
これを岐阜県の運用方法で公開すると非公開部分が生ずることとなる(甲第二七号証の二、甲第二八号証の二は原告が岐阜県の運用に習って墨塗りしてみたもの)。
五 岐阜市は一九八五年、全国でも先駆け的に情報公開制度を開始し、「請求の趣旨が損なわれることがないと認められるとき」の明文はなく(甲第二九号証)、公開原則の理念も岐阜県と変わりはない。
当時は、精緻な条例の解釈はなされておらず、部分公開にあたっての解釈運用基準も詳しくはないが、合算情報やその他の目的の支出等を非公開とする扱いは無い(甲第三〇号証)。
六 九八年一月に施行された多治見市の情報公開条例は、「請求の趣旨が損なわれることがないと認められるとき」の明文はなく(甲第三一号証)、公開原則の理念にも変わりはない。
多治見市は、学説に加え、岐阜県が「合算情報、その他の目的の支出は非公開である」として大部分墨塗りした文書(例えば甲第一七号証のような)を乱発したことの問題を聞き及び、第七条本文の中に解釈運用1「部分公開は、請求の趣旨を損なうか否かを問わない。趣旨に適うか否かは、公開された後に、請求者が判断することになる。これは、請求時においてその目的、趣旨を問わないこととしていることによる。」と記載して、実施機関側が判断するものではないことを明確にすることで、条例の公開原則をより分かりやすく示し、同時に、岐阜県のような混乱と職員の墨塗り事務の手間の増加を回避した。
七 九九年一〇月施行の愛知県日進市も、多治見市と同様である(甲第三三、三四号証)。
八 合算情報及びその他の目的の支出に関する岐阜県の現状
岐阜県の公開においては、同一の公文書でも、請求事項の記載の仕方によって、公開部分が異なることは、第六条の非公開事由該当性以外の理由で非公開としているからである。
実際に、原告らが過去に行った、岐阜県民ふれあい会館についての公開請求では、「県からの委託業務に関する文書」として請求すると全面公開される(甲第三五号証の一)が、ふれあい会館の個別事業を特定して請求する、即ち例えば「モーツアルトコンクールの委託事業に関する文書」として請求すると、全く同じ文書であるのに、それ以外の情報は丁寧に墨塗りされてしまった(甲第三五号証の二)のである。
岐阜北税務推進協議会に関する文書を請求すると、岐阜市は全面公開(甲第三六号証の一)したが、同じ文書を岐阜県の運用方法に従えば「岐阜県に関する欄」以外は墨塗りになる(甲第三六号証の二は原告が墨塗りしてみたもの)。
九 処分に当たっては、条例に明記された非公開事由以外の理由などで非公開とすることは許されない。
情報の性質等他の理由で、特別に緩やかに判断することは容認されないとした判例を示す。
教育行政情報非公開決定処分取消等請求控訴事件・平成二年(行コ)第三号・平成三年四月一〇日・福岡高等裁判所判決・棄却確定は「福岡県情報公開条例に基づく開示請求に係る情報が学校教育に関するものであることを理由として、他の一般的な行政情報とは異なった配慮の下に開示の適否を判断すべきであるとする県教育委員会の主張が、情報の開示を原則とする条例の解釈に当たっては、明記された非開示事由以外に当該情報の開示を拒否できる場合を認めることは許されず、また、非開示事由該当性の判断においても、特に条例で認められたもののほかには、その情報の性質等を理由として、特別に緩やかに判断することは容認されない。また、右開示請求は正当な権利行使というべきであり、権利の濫用に当たらない」として、処分を取り消した。
第三 岐阜市は支障がないとして公開している
一 主として個人情報に関して
個人情報に関する岐阜県と岐阜市の規定は同旨であるにもかかわらず、岐阜市が全面公開する情報を、岐阜県が部分公開とする場合が極めて多く、全面非公開とする場合すらある。 岐阜市は、従来より、特別土地保有審議会の委員名、自宅住所、電話番号、印影も公開している (甲第三七号証)。業務に係る宿泊先の旅館名、電話番号も明らかにし、これらは当然に市の債権者の情報でもある。
岐阜市は、従来より他の地方公共団体の職名、職員名も公開し(甲第三八号証の一、二)(甲第三九号証の一)、研修会出席者の年齢、性別も明らかにしている(甲第三九号証の二)。
さらに、研修会の参加者の職名、氏名、部屋割り、他の地方公共団体の職名、職員名も公開し、実質的な債権者情報である宿泊施設に関する情報も公開している(甲第四〇号証の一、二、三)。
