監委第189号
                    平成12年2月3日

(請求人) 様
            岐阜県監査委員 高井節夫
            岐阜県監査委員 岡田脩
             岐阜県監査委員 白木昇
            岐阜県監査委員 丹羽正治

住民監査請求に基づく監査結果について(通知)



 平成11年12月6日付けで提出のあった住民監査請求について、地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第3項の規定に基づき、監査結果を別紙のとおり通知します。併せて、同法第252条の43第7項の規定に基づき、知事に同条第2項前段の規定による通知を行わなかった理由を通知します。

1 請求の受理


 別記請求人から提出された請求は、所要の法定要件を具備しているものと認め、平成11年12月6日付けで受理した。

2 請求人の証拠の提出及び陳述


 請求人に対して地方自治法(以下、「法」という。)第242条第5項の規定に基づき、平成11年12月24日に証拠の提出及び陳述の機会を与えた。

3 請求の内容


 請求書に記載されている事項及び事実証明書並びに陳述の内容から監査請求の要旨を次のように解した。

(1)主張事実


ア 岐阜県は県立盲学校の移転用地として岐阜市北野町70番の1の土地1万6674uを31億7319万5000円(利息を除く)で文部省より購入する目的で、県土地開発公社に先行取得の委託契約に必要な債務負担行為及び本年度の損失補償額15億1765万9000円の債務負担行為の議決を99年3月県議会で行った。これによって、県の用地費支出は確実となった。

イ 東海財務局も国有財産東海地方審議会の答申を得て岐阜県への売払を了承している。

ウ 現在、県や国は2000年1月初にも価格の擦り合わせを行って売買協議が成立したら、県は速やかに土地開発公社と取得委託契約を締結、公社は3月までに登記等を完了し、一方、県は当年3月議会に取得費の一部を「11年度補正予算」として提案、可決されれば直ちにを公社に支払い、残金は後の3年以内に完了する予定である。

エ 本件土地はもともとは岐阜県所有で、1970年に国に寄附したものである。

オ 地方財政再建促進特別措置法(以下、「地財再建法」という。)第24条第2項本文は「国等に対する地方自治体の寄附金の支出等を禁止」し「但書で特例」を定めている。禁止した目的は、国等が地位を背景に経費を寄附の名目で地方にその負担を転嫁したり、地方が国等の機関を誘致するために国等の経費を進んで拠出するという事態が生じ、ひいては、国等と地方との間の経費負担区分を乱すなどの地方財政秩序の混乱を防止するものであるところ、当時の寄附行為が適正に行われたかは疑問がある。

カ このような土地をそっくり、県が国より時価で買い戻すというようなことは、県関係者らが廉価を要求する努力は評価されるとはいえ、財政が逼迫し県民のための諸事業が縮減され、起債残高は9500億円(本年度)にのぼり、これは210万県民1人当たり45万円もの借金に相当し、さらにその分の元利償還金だけでも県民1人当たり3万円をかかえる現在、率直な県民感情、納税者感覚としては、決して容認できない。

キ 「一般の土地取引において、その取引価格は本釆取引当事者の自由な意志の合致によって定められるべき事柄であり、地方公共団体が公共の利益となる事業に必要な土地を売買契約に基づいて取得する場合も同様である」(判例・学説)とされている。これに対して、減額を求めたことへの国の回答は「跡地等の処分は原則として時価での売払い」と一般的な国の方針を述べているだけであるから、経緯等を考慮すれば、国の「時価での売買」原則を本件に適用すべき必然性はない。

ク 国有財産特別措置法第3条第1項第1号ハで減額する制度もある。

ケ 70年当時の寄附が仮に違法でなかったとしても、国と地方との間の経費負担区分を乱すことを禁止した地財再建法の前記趣旨を考えれば、同法の特例としてなされた寄附による土地を原所有者である地方企共団体が買い戻す場合は地方財政再建に特段の配慮をすべきことは当然である。

コ 本件土地は1万6674uに及ぶ広大な土地であり、それまで学校用地として利用されてきた土地であって、その面積、地域性からいって買い手をうる事は極めて困難な性質の土地である。民間私人ないし私企業がこれを取得しても採算可能な投資とはいえず、地方公共団体や公法人等にでもこれを売却しなければ売買が成立する可能性のない土地である。このように極めて買手優位の
売買である。

