県立衛生専門学校カラ出張ウラ金関連住民監査請求
一 請求の要旨
1 岐阜県立衛生専門学校は組織ぐるみで、教員らに架空の出張行為を請求させ、旅費を支給(個人口座へ振込む)、その後に徴収し、それを臨時職員の賃金等として支出あるいは、現金等で保管し、任意・随意に運用し続けた。これらは、長年続いてきた行為であると考えるのが合理的であるが、県が認定したのは、九五〜九八年度の旅費に関して六一八件・五九一万二六九八円、同賃金に関して二八件・二三八万六九一〇円、合計六四六件・八二九万九六〇八円とされている。
2 しかし、県の臨時雇用者賃金等に充当したとの認識は、当事者の申告分を鵜呑みにしただけであって、その確たる証拠もなく、確認作業も何ら行われていない。さらに、現金での残余分は戻入た、と説明しているが、その確たる証拠もない。
3 右金員を人件費や資材費用等の支出が真になされたとの証拠は全くないから、私的な費消、流用の可能性がある。その指摘もある
4 もし、本件支出が当該部局に真に必要なものであるなら、当然に予算要求し、財政当局も予算措置していたはずである。実際、大部分の部局が臨時雇用(一種)は一人である。
5 結局、本件金員は職員らの独自の判断で、自らのために岐阜県庫から違法に略取し、これを任意に使用し若しくは、使用しようと蓄えたもの、という事実に何ら変わりはない。
6 これらの行為は、地方自治法(以下、法)、同施行令、県会計規則、地方公務員法、刑法の各規定に違反する。
7 しかし、知事は関係者一五人を懲戒や口頭注意等の処分に付しただけである。
8 本件において未だ時効は成立しておらず(法第二三六条一項)、職員には賠償責任があり(法第二四三条の二)、知事には賠償請求義務がある(法第二四三条の二の二項)。
9 右違法若しくは著しく不当な行為によって生じた岐阜県の損害(金八二九万九六〇八円)に関して、知事は損害の補填を実現する措置を何ら講じていないことは、「怠る事実」(法第二四二条一項)に該当する。
10 同時に、知事・出納長には重大な過失責任があり、本件支出に権限を有する衛生専門学校総務課長には故意責任がある。
11 本件違法若しくは不当な行為による県の右損害は今日現在まで継続しているから、 @怠る事実の存在とその違法を確認し、かつ、知事に怠る事実を改める措置を講ずることの勧告、及び A損害回復のために知事・出納長・衛生専門学校総務課長ら関係者が相当額を返還すべきことの勧告を求める。
12 なお、一連の行為や対応は完璧に秘密裏になされた。請求人は、事案と違法性の認識後の速やかに請求する、から、期間途過には正当な理由がある。
二 請求者 別紙 くらし・しぜん・いのち 岐阜県民ネットワーク 寺町知正他一〇名
以上、地方自治法第二四二条第一項により、事実証明書を添えて、必要な措置を請求します。
二〇〇〇年七月二八日 岐阜県監査委員 各位
別紙事実証明書目録
第一号証 岐阜県の本件についての調査結果報告(九九年四月頃の県担当課作成文書より)
第二号証 学校側の集計表から申告に応じて不正と認定したもの等の一覧(表のごく一部)
第三号証 岐阜県日日雇用職員(第一種)の雇用状況(H10)
第四号証 処分説明書の一部(経緯や責任が明示されている)
第五号証 本件文書公開は、二〇〇〇年五月三一日の請求、七月五日の公開であることを記した通知
第六号証 情報公開請求で事実関係の資料を入手に事案の概要を理解し、その約一年半後に事案の違法
性の明確な認識を持ち、それから四二日後に行った監査請求に正当な理由を認めた東京高裁
判決(東京高裁/平成一一年(行コ)第七二号/平成一一年九月二一日判決)
以 上
住民監査請求書 補充書
二〇〇〇年七月二八日
1 岐阜県立衛生専門学校(岐阜市野一色)は組織ぐるみで、教員らに架空の出張行為を請求させ、旅費を支給(個人口座へ一旦は振込む)、その後の随意な時期にこれを教員らから徴収し、それを臨時職員の賃金等として支出あるいは、現金等で組織的に保管し、任意・随意に運用し続けた。これらは、長年続いてきた行為であると考えるのが合理的であるが、県が認定したのは、九五〜九八年度の旅費に関して六一八件・五九一万二六九八円、同賃金に関して二八件・二三八万六九一〇円、合計六四六件・八二九万九六〇八円とされている(第一号証)。
2 しかし、県(現・健康福祉環境部医療整備課)の臨時雇用者賃金等に充当したと認識したという説明は、当事者の申告分を鵜呑みにしただけであって、その確たる証拠もなく、確認作業も何ら行われていない。さらに、現金での残余分は戻入た、と説明しているが、その確たる証拠もない(第二号証)。
3 本件に関して、右金員を人件費や資材費用等の支出が真になされたとの証拠は何もないから、私的な費消、流用の可能性がある。六月にその指摘もあった。
4 もし、本件が人件費や資材費用等に支出された場合は、そもそもそれが当該部局の事務事業の遂行に真に必要なものであるなら、県の財政当局は、その雇用労力や物品・資材購入等を認めて、それぞれ予算措置しているはずのもである。しかし、岐阜県会計の現状からすれば不要不急であることが明瞭であるからこそ予算要求もせず、財政当局も予算措置していないのである。