児童・生徒の事故報告書について、岐阜市は個人氏名等を除いて部分公開している(甲第四一号証の一)が、岐阜市教育委員会が県に上げた当該文書を岐阜県は全面非公開としている(甲第四一号証の二)。
二 主として事業活動情報、行政運営情報に関して
岐阜市は、従来より、債権者としての任意団体「岐阜税務研究会」「東海都市税務協議会」などの金融機関、口座種別、口座番号、口座名義や団体の印影などの情報を公開し(甲第四二号証)(甲第四三号証)、公的団体である「市長会」の情報も同様で(甲第四四号証の一)、さらに印刷(代金支払い)業者名やその金額なども公開している(甲第四四号証の二)、(甲第四五号証の一、二、三)。
三 岐阜県も債権者情報を公開している場合もある(甲第四六号証の一、二)。
四 非公開事由の規定においては県と市は大差ないけれど、以前より岐阜市は様々な情報を、公開しても支障がない、としてきた。これは、公開条例の正当な解釈に則るもの、というべきで、県は、あまりに違法な処分が多い。
第四 参加者氏名は従来より公開されている
県議会の広報紙である「岐阜県議会時報」には、従来より、事務事業説明会及び委員会視察の日程、内容、議員、議会事務局職員、執行部側のそれぞれの参加者名が報告されている(甲第四七、四八号証)。事務事業説明会終了後の夕方からの懇談会がおおむね同じメンバーであることは疑いない。
また、県議会委員会視察は岐阜放送テレビで、県提供の県政番組の一連として全県に放送される場合もある。また、新聞記者が同席している場合もある。
第五 求釈明
一 一枚をさらに分割して、一行ずつ、個々の単語ずつ、請求の事項への合致を検討し、合算情報や他の支出の目的であるかを根拠に部分公開することは、公文書に故意に手を入れることにならないか。
二 合算情報や他の目的の支出に関して、「請求の趣旨を損なう」として非公開とすることにも該当するとのことであるが、合算情報や他の目的の支出を公開する、どのように趣旨を損なうと判断されるのか明らかにされたい。
以 上
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次回第四回期日 二〇〇〇年四月一三日(木)一時一〇分〜
平成一一年(行ウ)第一三号 氏名等非公開処分取消請求事件
原 告 寺町知正
他九名
被 告 岐阜県知事 梶原拓
被 告 岐阜県教育委員会教育長 日比治男
準備書面(四)
原告選定当事者 寺 町 知 正
別 処 雅 樹
(連絡先)
岐阜県山県郡高富町西深瀬二〇八番地の一
(寺町)TEL・FAX 0581−22−4989
(別処)TEL・FAX 058−234−5241
二〇〇〇年三月八日
岐阜地方裁判所 民事一部 御中
第一 情報公開条例における基本原則
一 本件条例は第三条で「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用する」と規定し、手引き(九頁)では「この条例の基本理念である『原則公開』の精神に基づき、公文書公開制度が運用されなければならない」と明確にしている。本件条例は情報の公開を原則とし、非公開を例外とし、第六条各号に該当する場合でも、「公開してはならない」としているのでなく、「公開しないことができる」としているだけである。また、各号の非公開事由の条文構造をよく理解し、正確に適合性を判断しなければならない。
二 情報公開訴訟は迅速に
非公開処分取消訴訟(以下「情報公開訴訟」という。)の手続は迅速に行なわれるべきである。
情報公開条例をその制度趣旨(第一条)に従って利用しようとする者にとって、実施機関が保有する情報が公開される時期は何年先であってもとにかく見られればよいというものではない。公開されるべき情報は情報公開請求後速やかに公開されなければならない。なぜなら、情報公開制度を使う住民は何年後かに過去を振り返って政治を論じたいと考えているのではなく、いま行なわれている政治に主権者たる住民として責任ある適切な意見を言って行きたいと考えている。そして本件条例は情報公開請求権の位置づけについて、「県民の県政への参加を促し、県政に対する理解と信頼を深め、もって開かれた県政を実現すること」(第一条)としており、そこでは実施機関と住民とが噛み合った議論をするために実施機関が保有する情報が住民に速やかに提供されることを予定している。情報を持たない住民の意見はその主観はともかく客観的には行政実務の現実を無視した自分勝手なものになりかねないが、行政と情報を共有する住民は「知らなかった」という弁解ができなくなるので自分勝手な意見を言わなくなるか、言いたくても言いにくくなる。そのような状況は行政にとっても誠実に自治体のことを考える住民にとっても好ましい効率的な関係である。