サ 仮に盲学校が老朽化したとするなら、現在の場所は十分な広さを有しており(東側の明徳小学校の約半分の敷地面積)、適切な新築整備は十分に可能である。

シ 上記のとおり、県の行政目的上、本件土地が必要不可欠とは言えないから、県に損害を与えてもなお取得しなければならない必要性はなく、購入を差し控えることも可能である。

ス 先般11月26日に県固定資産評価審議会が公表した路線価、評価額では、岐阜市内は前年比で42%下落している。前記県の取得経費試算は、今からおおよそ1年前になされたものであるから、現在は、かなり下落しているのは当然である。

セ 本件土地を「国のいうままに、時価で取得すること」は、社会通念上決して許されるものでなく、公序良俗や信義別にも反し、当該用地取得への支出は違法かつ著しく不当である。また、地方公共団体の事務を処理するに当たっては、最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(法第2条第13項)、経費はその達成するために必要且つ最少の限度をこえて支出してほならない(地方財政法第4条第1項)とされており、これらにも違反する。

ソ 仮に当該用地を県が購入して盲学校を新設するとしても、当該用地にほ使用可能と思われる校舎や体育管が残っており、これらを取り壊し新たに施設を建設することは税金の無駄遣いである。

(2)措置要求
 本件はこのまま放置すれば支出行為がなされることは確実であり、支出の予定されている額が極めて高額であって、後日、違法な支出と認定されても県幹部らが損害を賠償することは到底不可能で、事前に差し止めなければ、岐阜県の揖害は回復不能なものとなる。 よって、「本件土地取得費31億7319万5000円の支出の全部もしくは一部を支出してはならない」と執行機関である岐阜県知事及びその補助者である職員に勧告をすることを求める。

4 個別外部監査契約に基づく監査によることの請求
 本件監査済求において、請求人より監査請求に併せて法第252条の43第1項の規定による監査委員の監査に代えて個別外部監査契約に基づく監査によることを求める。

 請求の理由
(1)本件は支出予定額が極めて高額で、特殊な経緯を有していることなどを考慮すれば、新しい制度による監査の意義は大きい。

(2)4名の監査委員のうち3名は、下記の理由により、自らの最近の職務を否定するようなことほ想定し得ず、中立・公正な監査、判断を期待することは不可能であるから、法第199条の2に規定される直接の(しかも自らの)利害関係事件として当然に除斥の対象である。

ア 委員白木昇氏は3月5日付け譲渡要望書に明記されている通り、本件土地の先行取得者である県土地開発公社の理事長として、本件土地取得に関する手続きや債務負担行為に関する試算、県との委託契約の実質的な事前合意に関する協議に当たっての意思決定者である。そして本年度になって県代表監査委貞となった。
 その後の公社の作業は後任者が実務的に進めてきただけである。

イ 県議会選出の2名の監査委員は、上記債務負担行為の議会議決の当事者で、しかも賛成した立場である。本件は上記債務負担行為の議決がなされなければ支出が確実になることはなかった。

(3)上記3名が除斥になれば残るは丹羽委員一人である。「一人監査」ができないことはないが、氏は土地開発公社による本件先行取得などについても通常の業務監査において説明を受け、本年の予定事業としても承知していたはずであるから、これを白紙でみるような公正・中立な視点は期待し難い。

(4)このように、委員に程度の差こそあれ、どの監査委員も本件に関与していた。法改正による外部監査が本年4月より制度化した。この「監査制度の諸問題の解決を進める」という立法趣旨に照らし、また、条例を提案、議決した議会、そして県民の多くの期待が「専門性・独立性の強化及び住民の信頼感の向上」という導入趣旨が実現されることにあるのだから、本件請求は外部監査人による監査によることが相当である。

5 監査の実施


 請求があった事務を分掌する教育委員会事務局管理部学校施設課(以下、「学校施設課」という)及び地域県民部事業経営政策課を対象として、関係書類の調査、関係者からの事情聴取及び現地調査等による監査を行った。

6 監査の結果


 本件請求についての監査の結果は、次のとおりである。
 岐阜県立岐早盲学校(以下、「岐阜盲学校」という。)の移転用地として県が取得しようとしている岐阜市北野町70番1の国有地1万6674uに係る支出予定の用地取得費については、違法又は不当な公金の支出とは認められない。
 したがって、本請求に係る請求人の主張は、理由がないものとして棄却する。