実際、大部分の部局が臨時雇用(一種)は一人である(第三号証)。
5 よって、いずれにしても結局は、本件金員は職員らの独自の判断で、自らのために岐阜県庫から違法に奪取し、これを任意に使用し、もしくは使用しようと蓄えたもの、という事実に何ら変わりはない。
6 これらの行為は、地方自治法(以下、法という)第二〇八条《会計年度及びその独立の原則》/法第二一〇条《総計予算主義の原則》/法第二一六条《歳入歳出予算の区分》・同施行令第一四七条/法第二二〇条《予算の執行》・同施行令第一五〇条、岐阜県会計規則第三八条《支出命令》/同規則第四四条の二《資金前渡》(法施行令第一六一条一項一四号「前各号に定めるもののほか、経費の性質上現金支払いをさせなければ事務の取扱に支障を及ぼすような経費で普通地方公共団体の規則で定めるもの」の規定による経費として資金前渡をすることができる。「三、運賃 一四、賃金」)/第三〇条《服務の根本基準》/地方公務員法第二九条一項《懲戒》/第三三条《信用失墜行為の禁止》/刑法第一五六条《虚偽公文書作成等》/第一五八条《虚偽公文書行使等》などの法令に違反する。
7 本件事案は、九九年三月頃、匿名の投書によってカラ出張によるウラ金作りの指摘があり、県が調査、事案の概要を認定したものである。同年一〇月、知事は自らは何ら処分せず、関係者一五人を懲戒や口頭注意等の処分に付したものである(第四号証)。
ところが、関係者による賠償措置は講じられていない。
8 本件において未だ時効は成立しておらず(法第二三六条一項《金銭債権の消滅時効》)、関係者には返還責任があり(法第二四三条の二《職員の賠償責任》「一項/出納長若しくは補助職員、資金前渡を受けた職員は故意又は重大な過失により生じた損害を賠償しなければならない。」)、知事には賠償請求義務がある(「同・二項/長は監査委員に対し、賠償責任の有無及び賠償額を決定することを求め、その決定に基づき期限を定めて賠償を命じなければならない。ただし、その事実を知った日から三年を経過した時は賠償を命ずることはできない」)。
よって、請求人は、法第二四二条一項《住民監査請求》「・・・違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実(以下、「怠る事実」という)があると認めるときは・・・当該怠る事実を改め、又は当該行為若しくは怠る事実によって当該普通地方公共団体のこうむった損害を補填するため必要な措置を講ずべきことを請求することができる」によって、以下のことを監査委員に求めるものである。
なお、「財産の管理」の財産とは、法第二三七条一項の「財産」と同義とされ、同条は財産とは「公有財産、物品、債権、基金」をいうと規定され、第二三八条一項が公有財産、第二三九条が物品、第二四〇条が債権、第二四一条が基金の定義をそれぞれ規定している。債権とは、金銭の給付を目的とする権利であって、地方公共団体が第三者に対して有する不法行為に基づく損害賠償請求権、長・職員に対する雇用契約の債務不履行(職務違反などがある場合)に基づく損害賠償請求権、不当利得返還請求権などが含まれている。
9 右違法若しくは著しく不当な行為によって生じた岐阜県の損害(金八二九万九六〇八円)に関して、知事には職員に返還を命ずる義務(法第二四三条の二)があるところ、損害の補填を実現する措置を何ら講じていないことは、右「怠る事実」に該当する。
10 同時に、知事・出納長には重大な過失責任があり、本件財務会計行為に権限を有する衛生専門学校総務課長には故意責任があるから、いづれも各個人に賠償責任がある。
11 よって、本件違法若しくは不当な行為による岐阜県の右損害は今日現在まで継続しているから、@怠る事実の存在とその違法を確認し、かつ、知事に怠る事実を改める措置を講ずることの勧告、及びA損害回復のために知事・出納長・衛生専門学校総務課長ら関係者が相当額を返還すべきこと の勧告を求める。
12《正当な理由》 本件事案が秘密裏になされ、さらに県の調査も、関係者の処分も完璧に内密にされてきたものであるところ、請求人らは、本年五月三一日に関係公文書の公開請求を行い、一部は六月一六日に公開され、大部分は公開が延期された後の七月五日に公開がされたもの(第五号証)で、これら合計四八三〇枚余を調べた結果、本件財務会計行為は明らかに違法若しくは著しく不当な行為であることを認識した故に、その後の速やかな期間のうちに本件請求を行うものである。よって、法第二四二
条二項に定める支出行為があった日から一年を過ぎたことには、最高裁判例等(第六号証)にも合致する正当な理由がある。
なお、当然ながら、本件の場合、怠る事実は継続しているから、期間途過の問題は生じない。
以 上
《補足》
本件請求に対応して監査委員がその職権を発動しなければ(請求が認められなければ)、再発防止のためにも @住民訴訟による司法判断を求める A職員名等の非公開処分取消訴訟を提起して住民訴訟の早期解決をはかる B職氏名等判明後、関係者を当局に告発し、責任の所在の明確化と返還の実現をはかる 等の手続きを採らざるを得ない。
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