したがって、非公開処分が誤っているとして処分の取消を求める裁判の場合、その処分が違法であることの発見と判決は速やかに実現されなければならない。
三 立証責任の転換
ふつうの裁判では、訴えを起こした原告の側で自分の主張が正しいことを主張立証しなければならないとされている。これはだれがだれを訴えることも訴訟手続としては自由であるだけに(濫訴とし不法行為責任を問えるかどうかという問題は置くとして)、身に覚えのないことで訴えられた側(被告)の主張立証の負担を軽くしてやる必要があるということが一般的に言える。
ところが情報公開訴訟ではちがう。立証責任が転換している。つまり訴えた原告の側で当該処分が違法であることを主張立証しなければ勝てないのではなく、訴えられた被告の側で当該処分が適法であることを主張立証できなければ原告側の勝訴となるのである。実質的に考えても、原告側に主張立証責任を負わせるとなると、原告側は非公開文書の内容がわからないために的確な主張立証ができないという事態が十分に予想され、情報公開制度の公開原則が空洞化してしまうことは明らかである。
このことは本件条例に基づく非公開処分にも当てはまる。本件条例第一条が公開原則を認め第六条で例外的に非公開とすることができるという規定になっている仕組みからして、立証責任は被告側に転換されていると解すべきである。
これまでの情報公開訴訟における原告勝訴の判決書の理由部分において、「被告が非公開事由に該当する事実を具体的に主張していないので」とか「被告が非公開事由に該当する事実を具体的に立証していないので」という書き方をしているのは、立証責任が転換されていることを端的に示している。
四 被告の負担
立証責任の転換は実施機関である被告にとって特に負担になるものではない。本件非公開処分が本件条例の解釈運用として合理的なものであるならば、被告は主張立証について特に負担を感じることはないはずである。まして、被告は原告から情報公開請求されたときに、本件公文書のどの部分がどのような理由で非公開にできるかを十分に吟味検討したはずである。その検討の結果が本件処分であることからすると、被告は、本件訴訟の当初において本件非公開処分の理由をすべて詳しく説明し尽すことができる。
第二 情報公開条例の条文解釈
被告が本件訴訟において主張立証責任を果たしているか否かを検討する前提として、本件条例の関係条文の解釈について述べる。
一 第六条第一号(改正前のもの)第六条第一項第一号(個人情報)について
本件条例第六条第一号(改正前のもの)、第六条第一項第一号は、憲法第一三条が保障する個人のプライバシーの権利、すなわち私生活をみだりに公開されない権利の保護を目的とするものであるから、特定の個人が識別され、又は識別され得る情報であっても、その公開によって、個人のプライバシーの権利の侵害が生じない場合は、公開義務は免除されない。
本号について、原則公開を定めた本件条例の趣旨に鑑みると、個人識別型かプライバシー型かという議論は生産的でない。本号がどのような規定の仕方になっているかが端的に検討されれば足りる。
本号による例外は、「個人に関する情報」(A)であって「特定の個人が識別され得るもの」(B)であることが要件とされている。「A又はB」ではなく、「A+B」でなければならない。
まず(A)に当たる「個人に関する情報」とは、岐阜県作成の『情報公開事務の手引き』(以下手引き』という。)によれば(一六頁)
(1)思想、信条、信仰、意識等個人の内心に関する情報
(2)職業、資格、犯罪歴、学歴、所属団体等個人の経歴、社会的活動に関する情報
(3)所得、資産、住居の間取り等個人の財産の状況に関する情報
(4)体力、健康状態、病歴等個人の心身の状況に関する情報
(5)家族関係、生活記録等個人の家族・生活状況に関する情報
(6)個人の名誉に関する情報
(7)個人の肖像
(8)その他個人に関する情報
とされている。
「(8)その他個人に関する情報」という説明がどこまでの広がりを持っているか限界は明確ではないが、(1)から(7)に類するものと考えるのが常識的であろう。