 以下、その理由について述べる。
(1)県は、岐阜盲学校の移転用地として、岐阜市北野町70番1の文部省が所管する国有地1万6674Iuを平成11年度中に岐阜県土地開発公社(以下、「公社」という。)が先行取得した当該用地を再取得することを予定しており、その取得に必要な債務負担行為の限度額として31億7319万5000円及び公社が用地取得費用を金蝕機関から借り入れる場合の県の損失補償に伴う債務負担行為の限度額として15億1765万9000円が平成11年3月の県議会で承認されている。
 ただし、この金額は当該用地の取得及び損失補償の債務負担行為の限度額であり、実際の取得価格は県と文部省の委託を受けた岐阜財務事務所との今後の交渉で決定するものであり、現時点では決定していない。
 なお、当該限度額を算定するにあたっての当該用地の基準単価は、平成10年度の比較し当該地の路線価を基に算出したものである。

(2)当該用地を岐阜盲学絞の移転用地として岐阜県に売り払うことは、平成11年5月19日の国有財産東海地方審議会で了承されている。

(3)県と公社との間では、「先行取得に関する契約書」が平成11年10月21日に締結されており、今後、県と団との価格交渉が成立すれば、県と公社は「用地先行取得貸付金」に関する契約を締結し、県が公社に資金の一部を貸し付け、公社が当該用地を固から先行取得し、県は12年度から4年間で再取得する予定となっている。
 なお、県と国との価格交渉にあたって県は、平成11年9月30日を価格時点とする不動産鑑定土による当該用地の鑑定評価を実施しており、これを参考に少しでも安い価格で取得できるよう交渉にあたっている。

(4)当該用地は、県立の医科大学及び同大学付属病院等を国立に移管措置する一環として、昭和45年1月1日に県から国に寄附されたものである。
 この移管措置は、県立医科大学及び同大学付属病院の当時の経営状態、施設の充実度が低水準の中で、それらを国立に移管することによって県財政の負担軽減と県内医療水準の向上を目指して実施されたものであり、当該用地の寄附は、他の施設や職員も国に移管する中でその一環として併せて行われたものであることから、単なる寄附行為ととらえることはできない。
 なお、その移管手続きは、自治省の承認を得て行われており、違法性は無い。

(5)当該用地は、寄附から既に30年が経過していること等から、国有財産法及び国有財産特別措置法による譲与もしくは減額譲渡を実施するかどうかは、国の判断で行うものであり、県はこれらを要望という形で対処するより方法が無い状況である。
 このような中で県はその要望を国に提出しているが、国は県立医科大学等の国立に移管後の施設整備及び今回当該用地を売却する契機となった岐阜大学医学部関係機関の柳戸地区移転後の施設整備に多額の費用を支出していること等から、基本的に時価での売買を進める方針であり、現時点で法的な譲与もしくは減額譲波は困難な状況である。
 しかし、県は今後の売買価格の決定交渉にあたって、県が実施した鑑定評価、過去の経緯、土地の形状等の要素を説明しながら、少しでも安い価格で取得できるよう国との折衝にあたっている。

(6)現岐阜盲学校の敷地は4,608uと明徳小学校14,013Tuの3分の1以下の面積であり、運動場に至っては976uしかない現状である。この敷地面積は全国平均の約24%であり、全図公立盲学校68校のうち最も狭わいな学校となっており、図の整備資格面積と比較しても、校舎、体育管とも大幅に不足しているなどのことから、十分な施設とは言えない。

(7)現在の校舎敷地での改築については、次のような問題点がある。

ア 現保有面積は全国平均と比較して著しく狭わいであり、仮に現在地で改築し国の整備資格面積にあった施設を建設しようとするには施設の高層化が避けられないが、それには法的な規制等もあり制約された敷地内では、十分なグラウンドの確保、建物配置が困難になり、ひいては利用者の立場に立った施設整備ができない。

イ 仮に現在地で改築しようとすると教育現場と工事現場が隣接せざるを得ないが、これは騒音防止や児童生徒の安全確保の観点からも視覚障害者の学枚においては特に不適当であることから、現敷地外に仮設校舎を設ける必要が生じ、その用地の確保と仮設校舎建設工事に多額の費用を要することになる。

(8)現岐阜盲学枚は前述のようにできるだけ速やかな移転改築が迫られており、県教育委員会では以前より検討課題としてきたが、条件が合致した移転地の選定は困難であった。 そのような中で、岐阜大学医学部関係機関の柳戸地区への移転に伴い、跡地となる当該地には次のような利点があり、現状では最適の移転先であると考えられ、岐阜盲学校の移転先候補地に選定されたものである。
 なお、岐阜県視覚障害者福祉協会等関係団体からも当該地への移転要望が出されている。