手引きの〔趣旨〕欄で「本号は、個人のプライバシー保護を主要な制定趣旨とする」とし、〔解釈・運用〕欄で「個人に関する情報は、一度公開されると、当該個人に対して回復し難い損害を与えることがある。したがって、個人のプライバシー・名誉毀損等の人格権的利益を最大限に保護する」としていることからすると、本号の目的が「基本的人権」であるところの「個人のプライバシー」の保護にあることは明らかである。ただその限界を明確に画することが運用上困難だろうと考えて本号のような規定の仕方になっているのである。そうである以上、「(8)その他個人に関する情報」は前記のような解釈こそが本号の解釈として正しいと言える。
次に(B)に当たる「特定の個人が識別され得るもの」とは、手引きによれば(一六頁)、「特定の個人が直接識別される情報(住所、氏名等)はもとより、公文書に記載されている情報からは直接特定の個人が識別されなくとも、容易に取得できる他の情報を組み合わせることにより、特定の個人が識別され得る情報を含む」とされている。
被告は「特定の個人が識別され得るもの」である事だけでなく、同時に、右に示される「個人に関する情報」であることを主張立証しなければならない。
二 第六条第一項第四号(事業活動情報)について
本号による例外は、「法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」(A)であって「公開することにより、当該法人等又は当該事業を営む個人の競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの」(B)であることが要件とされている。これも一号と同じく、「A又はB」ではなく、「A+B」でなければならない。
まず(A)の前段の「法人等に関する情報」ついて見ると、何が「法人等に関する情報」なのかという点について、手引きには何ら説明していない。とりあえず広く解釈しておくしかないのかもしれない。後段「当該事業に関する情報」とは、「事業活動に関する一切の情報をいう」とされている。
次に(B)に当たる「競争上の地位その他正当な利益が損なわれると認められるもの」とは、手引きによれば(二一頁)、「(1)生産技術、営業、販売等に関する情報であって、公開によって事業活動が損なわれるおそれのあるもの、(2)経営方針、経理、金融、人事、労務管理等の内部管理に関する情報であって、公開によって事業活動が損なわれるおそれのあるもの、(3)公開によって社会的評価、信用が損なわれるおそれのあるもの」とされている。そもそも(B)の規定は、本件条例第六条第一項第五号・犯罪捜査情報のように「生ずるおそれのある」と規定しないで、あえて「損なわれると認められる」と規定していることが明確に意識されるべきであり、被告は「損なわれると認められる」事実の存在を主張立証しなければならない。
第三 本件の場合
一 第一号(個人情報)について
1 本件非公開とされた情報は、いずれも岐阜県民の税金の使途についての情報であって、本件行為への出席・参加は公務の遂行にかかるものであって、出席者の中の公務員はそもそも全体の奉仕者であり(憲法第一五条)、私人にしても公務に準ずる者であって、その氏名等の公開に何らの問題がないことは議論するまでもないことである。債権者らに関する情報も同様である。
本件訴訟では、一般市民の私生活における氏名やその他の個人情報の公開を求めた訳ではなく、岐阜県民の税金である食糧費を支出して開催された懇談会の出席者やその内容、場所や物資の提供者等に関する情報、岐阜県議会と執行部関係者の視察や出張の該当者に関する情報やそれに関する便宜、物資の提供者に関する情報などの公開を求めたものである。
本件訴訟の焦点は、「税金が正しく使われているか」、「適正な公務の執行なのかどうか」「そのことがはっきりするにはできる限り情報を公開する必要があるのではないか」、「その目的のために公文書の公開が規定されているのではないか」ということである。公費を利用しての出席者らの氏名等や関連情報の公開の是非が問われているのであって、私や、あなたや、あなたの友人たの情報ではない。
2 そもそも、本条例第六条一号が個人のプライバシーを保護する趣旨で規定されたものであるならば、個人のプライバシー侵害のおそれがない情報は、「個人に関する情報」に該当しないというべきであり、この種の情報は公開されなければならない。もし規定の形式的な文言に拘泥し、実質的なプライバシー侵害がないにもかかわらず、非公開にするというのでは、プライバシー保護という規定の本来の趣旨を逸脱することになり、非公開範囲が広くなりすぎ、本条例が定める情報公開制度の精神を無に帰せしめることになるのである。
この点について、東京高裁平成九年二月二七日判決(平成八年(行コ)七八号事件)は、「控訴人は、本件各文書に係る会議・懇談会等の出席者(都の出席者を除く。)に関する情報は本件条例九条二号の「個人に関する情報」に該当すると主張する。東京都情報連絡室作成の「情報公開事務の手引(再訂版)」(以下「情報公開事務の手引」という)によれば、「個人に関する情報」(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)とは、思想、心身の状況、病歴、学歴、職歴、成績、親族関係、所得、財産の状況その他一切の個人に関する情報をいうとされているが、本件条例九条二号は、私事に関する情報のうち性質上公開に親しまないような個人情報が記録されている文書を公開してはならないとしているものと解される。
ところで、右事件においては、本件各文書に係る会議・懇談会等は、都の公務として開催され、これに出席した相手方は、国(関係省庁・国税当局)と地方公共団体(隣接県、大都市及び特別区)の担当職員であり、いずれも右会議・懇談会等には公務員の職務の遂行として出席したものである。
したがって、国及び地方公共団体の担当職員の右会議・懇談会等出席に関する情報は、私事に関する情報ではなく、公務員の私人としてのプライバシー保護に対する配慮は必要でないから、同号の「個人に関する情報」には当たらない。」と判示している。
さらに、大阪高裁平成一〇年六月一七日判決(平成九年(行コ)第一七号事件)も、「控訴人は、二号の趣旨及び文理から、特定の個人が識別され又は識別され得る情報は、プライバシーに関係しないことが明らかであっても、公開の適用除外事項に該当すると解すべきであると主張する。しかしながら、二号の規定が前記のとおり『個人に関する情報』を適用除外事項の要件としていること、二号の規定の趣旨が右にみたとおりプライバシーの保護を目的とすることからすると、プライバシーに関係しないことが明らかな情報は二号の適用除外事由に当たらないと解すべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。」と判示している。
このように、東京・大阪両高裁判例は、いずれも、個人のプライバシー侵害のおそれがない情報を、非公開とすることは許されないという判断を下しているのである。
3 利益衡量
条例は「実施機関は、公文書の公開を求める権利が十分に尊重されるようこの条例を解釈し、運用するものとする。この場合において、個人に関する情報がみだりに公にされることのないよう最大限の配慮をしなければならない。」と規定して個人情報の開示に「みだりに」としぼりをかけていること(三条)や公文書公開事務の手引が、具体的に説明していることを前提に利益考量を行うべきものである。即ち、公開されることが「みだりに」という主観的ではなく客観的評価となるか否か、また手引に例示列挙されたものと同質またはそれに近い価値をもつものであるか否か、という基本的スタンスで当該情報につき具体的利益衡量をなすべきものである。
本件事業は、県として行うものであるから、関係者は公務の遂行にほかならず、当該職員は県民全体の奉仕者としてその業務を行っているに過ぎないから、個人のプライバシーの侵害は生じる余地がない。また、民間人らは公務遂行への関与という点や食糧費の恩恵に預かっているもの、あるいは役務に対する対価を受けるという点では県職員と何ら異なるところがない。
県議会議員、事務局職員、知事側職員も、県の業務・行事に参加していたという事実そのものについて、仮にそれが非公開とされなければならない一般的なプライバシー保護の領域に入るとして、公開されないことから得られる個人的な利益は、特段に存在しない。それは、他の公務員、民間人にしても、債権者やその従事者等の関係者に関しても同様である。
本件業務等に関する情報が公表されることから得られる利益は、公文書公開条例の立法目的そのものである行政の透明性の確保、行政の公正性の担保、県民の理解と信頼の確保等であり、公開されないことによって得られるプライバシーの保護の利益は既述のとおりであるから、その利益衡量は公開の利益を重しと結論されるのは、当然である。