ア 全国平均よりやや狭いものの、新しい時代の盲学校としての機能設備を備えた施設を建設するに足る敷地面積が確保できること。

イ 公共交通機関が充実しており、JR岐阜駅、名鉄新岐阜駅からも近く利便性が高いこと。

ウ 視覚障害者は聴覚をたよりとする中で、閑静な住宅地域であることから、騒音も少なく安心して教育が受けられる環境であること。
 また、近隣には商店や病院等の施設があり、校外学習や寄宿舎生活に便利であること。

エ 盲学枚の教育課程上必要となる臨床実習に対応しやすい条件が整っていること。

オ 現岐阜盲学枚に近く、関係者に与える地理的な不安が少ないこと。

(9)県は、地価が下降傾向であることを念頭において、平成11年9月30日を価格時点として実施した鑑定評価にその後の時点修正を加えた価格で取得しようとしており、取得後は速やかに移転工事を開始し、4年間程度をかけて完全移転することを計画している。
  なお、請求人は「路線価・評価額は岐阜市内は前年比で42%下落している」と主張しているが、この基準地は商業地であり当該地とは性質が異なること及び路線価・評価額は3年毎の見直しでの下落率であること等から同一に比較できない。

(10)当該用地には岐阜大学医療技術短期大学部時代の校舎や体育棺等の建物が存在しているが、これらの岐阜盲学校移転時の活用については次のような課題がある。

ア 既存施設を使用する場合、様々な制約を受けた中での施設整備になるので、視覚障害者教育の専門機関としての機能を備え、障害に配慮した施設設備を整備し、新しい時代の観点に立った盲学校を建設することが困難であること。

イ 現存する建物のうち、最も建設年度が新しい体育館を使用することを前提にした建物配置を行うと、グラウンド北側に校舎を配置せざるを得なくなる。この場合、建築物の高さ規制により十分なグラウンド面積の確保が困難になること。
 健康な体づくりと社会参加を進めるため、視覚障害者の運動や競技活動は年々盛んになっており、そのためのグラウンド面積の確保は重要な要素である。

ウ 既存の建物は、健常な成人を対象とした構造になっており、視覚障害者教育に適した施設に改修するためには多額の費用が必要となること。
 また、全ての建物が建設から20年以上経過しており現在の耐震基準の適用以前の建物であることから、耐震補強工事等が必要になる可能性が高いが、そのことにより耐用年数が長くなるわけではない。

(11)盲学枚施設は必要不可欠なものであり、視覚障害者にとって終生頼ることのできる施設である。
 そのような中で今回の計画は、現岐早盲学校の老朽化が著しいとともに敷地が非常に狭わいで劣悪な教育環境であることから早急に対処する必要があるが、現在地での改築が困難であるので、新盲学枚建設用地として必要な条件を備えた当該地に移転整備を進めようとするものである。

7 個別外部監査契約に基づく監査に付さなかった理由


 請求人は、本件監査請求について個別外部監査契約に基づく監査によることを求めたが、次の理由により個別外部監査に付さないこととした。

(1)本件の請求内容は、法第252条の28第1項各号で規定する外部監査人による監査に付すべき特段の理由が認められないこと。

(2)請求人は、「白木監査委員及び議員選出の監査委員は、本件請求事実の直接の利害関係人であり除斥対象である。」と主張しているが、各委員は本件請求事実の直接の利害関係人とは認められないこと。

(別記)
  岐阜市殿町4−8          堀安男
  不破郡垂井町1292        白木茂雄
  養老郡上石津町三ツ里123     藤原進
  岐阜市黒野471−1        別処雅樹
  揖斐郡谷汲村岐礼1048−1    山本好行
  加茂郡八百津町潮見407      宮澤杉郎
  山県郡高富町西深瀬208−1    寺町知正
  加戌郡八百津町伊岐津志1405−1 白木康憲
  可児郡御嵩町上恵土1230−1   小栗均
  養老郡上石津町上鍛治屋97−1   三輪唯夫
  山県郡高富町西洋瀬208−1    寺町緑
  美濃市大矢田1434        後藤兆平


意思表明などのページに戻る
監査請求・訴訟などのページに戻る