4 被告が本号に該当するとしたのは、公務員職名・氏名、民間人氏名等である。
被告は本号への当てはめ以前に本号の解釈を誤っている。被告は個人が識別できる情報はすべて本号によって非公開にできると考えているようであるが、右記のとおり、本号の規定の趣旨が個人のプライバシー保護にあることは手引きの説明から明らかであり、「個人に関する情報」(A)による絞り込みが必要なのである。
被告は、氏名等が、「個人に関する情報であって、特定の個人が識別され(る)」と説明しているだけで、手引きが「個人に関する情報」とはどのようなものであるかという説明をしていることを全く無視している。
実質的に考えても、犯罪捜査などごく例外的な場合を除けば、住民に対して「個人識別」を口実に公務がコソコソと行なわれることはかなり異常なことである。公務は基本的に堂々と行なわれるべきである。本件で問題になっている事案はすべて県の公務である。だから公費が支出されるのである。関係者が関与したこと、もしくは給付を受けたこと自体を隠そうとするのは不可解である。
二 第四号(事業活動情報)について
1 被告が本号に該当するとしたのは、「債権者に関する事業者名、住所、印影、金融 機関、口座名義、口座番号」等である。
これらの情報はいずれも不特定の顧客に公にしている事柄である。「競争上の地位その他正当な利益を害すると認められる」ような状況は到底考えられない。「正当な利益を害すると認められる」現実が存在するならば、債権者らが右情報を日常的に公にするはずがない。仮に何らかの不利益があったとしてもそれを上回る利益・便宜があるからこそ公にしているのであり、総体として利益が大きいということである。
往々にして、他の自治体において、右情報を非公開とすることが頻繁に行われるのは、例外なく、情報公開を受けた者が各債権者らに対して「実際にこの請求書に書いてあるような支出が行なわれたのか」と問い合わせをすることへの懸念である。公文書に記載されたとおりの支出が実際に行なわれていたのなら、債権者はそのまま答えればよいだけのことである。
しかし岐阜県に限っては虚偽の支出など絶対に行われていないはずであるから、公開すればよい。
2 不正競争防止法から
法人情報等が問題となった情報公開に関する判例等から、本規定は、不正競争防止法と密接な関係を有していることが明らかである。不正競争防止法(平成五年五月一九日、法律第四七号)第二条第四項から判断すれば、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」に該当する情報であって、それらが損なわれる場合、即ち、それらに実質的な被害が客観的に生じる場合に限られる。
不正競争防止法のこの「営業秘密」に関して、「秘密としての管理」「有用性」「非公知性」の三つが掲げられている。「秘密としての管理」の要件として、秘密を維持するために合理的な努力を払っていることが必要であり、文書である場合には『極秘』『マル秘』等の表示などにより第三者の取得後も営業秘密であると認識できるような措置が必要、と指摘されている。「有用性」が要件とされたのは、当該情報を保護することに一定の社会的な意識と必要性が認められる情報に限って保護するためである。「非公知性」が要件とされたのは、「非公知であり、不特定の者がその情報を共有していないことにより、独自の価値を有するもの」などである。
第四 一件ずつの情報について、個別に判断すべき
情報公開の非公開処分の取消訴訟においては、その適否は一件ずつの情報について、個別に判断すべきである。被告もまた、一件ずつの情報についての立証責任を負うのは当然である。
最高裁は「一件ずつの情報について、個別に判断すべきで、一括して判断することは誤っている」と高裁に差し戻している。それは《栃木県知事交際費情報公開訴訟》平成三年(行ツ)第六九号、平成六年一月二七日最高裁判所第一小法廷判決「情報が非公開事由に該当するというためには、その要件の存在が個別、具体的に立証されなければならない。相手方が識別されるか否かの個別具体的な検討なく、開示しないこととした処分を違法とした部分は条例に関する法令の解釈適用を誤った違法があるというべきであり、その違法は判決に影響を及ぼすことは明らかである」というものである。
以 上
《訴訟は、以上で結審した》
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